All Chapters of 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: Chapter 521 - Chapter 530

553 Chapters

第521話

驚きで言葉を失った充は、わなわなと恵を指さした。「なんだと?君まで……俺を見捨てるのか?」しかし、恵は目を細めるだけで少しも動じない。「こればかりは仕方がありません。息子が結婚したら、そのうち子どももできるでしょうし。そうしたら私も孫の面倒を見たり、いろいろ手伝わなきゃいけませんから」それから少し考えて、さらに言葉を重ねる。「私の地元じゃ親ってそういうものなんです。子どもが結婚したら支えて、お嫁さんが大変なときは助けて、孫が生まれたら面倒を見る……だから正直に言いますけど、青木家のやり方は、私みたいな人間にはよく分かりません。もし私にあれだけできるお嫁さんがいたら、自分の娘以上に大事にして、子どものことだって精いっぱい手伝って、仕事にも安心して行けるようにしてあげます」そう言い放つと、恵はそのままキッチンへ消えた。残された充は、ダイニングテーブルの前で呆然と座り込む。胸の奥が重い。不意に冷たい矢でも突き刺されたようだった。恵のような使用人にまで家族のあり方に呆れられるほどに、青木家は他人から見れば本当にそこまでひどい家なのか?息が詰まるような思いでグラスのワインを口に運んだが、やけに苦く感じる。とりわけ、さっき恵が何気なく口にした話が引っかかった。奈緒が自分の知らないところで、仕事の後始末をしていたと?いや、そんなはずはない。この数年、奈緒はいつも自分のあとをついてきて、むしろ自分から人付き合いや仕事のことを学んでいたはずだ。それがどうして、今になって自分の失敗を奈緒が陰で処理していたという話になる?しかも本人には知らせるなとまで言っていた?充は必死に記憶を探ったが、最後には恵が事情も知らずに勝手なことを言っているだけだ、と結論づけた。自分が奈緒を頼ったことなど一度もない。むしろ奈緒のほうが自分を頼っていた。ついていないときは、何をしてもうまくいかない。追い詰められた状況を考えれば考えるほど焦りが募り、気づけば充は一本のワインを空けていた。夜もすっかり深まった頃、充がソファに横になり、うとうとしかけていると突然玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に一体誰だ?まさか、奈緒が戻ってきた?そう思った瞬間、充は酔いも吹き飛んだように身体を起こした。足元をふらつかせながら、それでも必死に玄関へ向
Read more

第522話

こうして比べてみると、佳乃は自分の味方が揃いも揃って役立たずに思えて仕方なかった。さらに予想外だったのは、今回の騒動に充まで巻き込まれていたこと。世間から激しいバッシングを浴び、深津市商工会の会長職まで辞任に追い込まれた今、このままでは青木グループの社長という立場すら危ういだろう。佳乃は焦りと苛立ちでどうにかなりそうだった。たった1週間、外との連絡を絶たれていただけなのに、戻ってみれば味方はほとんど壊滅状態だ。佳乃はその日のうちに深津市へ向かい、昨夜のパーティーに参加してすでに釈放されていた何人かを酒の席に集めると、そこでようやく昨夜何が起きたのかを一通り把握した。それと同時に、今の充がどれほど追い詰められ孤独になっているか、佳乃にはよく分かっていた。そして今こそ、充の懐に入り込み、自分になびかせる絶好の機会……佳乃は酒の勢いも借り、そのまま充の家を訪ねた。玄関先に立つ佳乃は、黒いキャミソールワンピース姿だった。片方の細い肩紐は、すでに肩からずり落ちている。扉を開けた充を見るなり、佳乃の視線は吸い寄せられるように下へ動いた。引き締まった胸板と、くっきり浮かぶ腹筋……充もかなり酒が回っており、頬が赤く染まっていた。それに、扉を開けた瞬間は奈緒が戻ってきたとばかり思っていたため、完全に気を抜いていた。黒いガウンの前は大きく開き、中に身につけているのは薄手の下着一枚だけで、胸元から腹部までほとんど隠れていない。佳乃の露骨な視線に気づいた充は、慌ててガウンの前をかき合わせようとしたが、もう遅かった。見られたくないところまで、すっかり見られてしまっている。次の瞬間、もう抑えきれなかった佳乃は、酒の勢いのまま充の胸へ倒れ込んだ。「ねえ……つらいんでしょ?だから、私……潮咲市からあなたに会いに来たの」甘く掠れた声で囁きながら、充の首へ腕を回し、身体をぴたりと密着させる。充は、佳乃にとってまさに理想そのものだった。顔も、身体も申し分ない。全国の御曹司を見渡しても、これほど条件の揃った男はそういないだろう。佳乃はもう充から目が離せなかった。一方の充は身体を強張らせ、佳乃を引き離そうとした。「佳乃……少し離れてくれ」だが佳乃は離れるどころか、充のガウンの紐に指をかけ、そのまま一気に引き抜いた。細い指先に
Read more

