Lahat ng Kabanata ng 転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる: Kabanata 11 - Kabanata 20

69 Kabanata

第三章 北の砦と試される信頼4

*** その夜、北の砦では濃霧のような魔障が空を覆っていた。寒さで騎士たちの息は白く、剣先にまで冷気が張りつく。「ああ……くそ、どんどん視界が奪われる!」 「副団長、魔獣が西からも現れました!」 叫び声とともに黒い影がうねる。霧の奥から低い咆哮が響き渡り、地面がわずかに震える。私は迷うことなく剣を抜き、前線に躍り出た。 刃が闇を裂き、魔獣の爪と火花を散らす。血と鉄の匂いの中で、霧がますます濃くなり、息苦しい湿気が肌にまとわりつく。視界がどんどん狭まり、仲間たちのシルエットさえぼやける最中、背後から鋭い爪の風切り音が迫る――それを避けきれず、肩に熱い痛みが走った。(このままじゃ、間違いなく持たない。どうすればいいんだ……!) 迷いに顔をしかめながら、胸元に手を伸ばす。包み紙を祈るように――いや、信じると決めて握りしめた。指先が震え、紙がしわくちゃになる音が耳に残る。(真琴……君は、ただ守られるだけの存在じゃない) 彼の言葉を思い出そうとする。甘さに込められた、あのまなざしを。 霧が喉を締めつけて息が荒くなる中、魔獣の赤い目がすぐ近くで光る。剣を振り上げようとした瞬間、別の魔獣が横から飛びかかり、仲間の一人が悲鳴をあげる。(――急いで助けなければ!) そのタイミングで、懐からふわりと甘い香りが立ちのぼった。あの夜、真琴から受け取ったチョコの包み紙だった。 割れた欠片に残るカカオと果実の香りが、ほのかに優しい光を放つ。「……まさか!」 淡い光は風に乗り、砦全体にじわじわ広がっていく。チョコの香りが魔障の霧を溶かすように、空気が少しずつ澄み始めた。霧の重圧が一気に軽くなり、視界が開ける――それとともに騎士たちの息が戻り、目の色に力が宿る。「な、なんだ、この香り!」 「体が……不思議と軽くなったぞ!」 私は剣を構え直した。甘い風が夜を貫き、闇の中に希望の色を灯す。その瞬間、確かに感じた――あの笑顔と、あたたかな声。「チョコは、苦味があるからこそ甘みが引き立つんです」 笑い声が、遠い記憶のように響く。その言葉を思い出し、深く息を吸いながら笑った。「そうだ。苦いだけの戦場じゃない……君の甘さを知っている私だから、強くなれる!」 微笑んで言い放った刹那、剣が光を帯びた。香気を纏った刃が牙をむく魔獣を次々と貫き、霧を裂く。魔獣の絶叫が響
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第四章 凱旋と祝祭、甘く溶ける想い

北の砦の戦いが終わって三日後。王都アルセリアには、凱旋の報せが届いた。その知らせを聞いた瞬間、思わず手に持っていたボウルを落としそうになった。陶器の縁が指先に冷たく触れ、慌てて握り直す。「リオン様が……無事に帰ってくる!」 フェリシュが頭の上でくるくると回り、リボンの羽音を響かせる。小さな風が頬を撫でて、甘い粉砂糖の香りがふわりと舞う。「真琴~! ほら言ったとおりになったのだわ! 香りはちゃーんと届くって!」 「うん……ほんとに、よかった」 胸の奥に広がるのは安心と嬉しさ、そして少しの焦り。指先に残るボウルの冷たさが、熱くなった心と対比して心地よく感じる。(もし会ったら、なんて言おう。リオン様が危険な場所に行くたび、心臓が痛くなってしまうことを、どう伝えればいいのだろう) それでも――逃げたいとは思わなかった。この想いを、抱えたまま立っていたいと、そう選んでしまった。 工房の棚に並ぶ瓶が朝の光にキラキラと反射するのを目にしながら、気合を入れるように深呼吸する。 王都の大通りは、凱旋式の準備で賑わっていた。あちこちに掲げられた旗が大きくなびき、パタパタと音をたてる。 屋台からは肉の焼ける香ばしい煙が立ち上り、甘い蜜の匂いが混ざって鼻をくすぐる。群衆の歓声が波のように響き、子供の笑い声や馬の蹄の音が混ざり合った。 やがて、列の先頭に白銀の鎧をまとった男が姿を現した。陽光を受けて輝くその姿は、まるで物語に出てくる英雄そのもので、自然と目を奪われる。「リオン様だ……!」 群衆の声があがる。僕は迷うことなく、人混みの中から身を乗り出した。その瞬間、蒼い瞳がふとこちらを向いた。それはほんの一瞬のはずなのに、時間が止まったように感じた。 互いの視線が絡み合い、周囲の喧騒が遠のく。(――見つけてくれた) リオン様は颯爽と列を抜け、馬を降りて僕の方へ歩み寄ってくる。その姿は以前よりも少し疲れて見えたけれど、蒼い瞳は穏やかに澄んでいた。彼が歩くたびに鎧の金属音が軽く響き、埃っぽい土の匂いが近づく。「真琴」 「……おかえりなさい、リオン様! ご無事で何よりよりです」 言葉にした途端に、胸の奥がじんわり熱くなる。 彼が目の前にいる。ただそれだけで、世界の色が少し変わって見えた。手が小刻みに震え、握っているスカーフの布地がやわらかく感じる。 リ
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第四章 凱旋と祝祭、甘く溶ける想い2

