All Chapters of 転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる: Chapter 31 - Chapter 40

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番外編 仲直りの夜は、とけるほど甘く

家へ戻る道すがら、リオンはずっと無言だった。握られた僕の手は温かいのに、歩幅は妙に大きくて、どこかぎこちない。(怒ってる……よねやっぱり) 市場で、商人さんと楽しそうに話していたこと。たぶん、それが引き金になった。でも、そんなつもりなんて全然なくて。ただ珍しい香草を見せてもらって、ちょっと嬉しかっただけなのに。(リオン、あんな顔するんだ……) 胸がきゅっとする。怖かったわけじゃない。ただ――あのときの横顔が切なくて、苦しくて。 家に着くと、リオンは無言のまま扉を閉めた。重い音が部屋に落ちて、僕は思わず肩をすくめる。「……真琴」 「っ、はい!」 やっと聞こえた声は、低くて湿っていた。「……さっきの商人。君は、ああいう若い男が好みなのか?」 「えっ!?」 違うって言う前に、リオンが僕の前に立った。腕の中に閉じ込めるみたいに、壁から逃げ道を塞ぐ。 こんなの、反則だ。「私は……嫌だった。君が私以外の誰かに、あんなふうに笑うのが」 「リオン……」 「君が悪いんじゃない。私が……自分の感情を処理できなかっただけだ」 胸の奥がぎゅうっと痛い。リオンの眉は寄っていて、まるで自分を責めているみたいに見える。 僕は迷わず、その手を強く握った。「ねぇ、リオン。僕があの人に笑ってたのは、営業トークっていうか……普通の会話で」 「知ってる」 「え……」 「君が、私以外を選ぶはずがないことも……頭では分かってる」 それなのに――。「それでも……怖かった。君の隣に立つ資格は、本当に私だけなのかって」 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじわっと熱くなった。「……僕の隣は、リオンだけだよ」 そう言った途端リオンの蒼い瞳が大きく揺れて、強く抱きしめられる。「……真琴」 耳元で囁く声が、いつもより熱い。「君は……私のだ」 「うん。リオンのだよ」 甘く告げた刹那、リオンの腕の力が少しだけ強くなった。 額を合わせたら、鼻先が触れ合う。どちらから触れたか分からないほど自然に、しっとりと唇が重なる。(……あ、甘い) さっきまで曇っていた空気が、一気に溶けていく。ぎこちなかった空気は、もうどこにもない。リオンの指が僕の頬に触れ、背へまわった手が僕の体を引き寄せるように力を込めた。「……真琴。今日は離したくない」 その声が、胸の真ん中に落ちる。
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番外編 リオンの誤魔化し不可能なデレ崩壊編

 翌朝、僕は少し困っていた。理由は一つ。目の前のリオンが、まったく正常に戻らない。「……真琴、今日の予定は?」 「えっと、午前は工房で仕込みして、午後は――」 「午後は私が付き添う」 「え、なんで?」 「……君を、一人にしたくない」 朝からこれである。声は落ち着いているのに、視線は僕に吸い寄せられて離れないし、距離感は半歩近すぎるし、紅茶を渡す際に指が触れた瞬間、肩がビクッてなるし。 完全に、昨日の“甘えモード”を引きずっている。(やばい……かわいすぎて仕事にならない……)「ねぇリオン、その……大丈夫?」 「何がだ?」 「昨日、色々あったから疲れてるのかと思って」 するとリオンの耳が、ばちんと赤くなった。「つ、疲れてなど……!」 言いかけて、思いっきり目が泳ぐ。(あ、これはまずい。必死になって誤魔化そうとしている)「昨日……」 僕が続けると、リオンは一瞬で背筋を伸ばし、「ゆ、夕べのことは……忘れていい」 「えっ、忘れたほうがいいの?」 「いや、忘れなくていい。むしろ忘れてほしくない。だが、今は話題に出すな。頼む」 矛盾の塊みたいな懇願をしてきた。顔は真っ赤で、目はずっと泳ぎっぱなし。もう誤魔化しなんてできていない。 けれど、それはまだ序の口だった。  仕込み中。「真琴、熱いぞ、気をつけろ」 「ありがとう、リオン」 ただ礼を言っただけなのに、リオンは口元を押さえた。「ど、どうしたの?」 「……いや。名前を呼ばれると、まだ……慣れなくて」 「え、今さら?」 「君が昨夜……その……」 言いかけて固まる。紅い耳とむずむずした息。蒼い目は僕を見るたび、潤むみたいに揺れてる。(あ……完全にデレ崩壊してる) 想像以上に、リオンにダメージが残っていたらしい。  昼前、フェリシュが材料を届けに来た。「こんにちはなのですぅ」 挨拶しながら、フェリシュが固まる。視線の先には僕の後ろにぴったりついて、隙あらば手を触れようとしてくる副団長。「あの……リオン様?」 「……何だ」 「なんで、真琴の背後霊みたいになってるんです?」 「……離れる理由がない」 「あるでしょ!!」 フェリシュが叫ぶ横で、僕はそっと視線をそらした。(いや……本当に今日はすごい……昨日の今日だからなんだけど)「真琴をひとりにするなと…
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番外編 リオン、団員の前で“真琴へのデレ”を誤魔化そうとしてもっと事故る編