第523話

充は目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、奈緒と仁哉が並んで立つ姿と、言葉にしなくても通じ合っているような二人の空気。それがまるで、今も奈緒に未練を残している自分を嘲笑っているように思えた。もう、いい……今の奈緒は仁哉といつも一緒にいて、こっちの気持ちなどお構いなしに、何度も一線を踏みにじってきた。それなら自分だって、奈緒のためにいつまでも操を立てている必要などない。再び目を開けたとき、充の表情は変わっていた。瞳の奥がゆっくりと沈んでいく。抵抗するのをやめ、佳乃の細い手首を掴むと、そのまま家の中へ引き入れ、壁際へ追い込んだ。低く掠れた声で囁く。「いいんだな?」佳乃は瞳に怪しい熱を宿し、酔いしれた様子で微笑んだ。「今夜、私と一緒にいてくれるなら、明日には庄野グループと青木グループで契約を結ぶって約束する。それに、いい話があるんだけど、父が600億円の出資を取りつけたの。今なら、青木グループは200億円出すだけで参加できる。はっきり言えば、この案件は庄野グループが誰と組んでも、相手にとってかなり条件がいい。それをあなたに回してあげる。今のあなたには、喉から手が出るほど欲しい話じゃない?」佳乃は熱っぽい目で充を見つめ、その呼吸もかなり荒くなっていた。かなり飲んでいた充だったが、頭はまだはっきりとしている……以前、佳乃と謙造が青木グループへ話を持ち込んだあと、充もこのプロジェクトについて調べさせていた。これほどの規模と投資額を誇るS級プロジェクトは、それ相応の実績や人脈がなければ参入すら難しい。青木グループが一枚噛めるなら、大きな利益が期待できるだろう。しかも行政が後押しする事業で、リスクは比較的低く、資金回収の見通しも立てやすい。何より、この案件をきっかけに庄野グループとの関係を築ければ、今後さらに共同事業を広げられる可能性がある。今の充には強力な味方が必要だった。その点、目の前の佳乃は頭も切れ、行動力もあり、実家の力も強い。今の青木家の誰よりも頼りになる存在に見えた。そう結論づけた充の目が暗く沈む。次の瞬間、佳乃を強く引き寄せた。そしてその身体を抱き上げるとそのまま2階へ向かい、奈緒と使っていた寝室のドアを開く。物音で目を覚まし、そっと様子を見に出てきた恵の視界に入ったのは、充が見知らぬ女を
Read more

