Alle Kapitel von 悪役オメガは何度でも断罪される: Kapitel 11 – Kapitel 20

62 Kapitel

4:二周目

 ふわっとした浮遊感があった。──なんだっ? すきま風がひどい掘っ立て小屋で、頭がぼうっとしてるのに震えが止まらなくなり、死への恐怖と同程度の安堵感に見舞われていた……と思うのに。 次に続いたのは、急速に落ちる感覚。 目に映る空の青さに、こんな光景をいつか見たような気がする……と思ったのだが。 続いたのは、リアルに冷たい水の感触と、鼻と喉を塞ぐ窒息感。──溺れる! 手を伸ばし、全身で水面へと向かおうと思うが、手足が思うように動かない。 むしろどんどん、キラキラ光る水面が遠のいていく。──もう、だめだ……。 と思った時に、誰かの力強い腕が、ぐいと俺の体を掴んだ。「息をしなさい! マシュー!」 俺の背中を、誰かが叩いた。「がはっ! げほっ!」「落ち着いて。ゆっくり息をするんだ……」 咳き込みながら顔を上げると、濡れた黒髪をかきあげ、屈むような姿勢でこちらを覗き込んでいる、金色の瞳。 鼻の奥がズキズキと痛い。「おお! 無事でしたか!」「ありがとうございます! アレクシス王弟殿下!」──あれ……? なんともいえない、奇妙な感触。 この会話も、この光景も……知ってる。──死ぬ前に見る、走馬灯ってやつか……? そんなことを考えながら、俺は意識を手放した。
Mehr lesen

4-2

 次に目覚めたとき、俺はマシューの部屋にいた。 見慣れた豪華な家具と、見慣れた大きな窓。「旦那様! マシュー様の意識が戻られました!」 俺が首を動かしたことに気づいたメイドが、扉の外に走っていく。 腕を上げ、手を目の前にかざす。──ちっさ……。 どやどやと駆け込んでくる、大人、数人分の足音。「マシュー!」「おとたま。おかたま……」 抱きしめて来た父上の顔は、俺が覚えているものよりもずっと若い。「良かった! 目覚めないかと思ったわ!」 泣き崩れる母上の仕草。「王弟殿下が、おまえを池から掬い上げてくださったのだ。後でお礼の手紙を書くのだよ?」 俺の頭を撫でながら微笑み、涙ぐむ父上の顔。──え……、マジで時間巻き戻ってる? 兄のスチュアートも、付き添われて俺の前に歩み出るランドルフも、五歳の少年の姿だ。 ランドルフが俺の手を取る……ことが予想できたので、さりげなく布団の中に手を引っ込める。 今は……アルファに触れられるのが、無性に怖い。 だが、ランドルフはそれを〝池に突き落とされた恐怖〟と理解したらしい。 ものすごく申し訳なさそうな顔をして、俯いた。「らんぼうにして、すまなかった」「あい、わたくちもはしゃぎすぎました」 もじもじ謝るランドルフに、間を置かず謝意を受け取ったと返す。「また、あそぼうぞ」「あい」 俺がこう応えれば、ランドルフが退室して、続いて医者が家族を部屋から追い出してくれる……と思っていたら、その通りになった。──夢……? にしては、池に落ちて熱っぽくなってる体の怠さや、子供向けとも思えぬ布団の重さがリアルすぎる。 俺は体を起こすと、ベッドを降りてドレッサー
Mehr lesen

4-3

 理由は正直、全くわからない。 が、俺の──いやマシューの人生は、巻き戻された。 しかし俺の記憶の中に、あの掘っ立て小屋での記憶ははっきりと残っている。 乾燥した草の燃える匂い。 全身の毛穴が開いて、体の奥底からアルファに抱かれたい衝動が込み上げてくる、あの感触。 イキ狂い、乱暴に犯されながらも、収まらない熱に身を焦がす感覚。 俺は頭を振った。──冗談じゃない。二度とごめんだ。 俺はベッドに戻ると、横になって天井を睨み据えた。 メルヴィンは、ゲームの純情可憐なヒロインオメガではない。 もっと腹黒く、陰湿で、しかも頭の回る相手だ。──でもなんで、わざわざ俺を陥れたんだ? 俺はランドルフと距離を取っていた。 友情以上の感情は育んでいなかったし、メルヴィンが神子で、ランドルフと番たいと言うなら、身を引くことも考えていた。 わざわざ、追放する意味はなかったように思う。 学内で取り巻きにも、二人がそうしたいならそうすりゃいいと吹聴していた。──いや、待てよ。 俺がお茶の席で婚約破棄を勧めようとしたとき、ランドルフは侍従や爺やに説教をされた……と言っていた。──それってつまり、適齢期のオメガがそこにいるからって、簡単に乗り換えさせてもらえない事情がなんかあるのか? ゲームの強制力もあるかもしれないが、父上は「相性が悪くないと判断された」と言っていた。 エヴァレット侯爵家は王家派だが、ローズベリィ侯爵家は教会派だってのも、なんか関係があるのかもしれない。 王妃教育は近隣国との政治や経済、歴史の話はされたが、国内の政治に関して無頓着……と言うか、それはリアルタイムで自分で学べってスタンスだった。──もし、王太子から婚約破棄をするには、俺の罪をでっち上げるしか方法がないのだとしたら……。 どんなに俺が距離を取ったとしても、それは意味がないということになる
Mehr lesen

