All Chapters of 全てを奪われた私が、復讐の共犯者と会社を壊すまで: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話:終点

その日の夕方。人気がまばらになる。その一方で。ドアの向こうでは、まだ会議が続いている。浅井さんは今日、別件の会議が遅くまで詰まっていると言っていた。支社の代表としての確認事項。現場対応。役所との調整。この件だけでも忙しいはずなのに、他の案件も抱えている。ドア越しに聞こえる浅井さんの声は、低く、切り詰めたトーンだった。抜けられなさそう。合間なく会話が続いているのが、外からでも分かる。「……」特に用があるわけではないし。ちょっと、忙しそうな様子が気になったけれども。そのまま、通り過ぎる。「愛海」ふと、呼ばれる。振り返る先にいるのは、樹。「……今、大丈夫?」「……仕事の話なら」もう、この返答にも慣れてきて。「そのつもり」即答されるのも、慣れてきた。「まだ確認したいところ、あるだろ」「……あります」事実、確認事項がいくつかあって。でも、樹は今日東京に帰るはずだから。メールで確認しようと思っていた。「タクシーで駅向かう」短く言う。「その間でいい」一歩近づく。「だから駅まで見送ってよ」「……」会議室のドアを見る。浅井さんは、まだ中にいる。でも。「……分かりました」断る理由がない。外に出て、呼んでいたタクシーに乗る。後部座席。隣に樹。「駅までお願いします」車が動く。そのまま資料を開く。樹が一箇所で止まる。「この業者の部分」指差す。そこ。TK Network。あの名前。さっき会議で引っかかった場所。嫌な予感がしたところ。「ここ、切った方がいい」「……理由は?」樹が止まる。ほんの一瞬じゃない。明らかに。考えている。いや。言うのを選んでいる。「……なんていうか」言葉を濁す。「……あそこは」そこで止まる。続けない。仕事の話で、この止まり方。私が知っている樹だと、ありえない様子だった。彼は、仕事に関しては。理路整然としていて。少なくとも、誤魔化すような言い方はしない人だったから。「……樹」「……何」「そこ、ちゃんと説明できるはずだけど」沈黙。否定しない。それが答え。樹が少しだけ視線を落とす。「……触るなって言われてる」ぽつりと、小さな声で。「……誰に」答えない。でも。それで十分だった。ちゃんと答えない。その一点で。確定
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第42話:合流

支社にそのまま戻る。もうすっかり夜。明かりはかなり落ちている。残っているのは、会議室の一角だけ。ドアを開けると。浅井さんが一人で資料を見ていた。「……戻りました」顔を上げる。一瞬。視線が止まる。「遅かったね」短く言う。責めてはいない。でも、軽い感じではない。「……すみません」「いいよ」何に対しての、いいよなのか。意味を聞くほどのことでもない。けれど、視線が外れないのが引っかかる。「……何かあった?」先に聞かれる。言うか、迷う。どこまで話すか。でも。ここで隠す方が違う気がした。「……TK Networkの件です」浅井さんの目が、少しだけ変わる。「高山さんは、あそこを切った方がいいと言いました」「理由を聞いたら、濁されました」「……」「何か、言えないことに関与しているような濁し方でした」「ただ、明確には言いませんでした」浅井さんは、黙って聞いている。「でも」続ける。「“触るなって言われてる”って」「……」空気が止まる。浅井さんの手が、資料の上で止まった。「誰に?」「言いませんでした」「……」「でも、TK Networkのところで明らかに止まりました」「本社側の関与があるように見えます」「……」浅井さんが、ゆっくり息を吐く。「そうなると……」低い声。「あり得ないとは思ってたけど」一度、言葉を切る。「調べることが出てきた」「……知らなかったんですか」思わず聞く。「その言い方まではね」短く返る。「何も出ないと思ってたんだけど」「そこまで言うなら、探る必要が出てきた」「……」新しいピース。浅井さんも掴めていなかった情報。そう分かる。「新しい情報が拾えてよかった」浅井さんが言う。「……」その一言で、少しだけ息が抜ける。でも。同時に。目の前の浅井さんを見る。疲れている。表情は変わらない。いつも通り、涼しい顔をしている。でも、今日だって遅くまで会議が詰まっていた。支社の代表としての仕事もある。現場も見ている。役所とも話している。それなのに。この件まで、ずっと抱えている。「……浅井さん」「何」「最近、寝れてますか」聞いた瞬間。自分でも少し驚く。仕事の話じゃない。でも、聞かずにいられなかった。浅井さんは、少しだけ目を伏せ
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第43話:接続

