All Chapters of 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!: Chapter 51 - Chapter 60

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第三十二話④ ※※※(カオリ視点)

頭上で人の気配がした。普通は頭上で気配なんてあり得ないのは解ってるけれど、この世界だとこの状況がごくごくまれにある。今回は一体どんな奴?寝ているふりをしながら、毛布越しに姿を確認すると、そこには珍しい程に美しい女の子が異国の服を着て回転していた。生憎と私に【迷い人】の声を聞く事が出来ないから、何をしているのか、何を叫んでいるのか判断はつかないが。回転して回転して最終的には屋根をすり抜けて出て行ってしまった。「…一応、リョウイチに報告しないといけないわね…はぁ」ハッキリ言いましょうっ!めんどくさいっ!最近リョウイチがいつも以上に面倒なのよね。やたらと花をくれるし、いくら華巫女だからって私が花好きとは限らないんだけど?そう言えば、花以外にもプレゼントくれる回数も増えたっけ?……服や宝飾品が多いけど…クローゼットに入らないからこんなにいらない。……何だか鬱陶しい。朝だと言うのになんでこんな鬱鬱としなきゃいけないのよ。起きよう。起きてさっさと今日の仕事をこなしましょう。毛布を剥いで、ベッドの脇に足を降ろして立ち上がる。必要な準備だけをして、部屋を出た。一歩歩くたびにシャランと腕に嵌めたブレスレットがぶつかって音を響かせる。寝室を出て軽く朝食のパンを10個食べて家を出た。片づけ?後でするわ。多分、きっと。家に鍵をかけて、外に出て数歩歩くと、目の前を歩く黒髪が目に入った。この世界で黒髪は珍しく直ぐに誰だか分かった。「ショウコっ!」名を呼ぶと、驚く事もなく顔だけこちらに向けてにっこりと笑った。「おはよう、カオリ」「おはよっ」少し足を速めて隣に立ち並んで歩く。「どうしたの?いつもこの時間はまだご飯食べてる時間じゃない?」「そうなんだけどね。部屋に迷い人が出て。リョウイチに報告しなきゃって思って」「あぁ、そういうこと。そうよね、そうじゃなきゃカオリが早起きしてリョウイチ様に会いに行くなんて事あり得ないものね」「あり得ないは言い過ぎじゃない?ただちょっと、人より多く寝て、人より多く食べて、人よりリョウイチの扱いが雑なだけよ?」「それだけあれば十分だわ。リョウイチ様ももう少しカオリの人となりを学ばないと、落とすに落とせないわよね…」「うん?何か言った?ショウコ」「いいえ?空耳じゃない?カオリもすっかりボケたわねぇ」「ちょっ、
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第三十二話⑤ ※※※

【亡者】と呼ばれるこの世界の魔物のようなものが押し寄せてくる少し前のこと。 私の今の体…と言っても肉体はない訳なんだけど。正しくは姿かな?まぁ、細かい事は良いとして、この姿って睡眠を必要としないんだよね。 となると必然的に夜がすっごく暇になる。本を読むとか出来るのかもだけど、まずそもそもが触れない。すり抜けちゃうんだよ。どうやってページを捲るのって話になる。だから読書は却下。って言うか触れる事が出来ないってので大抵の事は出来なくなるんだよね。 勿論、こうなってるのは私だけじゃない。 ふよふよと天井をすり抜けると、そこには棗お兄ちゃんが既に立って待っていてくれた。 『えへへ~♪』 『鈴は甘えただね』 背後から抱き着いた私を嫌がりもせずに頭を撫でてくれる棗お兄ちゃんは優しいと思う。 二人でふよふよと浮きながら今日あった出来事を話し合う。リョウイチさんは相変わらず仕事に集中しているかカオリさんの話をしているかどちらかだと言う。ぶれないね。 こっちもこっちでいつもの女子トークだからぶれないんだけどね。 『棗お兄ちゃんと二人っきりで会うのは楽しいし癒されるから良いんだけど。…こうも何もないと、正直暇だね』 『うん。そうだね』 『イチャイチャするって言ってもね』 『イチャイチャって…。でも、そうだね。不思議とこの世界にいると全くそんな気が起きないんだよね』 『ねー』 肉体がないから肉欲的な事を感じないのかもしれない。 『さて、それじゃあ今日はどうする?どの辺りに行く?』 『そうだなぁ。昨日は北に、一昨日は西に行ったから今日は南に行ってみる?』 『おーっ!』 夜はやる事がないから、結局色々見て回るしかない。言い方を変えるならデートである。 この街あんまり広くないから、幽体だとあっと言う間に移動出来るんだよね。ふよふよと浮かぶことも出来るし、一気に移動する事も出来る。便利だ。 南口の方は、確か、平原があるって言ってたっけ?草原と言わないって事は、そこまで青々とはしてないって事だよね? ……青々と言うか、黒々としておりませんか? 『ねぇ、棗お兄ちゃん?』 『うん。するね。金属のぶつかり合う音』 『…確か、黒雨平原って言ったっけ?』 『うん。リョウイチが言うには黒い雨が迷い人を亡者に変えるって』 『って事は、だ』 『うん。僕達が
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第三十二話⑥ ※※※(棗視点)

