All Chapters of 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された: Chapter 211 - Chapter 220

240 Chapters

第211話

梨沙は海渡を鋭くにらんだ。海渡は鼻で笑う。「俺は見たんだ」梨沙の胸がどきりとした。海渡は少しずつ距離を詰める。「君と土岐礼都が一緒にいるところを。梨沙、君はとっくに俺を裏切っていたんだな?」梨沙は平静を装い、冷笑した。「自分が浮気しているからって、誰もが同じだと思わないで。仮に私が浮気していたとしても、あなたがしてきたこととは比べものにならないでしょう?」海渡の目に怒りが走った。「つまり、裏切ったと認めるんだな」「......」――この人、イカれてる。梨沙は背を向けて歩き出した。「梨沙、誓えるか?土岐礼都とは何もないと、誓って言えるのか!?」海渡が鋭い声で叫んでも、彼女は足を止めなかった。ところが、病室から天音が出てきた。泣き腫らした目で、梨沙をまっすぐ見つめている。その目には怒りと憤り、裏切られたような悔しさが浮かんでいた。梨沙は唇を結んだ。「梨沙さん......どうして、そんなことをするの?」「天音、私は――」言いかけた言葉を、天音の問い詰める声が遮る。「私が土岐さんを好きだって知っているのに、どうして横取りするの?」梨沙は心も身体も疲れ切っていた。それでも、力を振り絞って言う。「違うわ。海渡のでたらめを信じないで」梨沙が触れようとすると、天音はその手を振り払った。「じゃあ、どうして誓えないの?」「してもいないことについて、どうして誓わなきゃいけないの?」天音は首を振りながら一歩ずつ後ずさり、嘲るように笑った。「友達だと思っていたのに。何でも話してきたのに、あなたは私を裏切った......がっかりだよ。いい人だと思っていたのに......やっぱり育ちが悪い人は品がないのね」梨沙の目が冷たくなった。天音はすでに、梨沙と礼都には関係があり、自分を陰で笑っていたのだと決めつけている。説明など聞く気もない。自分の思い込みを事実として、言葉を重ねた。「私が必死に追いかけていた人が、実はあなたの浮気相手だった。それを見て楽しかった?私より上だと思った?名家の娘を出し抜いて、いい気になっていたの?」梨沙は深く息を吸った。「土岐さんと私の間に気持ちがあったとしても、節度は守っている。やましいことは何もない。それでも信じられないなら、もう好きにして」
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第212話

天音はとうとう怒りを爆発させ、悠吹の手を振り払った。「あの女、私の好きな人を誘惑したのよ!」悠吹が眉をひそめる。「私が土岐さんを好きだって知っているのに、あの人と曖昧な関係になってるの!」「君は彼と付き合っているのか?付き合っていないなら、彼が誰と親しくしようと自由だろう。いつからそんなわがままになったんだ。君の好きな人も物も、全部君のものになるとでも思っているのか?」天音は悠吹を怒ってにらみ、病室へ駆け戻った。悠吹と海渡の目が合う。海渡が歩み寄った。「さっきは梨沙を支えてくれてありがとう、兄さん。夫として礼を言うよ」「夫?」悠吹は興味深そうに聞き返した。「離婚するそうじゃないか。まだ夫を名乗るつもりか?」海渡はわずかに口元を動かし、淡々と答えた。「まだ離婚していない」悠吹は海渡のそばへ行き、その肩を強く叩いた。「なら、離婚がうまく進むよう祈っている」そう言って笑いながら病室に入った。海渡は表情を変えないまま、拳を固く握った。数分後、海渡は病院1階のカフェで天音と向かい合っていた。彼女の目は泣き腫らしている。「何の用?」「まだ土岐礼都と付き合いたいか?」天音は唇をとがらせた。「どうやって勝てばいいっていうの?顔だって、梨沙さんのほうがきれいなのに......」海渡は冷たく笑った。「天音には家柄がある」天音の目がかすかに輝く。海渡は身を乗り出した。「天音、取引をしよう。俺が君を助けるから、君と君の父親も俺を助けてくれ」「......」――梨沙が帰宅すると、千鶴が渚を抱いてあやしていた。「美琴も帰ってこないし、この子はずっと泣いてるよ」梨沙は急いで渚を受け取った。「お腹に空気が溜まっちゃったのかな?」小さなお腹をそっと触る。「......少し張ってるみたい。私が見てるから、おばあちゃんは休んで」千鶴はため息をついた。「子どもには、父親だけでも母親だけでも駄目なんだねえ」「......」渚を寝かしつけたあと、梨沙はソファに座り、手近にあった本を開いた。ページを一枚ずつめくっても、内容は頭に入ってこない。望は、自分と離れて休日を過ごすことに慣れるだろうか。望に会いたかった。本を置き、望の写真を手に取る。手のひらに載せ、指
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第213話