会議室では、静かに時間が過ぎた。時計の音だけが、少しだけ響く。「……ここ」浅井さんが資料を指す。TK Network。昼に聞いた名前。前にデータを精査したときにも出てきたところ。そのときも少し違和感を覚えたが。改めて、何度も出てきてなんとなく嫌な予感がした。「この法人」淡々と。「表向きはコンサルと投資」「でも」ページをめくる。「実態はプロジェクトごとの資金管理を握ってる」「……」嫌な感じが、はっきり形になる。「資金の流れを握るってことは」続く。「承認のタイミングも、実質コントロールできる」「……」昼の言葉。“触るなって言われてる”繋がる。「……」「ここ、登記情報」別の資料を差し出される。受け取る。役員名。住所。関連会社。「……」スクロールする指が止まる。名字。見覚えがある。でも。すぐに言葉にできない。「……」もう一度見る。同じ漢字。同じ並び。胸の奥が、少しだけざわつく。でも。それ以上は、まだ繋げない。「……どうした」浅井さん。「……いえ」首を振る。まだ、言葉にできない。「……」「このライン」浅井さんが続ける。「KMとも繋がってる」「……本社と?」聞き返す。浅井さんの手が、ほんの一瞬だけ止まる。それから。何事もなかったみたいに続ける。「昔の案件でも、関係があった」「……」“昔”その言い方。少しだけ引っかかる。「……どんな」思わず聞く。浅井さんは、資料を閉じた。「五年前」短く言う。「社外パートナーとの共同プロジェクト」視線は、資料の上。でも。少しだけ遠い。「研究系の案件で」「……」「一人、中心にいた人がいた」淡々と。でも。言葉が少しだけ、遅い。「……」「不正利用」その言葉が出る。「研究費の」「……」「そういう扱いにされた」「……扱い?」思わず聞く。「事実じゃなかった」即答。「……」その速さ。迷いがない。「でも」続ける。「そのまま辞めた」「……」理由は、言わない。でも。分かる。「……」「俺は、そのとき」少しだけ間。「KM側のプロジェクトリードだった」「……」繋がる。全部。「……それで」言葉が出る。「調べたんですか」「調べようとした」訂正される。「……」
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第44話:同じ名字

翌朝の、支社にて。まだ人が少ない時間。パソコンを立ち上げる。昨日の資料を開く。TK Network。役員一覧。関連会社。資金の流れ。一つずつ確認する。「……」スクロールする指が止まる。役員ではない。でも。関連企業の中に、見覚えのある名前があった。松村ホールディングス。「……松村」小さく呟く。みゆの名字。松村みゆ。「……」画面を見たまま、動けなくなる。直接じゃない。でも。完全に無関係とも言えない。TK Network。その関連に、松村の名前。樹。みゆ。本社である、KM。触るなと言われたライン。全部が、少しずつ同じ方向を向いていく。「……」胸の奥が、静かに冷える。「伊藤」声をかけられて、我にかえる。振り返ると、浅井さん。「早いね」「……少し、確認したいことがあって」「見せて」短く言う。画面を横に向ける。浅井さんの視線が、資料に落ちる。TK Network。関連企業。松村ホールディングス。その名前で、ほんの一瞬だけ目が細くなる。「……松村」低く言う。「みゆの名字です」口にする。静かに。でも。はっきりと。「……」浅井さんは何も言わない。でも。空気が変わる。昨日よりも、さらに。「直接の役員ではないです」続ける。「でも、関連企業として繋がってます」「……」「樹は、このラインで止まりました」「触るなって言われてるって」「……」浅井さんが、ゆっくり息を吐く。「そうなると……」低く言う。「仮説的にはないかなとは思ってたけど」「調べることが増えた」「……知らなかったんですか」「この繋がり方はね」短く答える。「名前までは追ってた」「でも、ここが今回の件に繋がってるとは思ってなかった」「……」新しいピース。浅井さんでも見えていなかった部分。「これも、使えるかもしれない」今回の追っている件で。進歩がようやく見えて。達成感が少し出てきた。何よりも、浅井さんが5年前から少しずつ追っていたことに。貢献できていることが嬉しかった。この人に評価されたい。そんな気持ちが、少なからず芽生えているからだ。「……」改めて、浅井さんを見る。昨日も、遅くまで会議だった。支社の代表で、現場も役所も対応していて。全部見ている。それなのに。
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第45話:入口

