入院生活は退屈だ。 三百年、走り続けてきた体を、八畳の病室に繋ぎ止めておくのは拷問に近い。 天井の染みは十七個。蛍光灯のカバーに挟まった虫の影は三つ。窓から見える楓の枝先は、日ごとに赤みを増している。——数える必要のないものばかり数えている。暇すぎて頭がおかしくなりそうだ。 だが、体が言うことを聞かない。 キレート療法は続いている。毎日の点滴で銀の微粒子を少しずつ体外に排出しているが、三百年の人狼の体に巣食った「月殺しの毒」はそう簡単には抜けない。再生能力は平常時の十分の一。掌を切れば塞がるのに三十秒かかる。本来なら瞬きの間に消える傷だ。 朝六時。 足音が聞こえる。規則正しい、やや早めの歩調。スリッパではなくナースシューズの底が廊下を叩く、小気味いいリズム。 もうわかる。氷室だ。 病室のドアが開く前に、俺は寝たふりをやめて体を起こした。寝たふりをしていると「サボるな」と怒られる。起きていると「もっと寝てなさい」と怒られる。どちらにしても怒られるなら、起きていた方がマシだ。「おはよう。検温するわよ」 白衣。紺のカーディガン。一本に束ねた黒髪。化粧っ気のない、白い横顔。 切れ長の目が俺をちらりと見て、すぐにカルテに視線を落とす。事務的。無駄がない。 体温計を差し出される。脇に挟む。三十六度五分。昨日より〇・三度下がった。「まだ微熱ね。今日もキレート療法、午後から先生の診察。安静にしてて」「了解」「本当に了解してるの? 昨日、屋上で腹筋してたの知ってるわよ」 ……見られていたか。「運動不足で体が鈍る」「入院患者が筋トレする必要ないでしょ。傷が開いたらどうするの」「もう開かねぇよ。塞がってる」 氷室の眉がぴくりと動いた。昨日まで残っていた腹部の切開痕を確認しようとするように、一瞬だけ俺の腹に視線が落ちる。だがすぐに逸らした。「……とにかく、安静。いいわね」
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