Tous les chapitres de : Chapitre 1 - Chapitre 3

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第1話 未練とBL営業

 あの夜のことは、忘れられない。 高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。 背後から、低く甘い声がした。「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」 振り向くより早く、腕を引かれた。 体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。「……ねえ、俺を抱いてみない?」 その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。 細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。 憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。 ――あの夜、俺は初めて、炎さんを抱いた。 触れた体温も、息遣いも、全部、焼き付いて離れない。 あの時、確かに思ったんだ。 これは恋だって。 一生に一度の、本物の恋だって。 ……でも。「何をそんなに本気になってるんだよ」 ベッドの上で、炎さんは笑っていた。「セックスなんてただの娯楽だろ? 一人の相手に縛られる必要なんてない」 その顔は、あの夜と同じくらい綺麗で―― 同じくらい、どうしようもなく冷たかった。 俺の知らないところで、何人もの男と関係を持っていたことも、 問い詰めても、悪びれもしなかったことも、全部。 ……全部、知ってしまった。 あの時、終わったはずだったのに。---第1話 穏やかな潮風が、成田颯馬の頰を優しく撫でた。 船着き場のある小さな集落から車で十分ほど移動した先に、炎プロダクションが用意した合宿所はあった。元は緋崎炎の別荘を改装したというその建物は、周囲に民家も商店も何もない静かな離島に佇んでいた。庭の芝生の向こうには、青く広がる水平線がどこまでも続いている。 ここが、これから三十日間、十四人の候補生たちが過ごす場所だ。 『炎プロジェクト』——音楽プロデューサーである緋崎炎が手がける、ボーイズダンス&ボーカルグループの最終選考合宿。オーディションの様子は動画サイトで二十四時間生配信され、最終日に視聴者投票で合格者が決まるという、異例の企画だった。 食堂に入ると、そこに緋崎炎プロデューサーが立っていた。 三十五歳とは思えない若々しい顔立ち。中性的でシャープな美貌に、妖艶な色気がまとわりついている。黒いシャツの襟元を少し緩め、細い指で軽く
last updateDernière mise à jour : 2026-05-14
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第2話 フリなのに、意識してしまう

 颯馬が戻ると、1号室のドアは、少しだけ開いていた。 元々あの有名プロデューサー炎の別荘だというだけあって、部屋は広い。二段ベッドを三台入れてもまだ余裕がある。ベッドの横には人数分の簡易クローゼットも設置されていた。 室内では、すでに三人が荷物を広げていた。  笑い声と、どこか浮ついた空気。合宿初日特有の、独特な高揚感。「ただいま」 颯馬が声をかけると、すぐに反応が返ってきた。「颯馬くん、おかえり!」 オレンジ色の髪を揺らして、そらが駆け寄ってくる。 近い。距離感がやたらと近い。  つぶらな瞳で見上げられて、颯馬は思わず視線を逸らしそうになった。「同じ部屋だね! これから30日間、一緒に頑張ろうね!」 「ああ、よろしく」 「颯馬くん、僕もよろしくね。 あー眠い……今日はなんだか疲れちゃったよ」 ふわふわした茶髪の彼――日和(ひより)は、タレ目でいつもぼんやりしている。高身長なのに華奢で、少し不思議な雰囲気の男だ。 彼方がベッドに飛び乗りながら笑う。「俺は上の段にする! なんか秘密基地みたいでワクワクするな!」 赤い髪に大きな目。元気がありすぎて、部屋に入った瞬間から空気が明るくなるタイプだ。 水琴は静かに自分の荷物を手に取り、部屋を見回していた。 ベッド割りは、自然と決まっていった。 上段:彼方・日和 下段:そら・水琴・颯馬  颯馬のベッドは水琴の隣だ。「ちょっと、颯馬くん」 ベッドの中に入った水琴が、カーテンの隙間からこちらを覗いた。  目が合う。  逃げる暇もなく、視線を絡め取られる。「ちょっと中、ええ?」  手招きされた。「ああ……」 断る理由もなく、颯馬は水琴のベッドに入った。  カーテンが閉まる。外の気配が、一瞬で遠くなる。  ……近い。思ったよりもずっと。  同じベッドの上に、二人。膝が触れそうな距離。「作戦会議、しよか」 水琴がごく小さな声で言う。息がかかりそうな距離で。 「で、何すればいいんだよ」  颯馬も声を潜めた。「自然に距離詰めるだけやで。せやけど、初日からいきなりくっつき過ぎやと変に思われるかもしれへんから、少しずつにしよ」 そう言いながら、水琴は颯馬をじっと見ていた。  値踏みするみたいに。  自然と、颯馬の視界にも水琴が映る。
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第3話 復讐への序章

 桐生水琴は自分のベッドのカーテンをそっと閉めた。 隣のベッドからは、すでに穏やかな寝息が聞こえてくる。 成田颯馬——引き締まった筋肉質な体格で、笑うと爽やかになるその顔が、今はカーテン一枚隔てただけで眠っている。  水琴は目を閉じず、カーテンの裏側をじっと見つめていた。部屋の明かりはすでに落ち、ただ小さなナイトライトだけが淡く透けて見えている。(……ようやく、始まったな) 六年前の記憶が、静かに蘇る。 水琴の兄・桐生実嗣は、当時二十一歳だった。水琴と同じく子役から俳優業を続けていた。 水琴がまだ十五歳の頃、兄は炎プロダクションの社長・緋崎炎と恋人関係になった。 炎は中性的で妖艶な美貌の持ち主で、年下の男を好むと公言してはばからなかった。 兄は炎に夢中になり、すべてを捧げた。  しかし炎は兄を捨てて、他の男に走った。 兄は心を病んだ。  そして芸能界を引退した後も、病は深まる一方だった。 ある日突然、兄は失踪した。今も連絡は取れない。家族は必死に探しているが、手がかりすらない。 水琴はあの時、誓った。  炎を許さない。復讐してやる。 なんとしてでもこのオーディションに受かって炎のそばに近づき、弱みを握ってやる。近づいて、信頼させてから、あの男のしたことを世間に暴露し、裏切ってやるのだ。あいつを芸能界にいられなくしてやる。 炎が目をかけている練習生・成田颯馬と親しくなれば、炎に関する情報を聞き出せるはずだ。それが最も確実な復讐の手段になると、水琴は考えた。 到着初日、トイレで颯馬にBL営業を持ちかけたのも、その計画の一環だった。(完璧や。炎に近づくための道具として、颯馬くんは最適やわ) 水琴は小さく息を吐き、唇の端を上げた。  しかし、隣から聞こえる穏やかな寝息を聞いていると、胸の奥にほんのわずかな罪悪感が生まれた。(……予想外に、まっすぐな目やったな、あの子) 水琴は自分の指先を軽く握りしめ、目を閉じた。  まだ始まったばかりだ。復讐のためには、感情など、必要ない。 翌朝、水琴は一番先に目を覚ました。 カーテンの隙間から、隣のベッドをそっと覗く。颯馬はまだ眠っていた。筋肉の盛り上がった肩と、短い黒髪がタオルケットからはみ出ている。あどけなさの残る穏やかな寝顔は、なんだか可愛らしかった。(……情報を聞
last updateDernière mise à jour : 2026-05-25
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