 前回の“威厳溶け事件”以来、なぜか団員たちに会うとやけに優しくされる。「真琴殿、お茶をどうぞ!」「副団長の恋人さん、今日もかわいい!」 リオンの立場を考えて表面上、恋人ではないと否定すると、団員たちが「はいはい照れない照れない」と笑う。(これ……リオンが恥ずかしがるパターンだ……) 案の定、朝の本部ホールで再会したリオンは無表情を極めていた。(――絶対、平静を装ってるやつだ!)「真琴、今日は何をしに?」「資料の返却!」「そうか。助かる」 抑揚のない淡々とした声。普段の冷静さを、明らかに“盛っている”。(きっとバレてるよ、リオン……) そこへ団員が通りかかり、「副団長、今日は表情が固いですね?」「……そうか?」「昨日、あれほど溶けていたのに!」「溶けてはいない」「いやいや、皆見てましたよ〜。真琴殿に向けたデレ顔!」 リオンの蒼い目が一瞬泳ぐ。「……誤解だ」(出た、必死の誤魔化し……!)「誤魔化さなくてもいいのに〜」「副団長が人前で照れたの、初めて見た!」「結婚式はいつですか?」「おい、やめろ」 低音がわずかにぶれた。その瞬間、団員がにやり。「今、声が柔らかくなりましたね?」「……なっていない」「真琴殿にだけ優しい声になるの、もうバレてますよ?」「……っ」 リオンの耳がほんのり赤い。仕事モードの仮面が、ひび割れている。(がんばれ副団長……!) 内心で応援しながら書類を渡すため、僕は一歩近寄った。「これ、返しにきたよ。ありがとう、貸してくれて」「ああ……」 返事が柔らかい。団員たちの肩が震える。「ほら〜〜〜優しい声だ〜〜〜!」「“ああ……”って、何その甘さ!」「真琴殿、罪深い!」「ち、違っ!」 リオンが慌てて姿勢を正す。「これは、ただ……真琴はよく仕事を手伝ってくれるから……職務上、礼を言っただけだ」「職務上の“ああ……”じゃないよね絶対!」「副団長、動揺してます?」「顔! 顔が赤い!」「赤くはない!!」(いや、思いっきり赤いよ……!) リオンは誤魔化そうとして、さらに追い詰められていく。「お前たちは……何を言って……」「副団長、真琴殿が差し入れを持ってくると、いつも嬉しそうですよね?」「う、嬉しくなど……っ」 言い切る前に、僕が口を挟む。「えっと……この前の焼き菓
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番外編 仕事後、真琴に甘やかされて立ち直るリオン編

