Semua Bab 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Bab 251 - Bab 260

557 Bab

第251話

「待ってください!離婚届の受理は、少しだけ待っていただけませんか?こちらで確認しなければならないことが、まだ残っているんです!」蛍は焦りをにじませた声で、今まさに離婚届を受理しようとしていた役所の職員へ叫んだ。突然のことに、驚きで呆気に取られている奈緒と充。役所の職員も驚いてはいたが、手に持っていた離婚届を彼らに返した。その離婚届をすぐさま手に取った蛍が、親権に関する記載の部分を確認すると、やはり黎の名前が奈緒の欄ではなく、充の欄に書かれていた。一瞬にして、蛍の怒りが頂点まで達する。蛍は離婚届と先ほど確認して自分が持っていた離婚協議書を、充に向かって激しく投げつけた。「あんたって本当最低!やけにあっさり奈緒との離婚に応じると思ったら、こういうことだったのね!」蛍は怒りで胸を上下させたまま、奈緒に視線を向ける。「奈緒、離婚届は書き直し!さっきの離婚届は出しちゃ駄目だから!離婚届の親権の欄、ちゃんと確認した?黎ちゃんの名前、奈緒の欄じゃなくて青木社長の欄に書かれてたんだよ!もしあのまま離婚届が受理されてたら、親権はこの男に取られてたの!実は、さっき離婚協議書の写真を撮って奏介さんに送っておいたんだけど、そうしたら親権についての内容に問題があるから、離婚届もしっかり確認したほうがいいって言われて。あと一歩遅かったら、黎ちゃんを失うところだったんだからね!」蛍の言葉を聞き、奈緒は目の前が真っ暗になるほどの衝撃を受けた。蛍に罵声を浴びせられた充は、戸惑いながらも、床に投げつけられた離婚届と離婚協議書の内容を確認していた。昨夜、離婚協議書を見るだけで胸が痛んだため、自分は内容も確認せずに署名をした。それに、離婚届の親権の欄だって、奈緒が記入済みではなかったのか?奈緒にしても同じで、充の欄に黎の名前が書かれていることに、全く気が付かなかった。奈緒は怒りのままに、手を振り上げて充の頬を叩いた。「充!まさか、あなたがここまで卑怯だったなんて!危うく騙されるところだった。昔のあなたは、少なくともこんな卑劣なことはしなかったのに……どうして?美紀さんと一緒にいるうちに、考え方まで同じようになってっちゃったの?」奈緒は怒りのあまり、思わず充に罵声を浴びせてしまった。あと少しで騙されるところだった。何も疑わず離婚協議
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第252話

だが、胡桃はどうしてそんなことを?青木家の人々は誰一人として黎の誕生を喜ばず、本気で可愛がってくれる者もいなかった。それなのに、なぜ離婚届や離婚協議書に細工までして、黎の親権を充のものにしようとしているのだ?まあ、今はそんなことを考えている場合ではない。気づけただけでも良しとしよう。充が電話をかけようとしていたので、奈緒はその腕を掴んだ。「そんなことはしなくていいから。今は手が加えられる前の離婚協議書を2部用意して、もう一度署名を済ませるのが先でしょ?」そう言いながら、奈緒が時計を見ると、すでに午後4時を過ぎていた。まだ、仕事も残っているし、これ以上このことに時間を費やしたくはない。しかし、幸いにも携帯の中に、電子版の離婚協議書データが入っている。奈緒はすぐに近くのコンビニへ向かい、離婚協議書を印刷した。先ほどの教訓を活かし、今回も奏介に確認してもらい、不備がないことを確認してから、充にペンを渡した。その間、奈緒の態度は終始毅然としていた。一切の迷いも情けも見せず、何があっても離婚するという強い意志だけが伝わってくる。一方の充は、操り人形のように奈緒に従うことしかできなかった。心は絶え間なく血を流し続けているようで、痛みはとうに限界を超え、もはや何も感じられないほど麻痺していた。離婚協議書への署名を終え、離婚届を記入し始めたとき、二人はあることに気がついた。離婚届には、証人欄があり、そこには離婚する夫婦以外の二人の署名が必要だ。しかし、ここには蛍一人しかいない。どうやら日を改めるしかなさそうだ。そう思うと、奈緒は少し肩を落とした。そうして、少し俯くと、もう充を見ようともしなかった。一方、充の視線は終始奈緒から離れなかった。その眼差しには、未練、名残惜しさ、後悔、そして……奈緒の美しさに対する驚愕。自分のもとを去ろうとする奈緒は、以前よりも健康的で、どこか別人のように眩しく、目が離せないほど綺麗に見えたのだ。けれど、この美しい女性も、もうすぐ自分のものではなくなってしまう…………落ち込む奈緒を見て、蛍はすぐに励ました。「なに落ち込んでるのよ!今日はかなりの成果があったじゃない!離婚協議書も離婚届も、もう署名は全部済んでる。あとは証人のサインをもらうだけなんだから、離婚はもう決まった
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第253話

