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愛娘を殺したクズ夫。後悔して泣き叫んでも遅い
愛娘を殺したクズ夫。後悔して泣き叫んでも遅い
匿名

第1話

匿名
末期の腎不全に苦しむ隠し子の山口啓太(やまぐち けいた)を救うため、宮崎正人(みやざき まさと)は妻である宮崎紬(みやざき つむぎ)に黙って、まだ5歳になったばかりの娘・宮崎葵(みやざき あおい)の腎臓を啓太に移植することを勝手に決めた。

そのことを聞いた紬は、ひどく取り乱して車を飛ばして病院へと向かった。

病院に到着したときには、既に手術室のランプが赤く点灯していた。

紬は泣き叫び、狂ったように手術室の扉を叩いた。

「止めて!この子の母親よ!腎臓移植なんて認めないわ!」

すると、正人が紬の背後から泣き崩れた彼女を強く抱きしめ、悲しげな声で言った。

「紬、悪かった。啓太の身体はもう限界なんだ。葵から腎臓をもらうしか、生き延びるチャンスがなかったんだ」

紬は信じられないというように目を大きく見開き、長年愛し続けてきた夫を見つめた。これまでずっと愛おしく感じていたその横顔が、今では知らない人のようにしか見えなかった。

隠し子の命のことしか頭にない正人は、葵が早産でずっと体が弱かったことを忘れたのか?

腎臓を一つ失えば、幼い葵の体はどうなってしまうの?

手術室に灯る赤色のランプが、紬にとって葵の命をいつでも奪える爆弾のように視えた。紬は震えながら言った。

「正人、啓太くんはあなたの血を引く子供かもしれないけれど、彼のためなら葵を犠牲にしていいっていうの!?