あの日、団員の前で“威厳クラッシュ”したリオンは、そのあとずっと様子がおかしかった。 具体的に言うと――。・無言 ・動きが静か ・団員が話しかけると微妙に目をそらす ・遠くから僕を見ては、深いため息をつく ……など、完全に落ち込んでいた。(リオンって、こんなに分かりやすい人だったっけ……) そして、勤務終了後。薄暗い廊下で、リオンは僕を見つけると立ち止まった。「真琴……」 「お疲れさま」 「…………」 「えっ、なんでそんな目……」 リオンは、“怒られた犬”みたいにしょんぼりしている。「……今日、私はその……仕事にならなかった」 「うん、見てた」 「団員の視線が痛くて……報告のたびに“デレてません?”と聞かれ……」(……そんなこと聞かれてたの?) リオンは壁に手をつき、俯いたまま掠れた声を漏らした。「……威厳が……ない……」 「リオン……」 「真琴の前でだけ……つい……崩れるのは……自覚しているが……」 「うん」 「まさか、団全体に周知されるとは……」(そりゃあれだけ、顔を真っ赤にしてたら……) でも、ここまで落ち込むリオンを見ると胸が痛い。「リオン、おいで」 両腕を広げて誘った瞬間――リオンがびくっとした。「……“おいで”?」 「そう。ほら」 さらに腕を広げてみせる。するとリオンは一瞬だけ僕を見て、ほんの少し震え、それから抱きしめてきた。勢いではなく、迷いを含んだ弱い抱擁。「……真琴……」 「ん?」 「……慰めてほしい……」 小さな声すぎて、胸がぎゅっとなる。「うん。まかせて」 背中に手を回し、そっと撫でる。「あのねリオン。リオンの“甘くなるところ”、僕は全部好きだよ」 「……っ」 「僕にだけ見せてくれるの……めちゃくちゃ嬉しい」 「それでも、団員の前では……」 「団員はね、リオンが“人間らしい”って喜んでるだけだよ?」 「……喜んで?」 「そう。誰からも尊敬されてて、騎士団一強くて完璧だから……むしろ“真琴殿の前では弱くなるんだ!”って、なんか温かい空気だったよ」 「あたたかい……?」 「うん。笑ってたけど、馬鹿にしてたわけじゃない。“副団長にもかわいいとこあるんだ”って、そんな感じに僕は見えていたよ」 リオンの肩から、少しだけ力が抜けた。「……かわいい……と言われる
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番外編 翌日、団員たちに“甘やかされた余韻”がバレて赤面するリオン編

翌朝。僕はいつも通り店の掃除をしながら、昨日の“夜の甘やかしタイム”を思い出していた。(……リオン、かわいかったな……) めずらしく弱音を吐いて、抱きしめたら離してくれなくて、耳元で「好きだ」と言われたあの声の甘さなんて――。(思い出しただけで、僕が照れる……) 差し入れのチョコを手にそんなことを考えながら、騎士団本部の前を通った時。「――副団長、今日なんか機嫌よくね?」 「……いや、むしろ“妙に落ち着いてる”というか……?」 団員たちの声が聞こえてきた。(……え?) 角を曲がって、コッソリ副団長室を覗くと――そこにリオンがいた。いつもより髪がふわっとして、目元がやたら柔らかい。それに、顔がほんのり赤い気がする。(あ……昨日の余韻が、ほんのり残ってる……) そりゃそうだ。あんなに甘えてたんだから。「副団長、昨日なにか良いことでも?」 団員のひとりが悪気なく聞く。「……別に」 リオンは素っ気なく返すが、声がかすかに低く掠れている。(あ、それ甘やかされ声だ……) 僕しか知らない、あの柔らかい夜の声。 団員たちはそれに気づかず、「え〜? なんか“疲れ切ってる”感じじゃなくて、“満たされてる”感じというか?」 「“恋人ができた翌日みたいな顔”だよな」 「わかる!!!」(うわー……!! 言う……!!) 心臓が止まりそうになる。案の定、リオンの肩がピクリと跳ねた。「……誰が……そんな顔を……」 「いやいや副団長、今日は妙に優しいっていうか……角がないっていうか。あっ、もしかして昨日、真琴殿と――」 「待て」 リオンが即座に止めた。でもその“止め方”が、完全に動揺している。団員たちはそれを見逃さない。「副団長……図星……?」 「ち、違――」 リオンの声が、思いっきり裏返った。(――やばい、バレる! 昨日のことが絶対バレる!!) しかも団員たちは、誤解の方向へ暴走した。「真琴さんに告白したんですか? ついに!」 「逆ですか? 真琴さんからですか?」 「副団長、もしかして昨日、デート……?」 「違う!!!」 リオンの否定が、もはやほぼ悲鳴だった。団員たちの視線がさらに鋭くなる。「じゃあ、なんでそんなに照れてるんです?」 「照れてない!!!」(いや照れてるよ……すっごく……) その時、ついにひとりの団
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番外編 フェリシュを本気で警戒しはじめるリオン

