Alle Kapitel von 悪役オメガは何度でも断罪される: Kapitel 31 – Kapitel 40

62 Kapitel

12:四周目

 ふわっとした浮遊感があった。──ああ、またか。 俺は息を大きく吸い込み、そして止める。 体が引力に引っ張られ、全身を水が包み込む。 沈むに任せて体の力を抜き、やがて伸ばされるであろう助けの腕を待つ。 少年の手が身を包み、ぐいと水面に押し上げられる。「ぶはぁ!」「マシュー!」 駆け寄ってきた父上が、水面のアレクシス殿下から俺の体を受け取り、抱き上げてくれた。「ご無事ですか?」 水から上がり、濡れた黒髪を掻き上げ、アレクシスは父上に問うた。「ありがとうございます! 王弟殿下!」 濡れた服をそのままに、アレクシスはこちらに歩み寄ると、俺の顔を覗き込んだ。 けほけほと咳き込む俺に、金色の瞳がにこりと笑う。「良かった。さほど水を飲んでなさそうだ」 周囲がばたばたと慌ただしく動き、俺とアレクシスにタオルが渡される。 離れた場所で、こちらを見ているランドルフ。──あれ? なんだっけ? またゲームが始まった……と思ったのと同時に、俺は妙な違和感を覚えたのだが……。 それを深く思考する前に、何に引っかかったのかもわからなくなる。 あまりにも何度も同じことを繰り返しすぎて、起きた事案がどのループであったことなのかが、だんだん曖昧になっているようだ。
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12-2

 部屋で目覚めると、メイドさんが走っていって父上たちを呼んでくる。 ここまでは、いつも通りだ。「らんぼうにして、すまなかった」 枕辺に立ったランドルフが頭を下げる。 なぜかその隣に、アレクシスがいた。──そこに立つのは……、スチュアートじゃなかったっけ? 隠しルートに入ったから、アレクシスが表面化したのだ……としても。 それはヒロインのイベントに現れるもので、悪役オメガのところじゃないだろう。「マシュー。殿下はかくれていたマシューを驚かそうと、ちょっとふざけただけなのだ。許してさしあげなさい」 返事が遅れた俺に、父上が謝罪を受け入れるように促してくる。「う……うえええええっ!」 俺は、数秒ランドルフの顔を見たあと、派手に泣き出した。 嘘泣きっぽくなってしまったか……? と思ったが。 三歳の体は、存外簡単に涙がじゃあじゃあ出てきて、嗚咽が止まらないほどになる。「ああ! 殿下、申し訳ございません!」 狼狽えた父上の声がする。「マシュー、落ち着きなさいな」 優しく背中をさする、母上の温もり。 でもそれが逆に、俺の気分を悲しい方向へと引っ張る。 何度も繰り返される断罪。 それは、悪役オメガのキャラ付をされてしまったマシューには回避のしようもない運命かもしれないが。 この優しい父母までが、なぜ毎回、不当に幽閉されねばならないのか? いけ図々しいメルヴィンと、その取り巻きの攻略対象たちが幸せを享受する資格が、ただイケメンだからって理由だけで得られるのだとしたら、なんと理不尽なのだろう?「エヴァレット侯爵。謝罪の場は改めて。今は、帰ります」「おじうえ! わたくしはちゃんとあやまりました!」「分かってる、ランディ。だが、謝ったから許されるものでもないんだよ」 なんか、とても八歳とは思えない采配を振って
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12-3

 メルヴィンはプレーヤーだが、こちらの話を一切聞く気がない。 それは、わかった。 でも……、本当にメルヴィンはプレーヤーなのだろうか? メガ恋は選択肢の会話で進むゲームだ。 ってことは、台詞はもちろん、明朗快活でなんでも前向きに捉えるヒロインの性格だって、変わらないはずだろう。──例えプレーヤーが操作していたとしても、画一的な応答になるはずなんじゃ? いや、そんなことを言ったら、俺が普通に生活して、モブの両親や、ゲームに登場すらしないアルフォンスと過ごしている時間はなんなんだ? ってことになる。──プレーヤーって、前提が間違っているなら……。 ここは仮想世界……つまり画面の向こうのゲームの世界ではない。 そうなると残る可能性は、メルヴィンの中身も俺と同じく〝転生者〟ってことになる。──それじゃあなんで何度もリセットされるんだ? と考えて。 そういえば、謝罪の席にアレクシスがいたことを思い出す。──リセット……じゃないのか? ほぼ同じ時間を繰り返してはいるが、色々なズレが発生している。 そもそも、俺がランドルフと距離をおいたり親密にしたりと、明らかにプログラム外の挙動が出来ている時点で、そう考えるべきだったのだ。──必ず断罪に持ち込まれるから、てっきりゲームの強制力と思っていたが……。 メルヴィンがゲームのストーリーを把握し、それ通りになるように裏で動いているなら、それは強制力ではなく、ただの駆け引きになる。──向こうが常に数手、先を読んでるってだけか……。 だが、それはある意味、当然かもしれない。 ゲームの悪役オメガで、断罪を逃れるために奔走する俺と。 ハッピーエンドを目指すために、ターゲットを決めて先回りのできるヒロイン。──今回は、アレクシス狙い…&helli
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13:アレクシス