5:ムーブ

 俺は、体調が戻ったところで、モーレツな早起きをするようになった。  夜早く寝て、父上が出仕する前に着替えを済ませ、見送りのふりをして玄関で待ち伏せる。  そしてさもさもあざとかわいく「いってらっしゃいませちちうえ!」と言って、ハグ&頬にちゅーをかます。 俺を溺愛してる父上は、デレデレになって俺の頭を〝かいぐりかいぐり〟したあとに、抱っこ&いってきますのちゅー攻勢となる。  そこですかさず「ちちうえといっしょにおしろにいくぅ!」とやるのだ。 最初は〝ダメダメ〟と執事に預けられたが、しばらくしたら一緒に馬車に乗せてもらえるようになった。  それはつまり、王家が〝王太子の婚約者〟と公式認定して、父上が仕事している間は、俺はランドルフと一緒の部屋にいても良い……ってことになったからだ。 今の時点でランドルフは五歳。  丁度、幼児教育が終わって、これから基礎教育にシフトする頃合いだ。  ぶっちゃけ、俺は三歳だが十五年分の〝王妃教育〟が頭には詰まってる。  だからって俺がランドルフよりも早く、基礎教育の内容を理解しては駄目だ。  俺はオメガで、ランドルフはアルファ。  優秀たれ……と教育されているランドルフが、年下のオメガに勉強で追い越されたなんて、あっちゃならない。 一所懸命、ランドルフの教わっている授業を聞こうとして、努力が実らず寝落ちする。  じゃあ、授業の間は別の部屋にいましょうね……と促されると、ランドルフの傍にいたいとごねる。  つまり、ランドルフ大好きアピールをしまくったという訳だ。 ランドルフは、最初のうち、池ドボン事件を気にしていたが。  俺が一方的に懐いている態度を示すと、可愛く思えてきたのか、幼いけれど幼いなりの〝婚約者ムーブ〟をかましてきた。  なにかにつけ、俺をエスコートするように振る舞い、授業に飽きたふりをしてランドルフに寄りかかって寝ると、髪を撫でたりする。 アルファに対する恐怖は残っていたが、大人相手に比べるとかなりハードルは低い。  むしろこの状況で一番ヤバかったのは、周囲の大人の反応の方だ。
Mehr lesen

5-2

 そうして、俺がランドルフにまとわりつくこと一ヶ月。 ある日、いつもの通り父上にくっついて王宮に行くと、部屋にランドルフ以外の子供がいた。 ギョッとなって、俺はランドルフの後ろに隠れたのだが。「マシュー、こちらは私の叔父上だ」「こんにちは、マシュー。私はアレクシス、よろしく」 覗き込むように挨拶してきたところで、王弟のアレクシスだと気づく。「アレクシス……おうていでんかさまですか?」 俺は人見知りっぽい態度のまま、ランドルフの服を握りしめつつ前に出る。「私が陛下の弟とわかるのかい? 小さいのにえらいね」「おてがみを……」「ああ、受け取ったよ。エヴァレット侯爵から可愛らしい御礼状を渡してもらった」 アレクシスとランドルフは、顔立ちは似ているが配色が全く違う。 ランドルフは金髪碧眼だが、アレクシスは黒髪に金色の瞳という、少々王家の血族的に変わった色味をしている。 ぶっちゃけ、金色の瞳のせいでかなり怖い顔をしているが、常に微笑みを浮かべているし、さすが隠しキャラって感じのイケメンだ。 ちなみに瞳が金色なのは、アレクシスの潜在魔力量がものすごく高いからだ。「いのちをたすけてくださり、ありがとうござました」「あれから、随分大人しくなったらしいね」 ニコニコ笑って、アレクシスが俺の頭を撫でようとすると、ぐいっとランドルフが前に出る。「叔父上、マシューは私のこんやくしゃです」「わかってる。取ったりしないよ。でも、ランディが勉強をしているあいだ、マシューは飽きて寝てしまうんだろう?」 そんなこと言ったら、アレクシスだってまだ基礎教育の年頃だろう……と思うが。 なぜかアレクシスは、俺に興味津々って顔だ。「マシューは、ランディが勉強しているあいだ、なにをしているの?」「でんかのおべんきょうをいっしょにならいたいです」「まだ、マシューには難しいんじゃないのかい?」
Mehr lesen

