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外伝第四章 第三十三話① 天を駆ける騎士と白猫(天川透馬編)

※ 外伝第一章 御三家ルートの第三十二話から続くお話です。ルート割れしておりますのでお気をつけてお読みください。「透馬お兄ちゃんっ!!」そう、私は叫んで、透馬お兄ちゃんの背中に飛びついていた。驚いた透馬お兄ちゃんの顔が私の眼前にある。―――間に合った。そう安堵したと同時に、ドスッと背中に衝撃が走る。「姫っ!?」焦った透馬お兄ちゃんの声が耳に響く。「…ッ…」背中が熱い。じんわり広がる熱の中に痛みが混じり始め、じわじわとその痛みが全身に伝わっていく。痛い…けど、我慢。痛みがあるって事はまだ意識があるって事の証明だし。こうして考える事が出来るって事はまだ生きてるって事だし。大丈夫っ!私はぐっと歯を噛み締めて痛みに耐える。だけど、そんな私よりも、透馬お兄ちゃんの方が余程焦った顔をしていた。「姫っ!大丈夫かっ!?背中に、矢が…っ、大地っ!!」透馬お兄ちゃんの声が痛みで少し遠くに聞こえる。ヤバいかな?痛みで意識を保ってたようなものなのに、今度は痛みで意識を失いそうだ。兎に角、透馬お兄ちゃんに怪我がないかだけは確かめたい。私を助けてくれたお兄ちゃん達に怪我をさせるなんて絶対嫌だから。震える唇を気合で動かす。「お、兄ちゃ、…けが、ない?」「馬鹿っ。俺の心配なんて後で良いっ!」足に力が入らなくなりそうな脱力感を覚えるけど、これに負けちゃいけない。ここで私が倒れたら透馬お兄ちゃんを苦しめる事になる。気合を入れ直している間に大地お兄ちゃんが一緒に駆けつけてくれた。私の背に刺さっている物を見て、一瞬息を飲みながらも大地お兄ちゃんの手が私の背に触れた…んだと思う。痛みであんまり感覚が…。「矢を抜いて、手当てする。その後直ぐに医者だっ」透馬お兄ちゃんが私をぎゅっと抱きしめてくれた。「…とうま、おにいちゃ…爪、立てたら、ごめ…」「そんな事気にするなっ!むしろ立てろっ!」抱き締められている腕に力がこもる。本来なら多少の痛みを感じるそれも、今は透馬お兄ちゃんの熱を感じるからむしろ有難い。矢を引き抜く為にぐっと力が込められて、背中に激痛が走る。痛いっ!けど我慢っ!透馬お兄ちゃんの体に腕を回してきつく抱き付く。「抜くよ、姫ちゃん」大地お兄ちゃんの言葉に頷いて、いざ矢が抜かれる、そう覚悟した瞬間。「駄目でござるっ!!」制止の声が届いた。こ
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第三十三話② ※※※(透馬視点)

「透馬お兄ちゃんっ!」唐突に。必死に。俺を呼ぶ声が耳に届いて。驚いて振り向くと。俺の背に姫が飛び込んできて。慌ててその体を受け止めようとした。だが―――。―――ドスッ。肉に刺さる生々しい嫌な音と、「―――ッ!!」姫の声にならない悲鳴が俺の耳に入り込む。姫の受けた衝撃が姫を通じて俺にまで届く。「姫っ!?」今の鈍い音はどうやら俺を狙っていた矢が、庇ってくれた姫の背に刺さった音だった。咄嗟に抱き止めた姫は俺の腕をぐっと握りこむ。一体何処からだっ!?矢が射られた方向は、姫の背に刺さっている角度から察するに…上かっ!白鳥邸の二階の屋根の上。建物の影にそれらしき人影が視えた。アイツかっ!振り返り、奏輔に視線で追跡を頼む。奏輔は即意図を汲み、頷くと同時に走りだす。あっちは奏輔に任せて、俺は腕の中の姫に集中する。「姫っ!!大丈夫かっ!背中に、矢がっ…大地っ!」大地を呼び付ける。俺が手当てするより、大地の方が知識も基礎もあるだろうからだ。俺に枝垂れかかっている状態はキツイだろう。とにかく楽な態勢をとらせてやらなければっ。少し姫を持ちあげて、俺の肩に顎が乗るような形で全身を俺に預けさせる。「お、にい、ちゃん…けが、ない…?」こんな状況下でも俺の心配かよっ。自分のが余程酷い状態だって解ってるのかっ?助けてくれた事は感謝する。だけど、俺は姫が俺の代わりにこんな怪我を負うなんてことを許せる人間じゃねぇぞっ。「馬鹿っ。俺の心配なんて、後で良いっ」急ぎ側に来た大地に視線で治療を促す。