第524話

佳乃は十分すぎるほど積極的で、男を誘う術も心得ている。それなのに……まるで惹かれない。充は何度か顔を近づけ目を閉じてキスしようとしたし、明かりまで消して気持ちを切り替えようとした。だが15分後、充は突然身体を起こし、ベッド脇の照明をつけた。無理だ……触れた感触も、声も、何もかも違う。むしろ嫌悪感すら覚えてしまい、これ以上は続けられなかった。充の身体には、もう奈緒との記憶が染みついているようで、ほかの女に触れられてもどうしても受け入れられない。頭に浮かぶのは、奈緒が見せていた表情や仕草ばかり。奈緒は佳乃ほど慣れているわけでもないし、積極的でもなかった。むしろ時々、妙に初々しい反応を見せることさえあった。けれど、恥ずかしそうにためらいながらも完全には拒まない、あの距離感がたまらなく好きだった。もっと知りたい、もっと自分だけに見せてほしい。何度でもそう思わせてくれた。だが今ベッドにいる佳乃には、その気持ちがまるで湧いてこない。突然離れた充に、佳乃は呆気に取られた。屈辱だった。だが怒りをぶつけるわけにもいかず、慌てて充の腕を掴む。「充、どうしたの?私の何かが気に入らなかった?だったら……」充はさりげなくその手を外した。立ち上がるとガウンの紐をきつく結び直し、窓辺へ向かって煙草に火をつける。「ごめん、でも君のせいじゃない。少し急ぎすぎたみたいで、まだ俺のほうが気持ちの整理がついてないから」充は煙を吐きながら、淡々と言った。佳乃も起き上がり、もう一度充に抱きつこうとしたが、さらりとかわされる。充は冷ややかな声で言った。「佳乃。もうこんな時間だし、君はここで寝ていいから。俺はゲストルームで寝てくる」そう告げると、充は佳乃の返事も待たずに部屋を出た。そのまま扉を閉める。「バンッ!」その音に、佳乃の眉がぴくりと動いた。取り残された彼女は、窓の前で歯を食いしばる。あと一歩だったのに……もう少しで、完全に自分のものにできるはずだった。自分の魅力に問題があるとは思えない。それなのに充は、あの状況からあっさり引き返した。あの状況でも自分を抑え、すぐさま去っていくなんて。あの男がよほど自制心の強い人間なのか?それとも、まだ奈緒を忘れられないというのだろうか?佳乃は怒りのあまり手元にあった灰皿
Read more

第525話

すでに眠っていたが、立て続けに届く通知で目を覚ました奈緒。最初に送ってきたのは香織で、そこには充が佳乃を抱きかかえている写真が何枚も並んでいた。奈緒は写真を眺め、冷ややかに笑うだけで、別に心は動かなかった。そのままもう一度眠ろうとしたところで、今度は蛍と弘樹から、それぞれ別の写真が送られてきた。それは、佳乃がかつて奈緒と充が使っていた寝室で撮った自撮り写真。ほどなくして蛍から電話がかかってきたので出てみると、すぐさま怒鳴り声が飛んできた。「ちょっと!あの男、どんだけ最低なの!?離婚はずっと引き延ばしてるくせに、堂々と女を夫婦の寝室に連れ込んで、しかも二人のベッドで寝かせるなんて、気持ち悪すぎるんだけど!」せっかく戻りかけていた眠気が、完全に吹き飛んだ。奈緒は静かに、冷めた口調で返す。「今さら充が何をしても、別に驚かないよ。じゃあ、こんな時間から乗り込んで現場を押さえろっていうわけ?」淡々とした奈緒とは対照的に、蛍は怒りが収まらない。「乗り込んだっていいじゃん!だって、まだ正式には夫婦なんだから!向こうがそこまで恥を晒したいなら、もう一回派手に晒してやればいいんだよ。離婚しないで奈緒を縛ってるのは充なんだからさ!行く?私も付き合うよ!」その言葉で奈緒の眠気は完全に消え、代わりに別の考えが浮かぶ。そうだ。これは充の不貞の証拠を押さえる絶好の機会ではないのか?充に不利な材料は、多いに越したことはない。それだけ黎の親権を諦めさせるための交渉材料も増えるし、離婚そのものも有利に進めやすくなる。不貞の事実が認められれば、親権をめぐる話し合いでもこちらに有利な事情の一つにはなり得るだろう。とはいえ、ネットで見かけるように、大勢で乗り込んで現場を押さえ、佳乃と揉み合いになるような真似をする気はなかった。やってやれないことはないのだが、そんな面倒なことをしなくても、もっと簡単な方法がある。妊娠した頃、出産後にベビーシッターを頼む可能性を考え、寝室とゲストルームに見守り用の小型カメラを設置していた。アプリ自体はもう削除してしまったが、購入履歴を探せば再インストールできる。しかもアカウントは、忘れないよう自分の携帯番号を使って登録していたため、認証コードさえ受け取れば、ログインできるはずだ
Read more

