夏の午後の山道って、こんなに蒸し暑いものだっけ。 原付のエンジンがだんだん苦しそうな音を立て始めたころ、私は背中の汗が制服に張り付く感覚に、半分うんざりしながら空を見上げていた。 さっきまで青かった空は、いつの間にか薄く霞んでいて、雲の切れ間から白い月がのぞいている。「ねえ、カミヤ」「なんだ」「今日って……」 言いかけたところで、彼が先に言った。「……満月だ」 低い声。 原付のハンドルを握る手に、いつもより少し力がこもっているのがわかった。「やっぱり」 夜のニュースが流れたあの日から、もう何日も経っていた。 海辺の町を出て、スーパーの裏でバイトしていたカミヤの知り合いに会ったり、山奥の廃工場で一晩過ごしたり、誰もいない公園でカップラーメンを分け合ったり。 その全部が、楽しかった。 怖さと楽しさが紙一重で隣り合っていて、「修学旅行の夜」がずっと続いているみたいだった。 でも今、胸の奥で小さな警報が鳴っている。 満月。「ねえ、平気?」 背中ごしに、そっと問いかける。「なにが」「満月」「平気じゃねえよ」 あっさり返されて、思わず苦笑する。「そのわりに、いつも通りに見えるけど」「まだ昼だからな」「夜になったら?」 少しだけ、間が空いた。「……あんまり見られたくねえ」 ぽつり、と落とされた言葉。「変身、見られたくないの?」「そういう、単純な話じゃねえ」 ハンドルを切る音。 山道が終わって、少し開けた場所に出る。そこには、川にかかった大きな橋があった。 古いコンクリートの橋。下を流れる川は思ったより深そうで、水面が太陽の光をぎらぎらと反射している。「ここ、なに?」「山の向こうの市街地に抜ける幹線道路。ここの橋、構造が古い
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