All Chapters of 転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる: Chapter 21 - Chapter 30

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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!7

***  騎士団の皆さんに手土産持参がてら、少し挨拶するだけのつもりだったのに――入口から中に入った瞬間、団員みんなの目がギラッと光った。「あっ! 真琴殿だ!!」 「副団長の……!」 「今日の議題の中心人物!」(えっ、議題に僕の名前が出るって、いったい!?) 嫌な予感しかしない。そのことに僕がそわそわしていると、目の前の階段から降りてきたラディス団長が優雅に手を振った。「真琴殿、ようこそ。さ、こちらへ。昨日は、うちの副団長が大変失礼した」 「い、いえ! リオンは、いつもすごく優しいので!」(――あ、言いすぎたかな) その場にいた団員たちがざわめく。「優しい? あの副団長が?」 「仕事の時は氷なのに……」 「恋ってすげぇ……」 団長は、口の端を楽しそうに上げた。「真琴殿。彼の“どんなところ”が優しいと思うんだい?」 僕は思いついたまま、正直に答える。「毎日なんですけど――」 顎に手を当てて考えていると、なぜか団員全員が身を乗り出す。「僕が仕事をしていたら、何も言わずに後ろで見守ってくるんです。気配だけ傍にある感じで……落ち着くというか」 「「「毎日!」」」(――え、そんな大袈裟になる?) 団長は頷きながら、僕の言葉をゆっくり復唱した。「つまり副団長は“真琴殿の後ろに、毎日欠かさず張り付いて見守っている”と?」 「えっと……はい。気づいたらいます」 「「「スト――!」」」 「真琴!」 僕が振り返ると、いつの間にかリオンが団員たちの後ろに立っていた。顔は真っ赤なのに、威圧感がすごい。「ま、真琴……何を……言って……」 「え? 本当のことだけど?」 団員たちが“やっぱり!”という叫びをあげる。「副団長は四六時中、真琴殿の護衛をしてんのか!」 「それ、恋人以上の過保護では!」 「距離感ゼロじゃん!」 「いいぞ、もっと聞かせろ!」 団員たちのセリフに、耳まで真っ赤になったリオン。「違う、私は……真琴が危ない目に……遭わないよう……」 「うん、知ってるよ? 僕、すごく安心だし」 率直に答えたら、リオンは顔を覆ってその場にしゃがみ込む。(――え、なんでそんなに⁉) 団長が笑いながら、さらに僕に訊ねる。「真琴殿。他にも何か“副団長の優しいところ”を?」 「え……たくさんありますけど……」 『全部言
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!8

***  ふたりの休みが重なった夜。工房は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。窓の外では2つの月が淡く輝き、差し込む光が鍋の中のチョコレートを銀色に照らしている。 とろり、とろり。木べらを回すたび、甘い香りがゆるやかに小鍋から立ちのぼった。「リオン、混ぜすぎると分離するよ」 「そうなのか。結構難しいものだな……」 そう言ってリオンは木べらを僕に手渡し、そのまま背後に立つ。背の高い彼の影が僕を包み、気づけばその腕が僕の手をそっと包み込んでいた。 指先に重なる温もり。その熱が、手首から心臓へと伝わっていく。「ちょ、ちょっと近すぎ」 「温度を保つためだ。……チョコも人も、冷えすぎては固くなる」 低い声が耳のすぐ後ろで囁かれる。息が触れた瞬間、背筋がぶるりと震えた。 鍋の中で、カカオがとろけていく。甘く、少し苦く、どこか切ない香り――それは、ふたりの間に流れる空気そのもののよう。 リオンの手が少し力を込める。「……こうか?」 その力に導かれて、僕は彼の胸に背を預けてしまった。重なったところからリオンの体温が伝わり、息が詰まって指先が震える。「リオン、もう……これ以上は――」 「真琴、動かないでくれ。今、温度が一番いい」 耳元で囁く声は、熱を帯びていた。チョコの溶ける音が、鼓動の音と混ざり合っていく。 どれほどの時間が過ぎただろう。ようやく火を止めると、ふたりの手の中でチョコは滑らかに艶めき、まるで息づいているようにやわらかな光を放っていた。「できましたね」 「見事だ。君と混ぜたからか、ずいぶんと艶やかだ」 「そんな言い方、反則……」 顔を上げると、リオンの瞳が月光を映していた。淡い蒼の光が僕の頬を照らし、距離があと一呼吸のところまで近づく。その瞬間――唇が触れた。深くはない、けれど逃れられないほど確かな口づけ。ほんのり苦いカカオの味と、リオンの体温。世界が、ひとしずくの甘さで満たされていく。「リオン……これはチョコの味?」 「いや、真琴の味だ」 その言葉に、胸の奥が跳ねた。視線を伏せた僕の頬に、彼の指がそっと触れる。「今夜のチョコは、“ふたりの味”だな」 「そんなの……売り物にならないよ」 「いい。これは――私たちだけの秘密だから」 思わず笑って、リオンの胸に額を預けた。外では春の夜風が静かに吹き抜け、カカオの
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!9

