All Chapters of 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Chapter 501 - Chapter 510

553 Chapters

第501話

泰司のような人を吐かせるのはそう難しくなく、少し手荒に追い込み、きつく脅せば、あっさりとすべてを白状した。そして、奈緒の予想どおり、泰司は今回も誰かに利用されていた。少し前、楓から別れを告げられた泰司は、それをずっと恨んでいたらしい。そんなとき、何者かが接触してきて、クラブ・ノクターンの従業員を買収してほしいと持ちかけた。楓への愛情が憎しみに変わっていたこともあり、彼女を陥れることにした泰司が、すぐに話に乗ったということだった。長年、店で働いていた泰司は、店の内部事情を知り尽くしていた。そこで昔の同僚に会いに来たふりをして店内へ入り込み、薬物の入った包みを楓の事務所に隠した。警察が楓のデスクから押収した薬物は、泰司が仕込んだものだった。ここまでくれば、すべて誰かが周到に仕組んだ罠だと考えて間違いないだろう。それも、狙いはクラブ・ノクターンを潰すだけではなく、蘭に薬物犯罪の罪を着せ、長期間刑務所から出られないようにするつもりだ。幸い、泰司がこちらに捕まっていることを、相手はまだ知らない。奈緒は床にへたり込み、すっかり仁哉に怯えきっている泰司を見下ろした。怒りが込み上げ、どうしても抑えられない。蘭が昔から従業員を大切にしてきたからこそ、クラブ・ノクターンは長年深津市で営業を続け、繁盛してきたのだ。それなのに、泰司一人の裏切りですべてを台無しにされかけている。そう思うと奈緒は我慢できなくなり、泰司を思いきり蹴りつけた。「この恩知らず!前だって、あなたは人に金で買われて放火に手を貸した。それでもお母さんは、長年働いてくれた情があるからって、一度は許してくれたでしょ!なのにまた同じことをして、お母さんだけじゃなくお店まで潰そうとして……楓さんの事務所に薬物を隠すとき、お母さんまでどうなるか、一度でも考えた!?あれだけ助けてもらっておいて!」その瞬間、奈緒は心の底から嫌気が差した。人を許すことも、手を差し伸べることも、相手を選ばなければならない。相手を間違えれば、その優しさが自分を追い詰める刃になる。奈緒に強く蹴られた泰司は、床に血を吐いた。「奈緒さん、ごめんなさい……僕が間違ってました!でも、わざとじゃないんです。金が必要で……だから、ど、どうしようもなかったんです!僕が薬物を置いたって証
Read more

第502話

「奈緒さん、お願いします……それだけは……それだけはやめてください!分かりました。なんでもします……言われたとおりにしますから!」弱みを突かれた泰司は、背に腹は代えられないとばかりにすべてを承諾した。話を聞き終えると、仁哉は物置に布団を一組放り込み、ひとまず泰司をそこへ残した。携帯も取り上げ、物置に鍵をかけてから奈緒と仁哉の二人は邸宅の中へ戻る。しばらくして真司が到着したため、奈緒、仁哉、真司の三人はリビングに集まり、真司が調べてきた情報を共有し始めた。クラブ・ノクターンの防犯カメラの映像は、すでに警察が押収しており、真司でも手に入れることはできなかったが、別の映像が残っていたという。蘭が万一に備え、個室や重要な場所に通常の防犯カメラとは別の隠しカメラを設置していたらしく、真司はそっちの映像を確保することに成功していた。そして、その中から決定的な証拠も見つかった。映像を確認すれば、楓が客に薬物を売っていないことは明らかで、むしろ相手が意図的に楓を個室へ呼び出し、罠にはめていたことが分かった。さらに奈緒は、泰司の携帯から楓との過去のやり取りもすべて確認する。そこには、別れた後も泰司がしつこく楓につきまとい、脅していた記録が残っていて、楓の無実を裏づけるには十分だった。これだけの証拠があれば、警察へ提出することで蘭たちの無実を証明できるはずだ。だが、奈緒にとってそれだけでは足りなかった。相手は今回、蘭の人生を潰すためにここまで卑劣な罠を仕掛けてきたのだから、こちらだけが手加減する理由などない。以前、蘭が泰司に情けをかけた結果、こうして再び裏切られた。つまり、敵に情けをかけることは自分を傷つけることと同じ。すでに夜は更けていた。仁哉の別荘は山の中腹にあり、大きな窓から深津市の街を一望できる。眼下には色鮮やかなネオンと無数の明かりが広がり、深夜になっても街は眠る気配を見せない。奈緒は大きく息を吸い、真司を振り返った。「さっき美紀と夢香さんが今夜パーティをしてるって言ってたよね?」真司が小さくうなずく。「はい、美紀さんが新しく買ったあの邸宅でパーティーが開かれています」奈緒は真司をまっすぐ見た。「坂本さん、そのパーティーにどんな人が参加しているのか、調べてもらえる?それと、参加者の中に普段から
Read more