ぐるぐるとまるで海に出来る渦巻きの様に体が闇の渦に引き摺りこまれて行く。 視界には何も映らず、息が出来ないっ。 この息苦しさは、リョウイチを襲ったアイツに殴られた所為なのか、それともこの激流の様な渦の中にいるからなのか。 まるで見当が付かない。 でも一つだけ解ってる事がある。言うまでもない事だ。鈴と引き離されたっ。何故あの時油断したのか、鈴の手を取れなかったのか、―――後悔しかない。 早くこの渦から脱出して、鈴の下へと行かなければっ。 だが、一体何をどうしたら、この吸い込まれて何処かへ飛ばされている現状をどうにか出来るのだろうか? 悩むと同時に呼吸が限界近くなってきた。ヤバいっ。焦りが冷汗となり背筋を伝う。 本格的に自分と死が隣り合わせになって恐怖した瞬間。一気に視界が開けた。「がはっ…」急激に入って来た空気に、喉が、肺が驚き、咳き込み、息を吐きだした。 ガクッと足から力が抜け、「棗先輩っ」背後から誰かに支えられた。 真っ暗な視界が開かれ、自分の目の前に机がある。 これは…父さんの机だ。 と言う事は…僕は戻って来たのか? げほっと空気をもう一度吐き出して、空気をゆっくりと吸いながら現状を確認する。 僕を支えているのは、猪塚か? 咳き込みながらも視線で場所を確認する。 ここは、父さんの部屋で間違いないらしい。だとしたら、僕の背に感じる重さは…。 背に腕を回して、ゆっくりと体を起こす。背中に乗った鈴の体を落とさないように。同時に僕のお腹にまで回っている猪塚の手を離させる。 鈴を挟む様にしていたから、猪塚に離させてそっと態勢を変えて、鈴を胸に抱き込む。 …やっぱり鈴の意識は戻ってない、か。 (…まだ、あっちにいるって事か) 僕だけが帰って来てしまった。 再び後悔が胸に疼く。 僕達があちらへ行ってどのくらいの時間が経過した? 腕時計を確認すると、時間はほとんど経過していない。多分、一分も過ぎていないだろう。 (あちらではかなりの時間が過ぎていた。なのに、トリップした瞬間に戻って来ている。もしも、あちらでどんなに時間が経過しても、飛んだ時間に戻れるなら鈴も戻って来ていてもおかしくない。なのに、【僕だけが戻って】来ていて、しかも【時間が経過】している。絶対におかしい。…鈴に何か、あったっ!?) 辿り着きたく
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第三十二話⑦ ※※※(棗視点)

