*** その夜、北の砦では濃霧のような魔障が空を覆っていた。寒さで騎士たちの息は白く、剣先にまで冷気が張りつく。「ああ……くそ、どんどん視界が奪われる!」 「副団長、魔獣が西からも現れました!」 叫び声とともに黒い影がうねる。霧の奥から低い咆哮が響き渡り、地面がわずかに震える。私は迷うことなく剣を抜き、前線に躍り出た。 刃が闇を裂き、魔獣の爪と火花を散らす。血と鉄の匂いの中で、霧がますます濃くなり、息苦しい湿気が肌にまとわりつく。視界がどんどん狭まり、仲間たちのシルエットさえぼやける最中、背後から鋭い爪の風切り音が迫る――それを避けきれず、肩に熱い痛みが走った。(このままじゃ、間違いなく持たない。どうすればいいんだ……!) 迷いに顔をしかめながら、胸元に手を伸ばす。包み紙を祈るように――いや、信じると決めて握りしめた。指先が震え、紙がしわくちゃになる音が耳に残る。(真琴……君は、ただ守られるだけの存在じゃない) 彼の言葉を思い出そうとする。甘さに込められた、あのまなざしを。 霧が喉を締めつけて息が荒くなる中、魔獣の赤い目がすぐ近くで光る。剣を振り上げようとした瞬間、別の魔獣が横から飛びかかり、仲間の一人が悲鳴をあげる。(――急いで助けなければ!) そのタイミングで、懐からふわりと甘い香りが立ちのぼった。あの夜、真琴から受け取ったチョコの包み紙だった。 割れた欠片に残るカカオと果実の香りが、ほのかに優しい光を放つ。「……まさか!」 淡い光は風に乗り、砦全体にじわじわ広がっていく。チョコの香りが魔障の霧を溶かすように、空気が少しずつ澄み始めた。霧の重圧が一気に軽くなり、視界が開ける――それとともに騎士たちの息が戻り、目の色に力が宿る。「な、なんだ、この香り!」 「体が……不思議と軽くなったぞ!」 私は剣を構え直した。甘い風が夜を貫き、闇の中に希望の色を灯す。その瞬間、確かに感じた――あの笑顔と、あたたかな声。「チョコは、苦味があるからこそ甘みが引き立つんです」 笑い声が、遠い記憶のように響く。その言葉を思い出し、深く息を吸いながら笑った。「そうだ。苦いだけの戦場じゃない……君の甘さを知っている私だから、強くなれる!」 微笑んで言い放った刹那、剣が光を帯びた。香気を纏った刃が牙をむく魔獣を次々と貫き、霧を裂く。魔獣の絶叫が響
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