転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

68 チャプター

番外編 軍務局、“真琴の安全管理マニュアル”を作成しはじめる

◆アルセリア王国軍務局・会議室「それでは、次の議題に移ります。“副団長リオン・ヴァルハートの精神的急所に関する管理体制について”」 その言葉を聞いた瞬間、軍務局員全員の背筋が別の意味で伸びた。副団長ひとりの力で、国を半壊させる能力を持つためなのだが――。(いやその議題名、本当に扱うのか?) (団長……マジで公式化する気か?) ざわめく空気をよそに、局長は淡々と資料を配る。「先日、団長からの報告書により、副団長の精神安定性に特異な要因があると判明した」 紙にでかでかと記載されている。副団長の精神的急所:清水真琴(個人名)(名前が出てる!!) (こんなん、個人情報どころの話じゃない!!) 局員たちは震えた。「この“真琴”殿は、魔物でも敵国のスパイでもない。精霊が異世界から召喚した一般市民だ」 「はい、そのようです……」 「だが副団長は、この“真琴”殿の負傷・涙・不機嫌・他男性との会話・微笑み・褒め言葉などで、著しく戦闘力と判断力に変動が出ることが確認されている」(恋じゃん) (要するに恋じゃん) (軍務局が恋の影響で会議してるの、頭抱えるしかない) 局長は真顔で続けた。「これらを踏まえ、軍務局としては“真琴殿の安全管理”を強化し、副団長の精神状態を安定させる必要があると判断した」 「……つまり、“真琴殿を守れば副団長リオンも安定する”と」 「その通りだ。よって――」 局長はホワイトボードに大きく書いた。《真琴殿安全管理マニュアル(案)》(案ってことは、これからもっと増えるの⁉) ◆こうしてマニュアル内容が議論開始された。1.真琴殿の居場所把握「まずはこれだ。副団長の安定のため、真琴殿の動向は可能な範囲で把握する」 「追跡じゃなくて“保護”ですよね?」 「もちろん、保護だ」(言い方!!) (でも副団長が暴走する前に、場所を知っておきたいのは確かだ)2.真琴殿の負傷禁止「真琴殿が転倒・切り傷・打撲など負傷すれば、副団長の精神安定性に深刻な損害が出る可能性がある」 「“傷を見て青ざめて戦闘不能”……前例が……」(前例があったのか副団長……!!)3.真琴殿と他男性の距離「これは最重要事項だ」 「“他男性が一定距離以上近づくと、副団長の殺気が発動する”……団長の報告書に……」(団長、何を書いてるのほんとに
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番外編 真琴、軍務局の“安全管理マニュアル”を見てしまう

「真琴殿、こちらでございます」 案内された部屋の前で、僕はきょとんとした。「えっと……団長に呼ばれたって聞いたけど、なんだろう。会議で出す守護菓子の差し入れの件かな?」 「い、いえ……本日はその……副団長殿に関する、書類の確認をお願いしたいとのことで……」(――書類? リオンに関する?) 嫌な予感がした。ここに来る途中で騎士団員が“僕を直視できない”のも、すごく嫌な予感がした。「えっと……入りま――」 扉を開くと、ラディス団長が満面の笑顔で待っていた。他にも知らない人達が椅子に座って、僕の様子を見つめる。「やあ真琴殿! さぁ座ってくれ、これを見てほしいのだ!」 机の上には分厚い資料が積まれている。(……え。なんか……表紙に僕の名前?)《真琴殿 安全管理マニュアル(第一稿)》作成:軍務局・王国騎士団「…………」 固まる僕に、団長は爽やかに言った。「副団長リオン・ヴァルハートの精神状態を安定させるために、真琴殿の扱いを明文化したものだ」 「……副、団長の……精神?」 「うむ。つまり君の状態次第で、リオンの戦闘力と判断力が乱高下するだろう?」(――お、おぉぉぉぉぉい!) 団長は書類をペラッとめくり、まるで天気予報の説明みたいに平然と読みあげた。「ほら、まずここ。“真琴殿の負傷は副団長の戦闘不能を招くため、細心の注意を払うこと”」 「えええ……!」 「そして、この項目も重要だ。“他男性と真琴殿が近接して会話する際は、副団長が暴走しないよう団員が監視に入ること”」 「暴走って何ですか?」 「嫉妬だ」(――団長が真顔で言い切った!!)「続いてここ。“真琴殿に頭を撫でられると、副団長の精神が異常安定化する”」 「それ、絶対軍務書類に書く内容じゃない!!」 「そう言うが、事実なのだから仕方ない」(――いや、事実ならいいってものじゃない!) 僕は震える指でページをめくった。●副団長が真琴殿の不在で落ち込んだ場合、早急に真琴殿へ連絡し対処を依頼する。「待って? 僕、完全に精神安定剤扱いに?」 「その通りだ」(――やめてええええええええ!!)●真琴殿が泣いた場合、副団長は即時、動揺・怒気・保護行動が同時発生するため、近隣に避難誘導を行うこと。「避難? 僕が泣いたら避難されるの?」 「副団長が、周囲に危害を加える可能
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番外編 王様、ついに副団長の恋を公式議題にする

