その一件のあと、早霧は必要最低限の荷物だけをボストンバッグに詰め込み、黙って家を出ていった。 パタン、と閉まった玄関のドアの音は、七年の終止符にしてはあまりに軽かった。 まるでコンビニにタバコでも買いに行くような、日常の延長線上の音。 その数時間後、静まり返った部屋で受信したメッセージは、わずか三行だった。 『友達に告られてから 半年以上二股してた』 『この前の旅行で 相手の子、妊娠させちゃって』 『やっぱ自分の子どもが欲しいから 籍入れる』 絵文字も、句読点もない。 謝罪なのか、単なる事務報告なのかも判別できない、平坦で無感情な文字列。 スマホを持つ手が震えて、何度も画面を上下にスクロールした。けれど、白い空白が広がるだけで、その先に言葉が続くことは二度となかった。 たったそれだけで、俺たちの恋は終わった。 あまりに呆気なさすぎて、涙さえ出なかった。 裏切られた怒りも、彼への憎しみも、すぐには湧いてこない。ただ、左胸のあたりに穴を開けられて、吹き抜ける風のような冷たさだけがあった。 ◇ それからの俺は、逃げるように仕事に没頭した。 スクールカウンセラーとして、複数の中学校を慌ただしく飛び回る毎日。 「珠依先生、今日って相談室空いてますか?」 「うん、構わないよ。……来てくれてありがとう」 教室に行きたくないと言って膝を抱える生徒の隣に座り、親との関わりに怯える子の震える手に言葉を重ね、保健室登校の子の沈黙に寄り添う。 「大丈夫だよ」 「君は一人じゃないからね」 「自分のペースで、少しずつでいいんだよ」 唇から滑り落ちる言葉は、皮肉なほど穏やかで慈愛に満ちていた。けれど、導く側の俺の心だけは、あの日から鋭く折れたまま。 折れた心に添え木を当てるように、必死で理屈を並べてみる。 ――時間が、いつか解決してくれる。 ――もっと誠実な人に出会えるはずだ。 ――早霧にとって「子作り」は抗えない本能だったのだ。 言い聞かせるたび、心に走った亀裂は塞がるどころか、深く、深くなっていった。 (もう、子どもの性別とか、分かる頃なのかな……) 次第に、食事が「粘土を食べるような」感覚に変わった。冷蔵庫の中身は減らないまま、賞味期限の数字だけが過ぎていく。 サラダとゼリー飲
Baca selengkapnya