*** ベッドで目を覚ますと、窓の外は薄い金色の光に満ちていた。 工房の片隅には、昨夜冷やし固めたふたりで作ったチョコレートが並んでいる。香りが、まだほんのりと空気に残っていた。 隣では、リオンの肩にかけた上着が少しずり落ちている。眠る横顔は穏やかで、戦場に立つときの鋭さはもうない。その表情を見ているだけで、胸の奥が静かに温かくなった。「……リオン」 小さく呼ぶと、彼はまぶたを開けてこちらを見た。「おはよう、真琴。夢じゃなかったんだな」 その声が少しだけ震えていた。「夢にしたくない」 そう答えたら彼はゆっくりと起き上がり、優しく肩に触れてくる。 朝の光が、ふたりの間をやわらかく照らしていた。昨日までの不安を、そっと溶かすように。「昨夜のチョコ、もう一度味見してみようか」 「うん。たぶん……世界一甘いと思う」 言いながら笑うと、リオンも小さく吹き出した。 木のテーブルに並べたチョコをひとつ割ると、断面から陽だまりのような香りが立ちのぼる。「これが……君の心の味なんだな」 「ううん、きっとリオンがいたから、こんな味になったんだよ」 互いに微笑み合ったその時、フェリシュがふわりと現れた。大きなリボンを震わせ、目を細めて言う。『おはよう、ふたりとも。なんだか甘い香りが残ってるねぇ~。ちゃんと約束した?』 「うん。これからも一緒に作る約束を」 僕が答えると、フェリシュは満足そうに頷いた。『なら、もう心配いらないね。きっと“幸せ”は続くわよ。だって甘さって、ちゃんと分け合えるものだから』 そう言い残し、光の粒になって消える。 リオンが僕の手を取った。指先に、まだ昨夜の温もりが残っている。「フェリシュの言うとおりだな。……これからも隣で笑ってくれ」 「はい。約束します」 窓の外では、朝の鐘が鳴っていた。新しい一日が始まる音。昨日より少しだけ、世界が優しく見えた。*** 昼下がりの王都中央市場。新しい仕入れ先を探すため、僕はリオンと一緒に出ていた。正確に言えば僕が「ひとりで行く」と言ったら、リオンが勝手についてきた。「真琴をひとりで歩かせるのは不安だ」 「今日は迷わない距離だよ?」 「関係ない」 歩幅を合わせ、半歩後ろで僕を守るように歩く王国騎士団の副団長。その表情はどこか硬いけれど、いつもの範囲――のはずだった
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!10

