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第2話

Auteur: 水城悠々
私はひそかに、いちばん近い便の航空券を取った。

十数時間後には、もう和真が出張に来ている場所へ着いていた。

私はメッセージに記されていた住所を頼りに、目的の場所を見つけた。

門の前まで来て、そこで初めて気づいた。そこは、和真が結婚式の際に私のために買ってくれた古城だった。

呼び鈴を押すと、すぐに向こうから丁寧な声が返ってきた。

「こんにちは」

私は一瞬戸惑った。

「こんにちは……あの、和真を、北条和真を呼んでいただけますか」

すると相手はすぐに答えた。

「旦那様と奥様はお出かけになっております……」

「奥様」という呼び方が、私の抱いていた幻想を一瞬で打ち砕いた。そのあと相手が何を言っていたのか、もう何ひとつ耳に入らなかった。

呆然としていたそのとき、背後から車の音が聞こえてきた。

私はみじめなほど慌てて、近くの茂みに身を隠した。

車の後部座席には、一組の男女が座っていた。女は男の胸にもたれかかり、甘えるようにじゃれついていた。

男はひどく愛おしそうに、その女の鼻先にそっと触れた。

そしてその男は、ほかでもない、私だけを愛すると誓った和真だった。

その瞬間、私は足元から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。

胸は何かにきつく締めつけられたようで、何度も荒く息をつくことしかできなかった。

私はただ目を逸らせないまま、彼らの車がゆっくりと古城へ入っていくのを見ていた。

誰ひとり、そこに私がいることには気づかなかった。

涙が何の前触れもなくこぼれ落ちた。けれどもう、傍らでそれを心配してくれる人はいなかった。

太陽はほどなく沈み、空から最後の光が消えていった。

私は古城の塀の外で、ずっと呆けたまま座り込んでいた。

頭の中は真っ白だった。

和真の約束が、まだ耳の奥に残っていた。

なのに今となっては、その甘い言葉のすべてが完璧な笑い話にしか思えなかった。

ふいに、空を裂くような轟音が響き渡り、夜空が一瞬で鮮やかに染まった。

続いて次々と花火が打ち上がり、漆黒の空に色とりどりの光が咲き乱れた。

私はどうにか地面から身を起こし、ゆっくりと古城の門の前まで歩いていった。

庭では、和真が黒木遥(くろき はるか)を抱き寄せたまま、広い中庭に立っていた。

傍らの使用人たちは、せっせと花火に火をつけていた。

二人は空を見上げることに夢中で、遥はときおり怯えたように和真の胸元へ顔を埋めた。

和真はそれを鬱陶しがることもなく、ただ甘やかすように彼女の耳を手で覆い、音に驚かないよう気遣っていた。

私は鉄門の外に立ち尽くしたまま、二人の親密なやり取りを見つめていた。

そしてふいに、笑ってしまった。

十八歳の誕生日、和真が私のために空いっぱいに灯してくれた花火を思い出した。

あのとき彼は、そっと頭を私の肩にもたせかけ、小さな声で耳元にこう約束したのだ。

「朱里ちゃん、これから先、花火はお前にしか見せない」

私は、その約束は一生ものだと信じていた。

けれど今、あの人は変わらずそこにいるのに、私だけのために花火を上げると言ってくれた和真の隣には、もう別の誰かがいた。

私たちの間には、この鉄の門のように、越えられない隔たりができてしまっていた。

私はスマホを取り出し、和真に電話をかけた。

庭にいた彼は一瞬だけ驚いたように動きを止め、それから何の迷いもなく電話に出た。

「朱里ちゃん?どうした?こんな時間に電話してくるなんて」

その声は相変わらずやさしくて、そこに少しの綻びすら感じられなかった。

私は彼の問いには答えなかった。

「ちょっと……会いたくなっただけ。仕事は順調?」

できる限り声を抑えたつもりだったのに、言葉の端にはどうしても震えが混じってしまった。

それなのに、今回は和真は気づかなかった。

電話の向こうで、彼は相変わらずやわらかな声で言った。

「俺も会いたいよ。こっちが片づいたら、できるだけ早く帰って、お前と一緒に年を越すからな。

出て行ってまだ少ししか経ってないのに、そんなにわがままになったのか。しかも夜更かしまで覚えて。

そんなふうに自分の体を粗末にしたら、俺、本気で怒るぞ」

その言葉の端々には、私への気遣いがあふれていた。

先天性の心疾患を抱えている私のことを、和真はいつも人一倍気にかけていた。

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