騎士団内で密かに作成された、あの問題の冊子がある。《副団長精神安定管理ガイドライン(極秘)》 本来ならば、王の目に触れるはずのない内部資料だった。ただし、この国の騎士団長という男は、そうした「常識」を守る性格ではない人物。「陛下、大変面白いものができまして」 彼はまるで余興の道具でも差し出すように、その冊子を王に献上した。国王陛下は静かにページをめくる。「……笑うだけで倒れる?」 「……囁かれると戦闘不能……?」 「……泣かれると、国境まで走る……???」 数秒の沈黙。そして次の瞬間――。「はははははははは!!」 王の豪快な笑い声が、玉座の間に響き渡った。「副団長は、恋で死にかけておるのか!!」 その爆笑は城中に広まり、あっという間に宮廷官僚の耳にも届いた。 その日の夕刻、緊急会議が招集された。 議題:『副団長リオン・ヴァルハートの恋愛問題について』 官僚Aが額を押さえる。「……失礼ですが、なんですかこの議題は」 「必要だからだ」 「恋愛を会議で扱う国がどこに……」 「ここにおるぞ」 即答である。誰もそれ以上、異議を唱えられなかった。団長は淡々と報告を続ける。「副団長は“真琴殿依存”が深刻だ。精神安定のため、真琴殿を国家級VIPとして二重登録した」 「二重登録⁉ そんな前例は――」 「良いではないか。面白いから」 部屋が静まり返る。どう考えても、この国のトップが一番たちが悪い。 王は書類を読み進め、満足げにうなずいた。「ふむ……“精霊の菓子職人”としての評価も高いが――副団長の生命維持要員でもあるのだな?」 「はい。彼がいないと副団長が壊れます」 「壊れる?」 「恋で」 「恋でぇ!!」 「よし、決めた」 王は楽しげに宣言した。「精霊に召喚された清水真琴は、国家宝級の扱いとする。“アルセリアのチョコ”は王家の特級守護菓子だ」 特級守護……菓子?「陛下、その分類には前例が――」 「よいではないか。甘くて美味かったぞ」 理由が軽すぎる。 王は筆を取り、あの冊子の裏表紙に一言を書き加えた。『国王承認:清水真琴は副団長の生存に必須。以後、全軍・全臣下は丁重に扱うこと』 官僚たちは震え上がり、団長だけが満足げにうなずいていた。 翌日。何も知らないまま王宮に呼び出された真琴は、王の前で膝をついた
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番外編 他国が真琴をスカウトして大騒ぎになる