土岐家の本邸で、賢一郎は茶室に座っていた。隣の部屋から聞こえる、たどたどしいピアノの音が気になって仕方がない。手にした湯呑を茶卓に強く置き、不機嫌そうに言った。「あの子には芸術の才能が少しもない。父親とはまるで違うな。聞いてみろ。ピアノの練習だと知らなければ、隣で工事でもしているのかと思うぞ」永窪は笑いながら、賢一郎の湯呑にお茶を注ぎ足した。何か言いかけたところで、少し離れた場所にある固定電話が鳴る。永窪は急いで電話に出てから、受話器を賢一郎に渡した。「桂川さんからです」賢一郎は受話器を取る。「桂川か。こんな遅くに、どうした?」「少し早いですが、新年のご挨拶をと思いまして」義隆が笑って言う。賢一郎は鼻を鳴らした。「何だ、正月には挨拶に来ないつもりか?」義隆が笑う。すると賢一郎は、単刀直入に尋ねた。「用件を言ってくれ」義隆は軽く咳払いをした。「うちの娘が今年25になります。礼都君より2歳下で、海外から戻ってまだ間もないんです。一度、二人を会わせてみてはどうかと思いまして」賢一郎の目に、納得したような色が浮かんだ。桂川義隆の娘か。家柄が申し分ないとまでは言えないが、悪くもない。少し考えてから、賢一郎は答えた。「いいだろう。元日に娘さんを連れて来なさい」義隆は喜んで返事をした。だが、少し間を置いても電話を切らない。賢一郎は察して言った。「まだ何かあるんだろう。遠慮せずに言ってくれ」義隆は再び軽く咳払いをする。「陰口を言いたいわけではないんですが。ただ、少し気になりまして。この前、礼都君が花火のデザイナーの女性を連れて訪ねてきたんです。自分のデザインが盗用されたので、うちの者に店頭の商品を調べてほしいと。礼都君はずいぶん彼女を気にかけているようでした。ご存じでしたか?」そばにいた永窪にも、話の内容はおおよそ聞こえていた。義隆も余計なことを言うものだ、と内心で思う。案の定、賢一郎の顔がたちまち陰った。だが、声には少しも出さない。「そうか。礼都が君に頼み事をしたのか?」「頼まれたというほどではありません。ただ、礼都君が女性とあれほど親しそうにしているのを初めて見たもので。もし恋人なら、娘を連れていくのは控えようかと......」それまでは桂川家の家柄に多少の物足り
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第214話

