数時間後。「ふぇっくしょい!」 爆音が響いた。深夜の静寂を切り裂く、小瀧のくしゃみ。 叩き起こされた俺は、半分寝ぼけたまま壁掛け時計を見る。時刻は午前三時過ぎ。それなりにしっかり寝ていたらしい。 次の瞬間、布が擦れる音がして、俺と佐伯の間にいたはずの小瀧が、ころん、と俺の方へ転がってきた。 ……いや、待て。 そのまま、小瀧は寝ぼけたまま俺の浴衣を掴む。「澄人、さむい……布団いれてよ~……」 声が甘い。酔いも完全に抜けていない。 てゆーか、モロ下の名前で呼んでるし。 あーあ、こりゃあ明日は祭り確定。モブ美たちに教えてやらんと、と思っていると、すりすり……と頬を浴衣越しの腕に摺り寄せてきた。 いやいやいや。まてまてまてまて。違う違う違う。 俺はそういうポジションじゃない。間男枠でも、代替品でもない。 頭の中で即座にシミュレーションを回す。 触らない。声を出さない。自然に戻す。 これが最適解。 ――なのに。 小瀧は俺の腕に擦り寄ってくる。完全に俺を佐伯と間違えている。 背中に、温泉で流したはずの汗がじわっと滲んだ。 これはまずい。俺は一端のモブだが、一応男だし、身体的にも、精神的にもこんな風に擦り寄られてナニが反応しないこともない。 仕方ない、追加の毛布でも掛けて転がすか……と決断した、その瞬間だった。 暗闇から、ガッと伸びる手。 次第に俺の首元に絡みつこうとする小瀧を、正確に、強引に制止する手だった。 反射神経と判断速度が、普通じゃなかった。 ――佐伯だ。 佐伯は一切の躊躇なく、小瀧の体の下に腕を差し込み、当然のようにお姫様抱っこ。 そして何事もなかったかのように立ち上がり、自分の布団へ運んでいく。 俺は横向きのまま、即座に目を閉じた。 寝たふりスキル、最大出力。 薄目を開ければ、月明かりで部屋の影がぼんやりと見える。 佐伯は布団に小瀧を寝かせると、慣れた手つきで、その髪を撫でていた。 ……え。 ……え、ちょっと待って。 そんな甘い仕草、佐伯が出す?? 普段の、効率厨・毒舌・合理主義の佐伯と、今ここで静かに髪を撫でている男が、同一人物だと? そして――俺が完全に夢の世界へ行った、と二人が疑いもしなくなった頃。 その油断を合図にしたみたいに、空気が変わった。「南緒」
Last Updated : 2026-06-02 Read more