闇の渦を抜けて、僕は再び辿り着いた。 アースラウンドに。 だが、僕の視界に飛び込んだ世界が、本当に数時間前までにいた世界と同じ世界なのかと愕然とした。思わず自分の目を疑ってしまうくらいに変わっていたから。 人は皆飢餓で痩せ細り、建物は倒壊し、街を潤していた木々は折れ草花を潰し、街を輝かせていた水は濁り溢れかえっている。 『ここは、本当に、あのアースラウンド、なのか…?』 思わず出た言葉は、誰に届く事なく宙へと消えて行く。 空を見上げると、分厚い雲が辺りを覆っている。この雲は、まさか…黒雨平原の雲かっ!? 黒雨は、リョウイチの力により街まで侵入する事はないと、リョウイチは言っていた。 だとしたら、父さんが言っていた【リョウイチは命を落とした】と言うのは事実なのだろう。 ここは僕が来た時より前の時間軸か?それとも後? 一先ず、状況を確認する為に僕は黒雨を避ける様に倒壊しそうな建物を擦り抜けながら、ある事に気づく。 僕が一番最初に擦り抜けた家が、リョウイチの家だと言う事に。 家の中に置かれていた本は全て雨風に濡れ放置されたまま。誰も片づける事が出来なかったって事か? そんな馬鹿な…。 カオリさんの家に行こう。ここからそんなに遠くない筈だ。急げば雨に当たる事も少なく出来る。 物をすり抜け、極力雨に触れないように、尚且つスピードを上げて、僕はカオリさんの家に飛び込んだ。 そこで目にしたものに、僕はまた自分の目を疑わねばならなかった。 カオリさんの右足が、ない……。 一体何がどうなって、こんな姿になったのか。 椅子に座っているカオリさんは一人の女の子と会話している。この子は一体…? 二人は仲睦まじげに談笑している。この間に割って入るのは、気が引けるけど、今は鈴の事が先決だ。 僕はカオリさんの前に降り立った。 すると、僕に気付いたカオリさんは目を丸くして驚き、立ち上がろうとして、女の子に止められた。 カオリさんは、切なそうに笑うと女の子に何かを話して僕と向き合った。 僕が何か話そうと思ってもカオリさんに僕の言葉は届かない。けれど、カオリさんの声は僕には届く。 「今、呼んでる。待つ」 カオリさんはそう言った。呼んでる?誰を? 暫く待っていると、ドアが開いた。どうやらさっきカオリさんが誰かを呼んでくるように女の子に使いを出したら
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第三十二話⑧ ※※※

「少しは落ち着いたかい?」 「…全然」 おかしいな。表情が全く安定しない。これ以上ないってくらい緩んでる。 微笑んでいる?の間違いかな?でもね、やっぱり、緩んでるように見えるんだよね。 「ずっとにやけっ放しだよ、パパ」 「おやー?少しは落ち着いたかと思ったんだけど。美鈴に褒めて貰えたのが嬉しくて嬉しくて、つい」 …誤解がない様に言っておくね? 落ち着かないのは私じゃなくて、パパだから。嶺一パパだからっ! 今も尚、私を膝の上に乗せて、頭を撫でては、私の顔を見てにこにこでれでれ。これ、パパじゃなかったら叫んでたよ、確実に。うん。確実にっ! 「パパ~?私これでももう大学生の見た目で中身は結構な年齢なんだけど」 「それを言ったらパパだって中身は何百何千生きた妖怪だぞっ☆」 おおう、何も言えない。 って言うか、妖怪じゃなくて神様でしょーっ、と言いたい所だけど、ぐっと飲みこむ。 パパはショックを受けると一々言動が鬱陶しいってママが言ってたからねっ! うん。遠い目をしつつ、現状を説明しようと思う。 私は、リョウイチさんの死と、棗お兄ちゃんから引き離された事により、恐怖と寂しさで泣き崩れた。 あの時―――。『棗お兄ちゃあああんっ!!』 恐怖で泣き叫ぶ、私の肩に触れたのは、暖かな手だった。 一体誰? 振り向くとそこにいたのは、リョウイチさんだった。 『リョウイチ、さん…?』 私が驚き呟くと、何故か目の前に立っていたリョウイチさんも少し目を丸くして、それから苦笑した。 『そうか。この見た目ではそうなってしまうね。ちょっと待ってて』 言って、リョウイチさんは口の中で小さく何かを呟いた。 瞬間。 そう、ほんとに一瞬。だけどその一瞬の間にリョウイチさんは私の知っている人物の姿へと変わった。 『パ、パ…?』 私と同じ金色のふわふわした髪を一つに束ね、昔ママが見せてくれた写真のままのスーツを着ている。 『そう。パパだよ、美鈴』 ふわりと微笑む。 目の前のパパは写真と同じように柔らかく微笑む。 …え?でもちょっと待って?パパが、死んだはずのパパがここにこうして、私の下に現れたって事は…? 『パパ、私、死んだ?』 本体の肉体が保たなくなった? それとも、精神が切り離された所為でショックを受けたからその衝撃で? 何にしても私御
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第三十二話⑨ ※※※(棗視点)

