All Chapters of 全てを奪われた私が、復讐の共犯者と会社を壊すまで: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話:確定

あひるの市に着いたのは、夜だった。支社の明かりは、ほとんど落ちている。会議室。二人だけしかいない。新幹線から戻って、そのまま。机の上には、資料とPC。「……これ」浅井さんが画面を指す。新しく開かれたデータ。中間業者の口座。その先。さらに細かく追われた資金の流れ。「……」息が止まる。「この振込」浅井さんの声は、いつも通り低い。「名義は別会社」「でも」次の画面。「最終的に戻ってる」「……」見える。はっきりと。中間業者 → 別法人 → TK Network関連口座。さらに。もう一段。松村側のファンドへ。「……これ」やっと声が出る。「完全に」「うん」浅井さんが頷く。「確定」短い一言。でも。重い。「……」手が、少し震える。ここまで来た。本当に。「……」「五年前と違う」浅井さんが言う。「今回は、線じゃなくて証拠がある」「……」「逃げられない」確信。「……」胸の奥が、じわりと熱くなる。「……伊藤」名前を呼ばれる。顔を上げる。距離が、近い。さっきまでより。少しだけ。近い。「ここからが本番」低く言う。「……はい」答える。でも。呼吸が浅くなる。距離。近い。「……」「新幹線で」浅井さんが続ける。「“会社と向き合う”って言ってたよね」「……はい」「本気で言ってる?」「……」一瞬、迷う。でも。「本気です」はっきり言う。「……」浅井さんが、ほんの少しだけ息を吐く。「じゃあ」一歩。さらに近づく。机も椅子も意味を失う距離。「覚悟して」低い声。「……」鼓動が速くなる。「……何を」「全部だよ」短く言う。「何が起きてたのか」「高山や松村とのことも」「それと」ほんのわずかに、間。「俺と過ごす時間も」「……」意味が、遅れて落ちる。逃げ場がなくない。これは、仕事だけの文脈じゃない。流石に、気づく。「……」浅井さんは視線を逸らさない。でも。ほんの少しだけ。揺れている。ほんの一瞬。言葉にしない不安が滲む。「……戻れないよ」静かに言う。それは警告じゃない。確認に近い。「……」その続きが来る前に、分かる。(確かめてる)(私が、本当に来るのか)「……分かってる?」低く続く。でも。さっきより
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第52話:崩れ始める

朝、いつもと同じ時間にて支社に着く。いつも通り、変わらないスタート。ただ、空気が、少し違う。「……」席に着く。PCを開く。メール。未読がいくつか。その中に、一つだけ。差出人:本社内部監査室「……」クリックする。件名:補助金関連取引の確認について本文は短い。“該当案件について、追加資料の提出を依頼します”「……」始まった。思っていたより、早い。「伊藤」声。振り向く。浅井さん。「見た?」「はい」短く答える。「来たね」淡々と。でも。目は鋭い。「……想定より早いです」「うん」「誰かが動かした」「……」一瞬で理解する。みゆ。松村。それとも。「……高山かも」言葉に出る。浅井さんは、少しだけ視線を落とす。「あり得る」短く。「止めたいなら、今がタイミング」「……」そのとき。スマホが震える。樹。「……」少しだけ、呼吸が止まる。浅井さんが、視線を向ける。「出る?」「……出ます」席を立つ。廊下。通話を取る。「……何」『愛海』低い声。いつもより、余裕がない。『やめろ』「……何を」『分かってるだろ』即答。「分かってない」静かに返す。『内部監査が動いてる』「知ってる」『あれは止まらない』「……」『お前が思ってるより、上が絡んでる』「……」「だから?」少しだけ間。『やめろ』もう一度。「……」「それ、誰の言葉?」沈黙。『……』「樹の言葉?」さらに詰める。『……違う』やっと出る。「じゃあ誰の」『……言えない』「……」それで、十分だった。「……そっか」小さく言う。『愛海』声が少しだけ強くなる。『巻き込まれるぞ』「もう巻き込まれてる」即答。『……』「それに」少し、声が震えて止まる。「巻き込まれたまま終わる気はない」沈黙。『……変わったな』小さく言う。「うん」「変わった」はっきり言う。「もう、あの時の私じゃない」『……』「だから」続ける。「止まらない」通話が切れる。「……」しばらく、その場に立つ。胸が、少しだけ重い。でも、迷いはない。会議室に戻る。浅井さん。何も聞かない。ただ、視線だけ向ける。「……止めに来ました」自分から言う。「やめろって」「……」「誰の言葉かは
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第53話:曖昧な境界