*** リオンが「今日は団で仕事がある」と言って、工房を出て行った朝のことを思い出しながら、彼の忘れ物を抱えて騎士団本部へと足を踏み入れた。 重厚な石造りの建物と、風になびく真っ白な旗。その下で鍛錬の音が金属のように響く。(うわぁ……いつ来ても緊張するな) 団員たちは皆、凛々しくて背筋がまっすぐで、まさしく“国の盾”って感じだった。「真琴殿、こんにちは!」 顔見知りの若い騎士が手を振ってくれる。優しいけど……やっぱり雰囲気は硬い。「副団長なら執務室ですよ!」 「ありがとう!」 礼を言って、階段を上がろうとしたとき――。「……真琴?」 低くてよく響く、あの声がした。振り向くと廊下の奥、逆光の中からリオンがゆっくりと歩いてくる。いつもの騎士服と、完璧に整えられた金の髪。冷静で隙のない、王国最強の“副団長の顔”。(あ、なんか……仕事中の顔をしてる) 団員がすれ違うたびに背筋を伸ばし、敬礼すると短く深い頷きを返していく。 厳しくて、優秀で、威厳の塊。そんなリオンが僕を視界に捉えた瞬間、表情がふっと溶けた。「真琴、来てくれたのか」 声までやわらかい。傍にいる団員が二度見した。(や、やば……! 仕事モードが一瞬で消えた!)「り、リオン! 忘れ物の書類を届けに来ただけだから……すぐに帰るからね!」 本当は、すぐにでも立ち去った方がいいとわかっていた。けれど、溶けた表情のリオンを見てしまって――足が動かなかった。「帰る?」 リオンの眉がしゅっと下がった。さっきまでの鋼鉄みたいな威厳は、どこへやら。「……もう帰るのか?」 すれ違った団員三名、その場に固まる。「えっ、副団長? 今、声……優しかった?」 「いやいや、聞き間違いじゃ……」 「“もう帰るのか”って……あれは完全に私語では? いや、恋人同士でもあれほど……」 ひそひそ声が、すべて丸聞こえである。(うわーーー!) そのことに、リオンは気づいていない。むしろ近づいてきて、僕が持ってる書類の角が曲がらないよう、そっと手を添えてきた。「届けてくれて助かった。ありがとう、真琴」 甘い、甘すぎる。これは仕事中に出す声じゃない。団員たちがさらにざわつく。「ちょっ……副団長、声! 声が!」 「あんな声、聞いたことないんだけど!」 「真琴殿って……いったい何者?」 リオン
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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!11

***  夜明けの光が、まだ眠たげな街を金色に染めていく。市場の広場では、木の屋台を並べる人々の声があちこちから響いていた。 果物、焼き菓子、香辛料、布――色とりどりの匂いと音が混ざり合い、街全体がゆっくりと目を覚ましていく。「真琴、緊張してるのか?」 隣からリオンが笑う。僕は両手に抱えた木箱を見下ろしながら、苦笑した。「少しだけ。戦場より落ち着かないかもしれない」 「ふっ……君は本当におもしろい」 ふたりで屋台に看板を掲げる――《スイート・センス》 リオンが書いてくれた文字は、まるで風に揺れる草原のようにやわらかい。 僕は箱を開け、チョコレートを並べていく。丸いトリュフ、ハート型のボンボン、そして新作の「風のショコラ」 どれも、昨夜ふたりで試行錯誤したものだった。本当は、もっと無難な形にすることもできた。それでも昨夜、リオンと並んで味を決めた記憶が自然と手を動かしていた。「よし、準備完了!」 「ああ。あとは――」 言いかけたとき、どこからか小さな光がふわりと舞い降りた。うさ耳の飾りを揺らしながら、フェリシュが姿を現す。『ふふっ、いい香り~! やっぱり来て正解だったのですぅ!』 「フェリシュ、早いね」 『だって今日は特別な日でしょう? “甘さの初陣”だもの!』 フェリシュはチョコをひとつつまみ、頬を膨らませながら言った。『うん、優しい味。ちゃんとふたりの心が混ざってるのですぅ』 「ありがとう。君がいてくれたからだよ」 『えへへ、わたしもちゃんと食いしん坊の精霊として、しっかり応援するのですぅ!』 そう言って、フェリシュは屋台の上でくるくる回りながら金の粉をまいた。瞬く間にチョコの表面がほのかに光り、通りすがりの人々が足を止める。「わあ、いい匂い!」 「これ、恋の精霊の祝福だって!」 人々の笑顔がひとつ、またひとつ増えていく。そのたびに、胸の奥がじんわりと温かくなった。 リオンが、手袋を外してチョコを一粒つまむ。僕の方を向いて、そっと言う。「見ろ、真琴。君の甘さが、この世界を動かしている」 否定する言葉はいくつも浮かんだ。けれど、そのどれも選ばずに――僕は、ただ事実を受け取った。「僕だけの力じゃないよ。これは、ふたりで作ったチョコだから」 その言葉に、リオンの蒼い瞳がやわらかく細められる。 朝の風が吹き抜け
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エピローグ ―フェリシュのつぶやき―