大地は矢の刺さり口や血が染みている傷の周囲を診て、矢を握った。「矢を抜いて、手当てするっ。その後直ぐ医者だっ!」大地の言葉に姫が体を強張らせた。痛いんだろう。だけど、俺にはどうしてやる事も出来ない。せめて、姫が味わった痛みを共有すべく、きつくその体を抱きしめた。「抜くよ、姫ちゃん」姫が俺にしがみつく。これがきっと姫の覚悟の現れなんだろう。そして、大地が矢を抜こうとした瞬間。「駄目でござるっ!!」制止の声。しかもこの独特な口調は近江か?「貴様っ、裏門の者かっ!」「煩いでござるっ!!」一体何処にいる?声の主の姿を探すと、三階の屋根の上で誰かと争っている。二階の屋根の上には奏輔と姫を狙った奴が争っている。と言う事は近江が戦っているのも
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第三十三話③ ※※※(透馬視点)

「透馬。起きとるか?」階段を登り奏輔がベッドの影から顔を出した。「起きてる」「姫さんは?」完全に階段を登り切る事はせず、階段の最上段で奏輔は姫を痛ましそうに見た。「さっき一度目を覚ました。背中の傷が辛いようだったから、もう少し眠る様に言った」「そうか。矢が背中に刺さっとったんや。当然やね」「奏輔」「なんや?」「どうやら姫の中で毒が確実に浸透してるっぽい。…会話の最中に鳴き声が混ざっていた」「…真面目に受け取らなければ、可愛いで済むとこなんやろうけど…ヤバいな」俺も奏輔も真面目に頷く。姫の体の中にある毒が着実に侵攻していると言う事だから、笑い事じゃねぇ。腕の中の姫の様子を見てから、窓の外へと目を向ける。「今、どの辺りだ?」「山の中腹辺りか」「なら、もう少しで着くな」「大地が運転ミスってなければ、の話やけどな」「……確認しとけよ」「わかっとる」トントンッと音を立てて奏輔は階段を降りて行った。「…姫。もう少し我慢してくれな。もう少しで、ゆっくり休める場所につくからな」自分が知る限りの丁寧さで金色の髪を撫でると、姫は擽ったそうに俺の胸に額を擦りつけた。…反則的に可愛いだろ。鴇、お前は何年もこの可愛いのを近くで見てきたのか。狡ぃぞ、この野郎。そして、棗。お前は確実に仙人だ。良く理性を持ちこたえさせたもんだ。どうでも良い事を考えながら、俺はただ姫が寝やすい様にとベッドに徹した。そうこうしてる間にいつの間にか俺はまた姫と一緒に眠ってしまっていた。おかげで車の揺れが収まっている事に一切気付かず、むしろ、「透馬お兄ちゃん、起きるにゃ」ペシペシと頬を叩かれて姫に起こされる始末。目を擦って、目をぱちりと開くと、そこには姫がきょとんと小首を傾げて俺を見ていた。可愛い。「朝にゃ?」朝って言うか、窓の外を見る限り太陽光が強く、日が登り切っているので最早昼である。「王子ー。天川先生ー、起きてるー?」下の階から新田の声がして、「起きてるぜー。今行くわー」しっかりと答えてから、体を起こす。勿論姫に負担をかけないように、だ。「姫。背中はどうだ?」「痛くにゃいにゃっ。起きれるにゃっ。愛奈達の薬がほんと怖いっ」「…そっか。一先ず薬の効能に関しては置いといて、大丈夫そうなら下行くか」「オッケーにゃっ」キャンピングカーの二階はそ
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第三十三話④ ※※※

…聞いてしまいました。 お兄ちゃん達ってば、勝手に相談して。むぅ~…。 怪しいと思ったんだよね。お兄ちゃん達だけがあの場に残った時。 鴇お兄ちゃんが混ざってる時は、その違和感すら感じさせなかったけどねっ!…鴇お兄ちゃんは後で齧るとして。 物陰からひっそりとお兄ちゃん達の会話を聞いていたら、やっぱりと言うか想像通りと言うか…。お兄ちゃん達は私に黙って行動しようとしていた。 大事にしてくれるのは嬉しいし、力になってくれようとしてくれるのも嬉しい。だけど、それで私を除け者にするのは違うと思うの。 盗み聞きはお行儀が悪い?そんなの今はポイッ!お兄ちゃん達が話してくれないのも悪い。 むすっとほっぺを膨らます。 