メスガキ無双〜気弱王妃の華麗なる反逆〜 のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 38

38 チャプター

31話

「王妃、何故私を孤児院へ? 私が子供達に危害を加えるとは考えないの?」「あなたは、子供にそんな酷いことができる人ではありません。目を見れば分かります」「そんなことで分かるとは思えないわ」「あなたは、本当は誰よりも優しい人です。きっと、子供達もあなたを気に入りますわ」「何も知らないくせに」 シャーリィはそっぽを向いてしまった。 馬車が停まったのは孤児院ではなく、お菓子屋の前。「ここは孤児院に見えないけど?」「子供達はお菓子が大好きなの。だから、お土産を持っていこうと思って。シャーリィ、あなたも一緒に選びましょう?」「どうして私が……」 シャーリィが拒むと、一緒にいた衛兵が咳払いをする。シャーリィは渋々馬車から降りると、レイスと一緒にお菓子を選び始める。「このキャンディ、とっても人気なの。ほら、見て。色んな色があって、宝石みたいでしょう?」「ねぇ、シャーリィ。このクッキー、くまの形してて可愛いわ。きっと皆も喜んでくれるはず」「シャーリィはどんなお菓子が好き?」 お菓子屋に入ったレイスは、子供のようにはしゃぎ、お菓子を選んだり、シャーリィに好みを聞いたりする。そんな王妃の姿に、シャーリィは呆気にとられていた。「王妃様はいつもああやって、子供達にお菓子を選んでいるんだ」「そ、そうなの……」 衛兵が耳打ちをすると、シャーリィは苦笑しながらレイスを見る。自分を剣で打ち負かした時とは別人のようで、子供っぽくて王妃らしくないレイスは、シャーリィの毒気を抜いていた。 その後も玩具や絵本を買い集め、馬車の中が窮屈になる。「いつもこんなに買ってるの?」「いいえ、いつもはこれの半分もないわ。けど、今日はあなたが孤児院に行く記念日だもの。子供達にも喜んでもらわないと」 シャーリィはレイスを見つめる。お菓子や玩具を嬉しそうに見る彼女には、傲慢や哀れみなどは一切感じられない。それが不思議でならなかった。 馬車が孤児院に着くと、レイスは先に降りる
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32話

 2ヶ月後。レイスはシャーリィの様子を見に、孤児院に足を運んだ。中庭では、子供達が追いかけっこやおままごと、ボール遊びをしている。シャーリィは子供達に混ざって、ボール遊びをしていた。「お姉ちゃん!」「いいパスだったわ、ケント!」 少年からボールを受け取ったシャーリィは、別の子供にボールを投げてあげる。「あ、王妃様!」「わぁ!」 子供達がレイスに気づくと、一斉に駆け寄る。シャーリィも晴れ晴れとした笑顔で出迎えてくれた。「お久しぶりです、王妃様」 シャーリィはスカートの裾をつまみ、一礼する。以前はレイスに憎しみの目を向け、敬語など使わなかったのに、今はにこやかに話しかけてくれる。その変化が嬉しかった。「元気そうね、シャーリィ」「はい。王妃様のおかげです。数々のご無礼を働いた私に、このような寛大な措置を、ありがとうございます」「いいのよ。あれはハンス様もゲイリーも悪いのだから」「そんな、もったいないお言葉……!」「お姉ちゃん!」 ひとりの少女がシャーリィに抱きつく。その子の名前は、レイスもよく知っていた。彼女を名付けたのはほかでもないレイスだった。以前、公務の最中に捨てられた赤子を見つけ、この孤児院に連れてきたのだ。「あら、アリア。お姉ちゃんに懐いているのね。シャーリィお姉ちゃんのこと、好き?」「うん、大好き! お姉ちゃんが私のママだったらいいのに」「ふふ、仲がいいのね」「うん! この前ね、眠れなくて泣いちゃったの。そしたらね、お姉ちゃんが一緒に寝てくれて、私が寝るまで絵本を読んでくれたんだよ」「そう、よかったわね」 この会話を、シャーリィは恥ずかしそうに聞いていた。「元気そうで安心したわ。これからも、この子達をお願いね」「はい。残り4ヶ月。子供達のために過ごします」 そう言って笑うシャーリィは、どこか寂しそうだった。「お姉ちゃん、ずっといるんじゃないの?」 アリアが寂しそ
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33話