 昼下がりのショコラトリエ。客足が落ち着いた時間、僕は新作のガナッシュを練っていた。 フェリシュはいつものように僕の肩の上に座って、軽く足を組んで楽しそうにしている。「ん〜〜♡ 今日の真琴はいい匂いがする〜」 「そう? いつもよりカカオが濃いからかな?」 「違うよ、昨日の名残だよ〜♡」 「フェリシュ!!!」 声が裏返る。もうやめてほしい。僕の心臓の残機がない。 その時――。「真琴、手伝おうか?」 店の奥からリオンが出てきた。さっきまで騎士団本部に書類を届けに行っていたらしく、外套を脱ぐ仕草が絵になるほど整っている。 フェリシュがニヤリと笑った。「あ、リオンさま〜♡ こんにちはぁ〜♡」 その妙に甘く伸びた声を聞いたリオンの眉が、ほんのわずかに動いた。(あ……嫌な予感)「フェリシュ、君は……何を真琴に言った?」 「あれ? 何か聞きたいことがあるのかな? 昨夜のこととか、真琴のかわいい反応とか♪」 「……っ」 リオンの蒼い目が細くなる。怒っている、というより――警戒している目だった。 まるでフェリシュを危険生物として認識したみたいな、あの鋭さ。きっとそれは、敵国の軍人を見ているのと同じなんじゃないだろうか。(うわ……これは、やばい!)「フェリシュ」 低い声が落ちた。「真琴をからかうのは、やめてもらおう」 「え〜? なんでぇ? すっごくかわいいのに」 「かわいいからだ」 「ほぇ?」 フェリシュが固まる。僕はもっと固まる。「真琴は照れやすい。そこを刺激されると……私が困る」 「どのへんが?」 「……私が、真琴を抱きしめたくなる」 「ぶっ!!」 僕は咳き込んだ。(――リオン、それは言っちゃダメ!!  かわいいけど!!!) しかしフェリシュはリボンの羽をぱたぱたと揺らし、ニヤァッと笑った。「あ~なるほどね! 真琴に近づくライバルだと思ってるんだ?」 「……君が、真琴の心を乱すなら敵だ」 「敵?」 フェリシュは、両手でお腹を抱えて笑い出した。「やだぁ、リオン様必死〜! 私、真琴の恋人じゃないよ」 「だが、真琴の心に入り込む余地はある」 「入ってほしいの?」 「入ってほしくない!」 即答――そして声が大きい。僕は再び咳き込んだ。(二回目) でもフェリシュは、どこか嬉しそうに羽を揺らした。「ねぇリ
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番外編 団長、真琴に“副団長は恋で瀕死”を通告する

ある日、騎士団に顔を出すとラディス団長が「少し話せるかい?」と言うので、団長室に通された。(なんか……大事な話っぽい?) 団長は手にしていた書類を執務机に置き、椅子に寄りかかると落ち着いた声で言った。「真琴殿。結論から言おう」 「は、はい」 「うちの副団長は――君に恋して死にかけている」 「……え???」 あまりにも真顔だったので、頭が一瞬真っ白になった。「し、死に……?」 「そうだ。あれは“重度の恋症状”だね。もはや戦場より危ない」(――何か、病気の説明みたいに言ってる⁉) ラディス団長は組んだ指を軽くトントンと机に当てながら、分析を続けた。「まず、気づいているかい? 君の話をしている時のリオンの顔を」 「えっと……結構、赤くなってましたけど」 「赤くなる程度なら、かわいいものだ。彼は今日だけで顔色が三回変わった。赤、白、紫。あれは恋で寿命が縮んでいる時の顔だ」(えぇ……?) 団長は肩をすくめる。「そもそもだ。副団長は戦場では、あれほど冷静沈着なのに――君の前では“感情が全部外に漏れている”。気づかなかったかい?」 「え? リオン、あれでも隠してるつもりみたいですけど……」 「隠せていない。全く」(――団長、断言した!) 団長は眼鏡を押し上げ、苦笑しながら続ける。「この間の王宮との合同会議で、私は確信したよ。リオンは君に一言褒められただけで、心臓が三回止まりかけていた」 「し、心臓が……!」 「君が“隣にいてくれたら嬉しい”なんて言った瞬間は――確実に昇天していたね」(僕の言葉、そんなに強かった……?) 団長は淡々と続ける。「真琴殿。君の発言は、あれにとって“致死量”なんだ」 「ち、致死量⁉」 「うむ。端的に言おう、リオンは君の言葉一つで勝手に死ぬ」(そんな雑な死に方……)「ちなみに、君がうっかり笑いかけたりすると――胸を押さえて壁にもたれていたよ。あれは完全に恋する青年だ」(え、そんなに? 全然気づかなかった!!) 驚く僕を尻目に、団長は優しい声で言った。「リオンは強い男だが、恋に関してだけは脆い。だから、どうか優しくしてあげてほしい」 「……僕、たぶん……ずっと優しくしてもらってばかりで……」 胸が少し熱くなる。「知ってるよ。彼が君をどれだけ大切に思っているかも、君がそれに気づいてい
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番外編 副団長の“弱点”として崇められる僕