永窪はうなずいた。「おじさん、いつ戻ってくるの?今日もお話を読んでくれる?」望が尋ねると、永窪は彼を抱き上げた。「今夜は私が読んであげますよ」望は少し不満そうだったが、聞き分けよくうなずき、礼都が出ていくのを見送った。礼都は隣の茶室に入る。賢一郎は彫像のように動かず、そこに座っていた。礼都が自分から席につくと、賢一郎が低い声で言った。「座っていいと誰が言った?」礼都は眉をひそめる。また何に腹を立てているのか、見当もつかなかった。賢一郎は鋭い目で彼をにらんだ。「礼都。私に何と約束した?」礼都は答えない。賢一郎は茶卓を強く叩いた。「梨沙には近づかないと約束しただろう。ちゃんと守ったのか?」礼都は静かに顔を上げる。「お前はあの女のために、桂川義隆に頼み事までした。人に借りを作ると、返すのがどれほど大変か分かっているのか?すっかりたぶらかされて、判断力をなくしたんだな!この前の罰が軽すぎたようだ」礼都は小さく笑った。「何がおかしい。笑っていられる立場か?」「また殴るおつもりですか?でしたら早くしてください。望にお話を読んであげないといけないので」賢一郎の胸が激しく上下した。心臓が破裂しそうなほど腹が立つ。罰が効くのは、自分の権威を恐れる者だけだ。家の若い連中など、にらむだけで罰を与えるまでもなく、おとなしくなる。だが、礼都は違う。頑固で、何度殴っても懲りない。罰を受けたあとで、また同じことをする。自分が怒りで夜も眠れなくなるばかりで、何の効果もなかった。賢一郎は深く息を吸い、冷たく言い渡した。「もうよい。礼都、お前には結婚してもらう」礼都が顔を上げた。目元に嘲るような色が浮かぶ。賢一郎はもう一度深呼吸する。「義隆の娘ならいい。お前より若い。家柄は十分に満足できるほどではないが、梨沙と比べれば申し分ない」礼都は鼻で笑い、自分の頭を指した。「この頭の中がどうなっているか、ほかの人は知らなくても、あなたはご存じでしょう?」「......脳神経の専門医はもう手配している」「でもあいにく、結婚するつもりも、子どもを持つつもりもありません。誰かの人生を巻き込む気もありませんから、そういうの、もうやめてください」礼都は穏やかな声で言った。賢一郎は机を叩いて立ち上
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第215話

礼都の足が一瞬止まった。だが、そのまま何事もなかったように茶室を出ていく。部屋は急に静まり返った。賢一郎は湯呑を強く握りしめる。かつて期待をかけていた長男は、ああいう女のせいで駄目になった。最も優秀な息子まで、同じような女につまずかせるわけにはいかない。男を惑わす女は、どれも似た顔をしている。梨沙に初めて会ったとき、賢一郎はその目元に、あの女の面影を見た。それだけでも、梨沙が息子にまとわりつき、関係を断ち切れないままでいることは許せなかった。礼都は茶室を出ると、望の部屋へ向かった。ちょうど出てきた永窪が、彼を見て小声で言う。「望様はもうお休みです。いい子にしていらっしゃいましたよ」礼都はうなずいた。永窪は唇を結び、ためらいながらも言った。「礼都様、旦那様の前回の検査結果は、あまりよくありませんでした。心臓にも脳の血管にも、それぞれ問題が見つかっています。気性の激しい方ですが、生涯、土岐家と皆様のことを考えてこられたのです」「そうですか」礼都の返事はそっけなかった。永窪はため息をつき、部屋を出ていく。礼都はベッドのそばに立ち、眠る望を長い間見つめていた。――翌日。千鶴は朝早くから踏み台に乗り、家の中に正月飾りをつけていた。階段を下りてきた梨沙は、それを見て慌てて駆け寄る。「おばあちゃん!私がやるから、早く降りて」少し離れたところでは、美琴が子どもを抱いて笑っていた。「私もさっき同じことを言ったのよ。聞かないんだから。まだ若いつもりなのね」梨沙は千鶴が踏み台から降りるのを手伝い、自分が代わって飾りをつけた。千鶴はそばでテープを切りながら言う。「梨沙、あとで美琴と買い物に行って、きれいな服を何着か買っておいでよ。お正月らしくていいじゃないか」「服ならあるよ」美琴も口を挟んだ。「おばあちゃん、私たちがもう子どもの頃とは違うのよ。今はお正月だからって、普段と大して変わらないわ」千鶴は手をひらひらと振る。「そうか。なら好きにしなさい」玄関先にもしめ飾りをつけようと外へ出たとき、梨沙は一人の姿を見つけた。少し離れたところに、天音が気まずそうに立っていた。申し訳なさそうな顔で、ときどき梨沙を見上げている。「あれ、天音じゃないかい?」千鶴が声を上げた。
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第216話