それはさておき、えっと、お兄ちゃん達の会話を聞いてて分かった事を色々まとめてみようかな。 正直情報量が多過ぎて色々混乱中。自分の体に起きている変化、『猫化』を含めて混乱の真っ最中です。じっと手を見ると体は着々と猫化が進んでるのが解る。もふもふが増えた。それと手はまだだけど、実は足の裏に肉球が出来た。とってもぷにぷにである。…確実に『毒』は進行している。 …怖くないと言ったら嘘になるけど、何処が痛いとかそう言う事はない。背中の刺された場所も愛奈の薬ですっかり痛みは治まった。だから今はひとまずは毒の事を意識せずにあえて客観的に考えてみようと思う。まずは、最初の戦闘について。 なんだかんだで上手い事脱出した感はある。お兄ちゃん達のおかげで何とか乗り切った。 実際には毒を喰らった事によってストーリー通りに進んでしまったけれど、その毒は私にしか害をなさないし、それに死なずにここまで来れたのは単にお兄ちゃん達の行動のおかげだ。うん。ありがとう。 で、その襲撃犯の事だけど。 ゲームでは謎の男と書かれていたとママは言ってた。その謎の男ってのは恐らく襲撃して来た表門の人間のことだと考えて良いよね。金山さん達との関係を聞いた時には驚いたけど、言われてみたらあんな動き出来る人間なんてそうそういないし納得。うんうん。 表門の人達が私を狙った理由をまとめてみると、こんな感じ、かな?『ちょっとお馬鹿な表門の人が、お金に困り先祖が残したと言われてる金銀財宝を求めた。色々文献を調べていたら触れるなとご先祖様に口を酸っぱくして言われていた(であろう)金銀財宝の在処を
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第三十三話⑤ ※※※(透馬視点)

姫と一緒に一歩踏み出す。 正直姫に追い付く事ばっかり考えてて、ドアの向うの世界『裏世界』の事なんて一切考えてなかった。 一歩踏み出して初めてやっとそちらに意識を向けたくらいだ。 ドアを閉めて、一先ず周りを見回して辺りの状況把握。しかし、これは…。 「……丸っきり一緒にゃ?」 「だな。ドアノブの存在に気付けなきゃ、裏世界に来たって実感わかねーわ」 天井も壁も違った所なんて一つもない。俺達が入って来たドアの後ろ。本来の俺達の世界と全く同じ。掛けてある物、置いてある物。その配置ですら全て一緒だ。 ドアを入って来たと言う事を忘れると、まるで帰れなくなりそうだ。 姫も俺と同じ事を思ったんだろう。持っていた鍵をぎゅっと握った。 「鍵を失くさにゃいように気を付けにゃきゃ」 「だったらこれで首に下げとけよ、姫」 ポケットに突っ込んでいたネックレス用の銀の鎖を姫に渡す。 「ありがとう、透馬」 受け取って、姫が鍵を通して、それを首につけ…ようとして必死である。猫の手になりつつあるその手は爪が邪魔でどうにもつけづらいようだった。 「姫。俺が付けてやるからこっちに背向けろ」 「…にゃー…」 素直に姫が俺に背を向けた。 姫から鍵がついた鎖を受け取り、首の後ろでそれを繋げた。 「良し。つけたぞ」 「ありがとにゃ」 微笑む姫に頷き返して、俺達は再び手を繋ぎ小屋の中を進む。 「透馬、見るにゃ」 「どうした?姫」 直ぐに答えたつもりだったのに、何故か姫はムッと頬を膨らませた。何でだ?何か悪い事でも書いてあったのか? 姫の反応の意味が解らなくて慌てる。 「透馬。私には名前で呼べって言って置いて、自分はずっと姫呼びにゃ?」 むー。 ……おい。まさかとは思うが俺が名前を呼ばないからか?だから拗ねてるのか? 「…美鈴?」 「にゃあに?透馬」 試しに名前で呼んでみると、姫…いや、美鈴は恐ろしく可愛い笑みを浮かべ、瞳を輝かせて返事を返してくれた。 ……やべぇ。可愛い。 「美鈴?」 「えへへ。にゃぁに?透馬」 やべぇ、はにかみ超可愛いっ! 握った手がぎゅっと握り返される。いや、だから可愛いだろっ!今俺のHPは急激に減った気がするっ!ステータスを開いて確認したら、HPが上がっていた。名前の横に、『姫の笑顔(HP向上効果)』と書いている。まさかの
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第三十三話⑥ ※※※(華菜視点)