 とはいえ、幼児の俺が一人で出かけることなんて出来ない。 メルヴィンとの話し合いは、時を待ち、一人で行動できるようになってからが妥当だ。 そして、俺があれだけギャン泣きしたにも関わらず、婚約は成立した。 まぁ、前回あれほど「アルファが怖いから無理」と言っても成立したから、どうあがいてもそうなるだろうな……とは予想していたが。 護衛にはまたアルフォンスになってもらった。 個人的にあの爺さんが好きだし、俺がメルヴィンに会うために共犯になってもらうのが都合良かったからだ。「マシュー様は、おとなしいのか、お転婆なのかわかりませんな」 王妃教育の授業を終え、停車場に向かう俺にアルフォンスが言った。「アルフォンス。お転婆は、男性オメガに向けて使うのは、あんまり正しくない言葉では?」 俺の問いに、アルフォンスは笑う。 とはいえ、王宮の廊下だから声を抑え気味にだが。「品行方正かと思えば、帰りに寄り道もなさる。スラム街に近づきたがるかと思えば、施しは一時の毒にしかならないと大人のようなことを仰る」「王妃教育で教わったことを、自分の目で確かめたいだけです」 スラム街を歩き回ったのは、〝奇跡の回復〟に目覚める前のメルヴィンに出会えるかもしれないと思っただけだ。 全く無駄に終わったけれど……。「マシュー!」 声を掛けられ振り返ると、アレクシスがいた。「アレクシス殿下」 俺が臣下の礼を取ると、アレクシスが肩をポンッと叩いてくる。「やめてよ。きみはランディの婚約者だし、私にとっても弟みたいなものなんだから」 アレクシスは、ランドルフが改めて謝罪に来た時にも、なぜか付いてきた。 というか、実はものすごく頻繁にこうして声を掛けてくる。──今世は攻略キャラとしてターゲットされているだろうから、あんまり接点を持ちたくないのだが……。 だが、王家の者に声を掛けられて、
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13-2

 アレクシスの研究室には、数人の魔導士がいた。 もっとも、これは魔法の研究施設として、規模がかなり小さい。 魔法学は、理論魔導士と、理論魔導士が発表した術が実際に理論通りかどうかを検証する、実験魔導士によって支えられている。 国が運営する公的な研究施設だと、実験魔導士は百人単位で抱えているものだ。 アレクシスの研究室は、彼が〝王弟〟であることを考えると、信じられないほど小さい。 が、それはこの研究室が彼の〝私設〟だからだろう。「今、一番気になってるのは、最近報告が上がっている〝予知能力〟に関してなんだ」「予知……ですか?」「まぁ、報告してくる者が予知と言うから、そう呼んでいるだけで。あれは正確には……既視感だと思う」「既視感は、予知ではないでしょう? なぜ、混同されるのですか?」「うん。一概に既視感と片付けられない現象を……僕が体験しているからかな」「それは……?」「既視感ってのは、これは昔体験したことがあるような気がする……って感覚でしょ? でも僕の場合、ああ、これはこうなるな……と思ったことが、実際になったりならなかったりするから」 アレクシスの発言に、俺は平静を装っていたが……かなり狼狽えていた。 それってつまり、アレクシスも〝前世〟の記憶持ち……ってことなのか? と思ったからだ。「でも……なったり、ならなかったりするなら、予知ではないですよね?」「ランディがマシューを池に落とした時ね。僕はそのちょっと前に、そうなるような気がしたんだ」「だから、殿下が私を助けてくれたのでしょうか?」「なに言ってるの。マシューだって、同じだったんじゃないの?」「なぜ……ですか?」「だって、落ちる直前に息止めてたよね? 普通、咄嗟に
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14:お披露目