第503話

一方その頃。充は家に戻るなり、夢香と美紀に連絡していた。ところが電話をかけてみると、二人は美紀が新しく買った邸宅でパーティーの真っ最中だった。電話越しにも大音量の音楽が響いてくる。充は眉をひそめ、不機嫌そうに尋ねた。「こんなときに何のパーティーだ?何か祝うようなことでもあったのか?」夢香が弾んだ声で答える。「充、ニュース見てないの?クラブ・ノクターンが摘発されたんだよ。あのババアも従業員十数人も、まとめて警察に連れていかれたし、店も営業停止!お母さんたちが出てきた途端、今度は向こうが捕まったんだよ?最高じゃん!こんなおめでたいこと、祝わないで何を祝うってわけ?充も早く来てよ!最近ずっとあの人たちに振り回されっぱなしだったでしょ?たまには息抜きしなきゃ!それに、弘樹くんと拓也くんも来てるよ」充は、他人の不幸を喜んで騒ぐなどあまりに悪趣味だと、夢香を叱りつけるつもりだった。だが、弘樹と拓也もいると聞いた途端、彼の表情はふっと和らぎ、考えを変えた。「分かった。二人に待っててもらってくれ」ここ最近、充は何をしてもうまくいかず、四方八方から責め立てられるような日々に疲れきっていた。考えてみれば、気心の知れた仲間と酒を飲み、くだらない話をして過ごすことも、ずいぶん長いことしていない。拓也とは今も以前と変わらず付き合いがあり、夢香や美紀とも決定的に仲違いしたわけではないため、拓也がいることは不思議ではなかったが、弘樹まで来ているのは意外だった。もしかすると弘樹も、最近は仁哉に不満を持ち、また自分のほうへ戻ってきたのだろうか?もしそうなら、充にとっては願ってもない話だった。最近はあまりにも孤独だった。以前のように仲間たちの中心にいて、気楽に過ごしていた頃が無性に懐かしい。充はそのまま車を走らせ、パーティー会場へ向かった。午後11時。深津市で働く多くの人々が翌日の仕事に備えて眠りにつく頃、裕福な若者たちの夜はようやく始まる。美紀が新しく買ったこの邸宅は、以前芸術家が所有していた物件だったため、内装にもその趣味が色濃く残り、別荘全体が洗練された雰囲気に包まれている。吹き抜けのリビングは広々としていて、3、40人が集まっても十分な広さがあった。離婚し、保雄と親子として再び関係を築いてから、
Read more

