All Chapters of 転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる: Chapter 61 - Chapter 69

69 Chapters

番外編 各国からの贈答品

翌朝、目を覚ました瞬間、違和感があった。「……重い」 腰に腕。というか、完全に抱き枕扱いされている。「……リオン、起きて」 「起きている」 「じゃあ離れて……」 「無理だ」 即答した直後、蒼い瞳を細めたリオンが不敵に微笑んで言葉を続ける。「昨日、公の場で既婚者宣言をした」 「うん……」 「その後、真琴が隣にいることを再確認する必要がある」 「なんなのそれ、理由が重い!」 そのとき。 ――ドンドンドン!! 扉が激しく叩かれた。その様子はまるで、これから悪いことでも起こるような雰囲気で。「副団長殿!! 至急!!」 リオンが、ようやく体を起こす。僕もそれに倣ってのっそり起きたものの、太い二の腕がしっかり腰に回っていた。「どうした」 「……あの……その……」 扉越しの声が、明らかに引きつっている。「各国からの……贈答品が……」 「贈答品?」 昨日の今日である。どうにも嫌な予感がした。「……どれくらい?」 「……廊下が……ほぼ埋まりました」 「埋まりました⁉」 ふたりで顔を見合わせて驚き、慌てて身支度をして扉を開けた瞬間――見えた。 箱の山――宝石箱・木箱・金属箱。しかもでかいものが多数!「……なにこれ」 扉をノックしたであろう団員が、青い顔で説明する。「ええと……“副団長殿の伴侶・真琴殿へ”という名目で……」 「伴侶って書いたの誰?」 「……全員です……」 箱の札を見て、僕は言葉を失った。『東方連合より、永遠の祝福を』 『北海王国より、護符と宝飾一式』 『南方諸国より、夫婦円満の香油』 『敵国(元)より、心からの謝罪と絹織物』「え……敵国まで?」 リオンが、満足そうに頷く。「よし」 「よしじゃない!!」 「世界に真琴が私の伴侶だと、伝わった証拠だ」 「これ、伝わりすぎだよ!!」 団長が、廊下の向こうから現れた。目が死んでいる。「……副団長」 「なんだ」 「各国から“伴侶殿の好み”についての問い合わせが来ている」 「答えは一つだ」 「嫌な予感しかしない」 リオンは、一切迷わず言った。「私だ」 「……は?」 「真琴の好みは、私だ」 「質問の意味が違う!!」 王様まで出てきた。「……真琴殿」 「は、はい……」 「これはもう……外交案件だ」 「えっ」 「贈答品
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番外編 中身を身につけた結果、街が終わった話

 正直に言う。外に出るべきじゃなかった。「……リオン」 「どうした」 「なんで僕、国家級のマント着て、呪いも刃も通らない服着て、危険察知の鈴をつけてるの……」 「安全だからだ」 「安全すぎて、逆に目立つよ!!」 アルセリアの朝市。僕が一歩踏み出した瞬間――チリンと鈴が鳴った。「え」 その音に反応した周囲の人々が、一斉にこちらを見る。「……今の音……」 「まさか……」 「国家宝級貴人が……?」 ざわ……!「いや違う違う違う!! 僕、普通に歩いただけ!!」 「チリン」 「ほらまた!!」 リオンが即座に剣に手をかけた。「……誰だ」 「誰も何もしてない!! ただの段差!!」 パン屋の店主が震えながら言う。「ま、真琴様……本日はお買い物で?」 「う、うん……いつも通り……」 「いつも通り(国家装備)……」 通りの向こうで、小さな子どもが転びそうになるのが目に留まった。「チリン!」 リオンが一瞬で移動。子どもを抱き上げ、周囲を睨みつける。「怪我はないな」 母親が青ざめて頭を下げる。「も、申し訳ありません!!」 「え? なんで謝るの?」 「危険を察知しただけだ」 「僕の鈴が過敏すぎる!!」 街の人々、ひそひそ。「やはり真琴様が歩くと、副団長が即発動する」 「守護半径が街全体……」 「生きてる結界……」 やめて!! まるで都市伝説みたいになってる!! そして問題は――香油だった。 帰り道。リオンが、やけに静かになった。「……リオン?」 「……」 「リオン?」 「……真琴ぉ……」 声が、とろとろに甘い。「え、なに……?」 次の瞬間、がしっと抱き寄せられた。「……落ち着く……」 「ちょ、リオン! 外!! ここ外だから!!」 「香りが……君が近くて……」 「それ香油!! “精神安定用”のやつ!!」 出かけ始めた時のリオンの反応が敏感だったから、少しだけリラックスするように香油の匂いを嗅がせたのが間違っていた。(――これ、完全に効きすぎてる!!) リオンの額が、僕の肩にぐりっと当たる。「……もう……ここでいい……」「よくない!! 街の真ん中だからね!!」 通行人がまじまじと僕らを眺める。「副団長……溶けてない……?」 「真琴様に接触して……」 「溶けた……」 見るからに蕩
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番外編 白銀の誓いと、とろける祝福