夜が明け、空がうっすらと金色に染まり始めた頃。工房の窓辺に、小さな羽音がひとつ響いた。 私――精霊フェリシュは真琴の肩に降り立ち、そっと寝顔をのぞき込む。頬には淡い赤みが残っていて、唇の端にかすかな笑みの跡があった。 隣では、リオンが静かに眠っている。金色の髪が窓から差す朝日を受けてやわらかく揺れ、指先は真琴の手とやさしく絡んでいた。「ふふ……やっと、ひとつの形になったのだわぁ」 ふたりのまわりに、金色の光がほのかに揺れる。それは《パーフェクト・スイートセンス》――互いの心が共鳴し合う波長の証。 “甘さ”はもう、ひとりだけのものではない。心と心が寄り添うことで生まれる、世界でたったひとつの香り。 私はその香りを胸いっぱいに吸い込んで、ほんの少し目を細めた。「ねえ、真琴。あなたがこの世界に来たとき、泣きそうな顔をしていたの、ちゃんと覚えてるわよ」 あの頃の彼は誰も知らない土地で、心の奥まで冷えていた。でも今はリオンの傍で、あたたかく笑っている。 チョコの香りが、朝の風に乗って流れていく。この香りを嗅ぐたびに、人々が少しでもやさしい気持ちになれますように。 それが、私にできる小さな祈り。手のひらをひらりと掲げ、小さな光の粒をひとつ放つ。それはふたりの頭上で弧を描き、淡い光の輪となって消えた。「どうかこの甘さが、永遠に続きますように――」 背中で結んだリボンの羽音を残して、私はまた空へと舞い上がった。 王都の朝の光が、一面に広がっていく。屋根の上から見える人々の笑顔、焼き菓子の香り、鐘の音。そのどれもが、ひとつの“幸福”に繋がっている。 ああ、本当に不思議。“甘さ”って、こんなにも世界をやさしく変えるものなのね。 だから今日も私は、大きなリボンを揺らして見守る。チョコレートと恋の香りが溶け合う――そんな世界の朝が、今日も静かに始まっていくのだから。☆このあと、番外編がはじまります。マジメな話からリオンの想いの重さに右往左往する騎士団、ふたりの結婚式(サイトによっては挿絵を挿入してお祝いします!)など盛りだくさん用意しますので、お楽しみください。
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番外編 季節のめぐりと《パーフェクト・スイートセンス》

季節が、静かに巡っていった。春に植えた庭のミントが青々と芽吹き、夏には陽光を浴びて香りを広げた。 あの朝市から一年――僕たちの小さな店《ショコラトリエ・アルセリア》は、王都の片隅で少しずつ知られるようになった。 扉を開けると、甘い香りが風とともに広がる。棚には季節ごとのチョコレートや焼き菓子、リオンが調合した香料の瓶が並んでいる。 お客様が入るたびリオンは穏やかに微笑み、僕はその隣で包装を整える。ただそれだけの時間が、なぜこんなにも幸せなのだろうと思う。 春――王城の庭で開かれた晩餐会に呼ばれ、僕たちのチョコが出された。女王陛下は口にした瞬間、少し目を細めてこう言った。「この甘さには、誰かの想いが溶けているのね」 リオンと目を合わせると彼はわずかに微笑み、僕の手をそっと握った。 夏――暑い日が続くと、店先に子どもたちが集まる。冷たいチョコドリンクを渡したら、みんな声を揃えて「ありがとう!」と笑う。 フェリシュがカウンターの上で、相変わらずお菓子をつまみながら言った。『真琴の作るチョコ、飲むと心まで涼しくなるのですぅ!』 リオンが苦笑して、「それはフェリシュが甘い空気をまいているからだ」と返す。僕は、そのやり取りがいつの間にか“日常”になっていることに、胸の奥で小さく感謝した。 秋――収穫祭の夜、広場で出した限定の“葡萄とハーブのトリュフ”が大好評だった。リオンが焼き菓子の箱を運ぶたび、袖をまくった腕に光が宿る。 その姿を見つめながら、ふと気づく。この人の隣で、僕はもう怯えていない。“届かない想い”を知っていた僕が、今は“共に紡ぐ日々”を信じられている。 冬――雪が舞う朝、店の窓辺にキャンドルを灯す。リオンが新しく作ったホットショコラは、香りだけで心が温まるほど深い味だった。 湯気の向こうで彼が微笑む。「真琴、冷えるだろう。……少し、手を貸せ」 言われたとおりに手を差し出すと、そのまま包み込まれる。指先が触れ合うたび、外の寒さなんて忘れてしまう。窓越しに見える雪は、まるで砂糖菓子のようにやわらかく溶けていった。 フェリシュが灯りの上にとまり、くすくす笑う。『やっぱりこの店は、“幸せの香り”でできてるのですぅ』 僕は微笑みながら答える。「そうだね。これからも、ずっと――」 そのとき、リオンが僕の肩に手を置いた。「真琴、次の
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番外編 アルセリア市民は見た! 商人さん視点:騎士様こわかった

