= リオ ー 息が、苦しかった。「ちょ、ちょっと待って……っ」「止まったら、捕まる」 カミヤの声は、息一つ乱れていない。 倉庫の間を抜け、港湾道路のガードレールを越え、古いビルが立ち並ぶエリアへ入ると、匂いが変わった。 潮と油から、アルコールと香水へ。「こっち」 私は、カミヤの手を反対側に引っ張った。「曲がって」「店か」「うん。真珠さんなら、何とかしてくれる」 《月下美人》の裏口は、細い路地のさらに奥にある。 ごみ袋と発泡スチロールの箱が積まれていて、初めての人間にはわかりづらい。でも、私の足は迷わない。何度も、吐きそうな顔でこの路地を通って、夜と朝の境目を越えてきたから。「ここ」 鉄製のドアを、拳で叩く。「真珠さん! 開けて!」 数秒の沈黙。 ドアの向こうで、チェーンの外れる音がした。 ガチャ、と鍵が回る。「あんた、朝っぱらから——」 半分だけ開いたドアから顔を出したのは、艶のあるショートボブに濃い口紅の女。 《月下美人》のママ、真珠さん。「リオ……!」 一瞬で、目の色が変わった。「無事だったの……!」 その声に、胸がぎゅっと締め付けられる。「真珠さん、助けて。追われてるの」 私の声は、思っていたよりも掠れていた。 真珠さんは、ちらりとカミヤに視線を流す。 一瞬で、男の全身を測る目。その鋭さに、カミヤも微かに眉をひそめた。「……話は中で聞く。入んなさい」 ぐい、と腕を掴まれて、店の中へ引きずり込まれる。 カミヤも、当然のように一緒に入ろうとして——「……ちょっと待ちなさい、あんた」 真珠さんが、その胸を片手で押し止めた。「あんた、誰?」 真正面から、射抜くような
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