Alle Kapitel von 24時間生配信の離島軟禁オーディションで、BL演出をやってみた結果: Kapitel 51 – Kapitel 60

64 Kapitel

第51話 隠していたこと

 浴室には、デッキブラシで床を擦る音だけが響いていた。 朝の掃除が始まってから十分ほど経つというのに、水琴は同じ場所ばかり磨いている。 泡はとうに流れ落ちているのに、手だけが無意識に往復を繰り返していた。 颯馬はそんな様子を横目で見ながら排水口の周りを掃除していたが、やがて手を止めた。「みー」 呼ばれても、水琴はすぐに返事をしない。 数秒遅れて、小さく「ん」とだけ返した。「そこ、もうきれいになってるけど」 その一言で、水琴はようやく我に返った。「あ……ほんまや」 苦笑しようとした口元は、うまく形にならなかった。 ブラシを持ち直して別の場所へ移ろうとする。 けれど、足が動かない。 何度も切り出そうとしては飲み込んできた言葉が、喉の奥につかえたまま残っていた。 昨日からずっとそうだった。 颯馬があの記事を信じず、水琴の言葉を信じてくれたこと。 みんなの前で自分をかばってくれたこと。 思い返すたびに胸の奥が締めつけられる。 こんなふうに信じてもらえる資格なんて、自分にはない。「昨日のこと、まだ気にしてる?」 颯馬はブラシを洗いながら尋ねた。「ネットの記事」 水琴は俯いたまま、小さく首を振る。「それもあるけど……」 そこで言葉が止まる。 颯馬は続きを急かさない。 水を止め、静かに水琴の方を向いた。「昨日さ」 水琴は床の水滴を見つめたまま口を開く。「颯馬くん、俺のこと『信じてる』って言うてくれたやん」「うん」「あれ、めちゃくちゃ嬉しかった。せやから余計に、もう隠しとくの無理やと思った」 颯馬の表情が少しだけ変わる。 水琴はゆっくり息を吸った。「……ごめん」 その一言を言うだけで、胸が苦しくなる。「俺、颯馬くんにずっと嘘ついてた」 浴室が静まり返る。 遠くで水道の雫が落ちる音だけが聞こえた。「最初から……颯馬くんと仲良うなるつもりやった」 颯馬は何も言わない。 続きを待っている。「でも、それは友達になりたかったからちゃう」 水琴は拳を握り締めた。「颯馬くんを、利用するためやった」 その瞬間、颯馬の瞳がわずかに揺れる。「利用……?」「うん」 水琴は頷いた。「颯馬くんに近付けば、炎さんのこと知れるかもって思って」 自分の口から出た言葉が、胸へ突き刺さる。 最低だ。 ずっと分かっ
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第52話 信じると決めた責任

 水琴の告白が終わっても、颯馬はすぐに言葉を返せなかった。 浴室には排水口へ流れ込む水の音が残り、さっきまで二人が使っていたデッキブラシは、濡れた床の上に置かれたまま動かない。水琴が颯馬の言葉を待っていることは分かっていたが、喉元まで上がってくる感情を、そのまま口に出してしまうのは危険な気がした。 信じていると言った。 子役時代の水琴を知らなくても、ここで生活してきた彼なら知っていると、皆とカメラの前で断言した。 その判断を後悔したわけではない。いじめ疑惑について、水琴が嘘をついているとは今でも思っていなかった。 けれど、自分が見てきたものだけを信じると言い切った相手が、最初から別の目的を抱えて近付いていた。その事実は、これまで積み上げてきたものが音を立てて崩れ落ちていくようだった。 水琴からBL営業を持ち掛けられた日も、必要以上に距離を詰めてきた理由も、炎について何度も尋ねられたことも、今なら一つの線で繋がってしまう。 自分は、どこから本当の水琴を見ていたのだろう。 笑いかけられるたびに相手を知ったつもりになり、頼られるたびに距離が縮まったと思い込んでいただけなのかもしれない。そう考えると、これまで積み重ねてきた時間まで疑わしく見えてくるのに、それでも全部が嘘だったとは思えなかった。 水琴が自分の誕生日のためにケーキを作ってくれたことも、屋上で兄の話をして泣いたことも、炎上した朝に怯えながら「あんなことはしていない」と打ち明けたことも、復讐のために用意された演技だったとは考えられない。 最初は利用するつもりだったという言葉と、途中から変わったという言葉のどちらを信じるかは、結局また自分で決めるしかなかった。 颯馬は床を見つめていた目を上げ、水琴の顔を見た。 いつもなら、相手が何を考えているか先回りするように笑う男が、今は逃げ道を探すことさえ諦めたように立っている。許してほしいとも、仕方がなかったとも言わず、自分がしたことだけを颯馬の前へ差し出していた。 炎をかばいたいとは思わなかった。 あの人が恋人を傷付けることも、複数の相手と平気で関係を持つことも、颯馬自身よく知っている。水琴の兄が炎の浮気によって壊れたと言われても、反論はできない。 だからといって、自分を利用してよかったことにはならない。 そこまで考えたところで、颯馬は自分の
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第53話 花火と約束