*** 凱旋パレードを終えた数日後、いつもの業務に戻った私は少し……いや、かなり冷静さを欠いていた。それを自覚したうえで、止まれなかった。優先すべきものを、私はもう知ってしまったからだ。 真琴の姿が見えなくなったのは、市場を抜けて街道に出る直前だったはず。人混みの中で迷いやすいことも、興味を引かれると立ち止まる癖があることも知っている。知っているからこそ、心臓がざわつき始めた。(――遅い) 嫌な予感は、往々にして当たる。私は馬を進め、街道沿いを走らせた。周囲の商人や旅人の視線は感じていたが、気にする余裕はなかった。頭の中にあるのは、ただひとりの姿だけ。 やがて、小さな商店を営んでいそうな商人の荷馬車が目に入った。馬の蹄が地面を蹴る音を響かせる中、慌てて止める。私は瞳を細めて馬上から彼を見下ろした。「そこの商人。さきほど、このあたりを黒髪の青年が通らなかったか?」 声が低くなっていたのは自覚している。それでも、抑えるという選択肢は最初からなかった。怒気に近い私の口調に、商人は明らかに怯えていた。顔色が一瞬で変わり、荷馬車ごと震えている。「ひ、ひいぃっ……く、黒髪の青年、でございますか!?」 「そうだ。背は高く、穏やかな目をしている。歩き方はのんびりしていて……人混みでは、よく他人とぶつかりそうになる」 守るべき存在だと、考えるより先に思ってしまった。口にしながら、胸が締めつけられる。(――まったく、なんて無防備な説明だろうか) だが、それが真琴だった。思い浮かべるだけで、優しい疼きが胸に広がる。 商人は必死に記憶を辿るように視線を泳がせ、それから恐るおそる言った。「い、一刻ほど前に……そこの道を歩いておりました。えっと、その……道端の花を、眺めておられて……」 その瞬間、身体の奥に溜まっていた緊張が一気に抜け、息が軽くなる。(――ああ、やはりそうだ。彼は、そういう人間だ) しかも無事。怪我も、厄介ごともなさそうだ。「そうか……この先か」 思わず微笑みながら息をついたことで、頬が緩んでしまったことに気づき、私は慌てて表情を引き締め、咳払いをひとつする。「助かった。礼を言う」 それだけ告げて、再び馬を走らせた。背後から、商人が呆然とこちらを見ている気配がしたが、気にしていられない。馬を急いで走らせると、風が頬を切るように吹き抜
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第四章 凱旋と祝祭、甘く溶ける想い3

