翌朝、怜央はいつもより短い言葉で予定を告げた。「今日、遅くなる」美緒は味噌汁の椀を置く手を止めた。湯気が白く立ち上り、怜央の前で薄くほどけていく。いつもなら、そこで怜央はコーヒーを飲みながら新聞かタブレットを見ている。けれど今朝は、箸を持つ前からスマホの画面に視線を落としていた。「会食ですか」「ああ。取引先」怜央は画面から目を離さずに答えた。指先が画面の上を滑り、何かの予定を確認しているようだった。「最近、立て込んでるんだ」そう言われると、美緒にはそれ以上聞けなかった。「そうですか」「夕飯はいらない」「分かりました」短い会話だった。それだけなら、何も不自然ではない。久世物産はKUZÉ ma vieの件で慌ただしいはずだった。鷹宮との追加確認もある。宗一郎への報告、社内の調整、莉奈の資料修正、取引先との打ち合わせ。怜央の予定が詰まるのは当然だった。忙しいのだろう。そう思う方が自然だった。そう思う方が、怜央を疑わずに済んだ。けれど、美緒は怜央の横顔を見ながら、昨日の言葉を思い出していた。夫婦なんだから、俺の立場も考えてくれ。その声は、まだ胸の奥に残っている。美緒はあのあと、手帳を開いた。経営判断。小さく言わない。その下に何かを書こうとして、何も書けなかった。書いてしまえば、自分の中に生まれた違和感を認めることになる気がしたからだ。今朝も、怜央は目の前にいる。いつも通りのスーツ。整った髪。仕事へ向かう前の、少し急いだ空気。けれど、どこか遠い。怒っているわけではない。冷たくされたわけでもない。ただ、美緒へ向ける言葉が少しだけ短く、視線が少しだけ遅れて届く。その小さな距離を、美緒は自分のせいだと思った。鷹宮の前で、怜央を立てられなかったから。佳乃子に言われたように、上手に控えられなかったから。だから怜
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