その瞬間、充の鼓動が止まりそうになった。「夢香姉さん、どこにいるんだ?赤ん坊の泣き声が聞こえるけど」夢香がのんびりとした口調で答える。「うん、だって充の娘を抱いてるからね。DNA鑑定しろって言ってるのに、あなたがいつまで経っても子どもを連れてこないんだもん。仕方ないから、私が連れてきちゃった。でも、さっき髪を2本ほど抜いただけなのに、ずっと泣きっぱなし。この子、ほんと手がかかるね」充は耳を疑った。胡桃が起こした騒ぎを収めようとしている最中だというのに、今度は夢香が子どもを連れ去ったというのか?!充の顔から一気に血が引いていく。「なあ、本気で言ってんのか?子どもを連れ去るなんて、一体何を考えてるんだよ!俺の娘だ。いいか、少しでも傷つけてみろ。絶対に許さないからな」だが電話の向こうの夢香は、まるで気にも留めていなかった。「さっき、この子の髪の毛と、あなたの歯ブラシを一緒に鑑定に出してきたところだから、もうすぐ結果も出ると思うよ。そんなに興奮しなくてもいいじゃない。まだ本当にあなたの娘かどうかも分からないんだから。私に怒るのは、親子だと分かってからでも遅くないでしょ?それに、もし違ってたら、許せない相手は奈緒のほう。ふふっ、その時あなたがどうするのか楽しみね」電話の向こうからは、黎の泣き声だけでなく、大音量の音楽やグラスをぶつけ合う音まで聞こえてくる。充は怒りで頭に血が上り、電話口に向かって叫んだ。「姉さん、黎を連れてどこにいるんだ?なんでそんなに騒がしいんだよ?」夢香は悪びれもせず答える。「今、カラオケよ。この子にも音楽を聴かせてあげてるの。情操教育ってやつ。だから落ち着きなさいって言ってるでしょ?赤ちゃんなんて少しくらい泣かせておいても平気なんだから」その一言で、充の堪忍袋の緒が切れた。「ふざけるな!どこの店だ!?今すぐ居場所を送れ!さもないとただじゃ済まさないからな!」しかし、夢香は聞こえなかったかのように、そのまま電話を切った。通話が途切れる直前、向こうからは何人もの笑い声だけが充の耳に響いてきた。充は本気で気が狂いそうだった。3人の姉の中でも、夢香は昔から一番わがままで、気性が荒く、人の言うことを聞かないうえに、数え切れないほどの騒動を起こしてきた。数
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第254話