 真夜中、レイスはうなされていた。「うぅ、やめて……」「レイス……」 彼女のうめき声で目を覚ましたゲイリーは、レイスの手を握る。ゲイリーが知る限りでは、レイスは王位継承式があった日から、毎晩のようにうなされている。「いったい、何がお前を苦しめているんだ?」「ゲイリー、メリンダ、やめて……!」 自分とメリンダの名がレイスの口から出たことに驚き、起こそうと伸ばした手が止まる。「何故、俺とメリンダの名を?」 ゲイリーは困惑した。自分が彼女の悪夢に出ていることにも、メリンダの名前が出たことにも。メリンダは数年前に投獄され、それっきり顔も見ていない。それにメリンダは、未だに地下牢にいる。「アンナを、返して……。バルト、やめて……」「アンナ? バルトが、一体何を……。レイス、起きろ! 起きてくれ!」 不安になってレイスを揺り起こすと、彼女は飛び起きた。「はぁ、あぁ……」「またうなされていたぞ、レイス」 ゲイリーはサイドテーブルの水差しからグラスに水を注ぐと、レイスに差し出す。「ありがとう、ゲイリー……。毎晩ごめんなさいね……。落ち着くまで、寝室は別にしましょうか」「いや、いい。それより、どんな夢を見たんだ?」 ゲイリーの問いに、レイスは押し黙る。まさか、前世でゲイリーとメリンダに酷いことをされたなど、言えるわけがない。魔法こそある世界だが、前世がどうという話を信じているのは、一部のオカルト好きくらいだ。「俺とメリンダの名前を呼んでいた。それと、バルトも」「え?」「俺達にやめてと言い、アンナを返してと……。何がお前を不安にさせている? バルトに何をされた?」「違うの……」「どう違うというのだ? レイス、頼むから話してくれ。心配なんだ」 ゲイリーの心配そうな顔に胸が苦しくなる。(あぁ、私……。いつの間にかゲイリーを好きになっていたのね……。こんな顔、させたくない) レイスは自分の気持
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34話

「私とアンナは、バルト達に引き離されたの。私は、寝室に閉じ込められて……。扉の隙間から入れられた魔便りを見たら、バルトがアンナを、麻袋に入れて、焼却炉に入れてる映像で……」「レイス……」 ゲイリーはどう声をかけていいか分からず、アンナを強く抱きしめ、背中をさする。自分や使用人の中にある残虐性を覗いてしまった気がしておぞましい。だが、そのおぞましい記憶を、目の前にいるレイスはずっと抱えてきた。そう思うと彼女の健気さがより愛おしくなる。「……たの」「え?」「動いてたの……。麻袋が、焼却炉に入る前に」 それは前世でアンナが焼かれる苦しみの中で死んでいったことを意味する。「すまない、レイス……」「いいえ、今のあなたは、悪くない……」「まったく記憶にないとはいえ、お前を傷つけてきた自分が許せない……。レイス、お前が望むのなら、別居したっていい。バルトが怖いのなら、解雇する」「いいえ、いいのよ。今のあなたも、バルトも、悪い人じゃないから」「無理してないか?」「えぇ、してないわ」「それならいいが……。今度からは、つらいことがあったら全て話してほしい。支えていきたいんだ」「あなた……」 真摯なゲイリーに胸を打たれたレイスは、最後の秘密も彼に打ち明けるべきだと思った。長年隠してきた、もうひとつの記憶を。「実は、もうひとつ、打ち明けたいことがあるの」「なんだ?」「私には、他の記憶もあるの」「他の? 違うパターンのレイスの人生ってことか?」「いいえ、まったく別人の記憶よ。それが私を支えてくれたの」 胸に手を当て、彼女を想う。孤独と戦い続けた好奇心旺盛な少女、火野玲海のことを。「こことはまったく別の世界。ニホンっていう国の女子高生……。15歳から18歳が通う学校の生徒の記憶よ。火野玲海っていう、とても強い女の子。その記憶があったから、私はここまでやってこれた」「ニホン……。ジョシコウセイ……。どれも聞いたことがない単語だ…
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35話

