数分前、洲人が席を外した後、リビングには由樹と梨々香だけが残されていた。由樹はソファの片隅に座り、その長身をゆったりと柔らかいクッションへ沈めていた。彼は時折わずかに瞼を上げ、結人の子供部屋のほうへ目をやっていた。「ちょっとベランダで話せる?」梨々香は由樹に会うたびに、いつも喧嘩腰の態度を取っていた。だが今回は初めて、落ち着いた様子で改まった口調で由樹へ話しかけた。由樹は気乗りしない様子で言った。「用があるなら手短に言え」「みくちゃんに関わることなの。あんたと二人だけで話したい」梨々香は立ち上がった。「高崎家にも関係があることよ」それを聞いて、由樹の目つきが鋭くなった。二人はベランダへ出て、梨々香は扉に鍵をかけた。「高崎家のこと、どこまで知ってるの?」梨々香は手すりに寄りかかり、真剣な表情で由樹を見つめた。「みくちゃんは一体どんな状況に置かれてるの?」由樹の視線は、陽光に包まれた深川の街の大部分を捉えていた。車の行き交う通りに、蟻のように蠢く人々の姿がその瞳に映り込んでいる。「高崎家の内部で何が起きたのか、詳しくは分からない。だが三久の置かれている状況は、決して楽観できるものじゃない」梨々香の顔色がわずかに変わった。「あんたでも、高崎家の内輪のごたごたを突き止められないってこと?」「かなり昔の話で、しかも一族の秘密だ。高崎恒雄自身ですら、はっきりした真相を掴めていない」恒雄自身、高崎家の人間でありながら、知らないうちに身内に出し抜かれていた。由樹にどれほどの力があろうと、当時の内幕を短期間で解明することはできなかった。「高崎恒雄?」梨々香は小さく呟いた。「あの人、高崎家のどういう立場の人なの?」「高崎武司の弟だ。高崎家の次男」由樹はちらりと彼女を見た。「お前、施設長に会ったな」その口調はほとんど断定に近かった。梨々香は頷いた。「うん、それよりあんた、どうして高崎家のことを調べてるの?みくちゃんのため?まさか……彼女を助けたいの?」由樹は黙り込んだ。重い沈黙が、じわりと広がる。梨々香がさらに問い詰めようとするより早く、リビングにいる三久と目が合った。「後で話そう。高崎家のことは、みくちゃんにはまだ知らせてない。口を滑らせないでよ」
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