 ――結婚式当日、王都は朝からざわついていた。理由はひとつ。「副団長が、結婚するらしいぞ」 「“らしい”じゃない、“する”だ」 「しかも団長が仕切ってる」 「……あの人が?」 騎士団本部の空気は、戦前よりも張り詰めまくった状態だった。「よし! 配置確認! 装飾班、花は左右対称だと言っただろう!」 「団長、ここは祭壇ではなく大聖堂です!」 「知っている! だからこそ完璧にする!」 団長はなぜか正礼装と指示書を三冊抱え、完全に自分の結婚式のテンションで走り回っていた。 誰も止めない。止められない。なぜなら――。「……団長、張り切りすぎでは」 「副団長の人生最大案件だぞ? 手を抜く理由があるか?」 その背後で、騎士団員たちは一斉に頷いた。*** 祭壇の前。白い装飾に包まれた大聖堂で、真琴は少しだけ緊張していた。けれど――。「真琴」 リオンに名前を呼ばれた瞬間、その緊張は全部が綺麗に溶けた。 白銀の甲冑を礼装用に仕立て直したリオンが、まっすぐ真琴を見ている。いつもの鋭さは影を潜め、代わりに浮かぶのは、どうしようもなく優しい眼差しだった。 リオンの手が、迷うことなく真琴の腰に添えられる。そして彼の耳元で、低く囁いた。「逃げないでくれ。今日は」 「逃げないよ。伴侶を置いてどこに行くの」 その一言で、リオンは完全に落ちた。腰に回る手の力が、ほんの少しだけ強くなる。 ***「では誓いを――」 司式を務める神官の声が響く。リオンは、迷いなく真琴の前に跪いた。王国騎士団最強と謳われる男が、ただ一人の前でだけこうして膝を折る。「……この人を生涯の伴侶とし、命を賭して守ることを誓います」 ざわ、と騎士団が揺れた。「“命を賭して”は誓約文に含まれていないぞ!」 「副団長仕様だ」 「むしろ、まだ控えめだろ」 真琴は小さく笑って、リオンの手を取る。「僕も誓うよ。君の隣で生きるって」 その瞬間、指輪がはめられ、方々から白い花びらが舞い、ラディス団長が誰よりも大きく拍手した。「よし! 誓いのキスだ!!」 「団長、声がでかい!」 リオンは一切気にせず、真琴の頬に手を添え――誓いのキスを丁寧に落とした。*** 式のあとは、騎士団総出の祝宴。「副団長、おめでとうございます!」 「既婚者です!!」 「副団長、料理を――」
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番外編 王国最強騎士(既婚)の通常運転

 後日。アルセリア王国と小国ベルグラードの国境付近にて、合同警備の名目で行われた非公式会談。 出席者は最小限――のはずだった。問題は、副団長リオン・ヴァルハートが同行したことである。「……あの」 ベルグラード側の使節が、恐るおそる口を開いた。「貴国の副団長殿は……その……」 視線がリオンの左手 → 指輪 → 胸元 → 無表情と、明らかに怯えた軌道を描く。「何か?」 リオンはいつも通り、落ち着いた声で返しただけ。それだけで、相手が一歩下がった。「い、いえ!! その……既婚と伺いまして……」 「事実です」 即答しただけで、なぜか周囲の空気が一段階冷えた。「……伴侶を、溺愛されているとか……」 「当然です」 ワケのわからない質問に、リオンは不思議そうに眉を寄せる。「それが何か?」 ベルグラード使節団の中で、誰かが喉を鳴らした。彼らが恐れていたのは、剣でも戦術でもない。「(聞いたか……? 副団長殿は、伴侶の名を出しただけで敵将を折ったと……)」 「(あの“ショコラ職人”が? あの人を怒らせたら終わりだという噂……)」 「(しかも既婚……守るものがある騎士は、最も危険だ……)」 完全な誤解である。だが誤解は噂を呼び、噂は恐怖を育てる。「……副団長殿」 使節の代表が、意を決したように言った。「今回の国境問題ですが……我が国としては、全面的に譲歩する用意が……」 「?」 リオンは一瞬、思考が追いつかなかった。「なぜです?」 「え?」 「こちらは、対等な協議を――」 「い、いえ!! その……ご伴侶に、万一のことがあっては……!!」 「?」 完全に意味がわからない。だが次の瞬間。「……もし、副団長殿が“伴侶を悲しませた国を許さない”と判断されたら……」 その場の全員が、同時に背筋を伸ばした。リオンは、ゆっくりと瞬きをする。「……伴侶は、私が悲しませない」 静かで、揺るぎない声。それが――とどめだった。「降伏条件を文書にまとめます!!」 「早く!! 署名を!!」 「副団長殿のご機嫌を損ねるな!!」 「だから何の話だ?」 数刻後。アルセリア側の記録官が、差し入れを持参した真琴に小声で囁いた。「……副団長の“既婚者オーラ”が、また一国を折りました」 「えっ」 「剣、抜いてません」 「えっ」 「名前も出
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番外編 国家機密文書を本人に見せてはいけない理由