アルセリア王国が発した布告は、あまりにも異様だった。『清水真琴は国家宝級の貴人。副団長リオン・ヴァルハートの生存に必須の人物である』 甘い。というより、率直すぎる。だが問題は、その文章が正式な外交文書として整えられ、各国へ回ってしまったことだった。 王印付き、否定不能。そして世界は、盛大に勘違いをした。最初に声を上げたのは、周辺国の一つだった。「……王国最強騎士の副団長の命を救う? そんな重要人物が“菓子職人”だと?」 別の国では、書簡を読んだ王子が椅子から立ち上がった。「“ショコラ・ド・アルセリア”を国王自ら絶賛……だと……? これは我が国でも召し上がっていただかねば!」 さらに別の国では、宰相が静かに呟いた。「その人物を招聘できれば……国威は跳ね上がる……」 こうして、世界は一つの結論に辿り着く。真琴=とんでもない奇跡を起こす菓子職人――王国最強騎士を従わせる、恐ろしいほどの美貌と力を持つ貴人。※全部ちがう。 数日後。騎士団本部に、血相を変えた使者が飛び込んできた。「だ、団長殿ッ! 他国からの特使が……!! 至急、真琴殿に謁見を求めております!!」 団長は書類を閉じ、静かに言った。「ついに来たか」 「……は?」 隣にいたリオンが、間の抜けた声を出す。「お前のせいだぞ」 「なにがだ!!!」 団長は淡々と説明した。「他国がな、“真琴殿を自国にスカウトしたい”そうだ」 「……………………は???」 声が完全に裏返った。 王宮の謁見室。緊張しながら入室した真琴の前に、三か国の特使がずらりと並んでいた。「アルセリアの真琴殿。あなたを我が国の宮廷菓子職人としてお迎えしたい」 「いや、我が国こそ! 最高級待遇と広大な厨房を用意しております!」 「魔法菓子研究の予算を無制限に出す用意があります」 「え、えええええ!!」 その瞬間だった。真琴の前に影が落ちる。リオンが、ほぼ反射で立ち塞がっていた。その速度、約〇・二秒。「真琴を……どこへ連れて行くつもりだ?」 「い、いえ、ただのスカウ――」 「帰れ」 低く抑えた声が、謁見室の空気を震わせた。苦笑いした王が呟く。「あー、始まったな……」 口の端を歪めた団長は、思いっきり目を逸らした。(――うん、これは止まらん) 特使たちは、完全に青ざめていた。
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番外編 他国の姫が真琴に友達申請して、リオンが静かに泣く

外交問題が、ようやく沈静化したころ。アルセリア王宮に、一通の手紙が届いた。淡い香を残す封蝋には、優雅な紋章。差出人は隣国ルミナシア王国第一王女、アナスタシア殿下。 王は手紙を読み、ぱっと顔を上げた。「おお、あの姫が? ……で、真琴を呼んでほしいと?」 「……またか」 団長は天を仰ぎ、リオンは無言で頭を抱えた。嫌な予感しかしない。 謁見室。呼び出された真琴は、いつも通り丁寧に頭を下げた。「はじめまして。清水真琴と申します」 その瞬間だった。「……っ!」 アナスタシア姫――14歳。彼女の瞳が、宝石のようにきらきらと輝いた。「あなたが! “ショコラ・ド・アルセリア”を作られた職人さまなのですね!」 「えっ、えっと……はい」 「お会いできて光栄です……っ!」 姫は胸の前で両手を組み、王宮中に響きそうな勢いで声を弾ませた。「真琴さまのチョコレート、本当に……本当に素晴らしくて! 私、ずっとお話してみたかったのです! お、お友達になっていただけませんか?」 「えっ……友達?」 真琴が戸惑った、その刹那。「……友達?」 誰よりも早く反応したのは、リオンだった。「はいっ! 国境を越えた友情です!」 「いいですけど……」 「よくない」 「「え?」」 真琴と姫の声が綺麗に重なった。リオンは一歩前に出て、姫に向き直る。礼儀は完璧だが、声は低くて硬い。「姫殿下。真琴は……大切な存在です。不用意に近づけば、誤解が生じます」 「誤解?」 「リオン、何を言って──」 「……私は……真琴を“友達以上”だと思っているので……あまり……」(――言った) 団長は目を逸らし、王は満足げに口元を緩め、真琴は顔を真っ赤にした。「…………え?」 姫は一拍置いて、真琴をじっと見つめる。「ひょっとして……真琴さまは……」 「ち、ちょっと待って!」 「副団長殿の……“大切な人”なのですか?」 次の瞬間、アナスタシア姫の表情がぱぁぁぁぁと、花が咲くように輝いた。「な、なんて尊い!!」 「待って! と、尊いって言いました?」 「ごめんなさい! おふたりの恋路を邪魔するつもりはありませんわ! でも、友達には……なってくださいますよね?」 「あ、うん。それは全然!」 「よかったぁぁぁ!!」 姫は嬉し涙をぽろぽろとこぼした。(――泣いた
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番外編 団長主催・“真琴護衛研修”