それでも、梨沙は天音を許した。「もういいわ。許すから」天音はぱっと顔を輝かせ、梨沙に抱きついた。「ありがとう、梨沙さん!梨沙さんなら絶対にわかってくれるって信じてたよ!」そして思い出したように言う。「そうだ、今日は一緒に買い物に行こうよ。お正月だし、新しい服を買いたいの。夜はお詫びに食事をごちそうするから!」梨沙は少し考えた。今日はほかに予定もない。「分かったわ」「望も連れていかない?ずいぶん会ってないし、人工内耳の手術もうまくいったって聞いたけど」「望はやめておくわ。寒いし、まだ体調が万全じゃないから」梨沙が穏やかに答えると、天音もうなずいた。「それなら仕方ないね。午後、迎えに来るよ。望にも一言伝えてあげて。ママに会いたくて寂しがるといけないから」梨沙はうなずいた。天音が帰ったあと、梨沙も家へ戻る。美琴が言った。「もう離婚するんだから、あの子ともあまり親しくしないほうがいいわよ。結局、あの人たちは家族なんだから」梨沙は笑った。「うん、そうだね」渚はもう眠っていた。美琴はあくびをしてから、尋ねた。「この前の同窓会で、誰に会ったと思う?」梨沙が首を振る。「桂川よ」梨沙はきょとんとした。「忘れたの?前に話したでしょ。大学で一番のマドンナだった、大学院に進むため海外へ行って、卒業して帰ってきたって、あの桂川文乃(かつらがわ あやの)よ」美琴は舌打ちした。「それでようやく分かったわ。元彼が私と別れたのは、家族みんなが桂川との縁をつかませたかったからよ。あいつにとって桂川は、ずっと憧れていた相手だったの」梨沙も思い出した。美琴は軽く唾を吐くしぐさをする。「でも、桂川だって見る目はあるわ。どんな男でもいいわけじゃない。もっと大きな望みがある人よ」梨沙は美琴の肩を叩いた。「でも、今はそれより、渚のことをお母さんにどう話すか考えたほうがいいんじゃない?」美琴はたちまち悲鳴を上げた。――午後、天音は約束どおり迎えに来た。千鶴への花束も持っている。二人がけんかしたことを知らない千鶴は、いつもどおり天音を迎えた。「まあ、こんなものにお金を使わなくていいのに」「千鶴さんに喜んでもらえたらうれしいです。梨沙さんと買い物に行って、夕食を食べてから帰
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第217話

梨沙が戻ると、注文した料理はすべて運ばれていた。天音がすぐに手招きする。「早く座って。お手洗い、ずいぶん長かったね」「ごめんね。おばあちゃんから電話があって、少し話していたの」「きっと心配して電話をくれたんだね。いろいろ言ってくれたんでしょう?いいなー。うちのおばあちゃんなんて、自分から私に電話してきたこともないよ」天音はにこにこしていた。梨沙は笑っただけで、何も言わなかった。「さあ座って。ワインも飲み頃だよ。さっきこっそり一口味見したけど、まろやかでおいしかった」二人は向かい合って座った。天音はグラスの棚からワイングラスを二つ取り、一つを梨沙の前に置く。梨沙が小声で礼を言うと、天音は両方のグラスにワインを注いだ。「梨沙さん、まず私から一杯。心の広い梨沙さんは許してくれたけど、私はまだ申し訳なく思ってるの。こうして乾杯したら、少し気持ちが楽になる気がして」梨沙は笑ってグラスを持ち、天音のグラスに軽く触れさせた。そして一口飲む。「おいしいでしょう?」「そうね」天音はうれしそうに、梨沙のグラスにワインを注ぎ足した。「じゃあ、もう少し飲もうよ。もう休みに入ったんだし、酔ったら帰ってぐっすり眠ればいいんだから」二人は話をしながら、料理を食べ、ワインを飲んだ。ボトルに残るワインがグラス1杯分ほどになった頃、天音はさらに1本開けようとした。梨沙がその手首をつかむ。「もう大丈夫よ。頭がぼんやりしてきたから」天音は梨沙の様子を見つめた。「分かった。じゃあ、料理をもっと食べて」天音は取り箸で料理を取り、梨沙の取り皿に盛った。梨沙の視界はぼやけている。酔いが回っていた。目を閉じて軽く首を振り、また目を開けると、少しだけはっきり見える。「私、今まで誰かを好きになったことがないの」天音が話し始めた。「正直に言うと、この前のお見合いで土岐さんを初めて見た瞬間、好きになった。本当だよ。こんな気持ちは初めてで、昼間もずっと考えてるし、夜は夢にまで見るの」梨沙は片手でこめかみを支えながら、うなずいた。天音は唇を結び、続ける。「やっぱり私、まだ諦めたくないの。梨沙さんなら、分かってくれるよね?」梨沙は戸惑いながら天音を見た。混濁した頭の中で、今の言葉の意味をつかみかけた、そのと
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第218話