「……ラディス団長」 「何だね、真琴殿」 「これ……僕の、評価書……ですよね?」 真琴は、両手で分厚い書類を持ったまま固まっていた。表紙には、はっきりと書かれている。《王国重要人物・特別評価報告書》――対象者:清水真琴「見せるつもりはなかったんだが」 団長は遠い目をした。「副団長が“伴侶に隠し事はよくない”と言い出してな」 「リオン……!」 真琴は思わず書類を抱きしめてしまう。(や、やだ……絶対大げさに書かれてる……) ドキドキしながら、ページをめくる。【総合評価】危険度:極めて高い(本人に自覚なし)「……ん?」 真琴は一度閉じてから、もう一度開いた。「き、危険度?」 「読み進めていいぞ」 「よ、よくない気がします……」 それでも、真琴は続きを読んだ。【影響範囲】 ・副団長(王国最強戦力) ・騎士団全体 ・王宮上層部 ・同盟国 ・敵対国(士気低下・戦意喪失)「……え?」 真琴の喉が、こくりと鳴った。「えっ、敵対国?」 「最近は“真琴殿が来る可能性がある”だけで、撤退する例も出ている」 「!?!?!?」 真琴は、ページをめくる手が震え始めた。【特記事項】 ・対象者が穏やかな笑顔で発言した場合、周囲は“最後通告”と誤認する傾向あり ・対象者が困惑した場合、“怒りを抑えている”と誤解される ・対象者が謝罪した場合、“慈悲”と受け取られる「……」 真琴は、声が出なかった。(僕、全部……普通に……)次のページ。【副団長との関係性】 ・対象者の安全=国家戦力の安定 ・対象者の情緒変化が副団長の戦闘力に直結 ・対象者が落ち込んだ場合、周囲は緊急事態と判断すべき「……」 真琴は、そっと書類を閉じた。「……ラディス団長」 「何だ」 「僕……」 声が、かすれた。「もしかして、国を背負ってます?」 団長は、はっきりと言った。「背負っているというより、国が真琴殿を背負っている」 「ひっ……」 そこへ。「真琴」 聞き慣れた声がした。リオンが団長室に入るなり、真琴に話しかける。「評価書、見たか」 真琴は、ゆっくり振り向いた。「……リオン……」 「大丈夫だ」 リオンは迷いなく言った。「私は、全部込みで守ると決めた」 「そういう問題じゃ……!」 真琴は思わず声を上げた。
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番外編 騎士団、守るものを盛大に間違える