6:王弟

 俺がNPCだからなのか、この世界が〝メガ恋〟なのは間違いないのに、ステータス画面のようなものを見ることが出来ない。  それの何が不便って、相手の〝好感度〟チェックが出来ないことだ。 俺は十五歳になり、魔法学園へ入学した。  もちろん、メルヴィンもいる。  入学式では〝奇跡の神子様〟として紹介もされた。  メルヴィンが平民なのに学園に入学出来たのは、普通の回復魔法では決して実現できない〝欠損した手足までも復元する〟という、驚異の治癒術を発動させる事が出来るからだ。  教会がその力を認め、教会派閥のローズベリィ侯爵家が後見となって、貴族が通う学園への入学が認められたのである。 ふわふわでローズピンクの髪に、魔力の高さを示す蜂蜜色の瞳。  はつらつとした明るい笑顔と、平民らしいフラットな距離感。  校長に呼ばれ壇上にメルヴィンが上がった瞬間、アルファのどよめきが広がった。  そして、在校生代表として壇上に立っていたランドルフが、鼻をひくつかせたのがはっきり見て取れたのだ。 その仕草が──  掘っ立て小屋になだれ込んできたアルファたちの顔を、想起させた。──ああ、やっぱりランドルフもアルファなんだな……。 今まで一度も、あんな顔したランドルフは見たことがない。  壇上で挨拶を終えたメルヴィンが、ちらと目線を投げると、ランドルフはその蜂蜜色の瞳に釘付けになり、明らかに頬をパアッと朱に染めた。 この瞬間の、なんともいえない空気は、まさにゲームの〝イベント画面〟って感じで。  やはりステータス画面の一つも見られないモブなんだ……と痛感した。
Mehr lesen

6-2

 そこからの状況の変化は、早かった。 ランドルフは定例のお茶会をすっぽかすようなことはしなかったが、出てくる話題はメルヴィンのことばかり。 王太子の側近として傍にいるスチュアートが、まるで鳩時計みたいに正確に時を告げ、二人はいそいそと席を立つ。──ありゃ、スチュアートもすっかりメルヴィンに夢中ってことなんだろうな。 冷めたお茶と残された菓子を眺め、俺は席を立った。「マシュー、顔色が悪いが、大丈夫かい?」 声を掛けられ、振り返る。「アレクシス殿下……」 学園を既に卒業しているアレクシスとは、平素滅多に顔を合わせる機会はない。「どうされたんですか?」「どう……って、公務だよ」 はははっと、アレクシスが笑う。 考えてみれば、婚外子とはいえアレクシスは一応王族だ。「私の魔力を使わないのは宝の持ち腐れだと、陛下がおっしゃってね。王都の結界石への魔力供給に駆り出されたんだ」「殿下の才能であれば、当然の責務かと」 王都の守りの要である結界石は、王都の各所に配置されている。 学園も、その一つだ。 俺は無難な笑みを浮かべて、気取られないよう注意をはらいながら、ギリギリ最大限取れる距離を取った。 本当を言えば、ランドルフの真横に立ち、場合によっては手を握ったりするのも、怖い。 俺の心の根底に、前世で受けた〝北の開拓地〟での恐怖がこびりついている。「マシューは、ランディとのお茶かな?」「はい、済んだところで、これから王妃教育の時間です」 王宮の廊下を、俺はアレクシスから半歩下がったところを歩く。 ちらと振り返ったアレクシスは、なんだか少し不快な顔をしている。「ランディは、きみの見送りをしないのかい?」「ランドルフ殿下は、学園の勉強の他に、ご公務もこなしていらっしゃいますし。王妃教育は同じ王宮内ですから」「私に〝婚約者は自分だ〟と言って、きみと口を利くことも許さなかったく
Mehr lesen