どうしよう。 颯馬くんのことが好きや。もうどうしようもないくらい。 その結論にたどり着いてしまってから、水琴は自分から颯馬に近づけなくなっていた。 避けたいわけではない。 近くにいると落ち着かないのだ。 心臓が勝手に忙しくなる。 少し前までなら平気だった距離が、今では全部だめだった。 朝の自主練でもそうだった。 ストレッチを終え、水分補給をしていると、颯馬が当たり前のように隣に来る。 「みー」 返事をするより早く、肩に腕が回された。 引き寄せられるように身体が触れる。 汗で少し湿ったTシャツ越しでも体温ははっきり伝わってきて、水琴は思わず肩に力を入れた。 「体調悪くない? 大丈夫?」 「大丈夫やけど……」 「ほんとに? なんか顔色悪くないか?」 そう言って颯馬は、水琴の前髪を指で掬い上げる。 「え、何」 「ちょっとじっとしてて」 颯馬の顔が近付いてくる。 吐息がかかりそうな距離で、額と額がくっつけられる。 近すぎる。 水琴は息を飲んだ。心臓がうるさい。 「んー、熱はなさそうだな」 「熱なんてあらへんよ。ホンマに、元気やから」 「ほんとだ。顔色良くなった」 至近距離のまま、颯馬が水琴の顔をじっと見る。 その手のひらが水琴の頬をするりと撫でた。 「………!」 「はは、顔真っ赤」 「ちょ、もおやめて」 水琴は膝をかかえ、熱く火照る顔をタオルに埋めた。 「また朝からくっついてる」 「最近これが普通になってきたな」 彼方と瞬多が面白そうに呟く。 誰も不自然だと思わなくなっている。 それなのに、水琴だけが動揺している。 昼になると、炎が合宿所へやって来た。 毎週土曜日恒例の視察日だ。 午前中は自主練を見学し、昼食は庭でバーベキューを囲む。 潮風が吹き抜ける芝生では、龍也と凱が肉を焼き、彼方と瞬多が騒ぎながら皿を運んでいる。 炎も候補生たちの輪に入り、時折アドバイスを送りながら会話し、楽しそうに笑っていた。 水琴は炎を見る。 以前なら胸に渦巻いていた憎しみが、今は少し形を変えている。 兄を傷付けたことはまだ許せない。 でも、復讐のために誰かを利用したいとは、もう思わなかった。 午後も自主練は続いた。
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第54話 交錯する想い

