「……あ、あの、テレビで。パンフレットのニュース、見たんです。すごい人だったんだなって、今さら気づいて」「ああ、あれ……。お恥ずかしいです。でも、それをきっかけに思い出してくれたなら、あの仕事受けて良かった」 浅野さんの声は、先ほどまでの仕事モードとは打って変わって、春の陽だまりのような温度を湛えていた。「――珠依さん、桃はお好きですか?」「はい?」「俺、いま撮影で山梨に来てるんです。お好きだったら、お土産にどうかと思って」「す、好きですけど……」 気まずさも何も感じさせない、まるで前からの友人のような距離感。俺の心の境界線を軽々と飛び越えてくる感覚に、素直に返事をしてしまった。「ごめんなさい、俺……。珠依さんから連絡貰えて……今、ちょっと冷静じゃないかもです」「あ、はい……なんとなく、そんな感じします」 俺の一言に電話口の向こうで彼は「あはは」と快活に笑う。 姿は見えないのに、大きな口を開けて笑う彼の姿が目に浮かぶのは何故だろう。「……電話くださって、嬉しいです。撮影が終わるのがあと三日後なので……終わったら、今度は俺からかけてもいいですか?」「は、はい……」「ホントはメッセージでやりとりしたいですけど。さすがにガンガン行き過ぎてる自覚あるので、やめますね」 嬉しさを滲ませた声で言う彼に、俺は電話だというのに無言で頷いてしまった。 腕の中へ、ぎゅっと「霞くん」を引き寄せる。「それじゃあ、また」 その声に「また」と返すより先に、頭の中に浮かんだ言葉を俺は考えなしに紡いでしまった。「……あの、お仕事頑張ってください」「…………」 消え入りそうな、小さな声。けど、彼にはちゃんと届いたらしい。「あなたにそう言われたので、頑張れそうです」 そんな、大事にしている、大切にしていると心を込められたような言葉は、人生で初めて言われた。 たじたじになって返事に困っていると、浅野さんの方から「もう仕事に戻らないと」と言われ、俺たちは短い挨拶を交わして電話を切った。◇ 浅野さんとの出会い、そしてあの電話からさらに数日が経った頃――。 撮影の仕事を終えた帰りに彼は再び電話をくれた。「これからそのまま別の県へ移動しなきゃいけないから、宅配便でお土産を送らせてほしい」と言われ、俺たちは連絡手段をメッセージに切り替えた。 見ず知らずの人
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