「ズルというのは、自分が得をしようとしてするものだ」「私は、自分を守るためにしたの。できるだけ知名度と支持率を集めて、あなたに酷いことをされても、民衆に守ってもらえるように……。だから、これはズルだと思うの」「いいや、守るためなら、ズルとはいわない。それに、バカ正直に前世の記憶だと言いながら発表してたら、誰も聞き入れなかっただろう。何より、お前の数々の発表で、ルシアーナは大きく発展した。レイス。お前は王妃としても、母親としても、妻としても、立派だ」「ゲイリー……」「それに、魔剣士になったり、乗馬が上達したりしたのは、お前の努力だ。前世では、どれもうまく行かなかったんだろう?」「そう、そうね……」 ゲイリーの言葉に、今まで抱えていた罪悪感が消えていく。自分とアンナを守るためとはいえ、他人の知識を自分が発案したかのように振る舞うのは、心が痛んだ。大きな棘が抜けたような気分だ。「レイス……」 ゲイリーはレイスを抱きしめる。安心したからか、睡魔がやってきて、あくびが出てしまう。「ごめんなさい……」「いや、いい。眠くなったんだろう?」「えぇ、なんだか、安心してしまって……」「それなら、寝よう」「そうね、おやすみなさい」「なぁ、レイス」「何かしら?」 ベッドに入ろうとして呼び止められて振り返ると、ゲイリーが好奇心で輝いた目でレイスを見つけていた。「さっき言ってたニホン? の話、また聞かせてくれないか?」「えぇ、喜んで。次は絵を描きながら説明するわ。絵に自信はないけど」「楽しみにしてる」 ふたりはベッドに入り、抱き合って眠った。 今度はレイスも悪夢を見ずにぐっすり眠れた。 翌日、レイス、ゲイリー、アンナはサンドイッチを持って敷地内の池に来た。最近公務で娘との時間が取れなかったからと、ゲイリーが提案したのだ。「わぁ、おみず、きらきら!」 まだ3歳のアンナは、きらきら輝く水面に興味津々。ゲイリーはそん
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36話

 シャーリィを孤児院に預けてから半年後。レイスは馬車に揺られ、孤児院を目指した。 シャーリィがゲイリーを襲った罰としてレイスが下した罪は、孤児院で半年間奉仕することと、その後の追放。今日は彼女を国外追放する日だ。 いつもならお菓子や玩具をもって行くが、ことがことなだけに、そんな気は起きなかった。 孤児院に着くと、子供達と楽しそうに追いかけっこをしているシャーリィの姿が目に映る。(これは、私が彼女に下した罰だものね) 心の中で自分にそう言い聞かせ、馬車から降りる。レイスに気づいた子供達が一斉に駆け寄ってきた。「王妃様! 遊ぼ!」「私と遊ぶの!」「みんなで遊ぼーよ」 自分を囲んではしゃぐ子供達に、胸が締め付けられる。「ごめんね、みんな。今日はシャーリィお姉ちゃんを連れて行く日なの」 いくら事前に伝えていたとは言え、子供達が泣き出してしまうのではないかと懸念したが、子供達は顔を見合わせ、大きく頷いた。「お姫様だもんね」「でも、お別れ会はさせて」「お願いお願い!」「えぇ、もちろんいいわ」 レイスが了承すると、子供達は飛び跳ねながらはしゃぎ、シャーリィの腕を引っ張って施設内に向かう。シャーリィの顔は青白かった。 レイスも誘われて一緒に行くと、子供達は歌を歌ったり、劇を披露したりした。最初は暗い顔をしていたシャーリィだったが、頑張る子供達を見て、笑顔になっていく。「おまたせー!」 職員と数名の女の子たちがケーキを持ってきた。チョコレートプレートには、ぐにゃぐにゃした文字で、『シャーリィ大好き』と書かれていた。「こんなに素敵なケーキを用意してくれるなんて……」 シャーリィは泣き崩れ、子供達は慰めるようにシャーリィに抱きつく。(とても心苦しいわ……) 半年という短い期間だったが、シャーリィと子供達の間には強固な絆が感じられる。それを引き離すのは心苦しいものだった。 皆でケーキを食べた後、子供達はそれ
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37話

