二重人格としか思えない、その感情の激しい高低差。 黒瀬は初めこそ暴力で俺を捩じ伏せたが、欲が満たされると、俺と一緒に本を読んだり画集を眺めたりと、穏やかな時間を過ごすことがあった。 ベッドの中で上体を起こし、背中を宗佑に預けながら童話を読んであげることもあったし、宗佑自身が俺のために料理をして「美味しいですか?」なんて、寮生活の時のように優しく微笑んでくれることも。『俺のこと、少しずつでも好きになってくれていますよね?』『…………』 けれど、ひとたび俺の反応に不安や不満を感じると、それは瞬時にレイプ紛いの衝動と変貌する。 その引き金は全て、俺が彼の「愛情表現」に完璧に答えなかった時だった。『一体、何が不満なんですか? 衣食住を整えて、こんなにも貴方の為に俺は尽くしているのに。 何が足りないって言うんですか?』『そ、それは……』『教えてください、美森様。何でも俺が与えてあげますから』 前髪を鷲掴みにして、そのまま床を引き摺るようにしたり、俺が泣いて「ごめんなさい」と言っても止まらないほどの苛烈な暴力だった。 * 黒瀬に言われた通り、シャワーを済ませ、バスタオルに身体包む。 それだけでも、消えそうになっては重ねられていく痣や傷はヒリヒリと痛む。 黒瀬は自分で俺に暴力を振るうくせに、手当も必ず欠かさなかった。『ごめんなさい、美森様。俺、本当はこんなこと――』 そう言って泣きながら、許しを請う。彼自身が負わせた傷に、自ら包帯を巻く。 そんな黒瀬の心が壊れたのは、きっと母親を亡くしたからで。 満たされない愛情がゆがんで、そうさせているのだなと思うと、こんな酷い目にあっていても同情する気持ちが俺の心にわいていた。 久しぶりに「まともな服」に腕を通していた、その時だった。 玄関の呼び鈴が鳴り、使用人が扉を開ける音がした。「どちら様でしょうか」「本日、黒瀬様よりご依頼を受けました呉服屋です。打掛と白無垢を数点、持参いたしました」 約束の時間とは違う。けれど、黒瀬と監視以外の他人の声を聞くのは、一体何日ぶりだろうか。 俺は藁にもすがる思いで、部屋のドアの隙間からその様子を盗み見た。 スーツ姿のその男性は、ゆるくパーマのかかった茶髪に、縁の太い眼鏡とマスク姿。顔は判然としないが、落ち着いた物腰の男性だった。 使用人
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