嫌な予感は、朝からしていた。団長がああいう笑みを浮かべる時、ろくなことが起きない。これは経験則だ、外れたことは一度もない。「本日の研修テーマは──《真琴殿を安全に守るための実践講座》だ」 そんな研修の話なんて――。「聞いてない」 「副団長不在時のシフト制護衛が決まった以上、全員の必須科目だ」 さらりと言われ、胃の奥がきしむ。隣に立つ真琴が、きょとんとした顔で首を傾げた。「えっ、僕、見学でいいんですよね?」(真琴……なぜ、そんな期待に満ちた目で私を見る)「何を言う。主講師だ」 「え?」 「え?」 私と真琴の声が、完全に重なった。周囲がざわつく。「公式講師……」 「尊い……」 「神回では?」 やめろ。まだ何も始まっていないのに、嫌な単語を並べるな。「団長!! 真琴を講師にする必要はない!」 「ある。真琴殿を理解せずに護衛などできん」 私は、個人的に理解している。だからこそ、これ以上公にしたくない!「“本人から学ぶ”のが最も早い」 「(くそぉ……)」 真琴はというと、小さく肩をすくめている。「えぇ……僕、そんなに?」 そんなに、だ。「では講師、お願いします」 真琴が前に出るだけで、視線が集中する。やめろ。見るな。囲むな。「真琴殿は、よく“ぽやっと”されますよね」 誰だ、今言ったのは。「ぽ、ぽやっと……?」 「何かに見惚れて立ち止まることが多いと、副団長から聞いてます!」 言ってない!!……いや、言ったかもしれないが。「真琴殿は自然物が好きだからな。花、空、鳥……それらに気を取られやすい」 「つまり“周囲の確認を代行する護衛が必要”ということだ」 「なるほど!!」 ……全部合っているのが腹立たしい。真琴が耳まで赤くして俯いた。「うぅ……恥ずかしい……」 その恥ずかしがりの顔、かわいいからやめろ。「では次。真琴殿の弱点は──」 「全部言うな」 「1:方向音痴」 真琴の息が小さく詰まる。「2:初対面でも優しくされると、付いていく可能性がある」 「付いていきませんっ!」 「3:褒められると警戒心を失う」 「失いません!」 「全部、めちゃくちゃかわいい弱点……」 「やめろォ!!」 視線を集めるな。 評価するな。 記録するな。「4:副団長が絡むと、知能指数が急激に下がる」 「
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番外編 重い想い

真琴が、私の腕の中で静かに呼吸している。それだけで、胸の奥がじわじわと熱くなる。研修の喧騒も、団長の顔も、騎士たちの視線も、もうどうでもいい。ここにいるのは、私と真琴だけ。 ……それでいい。 私はもともと、独占欲の強い人間ではなかった。護衛は冷静であるべきだし、感情に振り回されるのは未熟の証だと思っていた。 ――少なくとも、君に出会うまでは。 真琴は無自覚だ。自分がどれほど周囲を狂わせる存在かを、何ひとつ理解していない。笑うだけで人の足を止める。名前を呼ぶだけで思考を奪う。触れられれば、こちらの理性が先に崩れる……危険すぎる。 私は、腕に少し力を込めた。「……リオン?」 不安そうな声を聞いて、すぐに腕の力を緩める。「すまない。驚かせたか」 「ううん……」 そう言って、真琴は額を私の胸に押しつける。 無防備――信頼しきっている。それが、何よりも恐ろしい。 誰にも渡せない。誰にも見せたくない。今日の研修で、はっきり分かった。真琴は「守るべき存在」などという生易しいものではない。 守らなければ、簡単に奪われる。 国や人に。善意という名の無数の手に。 私は真琴の顎に手を添えて、そっと顔を上げさせた。「……真琴」 「な、なに……?」 互いの視線がかち合う。「今日、誰かに触れられるのを見て……思ったことがある」 「……うん」 覚悟を決めた目だ……かわいい。「耐えられなかった」 「……そんなに?」 私は小さく笑う。「君は、私の理性を過信しすぎている」 額を合わせる距離で顔を寄せたら、吐息が触れる。「護衛としては失格かもしれない。だが……恋人としては譲れない」 真琴の喉が、こくりと鳴る。「……誰にも、触れさせたくない」 「……」 「君が驚く顔も、照れる顔も――」 声がさらに低くなる。「安心して身を委ねるのも……私だけでいい」 逃げ道を塞ぐように、腕を回す。それでも力は入れない。拒まれたら、終わりだから。「……リオン」 真琴が私の名前を呼ぶ。それだけで胸が締め付けられる。「そんなふうに思ってくれてるなら」 「……なら?」 真琴は少し迷ってから、私の首に腕を絡める。「僕も、リオン以外に触れられるの……あんまり……」 その先は、言葉にならない。 ――ああ。私は、完全に理性を失った。だからこそ、丁寧に真
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番外編 自己分析と団長に抗議!