 水琴は一人で廊下を歩いていた。 頭の中では、さっき浜辺で交わした颯馬の言葉が何度も繰り返される。 『俺、みーと一緒に合格したい。一緒にデビューして、これからもずっと一緒にいたい』  花火よりも、その一言の方が眩しかった。 あんな顔で言われたら、勘違いしてしまう。 いや、もう勘違いでは済まないところまで来ている。 水琴は小さく頭を振る。 「ほんま、どうしたらええんや……」 誰にも聞こえないよう呟いて、トイレの扉を開けた。 個室から出て手を洗っていると、背後で扉が開く音がした。 鏡越しに映った人物を見て、水琴の表情が固まる。 「……イッセイ」 イッセイは静かに扉を閉めると、そのまま水琴の方へ歩いてくる。 いつもの穏やかな笑顔はなく、真っ直ぐ水琴だけを見つめていた。 「みーくん」 水琴は蛇口を閉め、振り返る。 「何?」 「颯馬と、どういう関係なの?」 その問いに、水琴は眉を寄せた。 「急に何なん」 「最近ずっと一緒にいるじゃん」 イッセイは一歩近付く。 「肩を組んで、抱きしめて、名前の呼び方まで変わってる」 「……」 「BL営業のつもりなら、俺が相手するのに」 「別に、そんなんちゃう」 「じゃあ何? どう見ても普通の友達の距離感じゃないよね」 水琴は小さく息を吐いた。 「イッセイには関係あらへんやろ」 「あるよ」 その返事には迷いがなかった。 「俺はまだ諦めてない」 水琴は首を横へ振る。 「俺はもう答えを出したはずや」 「だからって納得できるわけじゃない」 距離がさらに縮まる。 水琴は一歩下がった。 背中が壁に触れる。 その瞬間、イッセイの両腕が水琴の顔の両脇につかれ、水琴の逃げ道を塞いだ。 「イッセイ……」 「颯馬を、好きになったの?」 水琴は目を伏せる。 その沈黙が答えになってしまった。 イッセイは苦しそうに笑う。 「やっぱり……」 「どいて」 「嫌だ」 「イッセイ」 「俺、まだ諦められないよ」 その声は震えていた。 「昔みたいに戻れるって、ずっと思ってた」 水琴はゆっくり首を横へ振る。「戻られへん」「どうして?」 「俺は元々、イッセイのこと本気なわけやなかった。イッセイかて知ってたはずやん。それでもええって言うから…
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第55話 嫌だから

 イッセイの腕が水琴から離れた瞬間、颯馬は迷わず水琴の手首をつかんだ。「行こう」 水琴は目を丸くしたまま、小さくうなずく。 二人はトイレを出て廊下を歩く。颯馬は水琴の手を離さず、そのまま階段を上がっていく。水琴は何も言わず手を引かれるままついていく。 屋上には誰もいなかった。 夜風が吹き抜け、フェンスの向こうで黒い海が月光を反射して静かに光っている。 しばらく並んで立ったまま、どちらも口を開かなかった。 先に沈黙を破ったのは颯馬だった。「……なあ」 水琴は視線を海に向けたまま答えない。「イッセイと、何があったんだ? ……話したくないなら、無理に話さなくてもいいけど」 聞かれると思っていた。 颯馬は水琴とイッセイの関係を恋人同士だと思っている。 台風の夜に、抱き合っているのを見られてから。 セフレだとは、言えなかった。知られたくなかった。「もしかして、俺のせい、か?」 何も答えない水琴に、颯馬はさらに問いかける。「俺がみーにベタベタしてるから、怒られた? だったら、ごめ……」「謝らへんでええよ」 水琴は颯馬の言葉を遮って言う。「俺かて、颯馬くんにやめてって言わへんかったし」「隠れ蓑になるって話、イッセイには……」「言うとらへん」「……別れるのか?」 水琴は黙って首を縦に振る。 だが、このままでは颯馬は罪悪感で自分を責めてしまうだろう。 隠し続けられるなら、隠し通したかった。 でも、もう無理だ。 保身のために彼を傷付けたくはない。 水琴は苦く笑って言った。「けど、イッセイは恋人やない。セフレやった」 颯馬は何も言わず、海を見ている。「俺は最初からあいつに恋愛感情はあらへんかった。でも、あいつは俺のこと本気で好きや言うて、遊びでもええ言うから」 潮風が前髪を揺らす。 水琴は自嘲するように笑った。「最低やろ」 返事はない。「利用して、都合ええ時だけ呼んで、飽きたら終わり。そんな付き合いしかしてこんかった」 胸の奥が重い。 復讐のことを打ち明けた時とは違う息苦しさだった。 颯馬に、嫌われるかもしれない。 そんな考えが頭をよぎる。「……俺のこと」 水琴はゆっくり振り向いた。「軽蔑する?」 颯馬は間髪入れず首を横に振った。「するわけないだろ」 その答えはあまりにも早くて、水琴の方が言葉
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第56話 星空の下の告白