充が関わっていると、奈緒は確信していた。彼女は怒りに任せて充の前まで歩み寄ると、そのまま思い切り、彼の頬に平手打ちを打ち込んだ。しかし、充は避けようともせず、乾いた音が響いた後、頬にはたちまち真っ赤な指の跡が5本くっきりと浮かび上がる。奈緒は怒鳴った。「充!あなたがやらせたの?!あなたが、黎を攫わせたんでしょ?!」充は何も答えなかった。真相は知っているが、それを口にすることはできない。もし黎が夢香によって連れ去られたと認めてしまえば、それは夢香の犯行を公にするのと同じになる。まだ状況を整理できていない以上、うかつなことは言えない。何より先に事態を確認する必要があるのだ。奈緒はさらに詰め寄る。「何か言いなさいよ!あなたがやったの?それともあなたの家族?どうしてこんなことができるの?深津市でなら、青木家が何をしても許されるとでも思ってるわけ?言っておくけど、黎に傷一つでもつけてみなさい。その時は、青木家の人間全員に必ず償わせるから。絶対に!」奈緒は充を指さしながら、烈火のごとく声を荒らげて糾弾した。それでも充は微動だにせず、まるで感情のない冷たい石像のように、黙って立ち尽くしている。その姿を見た奈緒の疑念は、ますます確信へと変わっていった。充は何かを知っていながら、それを自分に話す気はないらしい。昔から彼は誰よりも家族をかばってきた。黙り込んでしまえば、何を聞いても口を割ることはないだろう。娘が白昼堂々さらわれたというのに、真っ先に案じるべきは黎の安否ではなく、やはり家族を守ること……そう。なるほどね。奈緒は皮肉な笑みを浮かべて頷く。その瞳からは、充に向けられていた最後の情けすら完全に消え去り、彼女は踵を返すと、一度も振り返ることなく立ち去っていった。すっかり取り乱していた蛍も、慌てて奈緒の後を追った。「どうしよう、どうしよう!黎ちゃん、大丈夫かな?どこかへ売り飛ばされたらどうするのよ!もしかして美紀さんの仕業?山奥の村や、海外に売られちゃってないよね?信じられない、本当に怖い……心臓が止まりそう!奈緒、ちょっと待って!歩くの速すぎるんだけど!」「……」蛍は半ばパニックになり、何を言っているのか自分でも分からないほどだった。奈緒が車に乗り込むのを見ると、蛍も慌てて
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第255話

残業中で、眠気と戦っていた胡桃。突然、奈緒に胸ぐらをつかまれ、思わず全身をびくりと震わせる。奈緒がデスクの上へ飛び乗ったことによって、積み上げられていた書類が片っ端から床へ払い落とされたのを見て、怒りが一気にこみ上げた。胡桃は歯を食いしばり、低い声で言う。「一体何がしたいわけ?ここは青木グループで、猿山じゃない。何を考えているの?」「私が何をしたいかですって?」奈緒は胸ぐらをつかんだまま怒鳴り返した。「それはこっちのセリフです!あなたたち青木家は何がしたいんですか?!胡桃さん、青木家の中でも、あなただけはマシな人間だと思ってました。でも、一番卑劣だったのはあなただったんですね!答えてください!黎をどこに隠したんですか?」奈緒は怒りで全身の血が逆流しそうだった。黎の無事が分からない一秒一秒が、永遠のように長く感じられる。胡桃は呆れたように眉をひそめた。「何の話?あの子ならあなたのところにいるんじゃないの?なんで私に聞くのよ?」胡桃は一瞬言葉を切り、何かに気づいたように勢いよく立ち上がった。「まさか……子どもを見失ったなんて言わないわよね?あれは青木家の子よ!預かっておいて、その子を見失ったって……それでも母親なの?」奈緒は冷たく笑った。「まだとぼける気ですか?私と充の離婚協議書と離婚届に細工したのは……あなたでしょう?充の筆跡を真似たのもあなた。他の人は騙せるかもしれませんが、私には分かりますから!離婚協議書で私を油断させておいて、親権をこっそり充へ移そうとした。その直後には黎をさらうなんて……本当に見事な計画ですね。さすが、胡桃さんって感じです」考えれば考えるほど怒りが募り、そして青木家の人間全員に対する失望も深まっていく。充を愛し、こんな価値観の歪んだ身勝手で薄情な一家に嫁いだ自分は、本当にどうかしていた。怒りで体を震わせる奈緒を前に、なんと胡桃が吹き出して笑いだした。「正気なの?公的書類の偽造は犯罪なんだから、私がそんなことするわけないでしょ?それに黎が連れ去られたなんて話、私は何一つ知らない。あなたが動揺しているのは分かる。でも、人を疑うなら証拠を持って。そんな根拠のない中傷を続けるなら、私はあなたを訴えることだってできるんだからね」胡桃も怒りを抑え切れなかった。
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第256話