王都の外れで小さな商店を営んでいる俺は、その日もいつものように荷を積んだ荷馬車を引いて街道を移動していた。 珍しい香辛料を仕入れた帰りで、気分もそこそこ上々。昼を過ぎて日差しは強かったが、馬の機嫌も良く、順調な旅路ってやつだった。 そこに突然現れた。銀の鎧がお天道様の光を反射してきらめき、馬を駆る姿はまさしく絵本で見る“白銀の騎士”そのもの。だが、俺はその気品ある美しさについて考える間もなく、(ひ、ひえぇぇえぇ!?) 心臓が一気に跳ね上がった。 騎士様――後で知るが王国騎士団副団長のリオン殿下は、まるで魔物でも探しているかのような鋭い目をしていた。 眉間には深いシワが刻まれ、俺を見下ろす蒼い目は氷みたいに冷たく、近づいてくるだけで背筋が凍りつく。「そこの商人。さきほど、このあたりを黒髪の青年が通らなかったか?」 声まで低い。冷えた刃みたいだ。俺は思わず、荷馬車ごと揺れそうな勢いで頭を下げた。「ひっ、ひいやっ、ひいっ! く、黒髪の青年でございますか!?」 「そうだ。背は高く、穏やかな目をしている。歩き方はのんびりしていて、人混みではだいたい誰かにぶつかりかける」 説明が細かい。というか騎士様が探す人物は、完全に見た目も仕草も愛おしそう。(こ、怖い……んだけど……なんだこの必死さ?) 俺は震えながら答えた。「に、似たような青年なら……一刻ほど前に道を歩いて……そ、その……道端の花を眺めておりましたが……」 思い出しながら詳細に答えると、騎士様の冷えた表情がぱあっと陽光を浴びたみたいに変わった。「ああ……やはり、この先か!」(――えっ、そんな安心した笑顔ができるんだ) さっきまでの、殺気じみた眼光が嘘みたいだった。 だがその直後、騎士様はふっと我に返ったように咳払いをし、ふたたびキリッとした顔に戻った。「助かった。礼を言う」 そう言うと馬を走らせて行ったが、その背中はまるで“恋人を追いかける青年”そのものだった。(な、なんだ今の……こわ……いや、あれは……) 俺はしばらく、その場に立ち尽くした。 怖い。確かに怖い。でも――なんか、微妙にあたたかい。 それから30分後、村の入り口でふたりを見かけた。騎士様が探していた黒髪の青年は確か真琴様と呼ばれた、最近異界から精霊によって召喚された菓子職人。 彼は、どう見ても普通の優
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番外編 アルセリア市民は見た!商人さん視点:騎士様こわかったその2