屋上を吹き抜ける柔らかな夜風が、火照った頬を優しく冷ましていく。颯馬はフェンスに背中を預けたまま、しばらく星空を見つめていた。 無数の星が静かに瞬く離島の夜空は、美しいのにどこか冷たく感じられた。 やがて彼は意を決したように息を吸い、ゆっくりと口を開いた。「みー、前にさ、俺に『炎さんと付き合ってたのか』って聞いたよな」颯馬は一度だけ水琴を見てから、再び視線を夜空へ戻した。 その横顔に浮かぶ影は、いつもより重く見えた。「あの時、俺、嘘ついてた。本当は、炎さんと付き合ってた」水琴の瞳が大きく揺れた。 胸の奥で何かがざわつく。 兄の元恋人。 自分がずっと憎んできた男。 その炎と、颯馬が——。「……やっぱり、そうなんや」声がわずかに震えたが、そこに込められた感情は、驚きだけではなかった。「うん。嘘ついてごめん。あの人、有名人だから、言っちゃダメな気がして」颯馬は自嘲するように笑った。 その笑みには、苦い後悔と、どこか自分を責めるような響きがあった。「マジで好きだったんだ。俺にとっては、初めて本気で好きになった人だった。……でも、別れた」その一言だけで、水琴にはすべてが伝わった。 炎の恋愛観は、兄の話で嫌というほど知っている。 一人だけを愛するような人間ではなかった。 颯馬もまた、炎に弄ばれ、傷ついた一人だったのだ。「だから、もう終わったことだと思ってた」颯馬はそこで言葉を切る。 その沈黙が、水琴には妙に長く感じられた。 夜風が二人の間を通り抜け、星空が静かに瞬いている。「……思ってた?」思わず聞き返す。 颯馬はゆっくり頷いた。「そう思おうと、努力はしたんだけど……」その声には、自分を責めるような響きが混じっていた。 「でも、この合宿が始まってから……炎さんに部屋へ呼ばれた」水琴の胸がざわつく。 嫌な予感がした。「断れなかった」颯馬は自分の手を見つめた。 拳が小さく震えているように見えた。「もう恋人じゃないのに。別れたいって言い出したのは俺の方なのに」短い言葉だった。 けれど、その一言だけで十分だった。 水琴はそれ以上、何があったのか聞けなかった。 聞かなくても分かってしまったからだ。 イッセイとの関係を続けていた自分を、汚いと思っていた。 本
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第57話 向き合うために

 一方その頃、ライブ配信の視聴者コメント欄が盛り上がっていたことは言うまでもない。 合宿所の屋上にも配信用の定点カメラは設置されているが、颯馬たちはずっと小声で会話していたため、その音声はマイクに拾われてはいなかった。【コメント欄】Momo_728:え、颯馬が水琴の手引っ張ってる!?ryu_46:手繋いでる?BL_cat:どこ行くの!?KANAxx:トイレでなんかあった?sora_sky:階段上ってるAoi_17:屋上来たmint99:でも音全然聞こえないwRin_Rin:マイクもっとがんばれneo0418:二人ともめっちゃ真面目な顔KuroWolf:修羅場?miya102:水琴うつむいてる……Luna_00:颯馬が何か話してるBlueFox:小声すぎる!!yuzu_84:読唇術班まだ?Haru_55:大事な話なのかなNoel777:これ見せられて音ないの地獄wmikan88:もしかして告白alice_m:水琴びっくりした顔した?Ryo-23:したした!Karin_25:今「え?」って口動いたように見えたFumiX:何言われたんだろneco222:別れ話?YuiStar:誰と?wrainblue:イッセイじゃない?kuma3:さっきトイレにイッセイもいたよねyuu_090:三角関係キタ――!Mii_46:水琴ほぼ動かないねAster9:泣いてないよね?Yukari:痴話喧嘩?Aqua7:あ、みーくんしゃべった!Lime_P:颯馬また話してるhana_hana:なんか空気重そう……skyline33:やっぱ別れ話やろRabbit21:二人とも顔近いRin_0214:距離近すぎ案件BlueMoon:颯馬、自分から一歩近づいたKou_11:チューする?mii_mii:するわけないだろSoraBlue:泣く?cat_tail:え、みーくん目こすった?BL_cat:泣いてるように見える……KuroWolf:颯馬、全然動かないMomo_728:返事待ってる?mint99:運営ーーーー!!!mint99:高性能マイク付けてくれーーーー!!!Ryo-23:今日だけ字幕ほしいwBL_only:逆に聞こえないから想像が止まらないNoel777:考察班が徹夜するやつwYuiStar:来
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第58話 虹の向こうへ