蛍が両手を広げ、奈緒を守る。「何かあるんだったら、私に言って!奈緒には指一本触れさせないから!離婚に同意しておきながら、離婚関係の書類をこっそり書き換えるなんて!それだけじゃ飽き足らず、子どもまでさらっておいて、何も知らないふり?青木家って本当に最低!この街にこんな家があるなんて、深津市の恥ね。今すぐ黎ちゃんの居場所を話して、離婚協議書と離婚届に細工したことを認めて。そうすれば奈緒だって情けをかけてくれるかもしれない。でも最後までしらを切るなら、後悔するのはあなただから!」実は、奈緒と胡桃が言い争っている時、蛍の携帯に真司から連絡が届いていたのだ。奈緒に電話をかけてもつながらなかったため、真司は蛍へ奈緒と一緒にいるかどうか確認していた。蛍が一緒にいることを伝えると、青木グループが雇っている警備員は全員、奈緒の兄が経営する子会社から派遣された人員だと、真司から教えられた。つまり、胡桃がどんなに大勢呼びつけたとしても、最終的な指揮権は奈緒にあるということ。その事実を知った蛍は、心が躍った。人生最大級の見せ場が来た――そう思った蛍は、一気に前へ飛び出し、胡桃へ真っ向から啖呵を切ったのだった。もっとも奈緒は、蛍がどこからそんな自信を得たのかまったく知らない。いつも気弱な親友が、自分を守るために勇気を振り絞って前に立ってくれたその姿に、奈緒は胸が熱くなり、思わず涙ぐみそうになる。しかし、すぐに胡桃のオフィスに警備員たちが押し寄せてきた。警備員のリーダーが胡桃の前に立ち、畏まって声をかける。「胡桃さん」自信を取り戻した胡桃は、無表情のまま奈緒と蛍を指さした。「この二人をオフィスから連れ出しなさい。空いている部屋へ拘束しておいて。あとは警察が来てから判断してもらえばいいから」奈緒は自分の身などどうでもよかった。今、黎がどこにいるのか、それだけが心配でならない。警備員たちが集まるのを見た奈緒は、焦りを隠せずに叫ぶ。「いいから教えてください!黎はどこにいるんですか?あの子はまだ3か月。ずっと黒崎さんがお世話していたから、黒崎さんから離れられないんです!あの子がお腹を空かせていないか、泣いていないか……そうやって不安に押しつぶされそうな私の気持ちは、子供を産んだことのない胡桃さんには分からないかもしれま
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第257話

警備員のリーダーが氷のように冷たい表情のまま、一切感情を交えずに言い放った。「謝罪してください」胡桃は自分の耳を疑った。怒りで顔をゆがませ、勢いよく振り向く。「何してるの?頭でもおかしくなったわけ?誰が雇い主なのか分からない?その目をよく見開いて、私が誰か見なさい!きゃっ!」警備員のリーダーは余計な言葉も、ためらいも見せなかった。脇にいた二人の警備員が素早く踏み込み、左右から胡桃の腕をつかむと、背中へねじ上げる。関節が鳴る重苦しい音がオフィスに響いた。令嬢として大切に育てられてきた胡桃が、こんな乱暴な扱いを受けるのは初めてだった。激痛で顔からは血の気が引き、冷や汗が流れる。あまりの痛みで気を失いそうになりながらも、悲鳴だけは途切れなかった。予想外の展開に、奈緒は唖然としていた。しかし、蛍に耳打ちされ状況を把握すると、その口元をわずかに緩めた。奈緒は一歩前へ出て、冷たく言い放つ。「胡桃さん、今の状況が理解できましたか?」胡桃は信じられないという表情で、奈緒を睨みつける。「彼らは青木グループの人間よ。どうして……こんなことを?ありえない……」奈緒が答えようとした時、オフィスの入り口から落ち着き払った男性の声が聞こえてきた。「彼らは私の指示で動いていますから」聞き覚えのある声に、奈緒は嬉しそうに勢いよく振り返る。そこには、濃紺のオーダースーツをまとった真司が、無表情のまま立っていた。背筋を真っすぐ伸ばした堂々たる姿は、まるで鋼鉄の壁。その圧倒的な存在感だけで、先ほどまで威勢のよかった警備員たちでさえ、一瞬気圧されたように見えた。胡桃は顔色を変え、腕の痛みも忘れたように震える声で尋ねる。「あ……あなたは誰なんですか?」真司はその長い脚でゆっくりと胡桃に歩み寄り、まるで死体でも見るかのような冷たい目で彼女を見下ろした。「私はMRセキュリティの代表です。私の記憶違いでなければ、青木グループとの契約は3ヶ月前に満了していて、更新はされていないようです」胡桃は言葉を失った。奈緒も息をのむ。蛍は驚きの表情を浮かべた。奈緒は、兄がよこしてくれた真司を、ただの腕利きのボディーガードだと思っていた。しかし、それは真司がただ低姿勢だっただけで、実は国際的にも絶大な力と背景を
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第258話

