驚きで言葉を失った充は、わなわなと恵を指さした。「なんだと?君まで……俺を見捨てるのか?」しかし、恵は目を細めるだけで少しも動じない。「こればかりは仕方がありません。息子が結婚したら、そのうち子どももできるでしょうし。そうしたら私も孫の面倒を見たり、いろいろ手伝わなきゃいけませんから」それから少し考えて、さらに言葉を重ねる。「私の地元じゃ親ってそういうものなんです。子どもが結婚したら支えて、お嫁さんが大変なときは助けて、孫が生まれたら面倒を見る……だから正直に言いますけど、青木家のやり方は、私みたいな人間にはよく分かりません。もし私にあれだけできるお嫁さんがいたら、自分の娘以上に大事にして、子どものことだって精いっぱい手伝って、仕事にも安心して行けるようにしてあげます」そう言い放つと、恵はそのままキッチンへ消えた。残された充は、ダイニングテーブルの前で呆然と座り込む。胸の奥が重い。不意に冷たい矢でも突き刺されたようだった。恵のような使用人にまで家族のあり方に呆れられるほどに、青木家は他人から見れば本当にそこまでひどい家なのか?息が詰まるような思いでグラスのワインを口に運んだが、やけに苦く感じる。とりわけ、さっき恵が何気なく口にした話が引っかかった。奈緒が自分の知らないところで、仕事の後始末をしていたと?いや、そんなはずはない。この数年、奈緒はいつも自分のあとをついてきて、むしろ自分から人付き合いや仕事のことを学んでいたはずだ。それがどうして、今になって自分の失敗を奈緒が陰で処理していたという話になる?しかも本人には知らせるなとまで言っていた?充は必死に記憶を探ったが、最後には恵が事情も知らずに勝手なことを言っているだけだ、と結論づけた。自分が奈緒を頼ったことなど一度もない。むしろ奈緒のほうが自分を頼っていた。ついていないときは、何をしてもうまくいかない。追い詰められた状況を考えれば考えるほど焦りが募り、気づけば充は一本のワインを空けていた。夜もすっかり深まった頃、充がソファに横になり、うとうとしかけていると突然玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に一体誰だ?まさか、奈緒が戻ってきた?そう思った瞬間、充は酔いも吹き飛んだように身体を起こした。足元をふらつかせながら、それでも必死に玄関へ向
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