第526話

奈緒は小さく答えて、通話を切った。以前カメラを購入したときの履歴を探し出し、すぐにアプリを入れ直す。ログインして録画データを確認すると、夫婦の寝室で起きたことが映っていた。正直なところ、もう心は揺れ動くことなんてないと思っていた。でも、かつて二人で使っていたベッドに充が佳乃を押し倒し、親密に触れ合う姿を実際に目にした瞬間、胃の奥から激しい吐き気が込み上げた。「うっ……」奈緒は慌ててトイレへ駆け込み、便器に顔を伏せた。夕食で食べたものは、ほとんどすべて吐き出してしまった。胸の奥まで強く締めつけられるように痛む。息苦しい。部屋の空気まで急に薄くなったような気がした。動画はまだ流れていたが、もう一秒たりとも見たくなかった。目を閉じると、今度は充と愛し合っていた頃の記憶が勝手に蘇ってくる……その途端、再び激しい吐き気に襲われた。あれほど愛していたからこそ、今は生理的に受けつけない。何も思い出したくなくて、奈緒は何度も頭を振った。しばらく返事がないのを心配したのか、蛍から再び電話がかかってきた。「どう?動画あった?見られた?」「うん」「奈緒?声、どうしたの?掠れてるけど、泣いた?やっぱり見たらつらかったよね」蛍はすごく心を痛めているようで、電話越しに必死に慰めてくる。「そりゃそうだよね。何年も一緒にいたんだもん。そんな簡単に何とも思わなくなるわけないよ。つらいなら我慢しないで泣いていいからね。誰かがいてほしいなら、私が今から行くよ」奈緒は数秒黙り、何度か咳き込んでから、ようやく普段の声を取り戻した。そして、皮肉な笑みを浮かべる。「泣く?まさか、そんなことあるわけないでしょ。充のことで泣きすぎて声が枯れたとか、蛍、何言ってるの?大丈夫、私は平気。むしろ、これだけ証拠が揃ったんだから好都合。これから困るのは充と庄野さんの方で、私じゃない」蛍もようやく安心したらしく、いつもの調子に戻った。「だよね!私もそう思った!ここまでずっと見てきたけど、奈緒が泣いたのって黎ちゃんのことくらいじゃん。あんな最低男のために泣いたことなんてないもんね。絶対泣いちゃ駄目だからね。あんな男に涙一滴だってもったいないもん!」「うん、分かってるから心配しないで。もう遅いから、蛍も寝て」奈緒は電話を切った。そのあと
Read more

第527話

「奈緒……俺、やっぱりお前じゃないと無理みたいだ。ほかの女じゃ何も感じない」細い指で写真立ての縁をゆっくりとなぞる彼の目には、深い愛情が滲んでいる。「お前でしか勃たないんだ。他の女に近づかれると、むしろ嫌になる。こういうのが……本能的に惹かれるってことなのかな」充はそう一人で呟きながら、自嘲するように笑った。「昔、あんなに冷たくしなきゃよかった。お前が本当にいなくなるって分かってたら……あんなふうに放っておいたりしなかったのに」だが、その声に滲んでいた温かさは、ほんの数秒で消えた。「どうすれば、お前を俺のそばに残せる?」充はふと、以前仁愛インターナショナル病院で耳にした話を思い出す。もし黎に適合するドナーが見つからなければ、もう一人子どもをつくり、その臍帯血を治療に使うという選択肢……その考えに至った瞬間、充の表情が変わった。今抱えている問題を、すべて一度に解決できる方法を見つけたような気がした。もう一人、子どもを作ればいい。二人の間に子どもができれば、奈緒だってどれほど自分を嫌っていても、簡単には離婚できないはずだ。しかも、その子の臍帯血で黎を助けられるかもしれない。そうなれば、青木家の人間を一人ずつ説得して適合検査を受けさせる必要もなくなるから、まさに一石二鳥。充は写真を見つめたまま考え続けた。最初はただ、眠れない夜をやり過ごすために写真を眺めていただけだったが、次第に危険な考えが形になっていく。今の奈緒の態度を考えれば、普通に説得したところで応じるはずがない。ならば、無理やり連れ去ってでも、自分との子どもをもう一度身ごもらせればいいのではないか?二人の関係が壊れたきっかけは、奈緒の産後、自分が夫として何もしなかったこと。もう一度子どもをつくって、自分がきちんと支えよう。そして新しい子どもが生まれれば、奈緒を完全につなぎ止められる。充の中で、歪んだ考えが一つの計画へと変わった。すぐに携帯を取り出し、渉へ電話をかける。深夜に起こされた渉は、まだ眠気の残る声で電話に出た。「社長?」「女を一時的に意識がなくなる状態にできるものを用意してくれ。身体に害が出ないものを頼む」それは、あまりに淡々とした声だった。だが、その内容を理解した瞬間、渉の眠気は完全に吹き飛び、背筋に冷たいものが走っ
Read more