朝の会話を思い出しては。浅井さんの、迷惑になりたくない。その気持ちが仕事に対しての原動力になった。そのまま資料を広げて。一気に集中して作業を進めた。気づいたら、もう夜になっていて。浅井さんに再度呼び出されて、資料の確認を行うことに。「……ここまで繋がるとは思ってなかった」少しだけ、驚いたように呟く。今日動いたことで、いろいろなことが見えてきた。TK Network。社内ツールで確認したところ。....みゆは、TKの業務連携事業部に現在在籍していることがわかった。これは社内でも異例で。3ヶ月前に静かな異動をしていたのだ。仕事の話はあまりしない仲だったからこそ。....盲点だった。松村ホールディングス。その線の上に、今回の補助金。「……」私は資料を見たまま、口を開く。「松村って」「企業買収、強いですよね」「うん」短く返る。「再生案件とか、資本整理とか」続ける。「表に出ない形で入るのがうまい」「……」浅井さんが、少しだけ頷く。「五年前もそうだった」「……」顔を上げる。「本社の5年前の案件でも」静かに続ける。「資金の入り方が不自然だった」「でも」「調べても、何も出なかった」「……何も?」「完全にクリーンだった」はっきり言う。「帳簿も、契約も、承認も」「全部、正しかった」「……」「だから、告発さえできなかった」淡々と。でも。悔しさが、少しだけ混ざる。「……」「今回も同じ構造だと思ってた」資料を指す。「TKが資金を握る」「本社が案件を回す」「でも」指が止まる。「そこに松村が入ってる」「……」違和感が、はっきり形になる。「……どういう入り方ですか」聞く。浅井さんが、少しだけ考える。「直接じゃない」「……」「正面から来てない」資料をめくる。一枚。「この業者」指差す。中間業者。名前も、規模も、目立たない。「ここが入口」「……入口」「表の契約は、ここで完結してる」「補助金の申請も、この会社名義」「……」「でも」もう一枚。「裏で資金を引いてるのがTK」「さらに」少し間。「そのTKの資本の一部を押さえてるのが松村だろうね」「……」繋がる。全部。「つまり」言葉が自然に出る。「松村は直接関与してない形を取ってる」「うん」
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第46話:歪み

いつも通りに、次の日が来た。でも。社内の空気が少し違う。「伊藤さん、おはようございます」山川さん。「おはようございます」挨拶をして、コーヒーを取りに行く。なぜか。今日はどこかからか、視線を感じる気がする。「……」席に着いて、パソコンを開いて。昨日の続きを整理する。TK Network。松村。中間業者。「……」線は見えている。でも。まだ、全ては証明できない。「伊藤」声。浅井さん。「はい」「少し来て」いつも通りの、会議室。ドアが閉まる。「……これ」資料を差し出される。新しいデータだ。「中間業者の口座の流れ」「……」目をすぐに通す。振込。補助金。外注費。その中に。一つだけ、違和感。「……このタイミング」思わず口に出る。「承認前に資金が動いてる」「うん」浅井さんが頷く。「普通はあり得ない」「……」「でも」ページをめくる。「帳簿上は成立してる」「……」まただ。データが綺麗すぎる。「……」「この辺が歪み」浅井さん。「完全じゃない証拠」「……」「この部分を起点にして」「本社に持っていくのに、準備しよう」「……はい」理解する。でも。同時に、気づく。「……これ」少し言おうか、迷う。でも、止めなかった。「結構リスク、大きいですよね」「大きいよ」即答。「だからやるつもり」「……」迷いがない。「……」そのとき。ノック。ドアが開いて。「浅井さん」田中さんが立っている。「本社から、事務に連絡が」「……誰」「高山さんです」「……」空気が変わる。一瞬で。「了解。こっちから繋ぐ」浅井さん。短く言うと。すぐに、会議室でスマホを開いて。スピーカーで、浅井さんは電話した。『お疲れ様です』樹の声。仕事の声。「何」浅井さん。『一点だけ、確認したいことがあって』「簡潔に教えて」『補助金の対象業者についてですが』一瞬、間。『再検討の必要があると思ってます』「理由は?」『現場レベルでの運用に無理があるので』言葉を選んでいる。分かる。でも。「……それだけ?」浅井さん。少しだけ低い。『……』沈黙。その一瞬で。全部伝わる。言えない。でも。止めたい。「……」「それは無理」浅井さん。即答。『理由を聞
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第47話:呼び出し