*** 春の訪れとともに、王都アルセリアでは年に一度の《祝祭》が開かれた。広場いっぱいに屋台が並び、笛や太鼓の音楽と笑い声が絶え間なく響く。 この日の目玉は――“精霊の祝福を受けた新しい甘味”の発表。そして、それを任されたのが僕だった。「はぁ……人が多いな」 工房から運んできたチョコレートの香りが、風に乗って通りいっぱいに広がっていく。準備を手伝ってくれているニナが、籠を抱えながら駆け寄ってきた。「真琴さん! 王城からの使いの方が来てましたよ! リオン様もお手伝いに来るって!」 「えっ……リオン様が⁉」 彼が来ると分かり、心臓が軽やかに跳ねる。リオン様が北の砦から帰ってきたあの夜、工房で見つめ合ったまま、言葉にできなかった想いがまだ胸のどこかで甘く疼いている。 フェリシュが肩の上でふわりと舞った。「真琴~、今日はぜったい大成功の日ですぅ! ほら、香りの波がいい感じです~!」 「ありがとう、フェリシュ。君がいなかったら、ここまで来られなかったよ」 「も、もうっ……そんなこと言ったら、照れるのですぅ~!」 フェリシュがリボンをばたばたさせて顔を隠すのを見て、少しだけ緊張がほどけた。 広場の中央――特設の台座へ向かう途中、見慣れた金髪と蒼い瞳が人混みを分けて進んでくるのが見えた。 陽光を受けたその姿は凱旋の日よりも穏やかで、けれどどこか誇らしげに僕の目に映った。「真琴、準備は順調か?」 「はい、なんとか。……見に来てくれたんですね」 「当然だ。君の初舞台だからな」 その声のやさしさに心が溶けるように揺らぎ、緊張が不思議となくなった。彼がいるだけで、世界が少しだけやわらかくなる気がする。 やがて王城の鐘がゴーンと鳴り響き、司会の声が広場を包んだ。「今年の祝祭では、新たに“精霊の菓子職人”の称号を授与される者がいます――清水真琴殿!」 歓声がわっと広がる。僕は深呼吸をして、チョコレートの蓋を静かに開けた。 ――“ショコラ・ド・アルセリア”。 この国の果実《ルゼラ》と、雪花石で冷やしたガナッシュを層に重ねた、精霊の祝福を宿す一皿。途端に、空気がふわりと甘く包まれた。チョコの香りとともに見えない光がゆらめき、人々の頬をやさしく撫でていく。 フェリシュが小さく囁いた。「真琴の想い……みんなに届いたですぅ」 王様が一口味わうと、
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!

王都の片隅。陽光のよく差し込む小さな通りに、白い看板が立った。金の筆記体でこう書かれている。《Chocolaterie Arcelia(ショコラトリエ・アルセリア)》その看板に辿り着くまでに、失敗しなかった日は一日もなかった。 扉を開けた瞬間、ふんわりとカカオと果実の香りが混ざり合い、胸の奥が温かくなる。店内中央のショーケースには、宝石みたいに輝くチョコレートたちが並んでる。どれも、僕がこの世界で一から作りあげたものだ。 開店のきっかけは、ほんの数か月前のことだった。 王都の祭典で、僕は“精霊の菓子職人(アルセリア)”の称号を授与された。その時に披露した新作チョコの”ショコラ・ド・アルセリア”が、思いもよらず王宮の目に留まった。そして王様が自ら新作を食べてくださり、お褒めの言葉を賜った。 その日から、僕の扱いは一変した。職人でありながら貴人として礼を受ける立場になったことで、護衛を付けるよう王命が下された。その護衛として名乗りをあげたのが、リオン様だった。 王命に背くことはできない。でもそれ以上に、彼自身がその役目を手放す気はなかったのだと、今ならわかる。 彼は王国騎士団の副団長。「どうして僕なんかのために」と言ったとき、リオン様は少しだけ苦笑した。「“僕なんか”じゃない。真琴はこの国に新しい風をもたらした。そしてその傍にいたいと思うのは、騎士として当然だろう?」 あのときの言葉が、まだ胸の奥で静かに響いている。 ――守るため。けれど、ただそれだけじゃない。彼の蒼い瞳には、もっと深い想いが宿っていた。 そんな彼が今、王国騎士団の副団長をしながら僕の店の相棒になっている。“王国最強の騎士”と呼ばれた人がカウンターの隅っこでエプロンを着けている姿が、不思議なほど自然に思えた。「真琴、こっちは完売だ」 低く穏やかな声に顔を上げると、リオンが木箱を抱えて現れた。長い指先にチョコの粉がついているのを見て、思わず笑ってしまう。「えっ、もう? 朝に焼いたばかりなのに……」 「君の《幸福の香気》、今日も大人気だな」 リオンはどこか楽しそうに告げながら、持っていた木箱をカウンターに置く。《スイートセンス》それは人を操る魔法じゃない。ただ張りつめた気持ちをほどき、前を向く力を思い出させるだけの香りだ。「……それ、からかってません?」 「褒めてる
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!2