美鈴ちゃん…。 私の親友は相変わらずらしい。良く言えばそれは優しさなのかもしれない。だけど…残された方は結構衝撃が大きいんだよ、美鈴ちゃん。 トイレに行くと言った。そこにいると思ってた私はただ馬鹿みたいに閉められたドアをノックしていた。 返事がない、と。ここにはもういないんだ、と。その事実に私が気付いたのは天川先生がトイレを駆け抜けて窓から飛び出したのを見てからだった。 急いでドアノブを足掛かりにドアを登って中を見た。そこに美鈴ちゃんの姿はなかった。 「華菜?」 「っ…美鈴ちゃんが、いないっ」 「えっ!?」 「愛奈ちゃん。ごめん。先生達に知らせて来て」 「分かった」 慌てて出て行く愛奈ちゃんの足音が遠ざかって行く。 私はじっと美鈴ちゃんが何かを残していっていないかを探す。 でも、そこには何もなく。置いて行かれた事実にただただショックを受けた。 ジャンプしてドアから離れ着地して、私は歩きだす。 美鈴ちゃんの性格は解ってる。私達を巻き込みたくない。自分の問題だから。そう思っての事だと思う。 だけど、だけどね、美鈴ちゃん。やっぱり置いてかれた方は悔しいんだよっ。私はただ美鈴ちゃんの役に立ちたいだけなのに。…美鈴ちゃん、見つけたらお説教なんだからっ! 一先ず、美鈴ちゃんを探しは天川先生に任せて、私はどうして美鈴ちゃんが出て行ったのか探る事にした。 どうして美鈴ちゃんが一人で動いたのか。その理由を…絶対知ってるであろう先生達に問い質さないと。絶対に美鈴ちゃんが一人で動きたくなるような事を言ったんだ。 あの人達はどうして昔からこう…そう言う所が抜けてるのかなっ。 少し急ぎ足で先生達の所へ戻ると、愛奈ちゃんが今説明を終了した所らしい。嵯峨子先生、丑而摩先生共にあちゃーと如何にも失敗したと顔で語っていた。 「先生方。何か知ってるんでしょ?話して。とっとと、さっさと、直ちに話して」 先生達の気持ちなんて今はパス。 「…奏輔」 「あぁ、分かっとる。…時間が勿体ない。手短に話すで」 嵯峨子先生の話を聞き、美鈴ちゃんが一人で行った意味が分かってしまった。そりゃ巻き込みたくないって思うよね。それに、…もしかして、美鈴ちゃんが私をこっちに残した理由もあると思うの。 ならそれも踏まえて私はどう動けばいい? 美鈴ちゃんの事だ。自分一人で裏世界?
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第三十三話⑦ ※※※(透馬視点)

「透馬っ!右だっ!」「右ぃっ!?」言われてから振り向くんじゃ遅いって解ってるが、それでも動かないとこの世界だと命取りになると、この一週間で学んだ。なるべく自分の体を剣で守る様に振り返ると、タイミング良く剣が飛んできた針を弾いた。「にゃっ!」美鈴の薙刀が俺を狙う二弾、三弾を叩き落とす。「邪魔すんなっ、ってーのっ!」ダイの大斧の一撃が魔物全てを薙ぎ払った。「はー…マジでこの世界はきっついな」「にゃにゃう?」駆け寄ってきた美鈴が心配そうに俺を覗き込む。大丈夫だと笑ってその頭を撫でると美鈴は嬉しそうにその手にすり寄ってきた。……美鈴は、この一週間の間に毒の侵攻が進み、背が本来の半分まで縮み、人の言葉を話す事が出来なくなった。日に日に毒の侵攻は進み、美鈴は猫へと変化して行く。その姿をまざまざと見せつけれているこの状況は地獄そのものだった。それでも美鈴は笑みを絶やさずにいてくれるから、俺はどうにか材料に必要な『水晶花』と『鋸刺鮭の金鱗』を手に入れる事が出来た。この二つはこの世界だとそんなに珍しいものではないらしく、あっさりと入手する事が出来た。今も『天上の氷』を手に入れる為に向かっている。正しくは天上の氷を今ソウが採取している所を皆で守っている所である。この世界は本当に普通に魔物がいる。魔物の生態はざっくり言うと、亜人に進化出来なかった進化形のなれの果てらしい。詳しい事を聞くと戦う事が出来なくなるだろうから、俺達はそこまでしか聞いていない。想像もつくが想像しない事にした。今、俺が気にすべき事は美鈴を治す事。それだけだ。「にゃっ!」