第504話

「充!もうすぐ独身に戻るんだから、そんな堅くならなくていいでしょ!ほら、早く!」「そうよ!今夜はみんな思いっきり楽しんでるんだから、充さんも参加したら、もっと盛り上がるわ!」「充、早く着替えてきて!ほら、弘樹くんも拓也くんも水着でしょ?」「一人だけスーツじゃ逆に浮いちゃうんだから、ほら、早く早く」美紀も夢香も、すでにかなり酒が入っていたため、大音量の音楽も手伝い、二人は充の言葉など聞かず、充をそのまま更衣室へと押し込んだ。充が遠くを見ると、確かに弘樹と拓也も上半身裸でソファに座っている。充は一度目を閉じた……仕方ない。ここまで来たら、周りに合わせるしかないだろう。水着くらい別にいい。拓也だって平然としているのだから、自分が気にする必要もないだろう。そう自分に言い聞かせ、充は数分後水着に着替えた。更衣室を出て、二階から盛り上がる会場を見下ろした瞬間、ふと罪悪感が込み上げてきた。蘭は警察に連れて行かれたばかりで、その上黎はかなり重い病気にかかっている……どう考えても、こんな場所で騒いでいる場合ではない。もし誰かに写真を撮られ、それが奈緒の目に入り、自分がこのパーティーに参加していると知られれば、奈緒はますます自分を憎むだろう。充は足を止めた。やはり帰ろうか――そう思ったとき、階下の大きなソファに座っていた弘樹が充に手を振った。「充!早く下りてこいよ!みんな、お前が来るの待ってるぞ!」弘樹がこんなふうに親しげに声をかけてくるのは、本当に久しぶりだった。奈緒との離婚騒動が始まって以来、弘樹は自分に笑顔を見せなくなり、話しかけても皮肉ばかりで、こんなに友好的な態度を取ってくれることなどなかった。壊れかけている友情を取り戻せるかもしれない。そう思った充は、ひとまず奈緒たちのことを頭から追い出すことにした。今夜くらいは、自分も仮面をつけていいじゃないか。背負っているものを全部下ろし、何も考えず酒を飲んで、思いきり羽を伸ばしたかった。もうずっと、息が詰まりそうな毎日を送ってきたのだから。充は迷いを振り切り、弘樹へ手を上げて応えると、そのまま階段を下りていった。スタッフが持つトレーから白い仮面を一つ選び顔につけ、白いバスローブを一枚羽織ってから、ゆっくりと階下へ向かった。黒い水着からは、鍛え上げられた
Read more

第505話

奈緒がその知らせを受けた時、彼女は仁哉と山の中腹にある邸宅の広いリビングで夜食を楽しんでいた。今日は一日、ろくに食事をする暇もなかったが、ようやく事態の全容が見え始め、奈緒もやっと少し肩の力を抜けたところだった。奈緒の携帯は画面をつけたままテーブルの上に置いてある。弘樹から通知が届いた時、奈緒はビニール手袋をして煮込みエビの殻を剥いている最中だった。その手では画面を操作しづらいため、代わりに仁哉がメッセージを開く。すると表示されたのは、水着姿の充が同じく水着を着た大勢の女性たちに囲まれている写真だった。ようやく落ち着きかけていた奈緒の胸に、一気に熱いものが込み上げる。やっぱりそうだ。美紀がいるところには、充は必ず現れる。いつだって、美紀のためなら何でもするのだ。それも、顔を出すだけではなく、これまで人前で保ってきたイメージさえ気にせず、わざわざ水着になって美紀主催のパーティーに付き合っている。エビの殻を剥いていた奈緒の手が止まった。目つきが一気に冷たくなる。「充って、本当に人の心がないんだね……娘が重い病気だって聞かされてるのに、こんなパーティーで遊べる父親がどこにいるのよ」仁哉の瞳からも急激に温度が失われ、はっきりとした怒りが宿った。奈緒がどれほど失望したのか、仁哉には痛いほど分かった。すっかり食欲をなくした奈緒は、ビニール手袋を投げ捨てると、弘樹にメッセージを送る。【もういいよ。始めちゃって】メッセージを受け取った弘樹は、すぐに携帯をポケットへしまった。にこやかな顔で充の近くまで行くと、人混み越しに声をかける。「充、ずいぶんモテてるな」充自身、まさかこれほど大勢の女性に囲まれるとは思っていなかった。困り果てて弘樹を呼ぼうとしたが、その前に弘樹はくるりと向きを変え、少し離れたところにいる御曹司たちの輪へ入っていく。そのうち二人には充も見覚えがあった。一人は百瀬ジュエリーの御曹司・百瀬俊丞(ももせ しゅんすけ)、もう一人は柳川家具の柳川哲伸(やながわ ひろのぶ)だった。二人の母親は普段から翠と親しく、昔から付き合いが深い。しかも、かつて蘭をいじめていた件にも、二人の母親は深く関わっていた。この二人は幼い頃から甘やかされて育った典型的な遊び人だった。金持ちの道楽息子にありがちな悪癖
Read more

