ふわっとした浮遊感があった。──なんだっ? すきま風がひどい掘っ立て小屋で、頭がぼうっとしてるのに震えが止まらなくなり、死への恐怖と同程度の安堵感に見舞われていた……と思うのに。 次に続いたのは、急速に落ちる感覚。 目に映る空の青さに、こんな光景をいつか見たような気がする……と思ったのだが。 続いたのは、リアルに冷たい水の感触と、鼻と喉を塞ぐ窒息感。──溺れる! 手を伸ばし、全身で水面へと向かおうと思うが、手足が思うように動かない。 むしろどんどん、キラキラ光る水面が遠のいていく。──もう、だめだ……。 と思った時に、誰かの力強い腕が、ぐいと俺の体を掴んだ。「息をしなさい! マシュー!」 俺の背中を、誰かが叩いた。「がはっ! げほっ!」「落ち着いて。ゆっくり息をするんだ……」 咳き込みながら顔を上げると、濡れた黒髪をかきあげ、屈むような姿勢でこちらを覗き込んでいる、金色の瞳。 鼻の奥がズキズキと痛い。「おお! 無事でしたか!」「ありがとうございます! アレクシス王弟殿下!」──あれ……? なんともいえない、奇妙な感触。 この会話も、この光景も……知ってる。──死ぬ前に見る、走馬灯ってやつか……? そんなことを考えながら、俺は意識を手放した。
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