浅井さんと、距離を少しだけ取ると決めてから。次の日。「おはようございます」山川さんに声をかけられる。「……おはようございます」返事だけして、なるべくパソコンに集中。敢えて、作業で忙しいように装う。そうすれば、誰にでもそっけないように見える。でも、本当は。自分でも分かる。不自然だ。でも、今日は浅井さんと目を合わせられない。だから徹底して、周りと顔を見て会話をするのを避ける。...浅井さんだけに、そっけないと思わせないために。昨日言われた言葉。“気付いてるくせに”やっぱりあの一言が、ずっと残っていて。気にしないようにしていたが。言われた瞬間から、全部が変わってしまった。それなのに。本人は今日もいつも通りだった。その理由もわかっている。今が、その時ではないから。それでも、今。私との関係が曖昧にされているのは明確で。この関係のもどかしさを感じたくなくて。ただ少し。真相に近づきそうな今、距離を取りたい。だから、自分で動くことにしたのだ。「伊藤」低い声。心臓が跳ねる。「……はい」顔を上げないまま返す。「昨日の監査向け資料、確認した?」「共有フォルダに入れています」「見た」「……そうですか」「一部修正する」「分かりました」短く切る。それ以上、続けない。続けたくない。「……」沈黙。視線を感じる。でも見ない。「伊藤さん……?」山川さんが小さく呼ぶ。「大丈夫ですか?」「大丈夫です」即答した。早すぎた。山川さんが少しだけ黙る。たぶん、気づかれている。田中さんも、こちらをちらっと見る。職場の空気が微妙に揺れる。でも、無理だった。今日は...普通にできない。会議中も、浅井さんを見なかった。資料だけを見る。数字だけを見る。議論だけに入る。浅井さんが何か言っても、必要最低限で返す。「その根拠は?」「三ページ目です」「補足は?」「ありません」「……」浅井さんが一瞬黙る。空気が少しだけいつもと違う。でも、見ない。見たら、自分が終わる。仕事に集中しなきゃいけない。証拠は揃ってきている。内部監査も動いている。松村側も、樹も、もう完全にこちらを見ている。今、揺れてる場合じゃない。なのに。頭の中にいるのは、浅井さんだった。最悪だと思う。自分が。
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第54話:敢えて、選ばない

翌朝。目が覚めた瞬間。最初に思い出したのは、資料でも、内部監査でも、みゆでもなかった。浅井さんのキスだった。「……」最悪。布団の中で、額に手を当てる。本当に、最悪だ。今じゃない。絶対に今じゃない。松村。TK Network。中間業者。内部監査。樹からの警告。全部が動いている。終わりが、目の前に見え始めている。なのに。唇の感触ばかり思い出す。あの、慣れた感じの触れ方。こちらの逃げ道を奪うくせに、雑じゃない距離。「……ずるい」思わず呟く。その瞬間、胸が少しだけ刺さる。誰にでもああなのか。それとも。そう考えた自分に、さらに腹が立つ。違う。そんなことを考えるためにここにいるんじゃない。支社に着く。いつもより少し早い。PCを開く。資料を出す。今日は、仕事だけする。そう決める。「伊藤」浅井さんの声。心臓が跳ねる。でも、顔には出さない。「……はい」振り向く。普通に。できていると思いたい。「内部監査に向けた資料、午前中に詰める」「分かりました」短く返す。浅井さんは、少しだけこちらを見る。昨日のことには触れない。何もなかったみたいに。それがまた、少しだけ腹立たしい。煮え切らない。キスしたのに。あんなことを言ったのに。でも、関係は何も定義されていない。仕事は続く。戦いも続く。じゃあ、何なのか。私は、何に巻き込まれているのか。仕事?復讐?浅井さん?全部?「……」資料に目を落とす。考えるな。今は、仕事。会議室。浅井さんと二人。PCを並べる。「この送金」浅井さんが言う。「内部監査に出すなら、補足がいる」「はい」「松村側に繋がる部分は、断定しない」「状況証拠として出す」「うん」淡々と会話が進む。本来なら、この時間は嫌いじゃない。むしろ、集中できる。でも。今日は無理だった。手が近い。声が近い。昨日の車内を思い出す。「……」「伊藤」「はい」「聞いてた?」「聞いてます」「嘘」即答。「……聞いてます」「じゃあ、今何て言った」「……」答えられない。浅井さんが小さく息を吐く。「昨日のこと?」その言い方。平然としている。こちらだけが乱れているみたいで、悔しい。「……仕事しましょう」「してる」「してないです
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第55話:番外・婚活プロジェクト