*** 真琴の誕生日が近いと気づいたのは、彼が棚の整理をしているときだった。カレンダーの端に、とても小さな文字で「マコト誕生日」と書かれているのが偶然目に留った。それは、まるで隠すようにひっそりと書かれていて――その控えめさが胸を突く。 派手なことが苦手だからか、祝われることをいつも一歩引いて、受け取ろうとするその癖を私は前から知っていた。 心が溶けるように揺らぎ始めて、じんわりと体に熱を帯びる。(――祝ってほしいと思わないのか。それとも、祝われる価値がないとでも思っているのか) どちらにせよ胸がざわついた。腹立たしいほどに。「……当日は、好きにさせてもらう」 守るのではなく、彼の誕生日はただ――喜ばせる側でいようと決めた。 真琴が不思議そうに首を傾げたが、何も言わなかった。いつものように。 誕生日の朝、工房に下りてきた真琴は、驚いたように目を見張った。「えっ……なに、これ?」 作業台の上には、色とりどりのガナッシュを詰めた透明の箱。その上から、金糸で織った薄布をふわりとかけておいた。箱の中央には、深紅のルゼラの花を一本だけ添えた。「今日……誕生日だろ」 「覚えてたの? いつの間に――」 覚えていて当然だ。むしろ一週間前から落ち着かなかったくらい。だが、そんなことは言えない。「仕事前に渡すだけだ。開けるか?」 「え、いま?」 「嫌ならいい」 「嫌じゃない! 嫌じゃないけど……なんか緊張する」 真琴の指がリボンに触れた瞬間、私の息が浅くなる。こんなに緊張するとは思わなかった。布をめくると箱の中の光がふわりと揺れ、カカオの甘い香りが広がる。 精霊菓子――“ショコラ・デュー・エトワール”。星の雫という名を持つ特製ガナッシュだ。本来は祭礼用の高級菓子だが、真琴のためならいくつでも作れる。「え、これ……僕のためにリオンが作ったんですか?」 真琴は目を丸くして、箱を軽く撫でた。「……ああ」 「すごい、綺麗!」 無邪気に喜ぶその顔がかわいすぎて、心臓が危険なくらいドキドキする。「遠慮せずに食べてみろ」 私の言葉に従って真琴は指先で一つ摘み、そっと口に運んだ。瞬間、表情がふわっとほどける。「ん……っ、おいしい……なにこれ!」 味そのものよりも、受け取った瞬間の表情が答えだった。ぐらりと視界が揺れる。(――なんだこれ。
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!3

*** 昼下がりのショコラトリエ・アルセリアは、甘い香りで満ちていた。ガナッシュを混ぜながら、僕は鼻歌を漏らしてしまう。「真琴、今日はご機嫌だな?」 カウンター越しに立つリオンが、ほんの少しだけ苦笑している。鎧の代わりのエプロン姿なのに、騎士の威厳はそのまま。けれど、僕の前でだけ少しやわらかくなることに最近気づいた。 この“気が抜けた騎士”みたいな顔が……ちょっとだけ好きだったりする。「えへへ、実はね――今日、新しい仕入れの商人さんが来るんだ。カカオ豆の代わりになる、珍しい実を分けてもらえることになってて」 「……商人?」 「うん! すごく親切でね、僕が材料に困ってるって愚痴ったら、特別に分けてくれるって。しかも笑顔が――」 その瞬間、リオンの表情がぴたりと止まった。「……親切、ね」 「そう! なんていうか爽やかで――」 「爽やか?」 その場の空気がひゅうっと冷える。(――え、なんで? 誰か冷房入れた?)「リオン? どうしたの?」 「その商人というのは、男か?」 「え? あ、うん」 「歳は?」 「僕より少し上くらい……かなぁ?」 「そうか」 低い声で言うと、リオンは棚の方へ歩き――ガンッ、と樽を動かした。その衝撃で、店が一瞬だけ揺れる。「ちょっ、リオン! なに怒ってるの?」 「私は怒っていない」 いや絶対怒ってる。普段は羽みたいに扱う樽が、今は斬ったみたいに動いたのがその証拠だ。「真琴、ただの商人だろう?」 「ただの商人だよ!」 「“親切で”“爽やかで”“笑顔がよかった”商人だよな?」 「わーーっ! 繰り返さないで‼」 リオンが振り返った。眉が少し下がっていて、視線が床に落ちている。(……えっ、これ。怒ってるというより――嫉妬なのかな?) リオンの心中が分かり、胸がきゅっと鳴った。「真琴」 「なに?」 「その商人とは、どれくらい親しいんだ?」 「えっと……仕事で三回くらい会っただけだよ?」 「三回も……」 「ねぇ、そんな気にすること?」 リオンは数秒だけ瞬きをし、探るように息をする。そして僕から顔を背けて、ぼそりと言った。「……嫌だ」 いつもより低い声に心臓が跳ねた。「嫌?」 「君が……他の男に笑いかけるのが」 ――はい? 声は小さいのに、全部が胸に刺さる。「別に笑うなと言っ
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!4