「おわっ!?」考え事に没頭していたら、背中に美鈴が飛びついてきた。美鈴の体重でどうこうなったりはしないがいきなりは驚く。けど、美鈴がこうして驚かす時は大抵…。「うにゃう?」「……大丈夫だ」美鈴が俺を心配している時だ。…俺の心配なんてしている場合じゃないってのに。美鈴を背中に引っ付けたまま、俺は天上の氷を採取しているソウの側へと行く。するとソウは俺達が作業を覗き込む前にスクッと立ち上がり眼鏡を上げた。「採取終わったで。次、行こか」頷いて俺達は早足で洞窟を出た。途中魔物に出くわしたが、ここの魔物の特性は脳に叩き込んだから問題はない。広い場所に出てしまえばソウの魔法が魔物を一気に薙ぎ払ってくれる。洞窟
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第三十三話⑧ ※※※(華菜視点)

やっと繋がったと思ったら、ほとんど会話する事なく念話は切れた。私が見ていた(聞いていた?)限りだと、そう感じた。嵯峨子先生の悔しそうな顔を見ると間違いはなさそう。 毒を手に入れてから、私達はまず知り合いの女性に協力を頼むと同時にもう一つ探さねばならない物に気付いた。 それは男性の手が触れていない水を探すと言う事。 当然、水道水では駄目。水道管の工事を女性だけがしてるのを見た事がない。あの場所で流れている水は純粋に女性だけの水とは言えないのだ。水道水がダメだとなると難易度がぐんと上がる。 安パイなのは多分【湧き水】だ。となると山の中に行く必要がある。湧き水は何処にでもあるだろうけど…毒作りに利用されていた事を考えるとやっぱり忍者の里の山にある湧き水を使った方がいい。そう私達は判断し急遽来た道を戻る事になった。 毒も手に入れたし、里に戻る事には何の問題もない。ついでにキャンピングカーを改良してバリバリにネット環境にしたので私の力はフル活用出来るようになった。 忍者の里へ戻り、私は真っ先に水を取りに向かった。水を手に入れるのは女じゃないといけないから。 私は出来るだけ多めに水を汲むことにした。山との往復は大変だったけど、そこは愛奈ちゃんと美鈴ちゃんのお祖母ちゃんに協力をお願いしたから何とかいっぱいの水を持ち帰る事が出来た。これで多少の失敗は出来ると思う。 だけど、実際の問題はそこじゃなかった。 一万人以上の女性が触れた水。 これがやっぱり一番厄介だった。もっと早めに取りかかれば良かったんだけど、どうしても皆意識が幻の材料の方に行ってしまって、これだったらやってやれない事じゃないからと思ってしまった。良く考えるとこっちもかなり厳しい条件なのに。 実際、幻の品は忍者の助けがあれば早く入手出来て、逆に一般の人の助けが必要な水の方は今入手に困っている。 勿論私達だって行動を起こしていない訳じゃない。私達(私以外だけど)は女子校出身者だ。しかも男子禁制の女子校。教師も女性と言う徹底ぶりに女子校育ち。更に言うなら美鈴ちゃんはそこでもはや伝説と言っていい程崇め奉られている。美鈴ちゃんの為にと一言協力を頼めばかなりの人数が一気に集まる。集まるがそれでも一万人には程遠い。 道行く人にも声をかけているけれど。 (正直、このご時世。良く知らない、赤の他人が水を持っ
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第三十三話⑨ ※※※(透馬視点)

目の前が真っ暗になり、思考が停止した。…なんて、真っ暗になってる場合じゃないだろ、俺。考えろ。今からあっちに戻って俺も集めるのを手伝うか?いや、間に合わない上に、美鈴を一人残していく訳にもいかない。なら、もう一つの手段をとるか?…そんな事したら、俺は二度と美鈴の前に立てないな。佳織さんに手を出す事だけは出来ない。それだけは取る事の出来ない手段だ。じゃあ、後は…?何をしたら良い?どうしたらいい?俺はどう動く?…何か使えるスキルはないか?ステータスを開く。……使用可能スキルがだいぶ増えてるな。移動速度上昇?これは使えるな。常に使用しておこう。他には?…そう言えば、奏輔が使った念話のスキル。あれは俺にはないのか?こっちから連絡を取る事が出来れば……あ?