あっという間に、次の日になってしまった。 「伊藤さん、これ今日お願いできる?」山川さんに呼ばれる。「はい」渡された資料を見た瞬間、言葉が止まる。“あひるの市 婚活イベント支援”「……これ、今日ですか?」「うん、急遽。市役所から」「地域再生プロジェクトの一環で」「若い女性の意見が役所から求められていて」「一番適切なのが伊藤さんなのよ」軽い。でも。断れない。(断れるわけない)仕事。今は全部、仕事。「……分かりました」そう答えるしかなかった。会場。地方のイベントホール。入口を入った瞬間、ざわつく。「え、あの人…」 「めっちゃ綺麗じゃない?」 「誰?」視線が一斉に集まる。「……」(最悪)完全に浮いている。でも。(仕事だから)そう言い聞かせる。昨日。あのキス。曖昧なままの距離。「仕事優先」自分で言った。だから。(余計なこと考えない)会場を見渡す。そのとき。「すみません」男性に声をかけられる。「関係者の方ですか?」「はい」「よかったら、少しお話ししませんか?」一瞬、迷う。でも。(ちょうどいい)距離を取る理由になる。「……少しだけなら」席に座る。向かいの男性が、一瞬固まる。「……え、あ、よろしくお願いします!」視線が完全にこちらに固定される。「すみません…こんなに綺麗な人とマッチングできるなんて思ってなくて…」素直すぎる反応。「……ありがとうございます」淡々と返す。「普段何されてるんですか?」「事業プロジェクトを統括してます」「すごいですね…」会話は普通。違和感がない。(こういうのが普通)曖昧じゃない。分かりやすい。「もしよかったら、この後も…」一瞬、間。そして。「はい」頷く。「え、本当ですか!」明るくなる表情。「じゃあ連絡先——」「交換しましょう」自分から言う。(これでいい)(とにかく数をこなす)調査の基本だ。とりあえず、市場は入れず。どれだけ連絡先を交換したか。どんな会話をするか。色々と今後に役に立ちそうなデータを集めて。たくさんの人と話すだけ。今日の仕事は。...これで終わる。あと、2、3人と会話したら帰ろう。その瞬間。「連絡先交換してもいいですか?」 「今日一緒に回りません?」 「仕事の話
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第56話:崩壊の開始

その次の日。今日は、空気が違う。社内が静かすぎる。いつもは、もう少し和やかなのに。全体的に、空気が張り詰めていて。デスクで資料の整理をしている人が目立つ。「伊藤さん」山川さんが小声で言う。「本社から監査チーム、今日来ます」「……今日ですか」「はい」早い。想定より。しかも、事前に連絡がなかった。今回の案件については。早めに動く想定だったので、準備はできている。ただ、直接チームが連絡なしに来るのは想定外で。あまりにも、いつもとは違った緊張感がある。それだけに、いよいよ始まってしまったのだと気づく。もう、戻れない。真実と向き合うタイミングが。来てしまったのだ。それでも。「……分かりました」もう迷わない。「伊藤」浅井さん。「準備できてる?」「はい」「ヒアリング入る」「想定内です」短く返す。でも。内心は、全く穏やかではない。(始まる)本当に。そのとき。スマホが震える。樹から。「……」一瞬だけ、出るのを迷う。でもでも取ることにした。「……何」『愛海』焦っている声。いつもよりも、切羽詰まっている。声色からだけでも、伝わってきた。『監査、もう止まらない』「知ってる」『全部壊れるんだよ、監査が入ると』「壊れるのはそっちでしょ」言い切る。沈黙。『……やめろ。とにかくやめてほしい』「理由は?」『……』「まだ、言えない?」『……言えない』「じゃあ無理だよ」「私は、ずっとこのときを」「あの日から待ってたの」「だから、私は樹には協力できない」切る。「……」手が少し震える。でも。止まらない。「高山?」浅井さん。「はい...樹からでした」「止めに来た?」「来ました」「遅いね、もう何もできないのに」短く言う。「……はい」「何かあったら報告して」「……わかりました」今回は、素直に答える。そして、午後になり。監査チームがあひるの支社に到着した。より、空気が張り詰める。監査チームも、会議室に入る。浅井さんが準備していた内容を揃えて。部屋に人が揃い、会議を進行した。いつもよりも、冷たい空気で。この異質な空気に少しだけ緊張する。それでも、質疑応答は止まらない。いくつかの質問が私にも問われる。「この取引についてですが」「はい」淡々と
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第57話:選別