翌朝。僕が差し入れの菓子を持って騎士団に顔を出すと、なぜか空気が違った。やたら視線を感じる。(――え……今日、僕なんか変かな?) そう思った瞬間。「真琴様だ!!」 「出たぞ……副団長の生命線!!」 「気をつけろ、扱いを間違えると副団長ごと死ぬぞ!!」(……は?) 僕が固まる間に、団員たちがぞろぞろ集まってきた。「真琴様っ、本日も大変ご機嫌麗しく!」 「いや、“様”って……僕そんな偉くないです」 「何をおっしゃるんですか!! 副団長が生きる力は真琴様から供給されているんです!!」 「昨日なんか、副団長が真琴様の前で死にかけてましたからね!」(あ……あれか!!) この間の“団長の爆弾発言”。あれが団員全員に筒抜けになっているらしい。「副団長は……真琴様の一言で生死が揺らぐんですよね」 「“隣にいたら嬉しい”で致命傷」 「“ずっと傍にいるよ”で完全に落命」 「もう真琴様は、回復魔法どころか“蘇生魔法”を使える人扱いですよ!!」 「そんな大それた!!」 僕が必死で否定するも、団員たちは首を横に振る。「真琴様! 我々は確信しております!」 「副団長があれほど脆く、あれほど幸せそうになれるのは、世界で真琴様だけです!」 「“弱点”であり“心臓”であり“最大の守護神”!!」(――うわぁ、なんか肩書きが増えてる!)「よし、もう決めよう!」 「副団長が倒れたときに、真琴様を呼ぶための正式名称が必要だ!」(――待って待って待って!)「“副団長の精神安定剤”はどうだ?」 「いやいや、不敬すぎるだろ!」 「では、“副団長の生命維持装置”!」 「医療器具じゃん!!」 「じゃあ……“副団長の聖域(サンクチュアリ)”」 「それだあああ!!」 「格がすごい!!」(――どれもイヤだよ!!)「……真琴?」 廊下の奥からリオンが現れた。団員たちの視線が一斉にそちらを見る。(あっ……これは……)「副団長!!」 「“聖域”がお迎えに来られました!!」 「やめろ貴様らぁぁ!!」 リオンが本気で怒鳴ったら、騎士団本部が震えた。「真琴は、そんな変な呼び方をされる存在では――」 「あ、でも……リオンにとっては聖域……なんだよね?」 ぽつりと、言ってしまった。だって、昨日そう言ってたし。僕がそばにいれば安心するって。 その瞬
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番外編 団長、公式文書に“副団長の弱点:真琴”と書きかける