――私は、ただいつものように納品に来ただけ。ここの店主である真琴さんは礼儀正しいし、話しやすい人だ。 騎士団副団長のリオン殿が店にいると聞いたときも、正直少し緊張したが、まさかあんな目に遭うとは思わなかった。「こんにちはー、失礼します!」 いつものように店に入った瞬間、私は見惚れてしまった。そこにいたのは、完璧に整った姿勢で、やわらかく微笑む騎士――リオン殿。(うわ……なんだこの“王宮の広報に描かれる、理想の騎士”みたいな笑顔は!) 品があって、優しげで、誠実で――ちょっと近寄りがたいほど、完璧な“騎士スマイル”。 私は緊張しながら、真琴さんに挨拶した。「真琴さん、いつもお世話になっております」 「こちらこそ。いつも素材をありがとうございます」 真琴さんが笑うと、店が明るくなる。その横で、リオン殿は目を細めた。(いや……これはもう……守護神だな) そう思った矢先、違和感が走った。リオン殿が、すっと真琴さんの前に立った。それは自然な動きではある。だがわかる、あれは壁だ。完全に“間に入ってきた”動きだった。(え? なに? 私、なんか失礼した!?)「商人殿、貴殿の品はいつも素晴らしい」 耳障りのいい柔らかな声。しかも微笑んでさえいる。(なんて優しい……いや、でもなんで寒気がするの?)「いえいえ、とんでもない! 副団長殿にそう言っていただけるとは光栄で――」 「ただし」 怖かった。笑顔のまま、声だけがすっと低くなるのが、ものすごく怖かった。「真琴に“親切すぎる”必要はない」(……え? 今……なんて?) やわらかい笑みなのだ。怒っているようには見えない。けれど目が――目がまったく笑っていない。(こ、これは“笑っているのに、怒っている人”の目だ!) 私は慌てて言った。「え、えぇと……もちろん仕事上の礼儀でして……」 「なら良い」(――リオン殿、見るからによくなさそうな顔してません!?) 心の中で悲鳴をあげる。本能が訴える。(これは……大型魔獣に背を向けちゃいけない時と同じやつだ!)「真琴さんは本当にいい人ですねぇ。こんな方が恋人なら幸せでしょうに」 ただの社交辞令だった。当然深い意味はない。それなのにリオン殿が、微笑んだまま言った。「商人殿……もしや、真琴を狙っているのではないか?」 あ、これは地雷だったのか。
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番外編 リオンの嫉妬騒ぎ

 その日は、街の中心で開かれている小さな市に、ひとりで買い物に来ていた。 リオンは仕事で王城に詰めているし、今日くらいは自分で食材を選んで、何か彼の好きな料理でも作ってあげよう――なんて考えていた矢先。「……あれ? 真琴さんじゃないですか!」 声をかけてきたのは、以前に香辛料を分けてくれた青年商人だった。年も近く、笑顔が明るい。 彼は袋いっぱいの香草を抱えながら、気さくに話しかけてきた。「今日も料理ですか? あ、よかったら新しく仕入れた香草と珍しい野菜、試してみません?」 「えっ、いいんですか? でもその……タダでいただくのは」 「いえいえ! 真琴さんには、前にも助けてもらいましたし。味見がてらにどうぞ!」 どこか人懐っこくて、ありがたいけれどくすぐったい。 そのまま市場の端で、香草と珍しい野菜の説明を受けていると背筋がひやりとする。何か“影”のようなものが、後ろに落ちた気がした。「……真琴」 「ひっ!?」 振り返ると、そこにはリオンがいた。金糸のような髪が陽を反射して、いつもより冷たい。表情は穏やか……のはずなのに、目が笑っていなかった。「あ、リオン……? 仕事は?」 「終わった」 その声は静かで、けれど微妙に――低い。 青年商人があからさまに怯えた表情で、そっと距離を空けた。「あ、あの……! 騎士様……ご、ご一緒でしたか? 私はもう失礼しますので!」 「いや、別に。気にするな。真琴が迷惑をかけたわけではないだろう」 言葉だけ見れば紳士なのに、声の温度がまるで氷のように冷たい。 青年は生き延びる本能で察したのか、「で、ではまた!」と市場の喧騒に逃げ込んでいった。(……え? 今の……なんでこんなに圧かけた?) リオンは、ふぅっと息を吐き、ぐいっと僕の腰を引き寄せた。「……真琴」 「な、なに?」 「なぜ他の男と、あんなに楽しげに話している?」 「えっ……? お世話になってる商人さんで、料理に使う香草と野菜の説明を――」 「知っている。彼は商品の説明をしていた。だが、近い」 リオンの指が、僕の腰をしっかりと掴んでいる。普段は慎ましいのに、こういうときだけ強引になる。「真琴は無自覚すぎる。……あれでは、勘違いされる」 「え、いや、そんな!」 「笑っていた」 「え?」 「真琴が……他の男に向けて、あれほど柔
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