第506話

哲伸が含みのある笑いを漏らした。「みんなそれなりの家の女の子だぞ。普段遊んでる女とは違うんだから、変な気起こすなよ。面倒なことになるぞ」弘樹は頃合いを見て口を挟む。「そうとも限らないだろ。普段お前らが遊んでる相手より、ああいうお嬢様のほうが裏じゃ派手にやってるかもしれないぞ。人前じゃ澄ました顔してるだけでさ」それを聞いた俊丞がすぐに頷いた。「そうだよ!遠藤の言うとおりだ。柳川、お前が信じないって言うなら見てろ。例のアレをちょっと入れれば、女の子たちはみんなすぐ本性出すから」哲伸が途端に興味を示す。「こんな場所でアレ使うのか?」俊丞は声を落とす。「当たり前だろ。あいつらが普段やってないとでも思ってんのか?ここにいる女の中にも、俺たち以上に遊んでるのが何人かいるし、とっくにハマってる奴だっているぞ」弘樹はもともと、二人から何か言い出すよう誘導するつもりだったのだが、そんな必要すらなかった。二人とも最初からその気だったらしい。だから、弘樹は何も知らないふりをして尋ねた。「さっきから何の話してるんだ?」俊丞は呆れたように弘樹を見る。「遠藤、今さらとぼけるなって。お前が知らないわけないだろ?アレだよ。酒より一気に上がるやつ。ほんの少し粉を使うだけで、気分ぶっ飛んで今夜はずっと盛り上がっていられるんだ。俺、持ってきてるから少し試してみるか?」そう言うと、俊丞は本当にポケットから小さな袋を取り出した。弘樹は慌てて手を振る。「よせよ。俺は絶対にやらないし、お前たちもやめといたほうがいいぞ。一度ハマったら抜け出せないんだから」だが、俊丞は馬鹿にしたように鼻で笑った。「ビビりすぎだって。たまにやるくらいなら平気だよ。そんな簡単にハマるもんじゃないし」弘樹は何気ない顔で、美紀と夢香のいるほうへ目を向けた。「だったら、今夜の主役二人で試してみたら?あいつら二人が羽目を外せば、二人が呼んだ女の子たちも気兼ねしなくなるんじゃないか?」哲伸もすぐに乗ってきた。目を輝かせ、俊丞をけしかける。「百瀬、頼んだぞ!せっかくここまで派手なパーティーやってるのに、酒だけじゃ物足りない。何か一つくらい目玉がないとな。しかも美紀ちゃんの家だ。こんなプライベートな場所に警察が来るわけないんだから、せっかく集
Read more

第507話

奈緒は携帯を握りしめ、冷ややかに笑った。「分かった。ありがとう。弘樹、気をつけて。すぐに警察に通報するから」奈緒は電話を切ると、仁哉と目を合わせた。仁哉もすぐに意図を察し、立ち上がって少し離れたところから電話をかける。ちょうどこの時期、深津市では大規模な薬物取締りが行われており、通報が入れば警察はすぐに現場へ駆けつける態勢を取っていた。ただし、今回の情報が事前に漏れる可能性もあるため、念には念を入れ、仁哉は通常の通報窓口ではなく、伯父である宗邦へ直接連絡した。宗邦から警察へ働きかけてもらい、極秘で動いてもらう。これなら相手に察知される心配もない。電話を終えて仁哉がリビングへ戻ると、奈緒はすっかり食事を続ける気になったらしい。ローテーブルの前のラグに座り込み、黙々とエビの殻を剥いていた。その傍ら、これから飛び込んでくるであろう速報を見逃さないためにも、深津市の24時間ニュースチャンネルもつけている。今夜の一斉摘発は、クラブ・ノクターンの件などとは比べものにならないほど大きな騒ぎになるだろう。何しろ、あの場に集まっているのは普通の若者ではなく、美紀が深津市の上流階級に食い込むため、わざわざ招いた名家の令嬢や御曹司ばかり。もし彼らがまとめて摘発されれば、クラブ・ノクターンの一件よりはるかに広い範囲へ影響が及ぶ。美紀が人脈作りのために張り切って企画したパーティーが、まさか自分の首を絞めることになるとは……そう考えた途端、充の写真を見て奈緒の中に込み上げていた怒りも、すっかり消えてなくなっていた。代わりに、ようやく反撃できるという痛快さが溢れ出してくる。夢中でエビの殻を剥いていた奈緒は、自分の口元がすっかり緩んでいることにも気づいていない。仁哉は少し離れたところから、そんな奈緒をしばらく眺めていた。奈緒は剥いた身をすぐには食べず、小さな器へ一つずつ溜めている。ある程度溜まったところで、一気に食べるつもりらしい。その姿を見ているうちに、仁哉の口元にも自然と笑みが浮かんだ。黎の検査で異常が見つかってから今日まで、奈緒がこれほど力を抜いている姿を、仁哉は一度も見ていなかった。今、奈緒が着ているのは仁哉の白いTシャツと、黒と白のチェック柄のハーフパンツ。さっき服が濡れてしまい、シャワーを浴びることになった
Read more