 シャーリィ達をエンゲリーに届けて半月。頻度は減ってきているとはいえ、レイスは未だに悪夢に苛まれていた。ゲイリーに話して楽にはなったが、夢のせいか、時々ゲイリーとバルトに恐怖を抱く。メリンダに雰囲気の似た女性を見かけると、不安になってしまう。「こんなに幸せなのに……」 レイスは東屋に座り、ゲイリーと遊ぶアンナを見つめる。少し離れたところで、バルトが微笑ましく見守っていた。「前に、進まないといけないのに……」 何度も自分にそう言い聞かせ、思い込んできた。それでも悪夢が、前世が、レイスをじわじわと蝕んでいく。「そろそろ公務の時間だな。バルト、アンナを頼む」「はい、陛下」 ふたりの会話で我に返り、立ち上がる。この後他国の王族が城に来ることになっているのだ。「いこう、レイス」「はい」 レイスはゲイリーと共に、客間へ向かった。 夕方、公務を終わらせたレイスは、紅茶を飲んでため息を付いた。レイスにとって、外交ほど苦痛なものはない。自分のものと偽った功績を褒め称えられるのだから。「レイス、今いいか?」「あなた、どうなさったの?」「出かけないか? 気分転換も必要だ」 ゲイリーは、レイスが外交に苦手意識を持っていることをよく知っていた。だから気遣ってくれたのだろう。「いいわね、行きましょうか」 ゲイリーのエスコートで外に出ると、既に馬車が用意してあった。馬車に揺られながら、隣に座るゲイリーを見上げる。「どこへ行くの?」「さてな」 言葉こそ短いが、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。きっと彼なりに何か考えてくれたのだろう。「アンナが一緒じゃないなんて、変な感じがするわ」 プライベートで出かける時は、いつもアンナを同行させていた。思えば、アンナが産まれてから、ふたりで外出したことはなかったかもしれない。「たまにはふたりというのもいいだろう」「そうね。なんだか懐かしいわ」 目を細めて思い出すのは
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38話

 お茶も終えると、ゲイリーの手を惹かれ、中庭に出る。だが、中庭は真っ暗で、どこに何があるのかよく見えない。甘く優しい香りがすることから、花が咲いていることが分かる程度で、それ以外はよく分からない。「ゲイリー、暗くて見えないわ。光魔法で照らしましょうか」「いいや、ここで魔法を使うのは俺だ」 ゲイリーは詠唱を唱え、指を鳴らす。すると、花々がふたりのまわりから順に、一斉に光りだす。淡く輝く花々は、愛しい人を幻想的に照らした。「すごいわ! こんなに美しい花園、見たことがない……」 辺り一面、光の花。現世のものとは思えない美しさに、レイスは心を奪われ、うっとり眺める。「レイス」 ゲイリーはレイスの名を呼ぶ。その声は少し震えていた。「なにかしら?」「俺達は、政略結婚だったな」「え? えぇ、そうね」 今更結婚のことを持ち出されて、困惑する。レイスはじっとゲイリーを見つめ、次の言葉を待った。「あの頃の俺は酷かった。横柄で、男尊女卑で、考えが古くて。君のことも、下に見ていた。決まりだから仕方なく結婚してやる、感謝しろ。なんて、最低なことを考えていたよ」「えぇ、あの頃のあなたは、酷かったわ」「君は恐れることなく、俺に歯向かってきていたな」 思い出し笑いをするゲイリーに、少し恥ずかしくなる。「当時は、仕方なくと思った。けど、今は違う。君と結婚して、本当に良かったと思っているよ。君のおかげで俺は王になれた。何より、愛し合う喜びを教えてくれた」「ゲイリー……」 ゲイリーは懐から小さな箱を出すと、開けて見せる。中には指輪が入っていた。「あの時渡した結婚指輪には、意味なんてほとんどない。改めて、結婚指輪を贈らせてくれ。これは君を想って選んだんだ」「どうしよう、嬉しいわ……」「さぁ、手を出して」「はい」 手を出すと、ゲイリーは元々嵌めてあった指輪を外し、新たな結婚指輪をレイスの指に嵌めた。指輪はぴったり嵌り、レイスの華奢な指で光り
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