 ローズベリィ侯爵家が、神子様のお披露目会を催す……と連絡があった。  メルヴィンが奇跡の回復魔法を持っていることが判明し、政治的に教会寄りのローズベリィ家が養子先として名乗りを上げたのは、六年前。  神子はまだ九歳で、しかも平民──いや正確にはスラム街出身の子供だったために、マナーもなにもなかった。  陛下と教会の重鎮の前で奇跡の術を示し、お墨付きを得てはいたが、公的なお披露目は控えていたのだ。 だが、学校に通い始める前に、一度〝顔見せ〟が必要と判断され、十四歳の誕生日に、侯爵家でパーティーが開かれることになったわけだ。 ローズベリィ家が、実にがっちりガードしていたために、今までメルヴィンと接触する機会は全くなかった。  もっとも、ゲーム知識を持っているメルヴィンは、貴族のマナーなんて端から覚える気がなかったんだろうな……と思える。  天真爛漫なふりをして、貴族の子女ならオメガが他の性別の者に対して、むやみに距離を縮めるのは……マナー違反を通り越してご法度に近い。  なぜなら、オメガはヒート時でなくとも甘いフェロモンを漂わせている性別だから、アルファはもちろん、ベータであっても惑わす危険が常に付きまとう。  自身の身の安全のためにも、相手の将来のためにも、そこには〝適切な距離感〟が必要なのだ。 それが、貴族の子女が通う学園ともなれば、当たり前に。 明るい性格と無邪気な素振りで誤魔化して、王太子や、将来の宰相やら騎士団長相手にフェロモンで惑わすなんて、常識的に考えたらとんでもなく破廉恥な行動となる。 ローズベリィ家のガードが異常に高かったのは、その〝躾け〟が全く出来てない神子をひた隠しにするためだったんだろう。──これは、メルヴィンと話せる最後の機会になるかもしれない。 躾けが出来ていないメルヴィンをお披露目して、その後は諦めてガードを下げる可能性に賭けるよりは、掴めるチャンスは掴むべきだろう。
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14-2

 ある意味、ものすごく意気込んで挑んだお披露目会だったが、すっかり空振りに終わった。 当たり前だが、上位貴族のお歴々がわんさと取り囲んで、子女が近付くことなんて不可能だったのだ。 ローズベリィ家にしてみれば、同年代の友人なんて入学後にいくらでも作れば良いとでも思っているのだろう。──少々〝破廉恥〟であっても、神子という絶対の印籠持ちだし。オメガ性だから適当な上位貴族の元に嫁がせりゃいーやって思ってんだろうなぁ……。 そんなこと、来る前からちょっと冷静になれば分かることだった。──俺って、莫迦だな……。 疲れて、俺は庭に出た。 夜風に漂う、甘い香り。 ローズベリィ家は、その姓に合わせてか、庭のバラ園が素晴らしい……と王妃教育で教わったのを思い出す。 月明かりの下、プラプラ歩いていると、あずまやが見えてきた。──座れる……とか思って入ってくと、抜け出してアバンチュールを楽しんでるのとかがいるんだよなぁ……。 貴族のパーティーあるあるなので、避けて小径に向かったが。 背後から人の気配が近づいてくるので、振り返る。 見れば、言ってる端から二人連れがあずまやに入っていった。──ああ、やれやれ……。避けて正解だった。 と思ったのも束の間、聞こえてきた声に聞き覚えがある。 つい気になって、俺はこそこそとあずまやへと近付いた。
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14-3

 あずまやの周りは見晴らしが良く、隠れられる生け垣は微妙に距離があって、声は聞こえるが話の内容までは分からない。 むしろ、ここまで近付いてしまったら、なまじ動くといることがバレそうな気がして動けなくなった。 と、その時。「このような場所に二人きりになっては、神子様の御名に傷がつきましょう」 ちらと聞こえたそれは、アレクシスの声だ。──アレクシス攻略に熱心なようだが……、ちぃと気が早すぎじゃね? 様子を見てると、引き留めようとしているメルヴィンの手をやんわりとほどいて、アレクシスは母屋に帰っていく。 まぁ、王弟と言っても己の立場を理解しているアレクシスが、易々と神子の誘惑に乗るわけがないだろう。──だからこそ、隠しキャラなんだしな。 なぜかそこで「さすが、アレクシス」とか思ってる自分に気づいて、呆れた。──なにがさすがだよ。それじゃあまるで、アレクシスが攻略されなくて良かったとか思ってるみたいじゃん。 莫迦なことを考えている場合ではない。 これは、メルヴィンが一人きりになっている絶好のチャンスではないか。 俺は生け垣から抜け出し、あずまやのメルヴィンに向かって近付いた。「神子様」 振り返ったメルヴィンの表情は、あずまやの屋根の影になって見えない。 が、どう考えたっていい顔はしちゃいないだろう。「げえ、マシュー……」 と呟いたのが、ちらと聞こえた。 が、すぐに取り繕ったように、可愛らしい声音になる。「エヴァレット家のマシュー様……でしたっけ?」「そうです……。が、違います」「違う?」「はい。私の名前は、マシュー・エヴァレットですが、本当の名は佐藤柾木です。……メルヴィンさん。アレクシスを攻略されるのはご自由にして頂いて構いませんが、マシューを断罪するのを止めてもらえませんか?」
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14-4

