昼休みに、休憩室へ入ると。 スタッフがそれぞれ食事を取っていた。 私も空いている席へ座る。 持ってきたサンドイッチを開き。 スマホをテーブルへ置いた。 画面が光る。 メッセージが一件。 隼人くんかと思い。 反射的に手を伸ばした。 表示されていたのは。 別の名前だった。 【上原大貴】 指が止まる。 大貴から連絡が来るのは。 この間のご飯以来だった。 メッセージを開く。 『久しぶり』 『この前話してた研究の件なんだけど、少し進展があって』 続けて。 もう一通届く。 『石川先生が、一度綾香と話したいって言ってる』 石川先生。 その名前を見た瞬間。 四年前までいた大学病院の景色が。 急に脳裏へ戻ってきた。 研究室の白い壁。 積み重なった論文。 学会前の慌ただしい夜。 何度も書き直した研究計画書。 石川先生は。 私が大学病院にいた頃の指導医だった。 厳しかった。 けれど。 私が何に関心を持っているのか。 誰より早く見つけてくれた人でもある。 結婚して。 病院を辞めると伝えた時。 最後まで。 本当にそれでいいのかと聞いてくれた。 あの時の私は。 優との生活を始めることが。 自分の選択だと思っていた。 戻りたいと口にすれば。 決めたことを否定するような気がして。 何も言えなかった。 メッセージの続きを見る。 『正式に研究室へ戻れって話ではないよ』 『ただ、今のクリニックでの経験も含めて、話せることがあると思う』 私は画面を見つめた。 今のクリニックでの経験。 大学病院を離れた四年間は。 何もなかった時間ではない。 医師を辞めていた期間もある。 戻ってからは。 大学病院とは全く違う規模の現場で働いた。 限られた人員。 患者との近い距離。 紹介先との連携。 病院では見えなかった問題を。 ここで何度も見てきた。 『地域医療のプロジェクトのこともある』 『研究側だけじゃなくて、現場側の意見が必要なんだ』 胸の奥が。 静かに騒ぎ始める。 研究へ戻りたい。 少し前から。 確かにそう思っていた。 けれど。 戻るというのが。 具体的に何を意味するのかは分からなかった。 大学病院へ戻ることなのか。 研究室へ所属することなのか。 今の仕事を続けながら。
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