第528話

これ以上、充の都合に振り回されるわけにはいかない。この泥沼の離婚問題からきっぱり抜け出してこそ、自分はようやく新しい人生を始められるのだから。今の充の態度は明らかに別れるつもりなどなく、卑怯なやり方で自分を繋ぎとめようとしている。考えれば考えるほど腹が立った。そこまで離婚したくないっていうなら、もう仕方がない。これからもっと大きな代償を払ってもらう。今度はリビングのカメラを開き録画データを確認すると、そこには、佳乃が充を訪ねてきてからの一部始終がしっかり残っていた。そして、佳乃が自信満々に充へ手を差し伸べ、窮地から救ってやると持ちかけているのを聞いた瞬間、奈緒の口元に笑みが浮かぶ。そこまで自信があるなら、いっそその頼みの綱ごと断ち切ってやればいい。奈緒の頭の中で、すぐに一つの筋書きが出来上がっていった。結局、その夜はほとんど眠れなかった。空が白み始めた頃、ようやく少し眠ろうと目を閉じたそのとき、突然知らない番号から電話がかかってきた。奈緒は面倒くさそうに電話に出る。「もしもし。どなたですか?」耳に飛び込んできたのは、甲高い女の声。「佳乃よ。昨夜、私……充と寝たの」その声は妙に自信に満ち、まるで誇らしいことでも報告しているかのようだった。奈緒はむしろ自分から佳乃に連絡しようと思っていたのだが、まさか向こうから朝一番に電話をかけてくるとは……奈緒は思わずにやりと笑う。「そうですか。それで?」あまりにも平然とした声に、佳乃は一瞬言葉を詰まらせた。だが、すぐに勝ち誇ったように笑う。「強がらなくていいのよ。病気の娘を使って充をつなぎ止めておけば、離婚せずに済む。そのうえ栗原社長まで自分のそばに置いておける――そう考えてるんでしょ?でも、欲張るのもいい加減にしたら?世の中の男が全員あなたになびくとでも思ってるわけ?言っておくけど、充は私がもらうから。さっさと離婚して、もう彼の邪魔をしないでくれる?」奈緒と充の離婚話は、今や誰もが知っているが、佳乃からすれば、あれも結局は奈緒の口先だけにしか見えなかった。奈緒の本当の狙いは、離婚をちらつかせながら充との関係を引き延ばし、青木家に自分と娘を大事にさせ、頭を下げさせることだと思っている。奈緒……ずいぶん自分自身を買いかぶっているのね。奈
Read more