第508話

仁哉は何事もなかったように新しい手袋をつけ、エビを一匹ずつ剥き始めた。剥いた身は、奈緒の前にある小さな器へ入れていく。以前はいつも、奈緒が充のために剥いていた。けれど、充が奈緒のためにこうしてくれたことは一度もない。しかし、まるで最初から自分がやるのが当たり前だとでもいうように、仁哉はあまりにも自然にやっている。奈緒はしばらく呆気に取られていたが、やがてぽつりと尋ねた。「仁哉さん、剥くのにすごく慣れてるね。前にも誰かに剥いてあげてたの?」仁哉は口元を上げた。それはどこか楽しげで、妙に目を引く笑顔だった。「いや。母さん以外なら君が初めて」奈緒は何も言えなくなった。慌てて仁哉から目を逸らし別の方向を見たが、頬にじわりと広がった赤みだけは隠せなかった。……午前0時をすぎた頃、俊丞が差し出したオレンジジュースを、夢香は迷いもなく飲み干した。夢香は海外にいた頃、時折こうした薬物に手を出していた。だから俊丞が何をしようとしているのかも、すぐに分かっていた。今日はプライベートパーティーで、しかも美紀の家。せっかくなら、とことん羽目を外したい。遊び慣れた彼らにとって、酒だけではもう物足りない。もっと強い刺激がなければ、心の底から盛り上がれないのだ。夢香も早く全員の本性をさらけ出させ、思いきり騒ぎたくて仕方がなかった。だから率先して、その先陣を切る。オレンジジュースを飲んでしばらくすると、夢香の中で理性が狂気に溶けていくのが分かった。顔につけていた仮面を勢いよく外し、マイクを手に英語の歌を大声で歌いながら、会場の中央へ出て激しく身体を揺らす。「みんな!今日は世界最後の日だと思って、思いっきり狂っちゃって!今夜どれだけ羽目を外しても、写真は絶対に外へ漏らさないって私と美紀が保証するわ。だから、みんな仮面なんか取っちゃって、今夜はとことん騒ごう!」今の夢香も充と同様、鬱屈とした日々を過ごしてきた分、解放への渇望が爆発寸前だった。ただ、国内にいると海外にいた頃ほど大胆にはなれない。けれど今夜は違う。ここへ招いたのは、美紀と夢香が事前に調べたうえで選んだ、深津市でも特に遊び慣れた御曹司や令嬢ばかり。全員似たようなものなのだから、今さら取り繕う必要などない。夢香は真っ先に仮面を外すと、さ
Read more