……重い。自分でも分かっている。真琴を腕に閉じ込めたまま、動かさない。離す気もない。離れる理由もない。 ――私は重い男だ。 真琴の言葉が、まだ胸に残っている。「リオンが重いの、嫌いじゃない」 その一言で、何が起きたか……終わった。私の中で、最後の歯止めが外れた。 真琴は眠そうに、私の胸に額を預けている。無防備で警戒ゼロ。私に対する信頼100%……これは危険すぎる。(真琴は……自分がどれほど、私を壊しているか分かっていない) 抱き寄せる腕に、無意識に力がこもる。「……リオン?」 不安そうに名前を呼ばれる。(――しまった) 私はすぐに力を緩め、低く言う。「……すまない」 「え? どうしたの?」 ――違う。本当は、謝る理由なんてない。ただこれ以上強く抱いたら、彼の逃げ道を完全に塞いでしまうと分かっているだけだ。 私は、静かに自分を分析する。昨日までの私は、こうだった。 守る、隠す、近づけさせない だが今は、違う。 ――囲いたい。国がどうとか。護衛がどうとか。全部が後付けだ。真琴がここにいて、私の腕の中で息をしている。それだけで十分なのに、それ以上を欲しがっている。「……真琴」 「なに?」 答える声が柔らかすぎて、否応なしに胸が痛む。「……私が重いのは」 「うん?」 「分かっているか」 真琴は少し考えてから、首を傾げた。「……たぶん?」 ――ああ。“たぶん”で許してしまうところが、かなり危険だ。「……自覚している」 「え?」 「私は、真琴を」 少しだけ言葉を選ぶ。「……手放す気が、最初からない」 真琴の指が、私の服をぎゅっと掴む。「……うん」 否定しない上に逃げない。しかも素直に受け入れる――最悪だ。「だからな」 私は、額を真琴の髪に当てる。「これから、もっと重くなる」 「えっ?」 「覚悟しろ」 「ちょ、ちょっと待って?」 声は焦っているのに、体は離れようとしない……知っている。真琴はこういう時、あえて逃げない。「独占する」 「えっ」 「隠す」 「えっ」 「選ばせない」 「えっ」 真琴の耳元で、一つずつ低く告げる。忘れられないように――いつでも思い出せるように。「私以外を選ぶ理由を」 「……」 「考えさせない」 真琴の顔が、みるみる赤くなる。「リオン……それ、相当
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番外編 末期の行方

