「さ、酒井社長」武司は思わずどもり、声が情けなく震えた。「どうして、こちらに?」由樹はエレベーターを降り、ポケットに両手を突っ込んだまま立っている。その眼差しは、氷のように冷え切っていた。とりわけ、三久が二人のボディーガードに両脇を押さえつけられ、口にハンカチを詰められて目に涙を浮かべているのを見た瞬間だ。拘束された細い手首には、見るに耐えないほど痛々しい赤い跡が残っている。由樹の目がすっと細まる。彼は長い脚を振り上げ、ボディーガードを力いっぱい蹴りつけた。その動きはためらいがなく鋭かった。身長二メートル近くある大男が、その一蹴りであおむけに吹き飛ばされたのだ。あっという間に、三久の両脇にいた二人ともが蹴り飛ばされ床に転がった。「あっ!」久留美は短く悲鳴を上げ、足早に武司のもとへ駆け寄る。由樹は三久の前に歩み寄り、口からハンカチを乱暴に抜き取ってやった。自由になった三久はすぐさま久留美のところへ駆け寄り、結人を取り返そうとする。だが、由樹の骨ばった手が三久の腕をがっしりと掴み、引き止めた。三久は感情を爆発させまいと必死だった。目に映るのは息子だけだ。邪魔をする者には誰彼構わず噛みつきかねないほどの切羽詰まった様子だった。「放して!」由樹は長い腕を伸ばして三久を胸に抱き寄せ、冷ややかな視線を高崎夫妻へ向けた。「あの子をこちらへ」久留美はおどおどと視線を泳がせ、武司の後ろへさらに身をすくめた。「酒井社長、あの……実はですね、三久は私たちの実の娘でして。家に連れて帰るために迎えに来たんです」武司は必死に平静を装い、顔に無理やり笑みを貼り付けて口を開いた。「話せば長くなります。またいずれ機会があれば、ゆっくりお話ししますよ。考えてみれば、私たちも不思議なご縁があるものです」由樹の表情はピクリとも変わらず、底知れぬ威圧感を放ったままだった。「もう一度だけ言う。あの子を、こちらへ」一言ずつ区切るように、由樹は低く言い放った。目に見えない凄まじい威圧感が武司を襲った。武司ほどの年齢になれば、これまでどんな修羅場もくぐり抜けてきたはずだった。それでも、由樹の放つ凄まじい気迫にはどうしても耐えきれない。彼は意を決して口を開いた。「酒井社長、三久はもう百栄グループを辞めております
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