もともと監視カメラは、社内の機密情報の盗難を防ぐために設置されたものだった。だが皮肉なことに、今は真司が証拠を集めるうえで、この上ない助けとなってしまった。監視カメラの映像には全てがはっきりと映っていて、画面を拡大すると、胡桃が書きかえた書類の表紙の「離婚協議書」の文字までがくっきりと見える。映像を全て見終わる頃には、その場ですっかり固まってしまっていた胡桃。自分の細工は完璧で、充でさえ見抜けないはずだと思っていたのに。だが今、真実は隠しようもなく暴かれてしまった。まるで衣服を剥ぎ取られ、素顔をさらされた道化のように、胡桃は顔を青くしたり赤くしたりしながら、口をぱくぱくさせるばかりだった。「ひ……ひどすぎる。青木グループは多額の報酬を払っているのに、よくもこんな真似を……MRセキュリティが世界一の警備会社?笑わせないでください!信用なんてあったものじゃありませんね!」真司が毅然とした表情で答える。「事実を取り違えないでください。契約期間を過ぎても口先だけで支払いを引き延ばしていたのは、青木グループの方です。期限までに支払いがなければ、契約は自動的に解除される、それがこちらのルールですので、我々は契約に基づいて動いているだけですから」胡桃は怒りのあまり、顔を真っ赤にして叫んだ。「だからって、この女と手を組む理由にはなりませんよね?一体……あなたたちはどんな関係なんですか?!」真司は冷めた笑みを浮かべ、あからさまに軽蔑を込めて言った。「2ヶ月前、とある方から奈緒様のために、弊社の最高ランクの護衛サービスを申し込んでいただいております。つまり、奈緒様はこのMRセキュリティの社員全員に対し、指示を下す権限があるということ――もちろん、この私も含めてです。もし同額をお支払いいただけるのであれば、私どもは同じようにお仕えいたします。当社は契約に従って動きますので、人で差別したりはしませんので、ご安心を」胡桃は愕然とし、目を見開いて硬直した。「何ですって?最高ランクの護衛を?一体、どこの誰が……」青木グループの総務と管理全般を仕切っている胡桃は、警備費用がどれほど莫大か、誰よりもよく知っていた。青木グループが契約更新を先延ばしにしていたのも、この数か月は資金繰りが苦しく、警備費の負担があまりに重かったからだっ
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第259話