第509話

邸宅の中には耳をつんざくほどの音楽が鳴り響き、外の物音などまるで聞こえなかった。熱を帯びた美紀の身体が胸に飛び込んできた瞬間、充は思わず息を詰めた。二人を隔てるのは、水着の薄い布地だけ。充はすぐさま力いっぱい美紀を引き離そうとした。ところが、かなり酒の入った美紀は完全に絡みついて離れない。両腕で充にしがみつき、どれだけ押し返してもびくともしなかった。「充さん、ほんっとにいい体してる……私、ずっと触ってみたかったの」酒の勢いもあって、美紀は幼い頃から叩き込まれてきた慎みなど完全に忘れていた。彼女の手は真っ直ぐに充の腹筋へと伸び、さらにそのまま下腹部の方へと際どく滑っていく……充の表情が瞬時に引きつった。「美紀、いい加減にしろ!俺たちは従兄妹だろうが!」充は怒鳴りつけ、今度こそ力づくで美紀を引き離そうとした。もみ合っているうちに、二人はいつの間にかプール際まで移動していた。最初のうちは、充も美紀を傷つけないよう加減していたが、美紀の手がとうとう水着の下へ伸びてきた瞬間、充の顔色が変わる。次の瞬間、充は美紀を思いきり蹴り飛ばした。「きゃっ!」美紀は悲鳴を上げ、そのままプールへ落下した。激しい水しぶきが辺りに飛び散る。美紀は水の中でもがきながら必死に身体を動かした。冷たい水を浴びたおかげで、酔いと高揚でぼんやりしていた頭も、ようやく少しだけ冴えてくる。充は険しい顔で辺りを見回した。すると、さっきまでまだ普通のパーティーだったはずの会場が、見る影もなく乱れていた。片隅では、俊丞が金髪の女性を後ろから抱きかかえ、欲のままに腰を振っている。別の場所では、哲伸が女性を連れ、じゃれ合うように二階の寝室へ入っていった。そのまま扉が閉まり、部屋の明かりも消える。一方、拓也は真っ青な顔でリビング中を逃げ回っていた。そんな彼を追いかけているのは、80キロはあるであろうかなりふくよかな令嬢。拓也は必死に下半身を守りながら、「来るな!頼むから来るなって!」と悲鳴を上げている。とうとうプールへ飛び込んで逃げようとしたものの、中に美紀がいるのを見た瞬間、拓也はぞっとしたように身体を震わせ、慌てて数歩後ずさった。めちゃくちゃだった。いくらなんでも、これは度を越している。充の胸に嫌な予感が込み上げる。この
Read more

第510話

記者たちは一斉にカメラを構え、まだ誰も取り繕う暇のない会場の惨状を容赦なく撮影していた。充は、あまりの動揺にこめかみがピクリと引きつった。さらに警察から全員、頭を抱えて壁際にしゃがむよう命じられた瞬間、充は生まれて初めて「恥ずかしくて消えてしまいたい」という気持ちを身をもって味わった。心臓が激しく脈打つ。ここまで恥をかいたことなど、人生で一度もない。犯罪者のように頭を抱えて、壁を向いてしゃがめだと?冗談じゃない。そんなことは、充のプライドが許さなかった。自分はただパーティーに来ただけで、何もしていない。充は険しい顔で、先頭に立つ警察官を見た。こうなったら身分を明かして、少しは話の分かる相手だと理解させるしかない。充は前へ出ると、口を開いた。「俺が誰か分かって……」「黙ってしゃがめ!まだごちゃごちゃ言うなら蹴るからな!」警察官は充を睨みつけ、容赦なく一喝した。充が何者なのかなど、聞く気すらないらしい。充はその場で言葉を失った。周りを見ると、全員すでに壁を向いてしゃがんでいる今、こうなっては従うしかないだろう。充は怒りと屈辱に顔を引きつらせながら、渋々しゃがみ込んだ。幸い、まだ顔には仮面がある。冷や汗で顔中が濡れて気持ちが悪かったが、それでも外す気にはなれなかった。この仮面が、今の充に残された最後の砦だった。だが次の瞬間、さらに冷え切った警察の声が響く。「全員、仮面を外して一列に並べ!これから警察署で尿検査と事情聴取を行う!」警察には上層部から厳命が下っていた。今回の摘発では、相手が誰であろうと一切の忖度をしてはいけない。全員同じように扱え、と。深津市は今、ちょうど大規模な薬物取締りの真っただ中だ。そんな時期に、富裕層の御曹司や令嬢たちが大人数でパーティーを開き、堂々と薬物に手を出しているとなれば……彼らを摘発すればこれ以上ない見せしめになるのと同時に、相手がどれほどの家柄であろうと容赦しないという、警察の強い姿勢を世間に示すこともできる。あっという間に全員の仮面がはぎ取られ、醜態がさらされた。頭を抱えたまま一列に並ばされ、次々と警察車両へ連行されていく。外で待ち構えていた記者たちは、水着姿の御曹司や令嬢たちがぞろぞろと出てくる姿へ、容赦なくカメラを向けた。あちこちから響
Read more
PREV
1
...
4950515253
...
56
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status