その日の朝、私は非常に機嫌が良かった。理由は単純だ。 真琴が、私の重さを受け入れてくれている……いや、正確には受け入れている自覚すらないまま、逃げていない。これがどれほど危険で、どれほど尊いか。分かっていないのは本人だけだ。「副団長、報告書を持ってきた。確認してくれ」 団長が、書類を机に置く。私は受け取りながら、真琴の方を見る。今も少し離れた席で、私の仕事を手伝うために作業中。(私の視界にいて、呼吸している。よし……完璧だ!)「……副団長」 団長が、妙に静かな声を出した。「はい」 「最近」 じっと私の顔を見つめる。「お前、落ち着いているな」 「はい」 正確には、真琴が視界にいる限り安定している。 団長は腕を組み、少し考え込むように唸った。「なあ、副団長」 「はい」 「お前、夜はちゃんと寝ているか?」 「真琴が一緒な――」 「はいアウト!」 なぜか即座に遮られた。「あーあ、聞くまでもなかった」 何が問題なのか分からない。「団長?」 「黙れ!」 団長は深く息を吸い大きく吐いた。呆れ果てたと言わんばかりに、白い目で私を凝視する。「副団長について最近の報告が、たくさんあがっている」 私の前に利き手を見せて、わざわざ指を折り始めた。「真琴が別室に行くと不機嫌。他国の騎士が真琴に距離を詰めると殺気。“重い”と言われて嬉しそう。抱き締めたまま離さない。“守る権利”を自分のものだと公言」 ああ……全て正確だ。「それの、何か問題でも?」 団長がすごく嫌そうな表情をして、頭を抱えた。「問題しかない。副団長」 「はい」 「お前、自覚はあるか?」 「重いことですか?」 「あるんだな」 「はい。末期です!」 団長は、しばらく黙った。 不意に真琴を見る。真琴は、こちらに気づいて小さく手を振った。私は、無意識に口元を緩める。その瞬間、室内に大きな溜息が漏れ出る音が響いた。「はああぁ、副団長……お前、もうダメだ」 団長が、完全に悟った声を出した。「?」 「副団長」 真顔で言う。「もう結婚しろ」 「……はい?」 「今すぐじゃなくていい。だが近いうちにだ。じゃないと」 私に向かって指を差す。「お前が業務中に、“真琴不足”で暴走する未来が見える!」 「しません」 「もうしてる。それにだ」 団長は声を
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番外編 同居初夜

夜は、静かすぎるほどだった。王都の喧騒が嘘のように遠く、灯りを落とした部屋には、真琴の呼吸の音だけがある。 同じ屋根の下、同じ部屋。それだけで、胸の奥が落ち着かない――同居は、あくまで護衛上の判断だった。 頭では、何度もそう言い聞かせている。だが、目を閉じて眠ろうとする真琴を横目に見るたび、理性は簡単に揺らいだ。「……リオン、まだ起きてる?」 布団の中から、遠慮がちな声が聞こえた。「起きている」 「……即答だね」 くすっと笑う気配。その小さな音だけで、胸がぎゅっと締めつけられる。 起きているに決まっている。眠れるわけがない。彼がすぐ手の届く場所にいるという事実だけで、神経は張り詰めたままだ。「眠れない?」 「……いや」 「絶対うそ」 真琴は体を少し起こして、こちらを見た。薄暗い中でも分かる。心配そうな目。「護衛だから……緊張してる?」 違う、と言いかけて、言葉を飲み込む。護衛だから、ではない。護衛“なのに”。「……少し、考え事をしている」 「考え事?」 ためらいが一瞬、喉を詰まらせた。だが、言わなければならない。今夜、話しておくべきことだ。「近いうちに、任務が入る」 真琴の瞬きが、ぴたりと止まる。「……任務?」 「ああ。数日ほど……王都を離れる」 胸の奥が鈍く痛む。自分で決めた任務だ。国のため、騎士として当然の仕事。それでも――。「そっか……」 真琴は、すぐに笑った。気を遣うような、やわらかい笑顔。「お仕事だもんね。仕方ないよ」 その言葉が、何より苦しかった。 仕方ない。当然。理解している――それが分かっているからこそ、言葉を選ばずにはいられない。「……離れるのが、不安だ」 真琴の目が、少しだけ見開かれた。「リオンが?」 「ああ」 情けないほど、正直な声だった。「君を……私の視界から外すのが、すごく怖い」 私の弱音を晒す言葉で、真琴に呆れられて、叱責されても仕方がないと思った。 重すぎる。騎士として、恋人として――。 でも真琴は怒らなかった。布団の中から、そっと手を伸ばしてくる。「……重いね」 小さな声に、胸がずしりと沈む。「すまない」 謝罪は、反射だった。けれど――。「リオン、僕はね」 指先が、私の手に触れた。「嫌じゃないよ」 その一言で、何かが壊れた。離れていた距離を詰め
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