*** 商人さんが店に来る時間が近づき、僕は店先を軽く片づけていた。リオンはというと、さっきまで嫉妬で樽を割りそうな勢いだったくせに、今はカウンターで王国に提出する書類を見ている。(大丈夫かな……さっきのお怒りモードから戻ってるといいけど) そんなことを思っていた、ちょうどその時。「こんにちはー、失礼します!」 店のドアが開き、例の商人さんが明るい声で入ってきた。僕は笑顔で迎えようとしたら。「ようこそ、当店へ」 低く、落ち着いた声が僕の真横から降ってきた。振り向くと、そこには――誰? ――いや、リオンなんだけど……誰!? さっきまで、嫉妬で気難しい顔をしていた人と同じとは思えない。 リオンは背筋をすっと伸ばし、わずかに口角を上げていた。いつもの不器用な微笑みじゃない。やわらかくて上品で、どことなく“王宮の騎士様”って感じの完璧な笑顔だった。「えっ……リオン、そんな顔ができるの?」 思わず小声で呟くと、リオンは目だけこちらに向けて小さく囁いた。「真琴、仕事中だ」(し、仕事中……!? いやいや、切り替えスイッチ早すぎる)「真琴さん、いつもお世話になっております」 商人さんがにこやかに近づいてくる。「こちらこそ。いつも素材をありがとうございます」 僕も笑顔を返す。(普通に会話できる。よかった……) そう思った矢先――視界の端で、リオンが静かに動く。僕と商人さんの間に、さりげなく入った。(え? なんで今、距離を詰めてきた?)「商人殿、貴殿の品はいつも素晴らしい」 リオンが優しく微笑む。「いえいえ、とんでもない! 副団長殿にそう言っていただけるとは光栄で――」 「ただし」 笑顔のまま、声のトーンだけが少し落ちた。「真琴に“親切すぎる”必要はない」 言葉は丁寧なのに、背後で風が止まったように感じた。商人さんが真顔で一瞬固まる。「え、えぇと……もちろん仕事上の礼儀でして……」 「なら良い」 微笑んだまま言うリオン。その微笑みが怖いことに、商人さんは気づいていない。気づいていたら、きっと笑い返せなかっただろう。(え……これが“外面”? いや、これ……営業用じゃなくて“嫉妬を隠した営業スマイル”じゃないか) 僕は商人さんに説明をしながら、横目でリオンをチラチラ見ていた。(すごい。誰より紳士なのに、一歩も僕から離れな
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!5