王国騎士団・団長室。机に向かって書類を捌いていた団長が、隣で立ち尽くしている副官に声をかけた。「……なあ、これ」 「はい?」 団長は眉をひそめ、ペン先を一点に当てたまま止まっている。「副団長・リオン=ヴァルハートの“個別戦術評価”の欄だが……“弱点”が、どうしても空欄のまま書けん」 「あぁ、それは……」 「いや、通常こんなに悩まんぞ?」 渋い表情を決め込んだ団長は腕を組む。「剣技・魔力・体力・統率……全て見事だ。これだけ完璧な男に、“弱点がない”という評価は逆に怪しい」 「…………」 副官は言葉が出なかったのに、団長は薄く笑う。「だからな、私は昨日から“疑い”を持っていた。あれほど完璧な男が、真琴殿が絡むと溶けるだろう?」 「それは溶けるというか……溶け落ちるというか……」 「同義だ」 団長は深く頷き、再びペンを走らせた。■ 副団長 リオン=ヴァルハート弱点:清水真琴(精神的急所)「あ〜あ、書きましたね団長!!!」 副官が目を見張りながら叫んだ。「まだだ。これは“仮”だ」 「仮でも書いちゃダメです!!」 「だが事実だろう?」 「事実ですけども!!!」 団長は、美味しそうにお茶を飲みつつ平然と言う。「私は騎士団長だぞ? 部下の精神的急所を把握しておくことは、安全管理上は正しい判断だ」 「でも“真琴(精神的急所)”って!」 「なら“真琴(致命弱点)”のほうがいいか?」 「やめてください!!」 副官が涙目で書類を取り上げようとした、その瞬間――。 コン、コン。「団長、失礼します」 扉の向こうからリオンの声がした。二人は瞬時に固まる。「……入れ」 リオンが入ってきた。いつもの無表情……に見えて、昨日の事件のダメージがまだ残っているように耳が赤い。「団長、先日の外部警備の報告書を――」 リオンの視線が、団長の机上に置かれた“例の紙”に止まる。一行……そこに、はっきりと――弱点:清水真琴(精神的急所)「……………………」 リオンは動かない。瞬きひとつしない。そのことに副官は青ざめ、団長は微笑んだ。「リオン。これはな、公式文書として――」 「団長」 リオンが低い声で言った。「それを、どこに回すつもりですか」 「王城の軍務局だ」 「やめてくださいッ!!!!!」 リオンが机に手を突いて叫んだ。
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「規格外」を抱え続けてきた男の記憶

団長室の机に置かれた書類の束を前に、私は無意識にこめかみを押さえていた。(……また、この名前か) リオン・ヴァルハート、今や副団長。王国最強と称される騎士。そして、私の胃を何度も殺しかけてきた男。「……」 ペンを止めた瞬間、記憶が勝手に遡る。私が第1師団の一部隊長だった頃。補充兵として、ひとりの新人が配属されてきた。 金髪碧眼の美丈夫で無表情。無駄口を叩かず指示に忠実。ゆえに扱いやすい新人、当時の印象はそれだけだった――最初の戦闘までは。 騎士団が管理する森の奥であたったのは、魔獣討伐の任務だった。団員との連携も取れ、順調に任務が遂行される。 だが、想定よりも強力な個体がいきなり目の前に現れた。大人数でかかれば、仕留められるのではないか――大型魔獣と団員の力量差を計算してる間に、仲間の一人が弾き飛ばされ、魔獣の爪が振り下ろされる。「逃げろ!」 私の判断ミス、間に合わない――そう思った次の瞬間だった。その場の空気が圧縮し、ひっくり返った。「……下がれ」 新人リオンの声。低く、感情のない声が聞こえた刹那、魔力が爆ぜた。いや、爆ぜたなどという生易しいものではない。 熱と光、そして体感したことのない圧――大型魔獣は一瞬で消し飛び、周囲の樹木は炭になり、地面は赤黒く焼け焦げた。 立っていたのはただ一人、リオンだけ。無傷で息も乱さず、私に振り返る。 あの時、私は理解した。(ああ……これは剣の問題ではない。人の枠に収まらない力だ) それからだった。彼は「規格外の新人」として恐れられた挙句に、仲間から距離を置かれ、それでも本人は何も変わらなかった。 リオンが全力で魔力を振るえば、仲間を巻き込んだ形で全てが終わる。だからこそ振るわない。それゆえに、制御できる立場に置くしかなかった。上に責任を背負わせる位置に。「副団長」という役職は、彼を縛るための鎖だった――そう、思っていた。 「……はぁ」 現実に戻り、私は目の前の書類を見る。 表題:《副団長・リオン運用および安定化に関する補足企画書》……いや、違う。中身は、ほぼ一行に集約されている。「真琴殿の取り扱いについて」 ストッパー・制御装置……そして増幅器。(――皮肉なものだ) かつて一帯を焼き払った男が、今は一人の体調や感情で戦力値が上下する。(だが危険なのは、力そのものじゃない。失
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