団長はその報告を受けた瞬間、静かに天を仰いだ。「……で?」 報告役の団員が、冷や汗をだらだら流しながら言う。「敵国・ヴァルグレインより、正式な外交文書が届きました」 「うん」 「内容が……」 団員は、そっと差し出した紙を開いた。『貴国の“真琴殿評価書”を拝読いたしました』「なぜある?」 「なぜ読めている?」 「なぜ“拝読”?」 事務室が地獄絵図になった。「経路を洗え!!」 団長の怒号に、団員たちが次々と報告する。「写しを取ったのは私です!」 「保管庫に入れたのは俺です!」 「整理中に“参考資料”としてまとめました!」 「“副団長案件フォルダ”に入れました!」 「そのフォルダ、誰でも見れるだろ!!」 「だって“国家重要”って書いてあったので……」 「重要だから隔離しろ!!」 団長、机に突っ伏す。「お前たち……宝石を市場に放置するタイプか……」 一方、敵国ヴァルグレイン。軍議室は、異様な静けさに包まれていた。「……これが……噂の……」 敵将が、震える手でページをめくる。【抜粋】 ・真琴殿が名前を呼ぶと士気が上がる ・謝罪されると罪悪感が増幅する ・副団長リオンの戦闘力が不安定化(主に激増) ・危険度は本人の自覚と反比例する「……人質にしてはいけない人物、というより……」 額の汗を拭いながら、参謀が呟く。「触れてはいけない概念では?」 「“普通にしたい”と言ったら、危険度が上がるって何だ」 「これは……兵器ではない……」 「むしろ、災厄に近い」 敵将が、あるページで完全に動きを止めた。【非公式追記】 ・真琴殿が「不安だ」と言った直後、副団長が単騎で敵を殲滅した事例あり「…………」 敵将、ゆっくり立ち上がる。「戦争は中止だ」 「将軍!」 「勝てる気がしない」 「そもそも……」 敵将は、遠い目をした。「あの人に悲しい顔をさせたら、世界が終わる」 *** 「団長、敵国が降伏を打診してきた」 王が言うと、団長は無言で机に額を打ちつけた。「理由は?」 「“真琴殿をこれ以上怖がらせないため”という理由らしい」 団長の傍に控えていた真琴が、呆けた顔をする。「……え?」 リオンがわかったような面持ちで頷いた。「……だろうな」 真琴は、完全に理解できていない。「えっと…
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番外編 一日だけの新婚旅行

――副団長リオン=ヴァルハートの記録(私的)―― これは公式記録ではない。王宮にも騎士団にも提出しない、私個人の覚え書きだ。理由は単純。提出したら、間違いなく止められる。 出発前に、真琴が心配そうな表情を浮かべて口を開く。「……リオン、本当に一日だけでいいの?」 言いながら、少し申し訳なさそうに微笑った。その表情だけで、私はすでに旅行に満足していた。「一日あれば十分だ。君が隣にいる」 「それ、新婚旅行として正解なのかな?」 正解だ。ただし問題は――世界がそれを許さないことだろう。 行き先は王都近郊・湖畔の町。距離は馬車で半日。“近場”という名目で、団長と王宮を黙らせるための選択だった。 しかし到着してすぐ、違和感があった。 ――静かすぎる。湖畔の町は本来、観光客で賑わう。しかし今日は、妙に人の動きが整いすぎていた。 真琴がキョロキョロしたあと、小さく言った。「ねぇリオン……みんな、こっち見てない?」 見ている、見ないふりで。私は即座に理解した。(……情報が漏れたな) 宿に着くと、支配人が深々と頭を下げた。「副団長殿、真琴殿……本日は“最上の部屋”をご用意しております」 「頼んでいない」 「はい。ですが“念のため”」 真琴が小声で囁く。「ね、念のためって?」 「気にするな。私がいる」 支配人の目が一瞬、安堵で潤んだ。(……なぜ安心する?) 湖の岸辺を歩いていると、明らかに“訓練された動き”の集団が距離を保って配置された。 敵ではない、護衛だ。しかも他国の。真琴がその事に気づいて、目を瞬かせる。「リオン……あの人たち、もしかして騎士?」 私は即、真琴を背後に庇った。「出てこい」 空気が割れた次の瞬間、湖畔の茂みから三人の男が姿を現す。「失礼を……!」 その場で一斉に膝をつく。「我々は隣国ヴァルグレインの者。本日は“偶然”この地を通り……」 「嘘だな、目的を言え!」 男は汗をかきながら言った。「……真琴殿に、何もしないことを誓いに来ました」 「は?」 真琴が私の背後から、困惑した声を出す。「え、えっと?」 「評価書の件で……もう我々は十分に……」 私は理解した。(“何もしない”ことを、わざわざ宣言しに来たのか) 真琴は一歩前に出て、柔らかく頭を下げた。「わざわざありがとうございます。
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番外編 団長、頭を抱えるの巻