礼都は歯を食いしばり、梨沙を抱き上げて、足早に外へ向かった。二人が個室を出た瞬間、周囲に設置された複数のカメラが、その姿をはっきりと捉えていたことには気づかなかった。――夜遅く、海渡はレストランからほど近い高級ホテルの一室を訪ねた。扉を開けた天音は、彼を見ると複雑な表情を浮かべた。海渡は中へ入り、勝手にソファへ腰を下ろす。「終わりだ」天音は不安げに両手をこすり合わせた。「梨沙さんとは友達なのに......目が覚めたら、きっと私を責めるよ」海渡は鼻で笑う。「今さら後悔しても、遅いんじゃないか?」「......」天音は指をこすり続けた。「写真は撮れたか?」黙ってうなずく天音に、海渡は言った。「なら、教えたとおりに進めろ。天音、成功するかどうかは今にかかっている。人でも物でも、本気で手に入れたいなら、迷わずにやり通すことだ。そうすれば周りも道を譲る」天音の気持ちは晴れなかった。これまで悪いことなどしたことがない。それも、これほどひどいことは初めてだった。――すべてが自分の罪を示す証拠になるのではないか。責任を問われるのではないか。発覚すれば、大勢の人から非難されるのではないか。怖くてたまらなかった。両親からは幼い頃から、善良な人間になるよう教えられてきたのだ。海渡が眉をひそめる。「後悔しているのか?」天音は黙って首を振った。海渡は笑った。「土岐礼都が梨沙を好きになるなら、君を好きにならない理由はない。天音は名家の娘で、自分にも力がある。少し手を打てば、彼はきっと君のものになる」天音は唇を結び、静かにうなずいた。海渡は立ち上がり、彼女の肩を軽く叩く。「やったことを振り返って悩むな。今の結果が最善だと信じて、次へ進め」「......分かった」天音が小声で答えると、海渡は部屋を出た。家には帰らず、そのまま土岐家へ向かう。まだ起きていた永窪が、彼を迎えた。「夜分に失礼します。飛田海渡と申します。土岐家の賢一郎様にお目にかかりたいのですが」永窪は彼を上から下まで見た。「旦那様はもうお休みです」「そうですか。では、お邪魔するのは控えます。この封筒を明日の朝、賢一郎様に渡していただけますか」永窪が封筒を受け取ると、海渡は帰っていった。ず
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第219話

