トンネルの入口が見えたとき、もう一つ――想定外のものが見えた。 ガードレールの外側に、影。 細い。 折れそうなくらい、細い。 少女が、夜風にさらされるように、ガードレールの向こうに立っていた。 肩までの髪が、月明かりを吸い込んで、灰色に見える。 制服のスカートが風に揺れて、膝のあたりでかすかに震えている。 こんな時間に女子高生。 こんな場所で女子高生。「……はぁ」 ため息が、勝手に出た。 よりによって、今夜か。 とはいえ、見なかったふりをするほど、俺は人間嫌いでもない。 そういうふうに生きようとした時期も、昔はあったが、結局――目の前に「落ちるもの」があれば、手を伸ばさずにはいられない。 どれだけ、めんどうでも。 原付のスピードを落としながら、視線を少女に向ける。 その横顔は、月光に削り出されたみたいに白かった。 頬に血の気がまるでない。 目は、遠くの何かを見るように、焦点があやふやだ。 あの目を、俺は知ってる。 何百年も前から、いろんな顔で、いろんな時代の人間たちがしてきた目だ。 諦めと、疲れと、期待されることへの恐怖。 そして――かすかな、解放への憧れ。 原付を彼女の少し手前で停めると、エンジン音が、静寂を切り裂いた。 少女が、ゆっくりとこちらを振り向く。 その瞳は、思ったよりも若かった。 若いくせに、老けていた。 十六、七。 なのに、三十年は生きてきたみたいな沈んだ色をしている。 ガードレールの外側。足元は、すぐ下りの斜面だ。 踏み外せば、夜の山にそのまま飲まれていくだろう。 俺はハンドルから手を離し、ヘルメットを脱いだ。
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