念話じゃないけど、まさかのスキルがあるぞ。メールってスキルが。どう使うんだ?これ。一先ず、表示されている文字に触れてみる。反応はない。ちょっと待て。じゃあどう使うんだ?これ。まさかとは思うんだが…もしかして…。ポケットから携帯を取りだす。手早く操作してメールアプリを起動する。奏輔を選択して、『届いているか?』と打ち込んで送信。…圏外になってないな。しかも直ぐに既読になった。マジか。返信も届く。『どうやって電波塔建てた?』と意味不明な言葉が返ってきた。…奏輔の意味不明な言葉は一旦無視するとして、こっちの世界に俺達の世界の物は持ちこめないと聞いた。持ち込めたとして服くらいだと。服は体にくっ付いているから体の一部とみなされるとか言っていた。と言う事は…?携帯も今は体の一部と認識してるってことか。だとすると体から離すと道具と認識して消えてしまう。…肌身離さず持たなきゃならないな。再び文字を打ち込む。『スキルでメールが出来る様になった。さっきの手紙はどう言う意味だ?』『言葉のままだ。こっちの世界だと女だけに触れさせるのはかなり難しい』『そんな事言ってる場合か。美鈴がもう限界ギリギリまで来てる。どうにかして集めろ』『やってるっ。やれるだけのことはやってるんだって、こっちも』『こっちはもう水は集め終わってる。後は作るだけだ。頼む。どうにかして水を集めてくれ』……返信が来なくなった。既読にもならない。何か、変化があったのか?今、俺がとれる行動はなんだ?改めて文字を打つ。『そっちで言う所
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第三十三話⑩ ※※※(透馬視点)

戦の真っただ中を走ると言えど、馬鹿みたいに中央突破はしない。 と言うより、中央突破したらかえって時間を使ってしまう。そんな勿体ない事はしない。 今は美鈴が何よりも優先される。 途中、馬を捨て、魔物の襲撃にあいながらも足を止める事なく走り続けた。 正直、かなりきつい。 体力はほぼ空になりつつあるだろうな。ステータス開いてHPの数値を見たら、ギリギリかもしくはマイナスになってるかもしれない。 休む間もなく走り続けているんだから。 MPだって残ってるかどうか…。 息が切れる。 肺が痛い。 けどそんな事よりも、俺にとっては美鈴の方が大事だ。 美鈴が体を張って俺を助けてくれたってのに、ここで俺が体を張らなくてどうする。 はぁはぁと自分の呼吸音と、バクバクなっている心臓の音だけが脳内に響く。 それでも気合と根性だけで俺は敵を退け、小屋へと辿り着いた。 腕の中には小さく呼吸を繰り返す美鈴の姿がある。 まだ、大丈夫だ…まだ、大丈夫っ。 自分に言い聞かせて、俺は美鈴の首にかかっている鍵を手に取った。 ドアノブに鍵を挿す。ドアを開けて俺は一歩踏み出す。決して美鈴を離さないように。ぎゅっと抱きしめて。 ドアを越えた先は前と同じ。変わらない景色。 俺はドアを閉めて、視線を地図に向ける。そこには漢字が入り混じった文字がある。 帰ってきたっ。 なら、もう、躊躇う必要もない。 急いで走りだす。 裏世界では、何処に何があるか。何が出るのか。常に用心している必要があった。 だが、ここでは必要ない。 山を駆け下りながら、俺は片手で美鈴を抱えて、もう一方の手で携帯を取りだす。 相手は勿論奏輔だ。 って良く考えたら、ここ電波がねぇっ!! スキルで何か使える…ねぇなっ!裏世界にいたおかげでスキルは攻撃特化してしまった。 あぁっ、そうだっ!スキルの方でメールを使えばっ!走りながらメールを打つなんて器用な事、かなり無謀だが、そんな事言ってられねぇっ。 何度か木に衝突しそうになりつつ回避しながら、メールアプリを起動する。 『奏輔、今どこにいるっ!?』 『源祖父さんの家におる。裏世界のトーマが、透馬の気配がするって言っとったからここまで戻って来たんや』 ナイスだっ!!裏世界の俺っ!! 『今こっちに帰ってきたっ!裏世界の俺に事情を説明して、元の世界
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