 報告書を読んだ瞬間、私は机に突っ伏した。「……副団長」 いや、もう違うと咄嗟に考えて言い直した。「既婚・副団長・災厄発生装置」 なぜこうなった。 問題の報告書  ■件名 一日新婚旅行(非公式・近場)報告  ■同行者 真琴  ■内容  ・アルセリア王国に隣接する湖畔の町に滞在  ・一般市民との軽度接触  ・武装集団と遭遇(戦闘なし)  ・全員が自主撤退  ・特に問題なし「……どこをどう見て“特に問題なし”なんだ」 武装集団が戦闘前に泣きながら帰る時点で問題だ。「団長、追加報告です!」 「嫌な予感しかしないが聞こう」 「敵国側から報告書が届きました!」 ……報告書?「“真琴殿が穏やかに微笑んだため、部隊の士気が崩壊しました”とのことです!」 私は静かに天井を仰いだ。「……もう“殿”扱いか」 国際問題が、また一歩近づいた音がした。そのとき、当の本人が部屋に入ってきた。「団長、お忙しいところすみません」 礼儀正しい。無害。善人。なお、災厄。「新婚旅行、どうだった?」 私は慎重に聞いた。「はい! とても普通で、穏やかに過ごすことができました。これお土産です。騎士団の皆さんにもどうぞ」 普通。普通……?「湖がきれいで、人も親切でした。途中で、ちょっと緊張してる方たちに会いましたけど……」 「“ちょっと”?」 「はい。何も起きませんでしたし」 ……起きている。世界の均衡が。 後ろから、リオンが現れた。指輪が、無言で存在感を主張している。「問題はなかった」 断言するな。「君が笑ってくれたからな」 やめろ、それが一番危険だ。「真琴殿」 「はい?」 「君はな……存在そのものが、既に“事件”なんだ」 「……え?」 本気で分かっていない顔を目の当たりにして、私は頭を抱えた。「君が“普通”だと思っている、それはな――」 一拍置いてから、きちんと告げる。「国家非常事態ギリギリだ」 真琴が青ざめた。「えっ?」 遅い、遅すぎる。「副団長」 「はい」 「しばらく、新婚旅行は禁止だ」 「……なぜだ」 「世界のためだ」 リオンは不満そうに眉をひそめたが、真琴が慌てて止めた。「リオン、団長の胃を大切にしよう?」 私はその一言で、胃が救われた気がした……ほんの一瞬だけ。「次は控えめにします
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番外編 真琴が倒れ、世界がひっくり返る日

それは、本当に突然だった。書類の整理を手伝っていた真琴が一歩、前に出て――ふらり、と傾いた。「……あ」 短い声。次の瞬間、床に崩れ落ちる身体。「真琴!!!!!」 目の前の世界が止まる。 反射だった。距離なんて関係なかった。鎧の重さも、床も、全て無視して――私は真琴を抱き止めていた。「真琴、目を開けろ。……真琴!!」 返事がない。呼吸はある。鼓動も、ある――だが、意識がない。その瞬間、私の中で何かが切れた。「下がれ」 低く、震える声を発した後に、足元から魔法陣が展開された。「ちょっ、副団長!」 「まさか、ここで高位回復を――!」 「静かにしろ!!!」 怒号と共に光が溢れる。治癒魔法。いや、治癒を超えた“強制回復”。「……っ」 真琴の眉が、わずかに動いた。肌に血色が戻り、呼吸が安定する。「……大丈夫だ。私がいる」 額に手を当て、魔力を流し続ける。周囲、大混乱!「副団長が……魔法を……?」 「しかもあの出力……城が吹き飛ぶぞ!」 「医務官!! 医務官はどこだ!!」 「いや、もう治ってないか?」 団員たちが右往左往する中、「落ち着け!!!」 団長の怒鳴り声が響いた。「真琴殿は――」 言いかけて、言葉を詰まらせる。なぜなら副団長が、泣きそうな顔で真琴を抱いているからだ。 真琴、目を覚ます。「ぅ……ん……」 かすれた声。「り……リオン……?」 その一言で、魔法がぴたりと止まった。「……っ」 深く、息を吐く。「……よかった……」 額を押しつけるようにして、真琴を抱きしめた。「心臓が、止まるかと思った……」 真琴、混乱する「……え? えっと……?」 周囲を見回す。 騎士団が、半壊レベルの騒ぎになっていた。団員たちが青ざめ、団長が頭を抱え、医務官が走り回っている。「これ……なにがあったの……?」 「倒れた」 「え?」 「倒れた。きっと慢性疲労の蓄積だ」 静かだが、怒りを抑えきれないリオンの声が室内に響いた。「……無理をしていたな」 真琴は、はっとして視線を逸らす。「えっと……ちょっとだけ、眠かっただけで……」 「嘘をつくな」 リオンは真琴の頬に手を添え、逃がさない。「評価書。結婚式と新婚旅行の疲れに、周囲の視線。全部、抱え込んでいた」 団員たちが息を呑む。「……真琴は、倒れ
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