礼都が「そうだ」と答えさえすれば、今すぐにでも梨沙のところへ駆けていきそうな顔だった。それを聞いて、賢一郎の表情が曇った。――秋谷梨沙のどこがいいというのだ。あの女が望に与えられるものなど、土岐家が与えるものとは比べものにならない。一人も二人も、梨沙にすっかり心を奪われている。賢一郎の怒りは、そのまま礼都に向けられた。――昨日の夜中にこっそり出かけたことも、知らないとでも思っているのか。ただ見て見ぬふりをしていただけだ。賢一郎が咳払いをすると、春奈がすかさず笑顔で言った。「望君、おじさんが結婚したら、望君を大切にしてくれる人がもう一人増えるのよ。望君がいらなくなるわけないでしょう?」「そうなんだ......」望は残念そうに答えた。礼都は望の頭を撫でた。「俺には望がいれば十分だ」文乃は唇を引き結んだ。賢一郎は単刀直入に言った。「文乃を連れて、少し外を歩いてこい」礼都が断ろうとした途端、賢一郎は彼をにらんだ。「早くしろ。昨夜は十分休んだだろう」礼都が立ち上がると、文乃も急いで席を立ち、そのあとを追った。賢一郎は重いため息をついた。「本当に困った子だ」春奈がにこやかに応じる。「時代が変わりましたからね。今の若い人は結婚したがらないんです。うちの職場にも三十を過ぎて恋人も作らず、一人暮らしに慣れきった若い人が何人もいますよ」「ですが、礼都君はそういう人たちとは違います」義隆が口を挟んだ。「彼には土岐家を支え、家を継いでいく役目があります。でもそう焦らなくていいと思いますよ。縁というのは不思議なもので、結婚しないと言っていても、運命の相手に出会えば、止めようとしても止められませんから」その言葉に、賢一郎は何かを思い出したのか、顔色を曇らせた。春奈は夫の脇を強く小突き、柔らかな声で言い直した。「もう、あなたったら言い方が悪いんですから。運命の相手というのは、双方の家族にも祝福されるお相手のことでしょう?どちらかの親が認めないなら、そんなのはいい縁とは言えませんよ」義隆は気まずそうにうなずいた。「あ、ああ、そうだな。家柄も釣り合って、親も認めて、本人たちも互いに好意を持っている。それこそいい縁です」賢一郎の表情がようやく和らいだ。そのとき、そばの固定電話が鳴った
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