資料が広がったままの、夕方の会議室。内容を詰めるのに必死で、気づいたら時間が経っていた。浅井さんが他の案件で離れたり、入ってきたりして。私はひたすら、部屋で作業をしていた。そして、見つけた。「……ここ」指を止める。中間業者の口座。補助金の振込。その前に動いている資金。「承認前に流れてます」「うん」浅井さんが頷く。「普通はあり得ない」「……でも帳簿上は成立してる」「そう」TK Network。中間業者。そして、松村。線は、もう見えている。「あと一つ」浅井さんが言う。「出口を押さえれば、持っていける」「……はい」そのとき。スマホが震える。...みゆから、だった。このタイミングでの電話。不吉な予感しかしない。「……」浅井さんがこちらを見る。何も言わない。でも。誰からなのか、分かっている。「……出ます」席を外す。廊下。「……もしもし」『愛海?』軽い声。変わらない。それが逆に気持ち悪い。「……何か用?」『樹、来てたんだって?』「……うん」一瞬で、空気が変わる。少し、声がいつもよりかは冷たい。「……聞いたんだ」『そんなの、当たり前じゃん』婚約してるんだから、と笑う。『何回も会ってたよね?』「……仕事でなら」『へえ』短く笑う。少し、皮肉を含んでいるかのように。『それだけ?』「……」言葉が詰まる。『ねえ』少しだけトーンが変わる。『東京に、来てよ』「……」「なんで」やっと出た言葉。『来る必要があると思って』即答で、少し真剣な様子で。『今じゃないと意味ない』「……何の話」『全部』「……」『愛海さ...』少し空いた間で、迷っている様子を感じ取った。『どこまで関わってるか、分かってる?』「……」でも、はっきりと責めているような感じで。私を問い詰めるかのように聞いてきた。『樹のことも』『樹の案件自体に対しての、調べ方もさ』『全部、踏み込みすぎてない?』「……」『だから、東京で話そう』静かに言う。『こっちでしかできない話がある』「……」断りたい。でも。...断れない。「……仕事がある」『大丈夫』被せられる。『私の事業部から、出張リクエスト出しといたから』「……は?」一瞬、思考が止まる。『メール、届いてるでしょ
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第48話:対面

昼過ぎの東京。駅を出た瞬間、人の流れに飲まれそうになる。あひるの市とは、空気が違う。音も。速度も。視線も。全部が、少しだけ鋭い。「……」スマホを見た。みゆから送られてきた場所。駅から少し歩いた、ホテルラウンジ。いかにも、静かで。人に聞かれにくくて。でも、逃げにくい場所。「……行こう」小さく呟く。バッグの中には、メモ。聞くこと。確認すること。感情じゃなくて、情報。浅井さんの言葉が、まだ残っている。ラウンジに入る。奥の席。みゆは、もう座っていた。白いブラウス。細い指。きれいに整えられた髪。何もなかったみたいな顔で、手を振る。「愛海」昔と同じ声。昔と同じ笑顔。でも。もう、同じには見えない。「……久しぶり」向かいに座る。「来てくれてありがとう」みゆは嬉しそうに笑った。「忙しいのに、ごめんね」「急ぎで直接話したいことがあるんでしょう?」「そうなの」軽く頷く。>その言い方が、軽すぎる。「何の話?」先に聞く。みゆは紅茶を一口飲む。カップを置く動作まで、余裕がある。「樹のこと」その名前が出ても。もう驚かない。「樹があひるのに行ってたんだってね」「仕事で」「そうだね」みゆは笑う。「仕事で」その繰り返し方が、嫌だった。「何回も会ったんでしょ?」「必要な確認があったから」「ふうん」みゆが少し首を傾げる。「それだけ?」「……何が言いたいの」「愛海ってさ」笑ったまま言う。「ほんと、昔からそういうところあるよね」「……」「自分は正しいことしかしてませんって顔」空気が、静かに冷える。「そういう話をしにわざわざ東京まで呼んだの?」「違うよ」みゆはすぐに言う。「でも、言いたくなっちゃった」軽い。あまりにも。「大学の頃から、ずっと思ってたの」「……何を」「愛海って、真面目で不器用で」みゆは指先でカップの縁をなぞる。「努力家で」「ちゃんとしてて」「周りから信頼されてさ」「……」「でも本人は、そういうの全部“普通です”って顔するじゃん」「……」「それが、すごく嫌だった」一瞬、聞き間違えたのかと思った。「……嫌?」「うん」みゆは、あっさり頷く。「目障りだった」胸の奥が、冷たくなる。「……」「だってさ」みゆは笑
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第49話:余白

