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第5話

Auteur: 鳳小安
落ち着きを取り戻した晴香は、自力で下山しようと決めた。

すると道の途中で、どこからか莉子の声が聞こえてきた。

聡と莉子はこの場所でキャンプをしているらしく、焚き火の明かりに照らされて、テントの中に二人の影が映っていた。

二人は抱き合いながらキスをして、莉子のあえぎ声が大きく響いた。

「聡さん。晴香さんは大丈夫かしら?私、彼女の心臓が必要なのに。もしものことがあったらどうしよう?」

「安心しろ。大丈夫さ。あいつのような図太い女なら、どんな劣悪な環境でも生き延びる。お前や渚とは違うんだ」

冷たい風が吹き荒れて、晴香は心臓から全身へ、氷のような冷たさが広がっていくのを感じた。

彼女はテントの外で一晩中座り、二人が睦まじく交わる吐息をずっと聞き続けていた。

夜が明けると、莉子のほうが先にテントから出てきた。

晴香の姿を見つけると莉子は悲鳴を上げ、晴香の背中を勢いよく蹴りつけた。

「きゃあっ!バケモノ!」

今の晴香は、確かに化け物のような見た目だった。

髪はボサボサで、体は傷だらけだった。

真っ白なワンピースに着替えた清楚で美しい莉子に比べると、目を覆いたくなるほど哀れな姿だった。

「どうしたの、莉子?」

聡がテントから顔を出した。晴香を見ると、眉間にしわを寄せ、その瞳の奥には言いようのない複雑な感情が走った。

「お前……」

莉子の蹴りはあまりにも痛かったが、それでも晴香は立ち上がった。手のひらにブレスレットを乗せ、莉子に差し出した。

「拾ってきたわよ。でも、これは渚の遺品なんかじゃない。私が間違っていなければ、これはどこにでも売ってあるような安物よ」

まさか晴香が本当に拾ってくるとは思わず、莉子は気まずそうに言った。

「あっ、私が勘違いしていたみたい。落ちた時に、ついお姉ちゃんの物だって思っちゃったの」

聡は目を伏せた。これほどひどい晴香の姿を見るのは初めてだったのだ。

「一晩何も口にしてないのか?」

少しばかりの後ろめたさがあるのか、聡が晴香を気遣うように声をかけた。

晴香は死んだ目で、ポケットから薬を取り出した。「薬のこと?今飲むわ」

晴香の言葉を聞いた聡は、とっさに彼女に駆け寄り、手の中の錠剤を払い落とした。

「正気か?薬の話なんかじゃない。ご飯は食べたのかと聞いているんだ、腹が減ってるんだろ?」

聡は荷物からビスケットの袋を取り出し、晴香の方へ放り投げた。

「ここで死なれると困る。早く食え」

莉子は呆気に取られて聡を遠くの方に引っ張った。「聡さん、どうして晴香さんにその薬を飲ませないの?もしかして後悔してる?彼女のことが好きになったの?もう私を助けてくれないの?」

聡は頭を左右に振った。「違う。ただ、彼女は弱まってるんだ。そんな時に毒のある薬なんて飲んだら、何が起きるか分からないだろう」

「本当?嘘じゃないよね……ごめんなさい、わざとじゃなかったの。お姉ちゃんの遺品じゃなかったと知っていれば、晴香さんに拾いに行かせたりしなかった。聡さんも知っているでしょ?私はそんなに意地悪な女じゃないわ」

「ああ、分かっている」

聡は莉子を抱きしめたが、その視線は晴香へと向けられていた。

すると、晴香がビスケットの袋を破ろうとした途端、その場でぐったりと倒れ込む姿が目に入った。

聡は莉子を突き放し、狂ったように晴香の元へ駆け寄った。

「晴香!」

晴香の体は焼き付くほど熱かった。高熱が出ているのだ。

全身の傷口は炎症を起こし、脚はひどく腫れていた。

「晴香、目を覚ませ!」

聡は晴香を抱き上げ、無我夢中で山道を駆け下りた。背後で莉子が必死に呼んでいても、そんな声など耳に入らない様子だった。

意識が混濁する中、晴香は自分が移動していることを感じ取った。

かろうじて目を開けると、そこには聡の凛々しい顔が見えた。

「ふふ、私はきっとおかしくなったのね」晴香は弱々しく笑った。きっと自分は正気じゃないはずだ。これが現実なら、こんなに聡が必死に自分を助けるはずがない。

ついに晴香は力尽き、意識はそのまま闇へと沈んでいった。

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