鈴の父であり、神でもあるリョウイチに送り返されて、僕はゆっくりと目を開けた。 視界に入ったのは車の運転席の背もたれで。 僕は車の中にいる事に気づく。 目を何度か瞬かせ、運転席に座る父さんの姿を確認して、僕は今動いている車の中にいるんだなと認識した。 「父さん」 「あぁ、起きたか」 体を起こして、後部座席の背もたれに背を預けると、バックミラー越しに父さんが笑った。 「佳織から連絡が来てな。美鈴が意識を取り戻したらしいから、成功したと確信して今帰宅してる道中だ」 「そっか」 鈴、ちゃんと戻って来たんだ。良かった…。 深く安堵の息を吐いて、僕はゆっくりと目を閉じた。 情報が多過ぎて何処から処理をして良いのか、解らない。 「…どうした?棗」 どうしたと疑問形で聞いておきながら、父さんの言葉は僕の悩んでいる事などまるでお見通しって声だった。 「…リョウイチは疲れる奴だっただろう?」 「あぁ、うん。ほんと、その通りだった」 「あいつは昔から、それこそ前世のどの世界であろうとも性格の悪い奴だった」 「…でも父さんはそんなリョウイチと親友なんでしょ?」 聞くと、父さんは苦笑した。 「親友だ。あいつがどう思っていようとも私にとっては親友だ」 「リョウイチも親友だと認めてると思うよ。だから、はい。手紙預かってきた」 僕はいつの間にか服のポケットに入っていた手紙を父さんに見せた。流石に運転中に見る事は敵わないから、バックミラー越しに見せるだけに止める。 だけど、父さんは口元をひくっと引き攣らせて、静かに車を路肩に寄せて、僕と運転を交代するように言うと、手紙を受け取り助手席へと乗り込んだ。 今すぐ手紙を読むって事かな? 勝手に納得して、後部座席を降りて、運転席に回って乗り込む。 シートベルトをして、車を静かに走らせた。 運転しながら、そっと隣を窺い見ると。 最初は、普通の顔して読んでたのに、その表情はどんどん険しくなり、何度か目を擦っては手紙を見直していた。 運転しながらのチラ見で、何度目かのチラ見をした時には、手紙と父さんの顔がくっ付いていた。 そして、その次に見た時には、バリッ!と手紙を両サイドに引き裂いていた。 鬼の形相。 父さんのそんな顔始めてみた。 動揺のあまり、車が若干蛇行してしまった。いけないいけない。 さて
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第三十二話⑩ ※※※

色々あったけれど、時間としては殆ど経過していなくて。 ほぼほぼ夢みたいな物だったから当然と言えば当然なんだけど。 そんな私に何が待っていたかと言えば。「仕事だよね…」げっそり。 勿論、事件があけた後、棗お兄ちゃんの運転で帰宅して、ゆっくりと休んだよ。 掃除して、洗濯して、ご飯作って、弟達と戯れて、猪塚先輩を蹴り出して戻って来た棗お兄ちゃんといちゃいちゃして過ごしました。 え?家事ばっかりで休んでないって? やだなー。休んでるよー。 「この鬼の様な仕事に比べたら…うふふ…」 大学の講義を受けつつ、仕事の書類をこなす今に比べたらー…結果として、しんどーいっ。 何でっ?休んだの二日くらいじゃんっ!? 「何でこんなに山積みなのぉ~…」 「それは多分、鴇兄さんと父さんの分が追加になってるからかな?」 受けなくても良い講義の場に入り込んで、私と一緒に仕事を片している棗お兄ちゃんが答えをくれた。 「むぅ~…。誠パパ、仕事に関しては猪塚先輩に伝言頼んだって言ってたのにぃ~…」 「うん。言ってたね。伝言は伝わったんだと思うよ?それを葵や鴇兄さんがやるかどうかはまた別の話だし」 そこは一緒にして欲しかった…。 コソコソと話しながらも、手元は書類にサインが続いている。講義のノート?左手で書きとめてるよ?大丈夫。話してる内容も全部聞きとって書いてるから、講義の内容は後で勉強する。一字一字書く余裕はないから全て速記だけどね。 ガリガリガリ…。 うん?何か視線が…? 顔を上げると、教授はただ手を左右に振った。 ふみ?なんだろ?でも気にしなくて良いって言ってるんだから、気にしないでおこうっと。 ガリガリガリ…。 仕事と講義に没頭する事2時間。受けなくても良い講義だったことに気付いたのはその数分後の事。 受けちまったもんは仕方ないのです。勉強はして悪い事はないからねっ。負け惜しみじゃないからねっ。 席を立ち、棗お兄ちゃんと手分けして書類を片付けて、昼食をとる為にカフェテリアへと向かった。 毎日お弁当を作るのは私の趣味の一つ。 カフェテリアでドリンクだけを買って、私達は外の席、真っ白なパラソルの下にあるテーブルにつく。 ここは既に定位置で、何故か席をとられてる事もなく、どんなに混んでいても座れるんだから有難いよね。 席について、お弁当を広げ
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外伝小話 日常編 三者面談

