朝の静寂を切り裂くように、王宮内が異様な喧騒に包まれていた。 窓の向こうから、石畳を踏む幾重もの足音、遠くで重々しい扉が幾度も開閉される音が、微かな震えとなって伝わってくる。ルミエルは冷えた窓枠に指先をかけ、そっと中庭を見下ろした。(……何事だろう。こんなに朝早くから) 普段、この塔の周囲に人の気配がすることなど皆無に等しい。だというのに今朝は、侍女たちが裾を乱して慌ただしく行き交っている。張り詰めた空気が冷たい石床を伝って、ルミエルの足の裏から心臓へと這い上がってくるようだった。 本能が、何かが起きると告げていた。 声を持たないルミエルにとって、隔離された塔の中で外界を知る術は、音と空気の揺らぎしかない。彼は生まれながらにして、呪いによって言葉を封じられているのだ。王妃お抱えの術師が施したその呪詛は、問いかける自由も、真実を確かめる術も、助けを求める叫びさえも、その喉から根こそぎ奪い去っていた。 じっと外を眺めていると、不意に階段を上る規則的な足音が鼓膜を叩いた。 一つ、二つ。 迷いのない足音はルミエルの部屋の前で止まり、鍵が回る嫌な金属音が響く。外側から乱暴に開け放たれた扉から、まず姿を現したのは王妃エレーヌだった。 深紅の絹が床を擦る傲慢な音。燭台の光を弾く、頭上のけばけばしい宝石。その鋭い眼光が、獲物を定めるようにまっすぐルミエルを射抜く。 続いて入ってきたのは、異母兄のルークだった。 彼は白い指先で無造作に前髪を掻き上げると、ひどく退屈そうに室内を一瞥した。肩に流れる淡い銀の髪、紫水晶のような瞳。国一番の美貌と自負するその姿は、同じ血が流れているとは思えないほど、眩い光に満ちていた。(兄さんは、今日もあんなに輝いている……) ルミエルは弾かれたように立ち上がり、深々と膝を折って頭を垂れた。床の冷たさに額を寄せ、嵐が過ぎ去るのを待つ獣のように身を縮める。「ルークの結婚が決まったわ」 王妃の、蜜に毒を混ぜたような声が降ってきた。「相手は大国グライエンの王。近隣諸国を蹂躙し続ける、あの残虐な覇王よ。……けれど、困ったことにあの男は、番ったオメガを食い殺すことで有名だとか。そんな獣の餌食に、私のかわいいルークを差し出すわけにはいかないでしょう?」 王妃の視線が、値踏みするようにルミエルの顔を這い回る。口角が歪に持ち上がり、嗜虐
Last Updated : 2026-04-13 Read more