ちょうどそこへ警察も到着した。胡桃はそのまま警察に身柄を確保され、事情聴取のため連行されていく。奈緒はようやく少し息をつくと、慌てて真司の肩をつかんだ。「坂本さん、間違いじゃないよね?黎は……黎は今、無事なの?」「ご安心ください。黎様は無事ですが、ただ……」奈緒の心臓が激しく波打った。「ただ、何なの?早く教えて!」「黎様は、夢香さんと美紀さんに連れ去られたのですが、現在、その二人は黎様を連れてカラオケ店にいます。あのような喧騒と劣悪な環境が、黎様の健康に悪影響を及ぼさないか心配でして」奈緒の怒りは頂点に達した。犯人は胡桃ではなく、美紀と夢香だったのだ。奈緒の瞳に鋭い光が宿る。「坂本さん、蛍、行こう!」3人はすぐに車へ飛び乗り、美紀と夢香がいるというカラオケ店へ向かった。道中、蘭から電話が入った。黎が連れ去られたことを知った蘭もまた、必死に探し回っている最中だった。真司がすでに居場所を突き止め、今救助に向かっていると伝えると、蘭の安堵の息が聞こえてきた。車を降りた奈緒は、教えられた個室へと駆け出す。奈緒と蛍が先陣を切り、その背後に真司、そして強靭で屈強な警備員たちが続いた。奈緒は個室のドアを力任せに蹴り開けた。室内は薄暗く、アルコールや煙草の煙、香水の匂いが混じり合い、澱んだ空気が漂っている。酒を飲む者、騒ぐ者――乱痴気騒ぎの真っ最中だった。突然の物音に、その場にいた全員が一斉に入口へと視線を向ける。パシッ。蛍がすぐさま照明をつけると、部屋が一瞬で昼間のように明るくなった。奈緒は美紀の姿を見つけるなり、一気に飛びかかる。髪をわしづかみにし、そのまま床へ叩きつけ、頭を押さえつけた。続いて蛍も夢香に襲いかかった。奈緒の真似をして、夢香の髪をつかみ、ありったけの力で床に叩きつける。奈緒は怒りのままに、美紀の顔に向けて左右交互に10回以上、立て続けに平手打ちを食らわせた。蛍も真似しようとしたが、奈緒ほどの腕力も体術もない。さらに、相手である夢香は気性が激しかったため、二人はすぐにもみ合いになり、頭に血が上った蛍は、とうとう夢香の腕に思い切り噛みついた。真司の率いる男たちは、部屋にいた他の客を即座に制圧し、隅にうずくまらせた。しかし、部屋中をくまなく探しても、黎の姿がどこ
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第260話

奈緒は怒りのあまり、声を張り上げた。その一方で、蛍はなおも夢香ともみ合っていたが、徐々に体力の差が出始め、ついには押し倒され、下敷きにされてしまった。歪んだ笑みを浮かべた夢香が、狂ったように笑う。「私たちを警察に突き出すつもりなら、あのガキがどこにいるかなんて、一生教えてやらないからね。奈緒……こんな大勢連れてきて、私たちに恥をかかせるなんて。後悔しても知ら……」夢香が言い終わる前に、彼女の体が宙に浮いた。真司が服をつかみ、軽く放り投げただけだった。それでも彼女の体は放物線を描き、大理石の床へ無様に叩きつけられる。夢香が悪態をつきながら起き上がろうとした瞬間、真司の足がその肩を踏みつけた。夢香はぴくりとも動けない。ようやく解放された蛍だったが、先ほどまで何発も殴られ、口元には青あざができていた。それでも、真司がわずか数手で夢香を制圧したのを見るや否や、蛍は迷わず駆け寄り、夢香の頬へ何発も平手打ちを浴びせ、満足そうな笑みを浮かべる。「さっさと黎ちゃんがどこにいるか白状しなさい!もし言わないんだったら、生きてここを出られると思わないことね!」蛍は胸を張り、鼻息も荒く啖呵を切る。勝ち誇ったように眉を上げ、そばに立つ真司を指さした。「この人が誰か知ってる?MRセキュリティの社長なんだから!それでもまだ言わないって言うんだったら、この人に頼んであんたの両腕を外してもらうんだから!」真司は何も言わず、さっとしゃがみ込むと、いとも簡単に夢香の両肩を外した。夢香が今まで味わったことのない激痛に絶叫する。その悲鳴は、美紀以上に凄まじかった。真司が蛍を見る。「膝の関節も外しておきましょうか?」蛍は大きく頷く。「お願いします!殺人が犯罪じゃなかったら、この女を引き裂いてやりたいくらいですから!この女、本当に最低です、自分の姪っ子に手を出したうえに、黎ちゃんのことをガキ呼ばわりして……坂本さん、もうやっちゃってください!徹底的に痛めつけてやって、二度と調子に乗れないようにしてください!」真司は無言でしゃがみ込み、夢香の太ももに両手を置いた。言っても分からないことは、痛みで学べることもある。膝の関節まで外されそうになった夢香は、顔色を変えて絶叫した。「やめて!お願い、分かったから!足は
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