「鴇ー。俺を探してたんだって?」ガラッとドアが開き、透馬が顔を出す。「あぁ。美鈴の三者面談で一応な」「姫の?あぁ、成程。お前も父兄になるもんな。それで俺か」「そう言う事だ」納得した透馬がドアを閉めて、椅子を引いて俺の目の前の席に着く。ついでに渡しておくか。美鈴の進路に関する資料を手渡すと、直ぐに受け取り中を読みこむ。「っても、姫の事だ。そんな心配いらないだろ?」「そうでもない」「なんで…あ、そういうことか」「そう言う事だ」俺の時もそうだったが、普通とは逆に引く手数多で選べる道が多過ぎる。「一般の人間が聞いたら激怒しそうだけどな」色々納得したのか、パタンと資料を机の上に置き、透馬は頬杖をついてペンを取りだして何やら気になる点を書き殴っている。「三者面談か~。学生の時母親が来るのが本当に嫌だったなぁ…。そういや鴇と三者面談の日程被った事ないな。お前はどんなだったんだ?」「どんなって言われてもな。普通だったぞ?可もなく不可もなく。…あぁ、でも佳織母さんが来るようになってからは、正直恐怖だったな」「恐怖?珍しいな、鴇がそんな風に言うなんて。どれ、詳しく話してみろ。さぁ、来いっ!」「なるべく、事細かに頼むで」「出来れば姫ちゃん達の事も込みでよろしくー」「………おい、お前ら。いつの間に教室に入って来た」「そんな事気にせんと詳しくっ!」奏輔。そのペンと紙は一体何処から出て来た?大地も目を輝かせてるんじゃない。……っとに、こいつらは…。仕方なく、俺は記憶を辿った。あれは確か…俺が高校の時の事だったか―――…。※※※「行くしかないわねっ!」リビングを開けて、佳織母さんが騒いでいる。これはこれでいつもと変わらない風景と言えば風景なんだが…。「鴇お兄ちゃんっ、パン何枚?固め?柔らかめ?卵は?半熟?スクランブルダッシュ?」美鈴がお手製の食パン一斤と卵を持って、キッチンで笑っている。「パン二枚、固めで卵は目玉の半熟で頼む」「はーいっ♪」とてとてとエプロンのリボンを揺らしながら、美鈴は葵と棗の前にトーストを置いてキッチンへと戻る。喉が渇いたから、俺もキッチンに行って牛乳でも飲むか。葵と棗がニコニコと嬉しそうに、シンクロしながら目玉焼きの乗っかったパンに齧りついているのを横目に佳織母さんが何やら騒いでいる。キッチンに入り冷蔵
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外伝小話 日常編② 社員Aの奮闘(前編)