第529話

佳乃がわざわざ電話してきた目的は、奈緒への当てつけだった。病院で仁哉に面子を潰されたうえ、そのせいで謙造から1週間も外出を禁じられたその恨みは、今も消えていない。だからこそ、根に持つタイプの佳乃は、奈緒を思いきり傷つけ、屈辱を味わわせてやるつもりだったのだ。ところが奈緒は動揺するどころか笑っていて、しかも謙造に知らせると言い出した。佳乃は内心焦ったものの、平静を装う。「父の個人番号なんて、あんたが知ってるわけないでしょ?それに……証拠だってないくせに。あなたが勝手に作った話を、父が信じると思う?」それでも、奈緒は相変わらず気だるそうに答えた。「確かに、私は庄野さんのお父さんの番号は知りませんが、きっと仁哉さんなら知っているはずですから。それに、証拠がないなんて誰が言ったんですか?忘れないでいただきたいんですけど、水鏡ヶ丘は私と充が6年過ごした場所ですよ。そんな私が何も知らないとでも思いましたか?それに庄野さんも大胆ですよね。そういうことがしたいならホテルにでも行けばよかったのに、わざわざ人の家に来て、夫婦の寝室まで使うなんて。そんなに刺激が欲しかったんですか?じゃあ、私が持ってる動画を見たら、もっと刺激的な気分になれると思いますよ。仁哉さんに番号を聞いてあなたのお父さんに送りますので、ちょっと待っててくださいね。娘さんの夜の行いについて、ぜひ感想を聞いてみたいものです」奈緒は一言ずつ落ち着いて告げた。電話の向こうは静まり返っている。さっきまでの勝ち誇った笑みを浮かべたまま、佳乃は完全に固まっていたのだ。数秒ほど経って、ようやく奈緒の言葉の意味を理解したらしい佳乃の声が震え上がった。「あんた……家の中に隠しカメラなんか仕掛けてたの!?気持ち悪い!普通そんなもの家につける!?どうせ嘘なんでしょ……私は信じないからね!本当に動画があるっていうなら見せてみなさいよ!ハッタリで脅そうとしたって無駄だから!」佳乃の顔からは血の気が引いていき、携帯を握る手まで震えている。奈緒は小さく笑った。「証拠があるかないかは、そのうちわかりますよ」奈緒は一つ大きなあくびをして、何かを思い出したように気怠げに付け加える。「まあ、仁哉さんにあなたのお父さんの番号を聞かなくても、明日の潮咲市の建築文化サミットには、
Read more

第530話

仕事の面でも、私生活の面でも、もう充に立ち直る隙を与えるつもりはない。彼が離婚を引き延ばせば引き延ばすほど、払う代償は大きくなる。奈緒の要求を聞いた佳乃は、思わず声を荒らげた。「無理に決まってるでしょ!そんな話、考えるまでもないわ!あれだけ大きなプロジェクトなのに、青木グループほどの企業を捨てて、あなたたちみたいな小さなところと組めっていうの?そもそも、必要な資金を一度に用意できるわけ?冗談じゃないわ!」そう言われた奈緒は、自分の口座残高をざっと思い浮かべた。これまで少しずつ稼いできた金に、兄から送られてきた小遣い、資産運用で得た利益まで合わせれば、今すぐ動かせる資金は40億円近くある。確かにそれだけでは足りないが自分には兄がいるし、仁哉もいる。だから、資金の心配は全くしていなかった。そもそもこのS級プロジェクトには、以前佳乃から話を持ちかけられたときから興味を持っていた。ただ当時は、あくまで設計側として関わるつもりで、自分たちが出資者になることまでは考えていなかった。だが、盛岡地所をはじめとする不動産会社が次々とヤジン・デザインとの契約を打ち切ったことで、奈緒は思い知らされた。設計だけを担い、資金を他社に握られている限り、どうしても立場が弱くなる。出資も設計も自分たちで担ってこそ、初めて主導権を握れるのだ。とはいえ、この考えをまだ仁哉と具体的に話し合ったわけではない。それでも不思議なくらい、奈緒には確信があった。仁哉なら、きっと賛成してくれる。だから、奈緒は言った。「資金にはあてがあるので、口に出したんですよ」佳乃は鼻で笑った。「思い上がりもいいところね。庄野グループがこのプロジェクトを取るために、どれだけ手間と時間をかけたと思ってるの?どこと組んだって利益が見込める案件なんだから、それをあんたに譲るなんて絶対にあり得ないから」奈緒は面倒になり、会話を切り上げることにした。「そうですか。では、明日の建築文化サミットであなたのお父さんに庄野さんが何をやっていたのか、しっかり見てもらいましょうか。それでは、庄野さん。また明日」そう言って、奈緒はそのまま電話を切った。ここまで言えば、佳乃だってよほど愚かでない限り、何を選ぶべきかは分かるだろう。一方、佳乃は顔色を変えていた。通話が切れた瞬間、
Read more
PREV
1
...
515253545556
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status