6-3

 なんとかして、ランドルフの気持ちを取り戻さねば……と思う反面。 ここで大きな抵抗を見せると、むしろゲームのシナリオ通りになってしまう……というジレンマで、俺は手が打てないままだった。「今日も、ブラッドと一緒になった」 お茶会の席、最初のうちはメルヴィンの可憐さや、心根の素直さを称賛していたランドルフが、苛立った口調でそんなことを言う。「グレンヴィル侯爵家のブラッドリー様ですか?」「ああ。あの無骨者と顔を合わせての食事など、華やかさの欠片もない」「ですがブラッドリー様は、騎士団長様の御子息。ランドルフ様の剣と盾になるお方でしょう?」「マシューまで、ブラッドの肩を持つのか!」 吐き捨てるように言われて、俺はビクッとなった。 感情が高ぶったアルファから放たれるフェロモン、いわゆる威嚇は、俺のトラウマの象徴だ。 こればっかりは、どんなに下腹に力を入れて、恐怖の根源に蓋をしていても耐えられない。 手に持っているカップとソーサーが、ガチャガチャと音を立てた。 マナー教育で、決して音を立ててはいけないと躾けられたのに、それが出来なくなっている。 冷や汗が背中を伝い、唇が震えて返事も出来なかった。「なんだ、その態度は!」 ランドルフは、自分の機嫌を取らない俺にますます苛立ちを募らせたのか、バンッとテーブルを叩くと立ち上がった。「不愉快だ! 失礼する!」 ちらと俺を見やったスチュアートの目線の冷たさと、去っていくランドルフの足音。 だが俺は、恐怖のあまり立ち上がることも出来なかった。
Mehr lesen

7:不敬罪

 豪華なダンスホールは、シャンデリア型の魔道具によってキラキラと輝いている。 きらびやかな衣装を身につけた、学生たちが集い、卒業生を祝うパーティー。 俺は、大階段の上でランドルフの横に立っていた。 だが、腕を組んでいるランドルフの、俺を見る視線は冷たい。 階段下に集まっている紳士淑女の学生たちの間に、ブラッドリーと彼に寄り添うメルヴィンの姿が見える。 前回と違い、俺はランドルフにエスコートをされている。 今夜を乗り切れば、例え冷え切った間柄の王と王妃になっても構わない。 そんなことは、あの北の開拓地に比べれば大した問題じゃないからだ。 ゆっくり、俺とランドルフは階段を降りはじめた。 学生たちが、臣下の礼を取る。 しかし、ささやかな俺の願いは、階段を降りきる前に打ち砕かれた。 いきなり、ランドルフが俺を突き飛ばし、階下に落とされたのだ。「殿下っ!」「黙れ! この大罪人!」 前回は、冷たくはあったが少なくとも声を荒げることもなく、婚約破棄を言い渡されたが。 今夜のランドルフは、思い切り大声を上げて俺を罵った。「国家反逆を企む者が婚約者だったとは、我が身が嘆かわしい!」 三文芝居みたいに大仰な態度と台詞で、ランドルフは言った。 そして俺を睨みつけ、思い切り──意識的にグレアを放つ。「貴様は神子様であるメルヴィン・ローズベリィを、平民からの成り上がり者と蔑み、暴漢を雇って殺そうとした!」 反論がしたくても、グレアに竦み上がった状態では声も出ない。 それどころか、恐怖のあまり息も出来ず、俺は過呼吸を起こしかけていた。 が、そんなことは、ランドルフをはじめ、会場にいる人々にはどうでもいいのだろう。「衛兵! この者を神子様に対する不敬罪で捕らえよ!」 屈強な衛兵が俺の腕を掴む。 ランドルフはメルヴィンの傍に歩み寄り、自分の手柄をアピールしている。 メルヴィンは、ブラッドリーに寄り添いながらランドルフに感謝の意を述べ&
Mehr lesen

7-2

 地下牢に父上が面会に来た時、今度はスチュアートは付き添わなかった。「マシュー。しばらく我慢をなさい。必ず、ここから出してもらえるように、陛下にお願いするからな」 俺の手を握って、励ますように言ってくれた父上に、俺は首を左右に振った。「父上、無理をなさらないでください」「何を言うんだ!」「いいえ、父上。私に落ち度がなかったことを証明するのは、難しいと思います。護衛もなく、私の行動を証言する者もおりますまい。……王太子殿下とその側近の兄上が、それらの証言を消してしまいますから……」 前回、父上は失意のうちに隠居させられ、領地に幽閉された。 スチュアートに俺の無実を訴えたら、今度は殺されてしまうかもしれない。 この心優しい父が、そんな憂き目に遭うのは耐えられなかった。「マシュー!」「私は……。父上が、私の無実を信じてくださるだけで……。それだけで満足でございます」 そう。 どんなにあがいたところで、俺はあの北の開拓地へと送られるのだ。 あの、俺を見送った時のメルヴィンの微笑み。 あれを思い返せば、この状況を覆す方法がないと、理解できる。 俺がランドルフとの距離を縮めていたから……。 俺が……本当の意味で〝婚約者たれ〟としていたから。 メルヴィンは、俺をただの不敬罪でステージから下ろすだけでは、気がすまなかったのだろう。 あのラスボスのようなヒロインは、ライバルに一筋ほどの寛容さなど、見せはしないのだから。
Mehr lesen
ZURÜCK
1234567
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status