朝食を済ませたあと、夫の北条和真(ほうじょう かずま)は申し訳なさそうに私を見つめた。「朱里ちゃん、海外のプロジェクトで少しトラブルが起きた。どうしても俺が行かなきゃならないんだ」私——春日朱里(かすが あかり)はただ静かに彼を見つめ、かすかにうなずいただけだった。和真はそっと私の額に口づけを落とした。それから、私に掛けていた毛布をやさしく整えると、慌ただしくスーツケースを引いて出て行った。私はようやく、スマホを握りしめていた手を少しずつ緩めた。画面には、見知らぬ番号から届いたメッセージが表示されていた。【あんたなんて、ただの足手まといでしかない。和真が本当に愛してるのは私なの】そのあとには、海外の住所まで添えられていた。手のひらには冷たい汗がにじみ、私はこの唐突なメッセージを長いこと見つめ続けていた。しかも、和真が出張で向かったのは、ちょうど同じ国だった。こんなの、ただの偶然なのだろうか。私と和真は幼なじみであり、互いに想い合って結ばれた仲だった。この界隈では、私が和真にとって、十八年越しにようやく手に入れた、誰にも触れさせたくないほど大切な存在だと、みんなが知っていた。私が「アイスが食べたい」とひと言こぼせば、彼は店ごと買い取って、そのまま私に贈ってくれた。私が「花火が見たい」と言えば、街じゅうの夜空を輝かせて、この上ないサプライズを見せてくれたこともあった。誰もが、和真は私に夢中なのだと言っていた。私が一本電話を入れさえすれば、たとえ彼が地球の裏側にいても、すぐに私の前に現れてくれる。仲間に恋愛ボケだとからかわれても、和真はただ笑って、誇らしげにこう言っていた。「うちの朱里ちゃんには最高のものがふさわしい。そして、その最高っていうのが俺なんだ」そんな愛に、私はどこまでも深く溺れていった。だから、攻略が完了したあと、私は思い切った決断をした。システムに頼み込んで、この世界に残ることを許してもらったのだ。たとえ短い人生でもいい。それでも私は、和真と生涯をともにしたかった。なのに今、スマホに映る見知らぬメッセージを見つめた瞬間、心臓がふっと止まったような気がした。スマホを握る両手が、抑えようもなく震えていた。冗談なのか、それともただの悪質ないたずらなのか。ある
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