*** ある日の昼下がり、ショコラトリエの仕込みが一段落したころ、僕は小さく深呼吸した。(――よし。今日はちゃんと“挨拶”しに行こう) リオンには内緒で、こっそり騎士団本部へ向かった。リオンは副団長という立場上、日頃から本当に忙しくて、無理をして僕の店に手伝いに来てくれることも多い。一度ちゃんと、上司の団長にお礼を言わなくちゃと思っていた。 手土産のチョコ持参で石畳の道を歩いて本部に着くと、扉を守る騎士たちが僕を見るなり硬直した。「しょ、ショコラトリエの」 「副団長殿の“特別な方”」(――あれ、なんかすごい扱いになってる?) ざわざわしつつも案内され、団長室へ通された。 そして対面した団長――ラディス団長は、噂通りの頭脳派の方だった。落ち着いた雰囲気で、眼鏡越しの視線は鋭いけれど、どこか穏やかさがある。「真琴殿、うちの副団長が世話になっている」 「こちらこそ、いつもリオンに助けてもらっていて……ありがとうございます! こちらお店で出してるチョコになります。どうぞ召し上がってください」 僕が深く頭を下げながら手土産をテーブルに置くと、団長はふっと目元を緩めた。「気を遣わせて済まない。店での副団長はどうだろう? 彼は優秀だし、王都一の戦力だからね」 「わかります! 本当にすごい人で」 団長は、とても微笑ましいものを見たような眼差しを僕に向けた。「ふふ。副団長が“そこまで誰かに慕われている姿”を見るのは初めてだよ」 「えっ?」 「彼は真面目で不器用な男だ。普段は剣と任務以外には、まるで興味がなかった。ところが――」 団長は椅子を少し傾け、楽しそうに言う。「“君の話だけは別”みたいでね、ふふっ」 「そうなんですか?」 「差し入れの菓子の話や店でのトラブル、君が笑っただの照れただの。毎日のように、実に細かく報告してくれるんだよ」(……恥ずかしいのに、嫌じゃない。むしろ、少し誇らしい)「り、リオンが?」 「そう。彼は“好きな者のことは、全て把握したい”タイプなんだろう」(好きな者……) 胸が熱くて頭が真っ白になりかけた、その時。――ガチャッ!「団長、失礼します。先ほど頼まれていた――」 扉を開けたリオンが、僕を見て固まった。明らかに、見てはいけない現場を見ちゃった表情だった。「……真琴?」 「り、リオン!」
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!6

***  団長室での“真琴と団長の遭遇事故”から翌朝。私はまだ布団の中で悶えていた。(団長は余計なことを……ああああああ……ッ!) 団長の言葉が脳内でリピートされる。『副団長は、毎日真琴殿のことを嬉しそうに語っている』 『真琴殿。副団長は、君の話になるとこうして取り乱す。この姿を見てわかるだろう?』(あんなふうに真琴に暴露されて、私は死んだ方がマシなのでは……?) そんな状態で出勤した私を、団員たちが妙な目で見ていた。 朝礼。団長が、いつものように落ち着いた声で言った。「今日の議題は三つ。一つ目は南地区の魔獣対策。二つ目、城門の補修計画。三つ目――」 団員全員がメモを構える。(よし、いつもの仕事だ……) 団長は、なぜかにっこり微笑んだ。「“副団長リオン殿の恋愛情勢”だ」 「団長おおおおおお!」 私の絶叫に、広間が爆発した。「やっぱり恋してたんですか副団長!」 「お相手は、やはりショコラトリエの――」 「最近、やたら甘い匂いがすると思ってたんだよ」 「任務帰りの顔が、妙にやわらかい理由がそれか!」 「やめろ! 全員黙れ!  団長も!」 団長は咳払いして続ける。「なお、第三議題は王国公式ではない。しかし“団として士気に関わる事案”と私が判断した」(――そんなの、余計な判断すぎる!) 団長が意味深な面持ちで、私を見ながら続けた。「ではまず、真琴殿との交際状況を――」 「交際していない!」 実際のところ相思相愛で付き合っているのだが、この場でそれを披露するのはどう考えても愚策だ。「では“交際前だが副団長の方は本気”という理解でいいね」 「違うとは……言えないが……違う……いや違わないが……」 団員たちがどよめく。「ほら見ろ!」 「副団長がしどろもどろになるなんて、初めてだ!」 「真琴殿の前かよ~~~!」 顔が熱で焼ける私を見て団長は楽しそうに指を組み、わざとらしく言う。「副団長。君は“真琴殿の話をするときだけ語彙が変になる”と評判だが?」 「団長……それ以上は!」 「ちなみに昨日、真琴殿は君に怒っていないと言っていたじゃないか」(恥をかくくらいなら、いくらでも私が引き受ける。真琴が笑ってくれるなら、騎士の威厳など安いものだ) そんなことを考えながら、胸の奥が熱くなる。しかも団長は、その様子を逃さ
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