「やっぱり」小さく呟く。「知ってたんだね」みゆは、笑顔を戻した。でも、少し硬い。「知ってるっていうか」「家の話だから」「結婚する、家と家同士の話だし」家の話。その軽さ。「補助金の不正も?」「不正って言い方、好きじゃないなあ」みゆが言う。「調整だよ」「……」「地方事業ってさ、きれいごとだけじゃ回らないの」「資金を先に入れて、実績を後から整える」「そうしないと動かないこともある」「それを?」「必要な調整」「研究費を不正利用したことにされた人も、調整?」自分でも驚くほど、声が冷たかった。みゆの顔から、笑みが消えた。「……何それ」「五年前」一言だけ。みゆは黙る。完全に。「知らないの?」静かに聞く。「……私には関係ない」「まだ何も言ってない」「……」今度は、みゆが言葉を詰まらせる。初めて。「……愛海」声が少し低くなる。「それ以上、調べるのは本当にやめた方がいい」「脅し?」「忠告」「誰からの?」みゆは答えない。「松村家?」沈黙。「TK Network?」沈黙。「樹?」その瞬間。みゆの目が揺れた。「あの人は」言いかける。止まる。「……」「あの人は、何?」みゆは視線を逸らす。「樹は、愛海が思ってるほど自由じゃない」「だから?」「……」「だから、私が傷ついても仕方ない?」「だから、親友を裏切ってもいい?」「だから、会社の不正を見過ごしてもいい?」みゆの表情が、少しずつ崩れていく。でも。その崩れ方は、罪悪感じゃない。苛立ち。「じゃあ愛海はどうしたかったの?」急に声が強くなる。「樹を助けられた?」「会社を変えられた?」「上の人たちに逆らえた?」「……」「何も知らなかったくせに」言葉が刺さる。でも、今度は受け止めない。「知らなかった」認める。「でも、今は知ろうとしてる」みゆの目が、少しだけ大きくなる。「だから?」「止まらない」はっきり言う。「樹にも言われた」「深入りするなって」「みゆにも言われた」「でも、止まらない」「……」「私が失ったものを、仕方ないで済ませた人たちを」声が静かに落ちる。「そのままにしない」みゆが笑う。乾いた笑い。「復讐?」「そう」初めて、迷わず言えた。「復讐」みゆの顔が、少しだけ歪
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第50話:再会

東京駅には、夜に着いた。改札の手前。人の流れが、波みたいに動いている。スーツケースの音。アナウンス。行き交う足音。「……」その中で。ふと、足が止まる。少し離れた柱の横に。人の流れに入らず、静かに立っている人がいる。黒いコート。片手にスマホ。視線は、時計と改札の間。「……」浅井さん。本当に、ここに。元々どこにいるか、連絡はくれていたものの。まさか本当に、東京に来るとは思ってなかった。一瞬、現実感がなくなる。でも。次の瞬間。浅井さんが顔を上げる。目が合う。迷いがない。最初から、そこにいる前提みたいに。「……来てたんですか」やっと言葉が出る。「来てるって言ったでしょ」低く返る。「……あれ、冗談かと思ってました」「冗談で来ない」短い。でも、当然みたいな言い方。「……」言葉が続かない。「時間、言ってたから」それだけ付け足す。「……」確かに。帰る時間は伝えていた。でも。来る理由にはならない。普通は。「……あひるの、どうしたんですか」「朝イチで出てきた」さらっと言う。「……」意味を理解するのに少し時間がかかる。あひるの市から。わざわざ。ここまで。「……仕事ですか」「半分」「……もう半分は?」一瞬だけ間。「伊藤を迎えに」「……」息が止まる。何も言えない。でも。逸らせない。「……」浅井さんが視線を外す。「行くよ」それだけ言う。自然に、歩き出す。私もついていく。改札を通る。新幹線のホームへ。「……」並んで歩く。何も言わない。でも。さっきまでと違う。一緒にいてくれる人がいる。その感覚だけで、少し楽になる。「……どうだった」浅井さんが聞く。短く。でも、核心。「……最低でした」正直に言う。「……」浅井さんは何も言わない。ただ、少しだけ歩幅を合わせる。それだけで。守られている気がする。「……みゆが」続ける。「全部分かっててやってたって」「……」「私がどうなるかも」「全部」「……」「それでも必要だったって」「……」静かな沈黙。でも。今は、苦しくない。「……それでいいの?」浅井さん。「……よくないです」はっきり言う。「だから、真実を突き詰めて」「会社と向き合いたい」「……」浅井さんが、
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