(来たよ。とうとう来たっ!)社内の掲示板を見て、私は手をきつく握る。掲示板に張り出されていたのは、毎年恒例の社員旅行争奪戦のお知らせ。「おーい、瑛子ー。何見てんだー?」「あ、尾留川っ。見てみてっ!ついに来たよっ!」「あ?何が来たって?」手に書類のファイルを抱えたまま、私の後ろに立つこの男は、同期の尾留川。名前?忘れた。「…ねぇ、尾留川。アンタの名前なんだっけ?」「弘樹だよ」「…そっか。忘れとくね」「何でだよ。…瑛子。お前の苗字なんだっけ?」「鈴木」「…忘れとくわ」「そうして」……。この会話、こいつとすれ違う度にしている気がする。まぁ、いいや。そんな事よりもこっちよ、こっちっ。バンバンと掲示板を叩く。すると尾留川も掲示板に張り出された紙に素直に意識を向ける。「おっ。来たのか。成程。お前のテンションが上がる訳だ」「そうっ。去年は落ちたんだよーっ。今年は絶対に奪い取るっ!」「奪い取るって言ったって。去年はくじ引きだったろ?」「そうっ!そうなのよっ!しかも、一番遠い組だったのよぉーっ!」「…お前の総帥愛、マジでやばいな」「えっ!?聞きたいっ!?」「いや、もう、何回も聞いたから、マジでもういい」「そう。それは、私が入社したての頃」「結局話すのかよ」私はあの日、緊張をしまくっていた。なんのまぐれか知らないけれど、三流大学を出た私が日本で随一の一流企業に就職が決まって。しかも、しかもだよっ!?その日は自分の部署へ行く初めての日。緊張しない訳がないっ。当然の様に私は部署に行く前に、トイレに駆け込んだよね。するとそこにいたのは、とてもとても綺麗な女性で。手を洗っているその姿すら綺麗で。思わず見惚れてしまったの。持ってた鞄を落としちゃった。それにびっくりした女性は、加えてたハンカチを手洗い場に落として、二人で大惨事。一先ず焦って私は鞄を拾い、女性が落としたハンカチを拾った。「わわっ、ご、ごめんなさいっ、拾わせちゃったっ」わたわたと受け取ろうとした女性に手渡そうとして、ハッとする。こんな綺麗な女性に例え女性の物だとしても、落として汚れたハンカチを渡して良いのかと。否っ!まずは私が手を洗って、鞄の中から昨日購入したばかりのハンカチを取り出してその女性に渡した。「えっ?これお姉さんのですよねっ?私のじゃっ」お
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外伝小話 日常編② 社員Aの奮闘(後編)

「課長。契約とって来ましたっ」 「課長っ、私もですっ」 「こっちもですっ」 『営業ノルマはっ!?』 最後に声が一斉に揃う。 私の机の前に立つ部下の三人が私の結果を待つ。 勿論私は急いでその結果を画面に入力して、結果が表示されるのを固唾を飲んで見守る。 そして、出た結果は。 「ノルマ五倍達成よっ!」 『よっしゃあああっ!!』 「まだよっ、まだ、安心は出来ないわっ。隣のC課が、私達と競っているわっ。そちらもノルマの四倍はクリアしてるのっ。この調子で上げて、今年こそは総帥達との旅行をゲットするわよっ!」 『了解っ!』 各々が立ち去るのを見届け、私は自分の仕事に戻る。 今日の営業先は15件ねっ! 「おい、瑛子」 「なに?尾留川。下らねぇことだったら首にするわよっ」 「公私混合甚だしいな。それより、クレームだ。昨日新人が行った業者に売った機材。直ぐに壊れたとクレームが来てるぞ」 「えっ!?それは今来た電話なの?お客様とはまだ繋がってるの?」 「いや。こちらから謝罪に向かうと言って一旦電話は切った」 「サンキュっ!んじゃ行ってくるっ!今日私は一日外回りだから。何かあったら連絡頂戴。あと総帥の姿を見たら連絡頂戴。私の生きる糧だから。それじゃ、あとよろしくっ!」 ダッシュで部署室を出た。 最近になって良く思うのは、よくさ、漫画なんかであるじゃない?あの足がぐるぐるに回転しているダッシュの比喩表現。あれって実際に出来たらどれだけ速いのかな?って。 正直時間が足りないのよ。ほんっとうに足りないのよっ。 「あーら?瑛子じゃありませんこと?」 ここから、まず真っ先にクレーム対応して、その後に一つ目のアポとった企業に行って。あの場所からだとお昼を取るのは…。 「ちょっとっ!気付きなさいよぉーっ!!」 ?、今何か椎奈(しいな)の声が聞こえた気がする?…気の所為だね。今構ってる暇ないし。 あの子何かと言うと突っかかって来て面倒なんだよね。 C課の課長だからA課の課長である私は無下にも出来ないし。あー、面倒。 さ、てと。 愛用のチャリに乗りこんで、行くぜっ!! ふおおおおおおおおっ!! え?普通車だろって? 車だと時短出来ないから、自転車の方が速いのよっ。 裏路地を多用して、あっさりと到着する。 自転車を停めて、身なりを整えて
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