監査チームのヒアリングが続いている。会議室には緊張が走ったままだ。「この中間業者ですが」「はい」淡々と答える。想定していた質問ばかりで。今まで調べていたことがこの日に繋がっている。間違ったことはしていない。その自信があるからこそ、緊張は次第にほどけた。「実態は確認されていますか?」「書類上は確認済みです」「実態は?」想定内で、大事な質問が来た。「……確認できていません」空気が少しだけ変わった。これも、計算のうち。「つまり」監査側が言う。「ペーパーカンパニーの可能性がある」「はい」即答する。もう迷わない。隣にいる浅井さんは、何も言わない。でも。視線がわずかにこちらに向く。(大丈夫)そう言われている気がする。ヒアリングが終わる。終了後にどっと疲れが押し寄せた。上手くいったと思う。自席に戻る道。廊下にて。「いい回答だった」さりげなく、話しかけてきた。浅井さん。「想定通りです」「うん」短く頷く。「ここから絞られる」「……はい」「関与してる人間」一瞬の沈黙。「出てくるよ」「……」分かっている。もう。名前が出る段階に来ている。松村。高山。そして——「伊藤」呼ばれる。「はい」「終わらせる、覚悟はある?」「……」一瞬だけ、呼吸が止まる。この事態は自分が求めていたことだ。あの日からずっと。私の今の状況をつくった人たちに。責任を取らせたい。一呼吸ついて。「あります」はっきりと、答える。「……」浅井さんが少しだけ息を吐く。「じゃあいい」それだけ言う。そのとき。「伊藤さん」山川さんが慌てて来る。「ちょっといいですか」「はい」「外部から問い合わせが来てて……」「外部?」「市役所です」「……」一瞬で理解する。(来た)「内容は?」「今回の補助金案件について、確認したいって」「……」浅井さんを見る。一瞬で視線が合う。「繋がり始めたね」小さく言う。「……はい」ついに。外が動いた。その夜。帰り道。いつものように。浅井さんに連れられて。彼の車で、送られる。「……」沈黙が続く。気まずい。前と違う、気まずさ。空気が、張り詰めている。お互いに、踏み込めたくても。踏み込めない感じで。言葉を紡ぐのに躊躇う。「今日」
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第58話:再会

支社の空気は、張り詰めたまま。 でも、監査チームは一度引いた。 本社で正式に。 この件について協議するとのこと。 終わったわけじゃない。 むしろ、これから。 「伊藤さん」 山川さんが小声で呼ぶ。 「来てます」 「……誰がですか」 一瞬戸惑う。 誰が来たのかは、なんとなくわかる。 でも、聞く。 「別部署の...女性の方です」 「会議室に」 「……」 息を吸う。 吐く。 (来た) 「分かりました」 立ち上がる。 足は止まらない。 でも。 心臓は、うるさい。 会議室の前。 ノックをする。 「どうぞ」 聞き慣れた声。 ドアを開ける。 そこにいたのは。 想定通り、みゆだった。 わざわざ、あひるの支社に。 「久しぶり、愛海」 笑っている。 昔と同じ。 でも。 目は冷たい。 「……久しぶり」 声が、少しだけ硬い。 その隣。 スーツ姿の男。 名刺が出される。 TK Network 偶然ではない、タイミング。 確実にわざと。今だから、ここまで来ている。 「本日は、お時間ありがとうございます」 男が言う。 「今回の件について、正式に確認に参りました」 「……」 視線をみゆに向ける。 「私の案件で来たの?」 小さく聞く。 「そうに決まってるじゃない」 あっさり返す。 「じゃなきゃ」 「こんなところ来るわけないでしょ」 その言い方。 完全に線を引いている。そして、苛立ちが滲み出ている。 「……」 「座って」 促される。 向かいに座る。 距離がある。 でも。 もっと遠いのは、心の距離だった。 「今回の補助金案件ですが」 男が話し始める。 「いくつか事実確認をさせていただきたく」 「はい」 仕事として返す。 感情は、出さない。 今必要なのは、事実の確認だけだなら。 「この中間業者について」 資料が出される。 「実態の確認が取れていないとの報告を受けています」 「その通りです」 「つまり」 少し間が空く。 「不正の可能性があると」 「現時点では否定できません」 「……」
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第59話:対峙