お願いよ。手術をすぐに止めてちょうだい」

堪えきれなくなった涙が、紬の頬を伝った。

正人はいとも悲しそうな表情で紬の涙を拭ったけれど、紬を背後から拘束するように抱きしめたその腕の力をまったく緩めなかった。

「大丈夫だ、紬。腎臓が一つなくなるだけだ。葵の命に別状はない」

完全に絶望した紬は、必死にもがきながら正人の腕に噛みついた。

皮膚が噛み千切られても、正人は決してその腕を離そうとはしなかった。

それからどれほど経ったのか、ようやく手術室の扉が開けられた。

主治医が出てきて、一つの容器を大事そうに手に抱えて慌ただしく上階へと駆け上がっていった。

正人は安堵した表情を浮かべると、紬の体を離してさっさと階段を上った。

紬はよろめきながら、手術室へと駆け込んだ。

そこには手術台の上に横たわっている顔面蒼白の葵の姿が目に入り、悲しさと申し訳なさで胸が締め付けられた。

「葵、ごめんね。ママが遅かったわ。本当にごめんなさい……」

かすかに目を開いた葵は、震える小さな手で紬の頬に触れた。

「ママ……パパは遊園地へ連れて行くって言ったのに、どうして病院にいる?私、何か悪いことしちゃった?」

葵の言葉を聞いた瞬間、紬は息が詰まり、声が出せなかった。

葵が悪い子だからじゃなくて、パパがもう葵が大事じゃなくなったからだって、そんなことをこの子に言えるわけがなかった。

5歳の幼い子供が背負うには、あまりに重すぎる現実なのだ。

葵は涙目になって、正人の姿を探した。

「でも、パパはママと私のことを世界で一番愛してるし、絶対に怒らないって言ってたでしょ?」

紬はとうとう耐えきれず、その場で泣き崩れた。

かつて正人が愛していたのは自分と葵だけだったはずなのに、今はもう違うみたいだ。

業界で有名な「仏頂面」として知られている正人が、唯一優しい表情を見せていたのは、幼馴染である紬の前だけだった。

紬の体調が少し悪くなっただけで、億単位の商談を蹴って海外から飛んで帰った。

紬が展示されている骨董品に少し目を止めただけで、とんでもない値段で所有者から買い上げた。

紬の妊娠がわかると、24時間彼女の傍に付き添った。

金持ちの夫妻はみんな、時間が経てば関係が冷め切っていくと言われた。

紬は、自分と正人だけは特別だと信じて疑わなかった。

しかし、妊娠7ヶ月の頃、正人と一人の女子大生が同じベッドで寝ている光景を目にした。

ショックでそのまま倒れた紬は病院に運ばれ、娘の葵もそのせいで早産した。

正人は紬の病床に跪き、何度も自分の頬を手で叩き、涙を流しながら許しを請うた。

「紬、ハメられたんだ。俺を信じてくれ。裏切るなんてこと、断じてない」

生まれたばかりの葵を抱きしめ、紬は正人を許すことにした。

正人はその女子大生を金で解決し、また良き夫、良き父親としての日常に戻った。

しかし1ヶ月前、紬は正人がある女と一緒に一人の男の子を連れて歩いているところを目撃した。

男の子の姿は、どう見ても若い頃の正人にそっくりだった。

その女は男の子の肩を抱き寄せ、紬に臆することなく言った。

「奥様、啓太は私一人の子供で、娘さんと宮崎家の跡継ぎの座を奪い合うつもりはありません」

正人は珍しく取り乱し、必死で紬にしがみついて弁明した。

「紬、彼女はあの5年前に俺をハメた女なんだ」

その時初めて、5年前のあの晩正人と一緒にいた女は妊娠し、産んだ子を一人で育てていたことを知った。

少し前、山口美羽(やまぐち みう)はその子を連れて宮崎グループの採用試験を受けに来た時、偶然に正人と出会ったのだ。

正人はすでに美羽の顔も忘れていたが、啓太の顔つきで彼は自分の血を引いていることを確信した。

帰宅すると、正人は紬に誓った。

「啓太は俺と血の繋がりはあるが、葵こそが正統な後継者だ。それは誰にも変えられない事実だ」

父親に懐いている葵のことを思うと、紬は泣く泣く正人から離れたい気持ちを飲みこんだ。

その後間もなくして、啓太が腎不全を患っていることが発覚した。

ただでさえ山口母子に申し訳なく思っていた正人は、そのことを知ると必死に腎臓提供者を探し回っていた。

皮肉にも、唯一適合したドナーは葵だけだった。

紬は、葵をあんなに愛していた正人がその子から腎臓を奪い取るとは夢にも思わなかった。

しかしそんな残酷な現実は彼女の目の前で起きたのだ。

正人は紬が強く反対しているのにも関わらず、葵を騙してまで手術を強行した。

弱っていな葵を見つめながら、紬は悔しくてたまらなかった。

「葵、パパのことはもういいわ、ママとここを出ようね」

「パパは怒ってるのかな……謝らなきゃ……パパ、病院は嫌だよ」と葵は弱々しい声で言った。

その声はどんどん小さくなり、最後には静かに瞼を閉じた。

紬の鼓動が速まり、冷たくなった葵の手を強く握りしめた。

「葵、どうしたの?目を開けて、ママを怖がらせないで」

しかし、葵からは一切の反応がなかった。

紬は狂ったように医師を呼び立てた。

駆けつけた看護師が、動かなくなった葵を見て悲鳴を上げた。

「術後感染です!すぐに処置が必要です!」

紬は涙で声を枯らした。

「早く助けてください!医者を連れてきてください!」

しかし看護師はどこか困った様子で答えた。

「院内の医者は全員ご主人の命令であちらの男の子の診察に向かっていて、手が空いている医者は……」

紬は震える手で必死にスマホを探した。

「今すぐ夫を呼びます!」

しかし彼女が何度電話をかけても、正人と一切繋がらなかった。

紬は諦めずに、何度も何度もかけ直した。

そしてようやく電話が繋がり、紬は慌てて葵の事情を説明しようとした。

「正人、葵が……」

ピ──

その瞬間、心電図モニターから、命が終了する合図の音が鳴り響いた。

紬はその場に凍りつき、目の前で静かになった葵を見つめた。

そして電話の向こうから、正人の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「紬、手術は成功したよ!啓太はもう元気になるんだ!

さっきは電話に出れなくてすまないな。葵が俺を呼んでるのか?今すぐ行くよ」

紬は静かに目を閉じ、力なく言い放った。

「もう来なくていいわ」

葵にとっても、自分にとっても、この男と二度と顔を合わせる必要がなくなったのだ。
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