礼都は答えなかった。柊治は口をとがらせ、それ以上は追及せずに言った。「ほかに用がなければ、もう帰るよ」「ああ」柊治は何度も振り返りながら、ホテルを出ていった。礼都のスマホが鳴る。画面の番号には見覚えがあった。誰からか、ほぼ見当がつく。電話に出ると、天音の声がゆっくりと聞こえてきた。「土岐さん、少し......お話しできませんか?」礼都は短く、ホテルの部屋番号を告げた。30分ほどして、天音がやって来た。呼び鈴を押し、扉が開くと中へ入り、脇目も振らずにソファへ座る。向かいには礼都がいた。天音は唇を結んでから、切り出した。「率直に伺います。土岐さんは、梨沙さんのことが好きですか?」礼都は目を細めた。その視線には、相手を圧するものがある。天音は緊張した。だが、ここまで来た以上、引き返せない。「私、写真を持っているんです」礼都がふっと笑った。背筋が凍るような低く冷たい声に、天音は背筋が寒くなる。「取引しませんか?写真の元データをお渡しします。その代わり、私と付き合ってください」――取引、か。礼都に取引を持ちかけた者は、大抵ろくな最期を迎えていない。彼は気のない様子で笑った。「どんな写真を持っているんだ?」天音はバッグから写真の束を出し、礼都に渡した。写っているのは、梨沙一人だけだった。どの写真でも服が乱れている。一枚目を見た瞬間、礼都の目に激しい怒りが燃え上がった。「彼女は君のことを友達だと思っていた。それを、君は取引の材料にするのか?」天音の顔色が変わる。彼女は声を張り上げた。「私のことを友達だと思っていたなら、土岐さんのそばに付きまとわず、距離を置くべきでしょう!私が初めてお会いしたときから土岐さんを好きだったと、知っていたくせに......!」礼都は冗談でも聞いたかのような顔をした。あまりにも身勝手な言い分だ。「君が俺を好きだから、俺は君と付き合わなければならないのか?」「少なくとも、彼女は土岐さんと距離を置くべきです。あんなに親しくするべきじゃない!」天音はなおも言い募る。「梨沙さんはまだ兄と離婚していないのに、土岐さんを次の相手として確保しているんですよ?!そんな人のどこが、好きになる価値があるんですか?」「彼女のことは好きじゃない」礼
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第220話

天音の目は真っ赤だった。今にも泣き出しそうな顔で、礼都を見つめる。深く人を引きつける目鼻立ち。初めて見た瞬間に恋に落ちた、その顔を。「......どうして?一体私のどこが駄目なんですか?」声が震えていた。礼都はゆっくりと目を上げ、口元に皮肉な笑みを浮かべる。「自分の心に聞いてみればいい」天音は泣きながら出ていった。礼都は無表情で写真をすべて処分し、唐沢に電話をかけた。「飛田天音の端末にハッキングして、データを調べてくれ」唐沢が承知した。しばらくして、礼都は立ち上がり、寝室の入口から、まだ目を覚まさない梨沙を見た。小さく息をつき、ソファへ戻って横になる。ソファは狭く、長い脚を伸ばす場所もない。両腕を頭の後ろに回し、途切れ途切れに浅い眠りについた。――梨沙が目を覚ましたのは、翌朝だった。ぼんやりしたまま寝室を出て、ソファで眠る礼都を見つける。足が止まった。昨夜の出来事が、一瞬で頭の中によみがえる。天音――梨沙は唇を結んだ。胸にこみ上げるものが、悲しみなのか悔しさなのかも分からない。天音のことを、本当に親友だと思っていた。何度も裏切られているうちに、自分に問題があるのではないかとさえ思えてくる。――どうして......どうして、そばにいた人たちは次々に自分を裏切るのだろう。目が赤くなった。礼都は、眠りの中で誰かの視線を感じ、すぐに目を開けた。梨沙の赤い目と視線が合う。軽く咳払いをして、身体を起こす。「もう大丈夫なのか?」梨沙はうなずいた。「昨日はありがとうございました、土岐さん......」「いや。むしろ俺のせいでひどい目に遭わせて、ごめん。彼女が狙っていたのは俺だったんだ」梨沙は急いで首を振る。「土岐さんだけが理由ではありません。天音は......彼女は、私が彼女のものを奪ったと思ったから......」礼都は立ち上がり、彼女のほうへ歩いた。梨沙は少し緊張する。目の前に立った礼都は、かすかに震える彼女のまつ毛を見下ろした。そして手を上げ、頭にそっと触れる。「俺は物じゃない。彼女のものでもない。だから、君も俺も悪くない」梨沙は勢いよく顔を上げた。礼都は10秒ほど彼女を見つめ、ようやく視線をそらす。「何でも自分の責任だと思わなくていい」
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