 侯爵家の庭で凍りついていた俺は、プロム断罪にすら至らずに〝北の開拓地〟送りになった。 神子が庭から泣きながら戻り、俺に罵倒されたと言ったら、そりゃそうなるだろう。 もちろん、父上は今までと同じように俺を庇ってくれたが、宰相職……つまり王家派のエヴァレット侯爵家と、教会派のローズベリィ侯爵家は、政治的に対立している関係だ。 その対立派閥の弱みを突くのは、政治的に当然の流れとなる。 しかも神子は国家レベルの重要人物で、俺は王太子に嫌われている婚約者だ。 陛下も裁定を下すにあたり、その辺の思惑も絡んで俺を切り捨てることを選んだ……って格好になってるが── メルヴィンが一ノ瀬で、世界をリセットする能力を持っているのならば、これはゲームの強制力以上に〝なにか〟が働いた可能性もあるのかもしれない。 一ノ瀬芽衣は、メガ恋のメインライターだ。 チームリーダーとして、俺は彼女を──正直かなり、持て余していた。 彼女は、いわゆる〝同性に嫌われる女〟だった。 チームの中で、男性社員は芽衣を「可愛い」と評価していたが、女性社員からはクレームが寄せられていて。 何度か注意をしたが、その度に「佐藤さん、あたしに冷たくないですかぁ〜?」と、上目遣いの涙目をされたのを覚えている。──デスマーチの最中に、更なる面倒を背負い込むようなこと出来るかよ。 折に触れて、性的アピールをしてくる彼女に、かなり辟易した。 もっとも、俺もチームリーダーでなければ、彼女の面倒くささを知らずにいたかもしれないが……。 だが、ある意味そういう──同性に嫌われる人格であったからこそ、ヒロインをブチ上げるセンスはあったのかもしれない。 ただ、ブチ上げすぎるきらいはあった。「この悪役のキャラ、断罪は仕方ないけど、輪姦オチとかエグくね? 女性向けのゲームだよ?」 と言った俺に……。「佐藤さん、女性に夢見すぎじゃないですかぁ〜? 悪
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15:五周目

 ふわっとした浮遊感があった。──またか……。 俺は慣性に任せて、池に落ちる覚悟を決める。 伸ばされる細い腕が、俺の腕を掴んだ。「危ない!」 水に落ちる前に、俺の体はぐいと引き戻された。「大丈夫?」 眼前に、黒髪に金色の瞳をした少年の顔がある。「マシュー!」 走ってくる父上の声。 少し離れたところに、戸惑った顔のランドルフが立っていた。「ありがとうございます! 王弟殿下!」「いえ。少々はしゃぎすぎていると思って、傍にいたのが良かったようです」 カタカタ震える俺の体を、アレクシスが宥めるように背を撫でてくれる。 だが、俺が震えているのは、再びこの場所にリセットされた恐怖からだ。「よほど恐ろしかったようですね。……ランディ、こっちにきて謝罪を」 アレクシスは傍に来た父上に俺を渡し、自分は立ち上がるとランドルフを呼びに行った。 ランドルフは、向こうで侍女のスカートを掴んでわなわなしてる。「ランディ……」「わ……わたしはわるくありません! こ……こえをかけたら……、おちて……」「分かってるよ。でも、びっくりさせたことは謝ろう」 アレクシスに促されても、ランドルフは首を横に振った。「わたしはわるくありません!」「ランディ!」 侍女のスカートを放し、ランドルフは庭から駆け去る。 それを見送ったアレクシスは、ため息を一つ吐いてから、振り返った。「エヴァレット侯爵、すみません」「いえ、殿下。王族がそう簡単に頭を下げてはいけません。ですが、マシューも怯えてしまったようですし、今日はこれで失礼させていただきます」「ええ、それが良いでしょう。陛下には、私から状況をお伝えしますね」「
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