みゆが来てから、数日後。今度は私と浅井さんが、本社に来ることになった。以前訪れたときよりも、空気が重い。誰も大きな声で話さない。コピー機の音だけが、やけに響いている。「伊藤」浅井さんに呼ばれる。「はい」「会議室、今すぐ」いつもよりも、急かす様子で。その声で分かる。何かが、出た。会議室には、監査チームの担当者が二人。浅井さん。そして、私。机の上には、追加資料。中間業者の取引履歴。TK Network関連口座。松村ホールディングスの関連ファンド。「確認が取れました」監査担当者が言う。「補助金の一部が、中間業者を経由して、別法人に流れています」ページがめくられる。「その後、TK Network関連口座を経由し、松村ホールディングス側の投資ファンドに流入しています」息が止まる。ついに、事実として繋がった。追っていたものが。想像していた通りに、形になった。「加えて」担当者が続ける。「承認前に資金移動が発生しています」「つまり」浅井さんが低く言う。「承認予定を事前に把握していた人間がいる」「その可能性が高いです」監査担当者が頷く。「関係者への追加ヒアリングが必要になります」「……高山さんも対象ですか」思わず聞く。担当者は一瞬だけ私を見る。「はい」胸の奥が沈む。分かっていた。でも、言葉にされると重い。樹は、もう逃げられない。彼はこの件を。意図的に隠蔽していたのだ。「松村側も?」浅井さんが聞く。「対象になります」静かに。でも、確実に。何かが崩れ始める音がした。会議が終わる。廊下に出る。足元が少しだけ浮いているような感覚。ここまで来た。本当に。そのとき。「愛海」声。振り向く。樹。顔色が悪い。いつもの余裕がない。今回の件で。急いで支社まで来ていたのが伝わる。「……今は無理」「少しだけ」「仕事なら会議室で」「違う」即答だった。その言葉だけで、嫌な予感がする。「愛海」樹が一歩近づく。「頼む」「俺だって」「隠さなくていいなら」「隠したくなかった」「……」その顔。初めて見る。崩れかけている。「ここまで来たら。もう止められない」低く言う。「監査が入ったから、全部出すことになる」「そうだね」「分かってる?どれだけ、大事なのか」
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第60話:繋がる過去

夜になる。本社の会議室の灯りが、まだ落ちていない。作業をしていたら時間が経ってしまった。正確な証拠と整合性を持たせるために。やることが多過ぎる。静かすぎる社内。席を立ち廊下に出る。会議室の中から低い声が聞こえる。樹の声だ。「……五年前の件から、構造は同じです」ドア越しに、言葉だけが届く。「補助金の事前情報を握る人間がいて、中間業者を使って資金を一度外に逃がす」「その後、別名義の投資ファンドに戻す」「表面上は完全に切り離されているように見えるが、資金の流れは繋がっているんです」息を止める。五年前。浅井さんの過去。(前に聞いた話と同じだ)部屋のドアに手を伸ばしかけて、止める。今、入るべきか。迷う。「伊藤」背後から声。振り向く。浅井さん。「……聞こえてましたか今の」正直に言う。「うん」短く頷く。「……部屋に入りますか?」「いや」首を振る。「もう少しで終わるはず」「……」沈黙。でも。前みたいな距離じゃない。「……五年前の件って」小さく聞く。一瞬、視線が揺れる。でも。「前に話した件のこと」低く言う。「今回と関係ある」「……」やっぱり。繋がっている。「……聞いてもいいですか」一歩だけ踏み込む。「……」少しだけ間が空く。そして。「……伊藤に」短く言う。「今話してもいいよ」「……」拒絶じゃない。でも。私は浅井さんのタイミングを待つべきだ。「……分かりました」だからこそ。それ以上は踏み込まない。でも。その距離が、少しだけ変わっている。そのとき。ドアが開く。樹が出てくる。顔色が悪い。でも。目は、どこか静かだった。「……終わった」小さく言う。「一次は」「……」私を見る。そして。「全部話した」はっきりと。「五年前の件も」息が止まる。浅井さんの視線が、一瞬だけ動く。「……そう」それだけ。でも。空気が変わる。「……ごめん」「……親のこともあって」「……どうかしてた」たどたどしく、こぼすように。樹が言う。「遅すぎるのは分かってる」「……」言葉が出ない。でも。「……ありがとう」小さく言う。それだけ。樹が一瞬、驚いた顔をする。でも。何も返さない。「……もう行く」背を向ける。止まらない。自分で進ん
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