 翌日の午前中。 候補生たちは、いつものように準備運動を終え、海岸へ続く遊歩道に集まっていた。 コーチが全員を見渡す。「今日は前回より少しコースを延ばす。砂浜だけじゃなく、岩場を回って戻ってくるルートだ。無理に競う必要はないが、自分のペースを最後まで維持しろ」「はい!」 返事は前回より揃っていた。 スタートの合図とともに、十四人が一斉に走り出す。 並走するカメラマンは、折り返し地点で交替するらしい。 前回は砂浜に足を取られ、開始早々に悲鳴が上がっていたが、今日は違う。自主トレーニングで慣れたのだ。 それぞれが自分に合った呼吸を掴み、無駄に飛び出す者もいない。 自然と集団は前後へばらけながらも、一定のリズムで海岸線を進んでいく。「前よりだいぶ楽になったな」 ミンソクが軽い調子で言うと、隣を走る葉月が笑った。「それは思った」「最初の日は筋肉痛で階段もしんどかったもんな」「あれはつらかったよねー」 葉月は苦笑しながら肩をすくめる。 少し前では凱とカゲトラ、颯馬が無駄のないフォームで走り続け、その後ろをイッセイや響たちが続く。 水琴も今日は呼吸を乱すことなく、自分のペースを守れていた。「調子ええやん」 隣を走る瞬多が笑う。「だいぶ体力付いてきたんとちゃう?」「確かにな。日頃の努力の成果が出るってうれしいな」 水琴も笑い返す。 合宿を始めてから、もう二週間以上。 毎日の筋力トレーニングやダンスレッスンは決して楽ではなかったが、その積み重ねは確かに体に表れていた。 遊歩道を抜け、再び砂浜へ出る。 潮風が汗ばんだ頬を撫で、波の音が一定のリズムで耳へ届く。 だがその穏やかな景色は、突然変わった。 沖合から濃い雨雲が流れ込み、海の色が一気に暗くなる。「なんか、空暗くない?」 日和が見上げた直後だった。 激しい雨粒が砂浜へ叩きつけられる。「うわっ!」 数秒もしないうちにみんなの全身が濡れた。 雨というより、滝が落ちてきたようだった。 コーチが大きく手を振る。「岩場まで移動しろー!」 候補生たちは大騒ぎしながら走り出す。 防水カバーを付けたビデオカメラを抱えたカメラマンも、その後を追ってきた。 それぞれが複数の岩陰に分かれて駆け込む頃には、全員の髪から雫がぽたぽたと落ちていた。「すごい雨やな」 水琴が濡
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第59話 一歩だけ、勇気を

 十四人は再開したランニングを終えて合宿所へ戻る道を歩いていた。 さっき交わした「トップアーティストになる」という約束の余韻なのか、誰もがすがすがしい表情だった。 颯馬は前を歩きながら、何気なく後ろを振り返る。 水琴が瞬多と何か話して笑っている。 その少し後ろには、カゲトラが一人で歩いていた。 以前と同じように見える。 それでも、さっきの円陣を思い返すと、颯馬には少し違って見えた。 自然に輪へ入り、皆と一緒に拳を突き上げていた。 あの姿が妙に嬉しかった。 颯馬は歩幅を緩める。「カゲトラ」 呼ばれた本人が顔を上げた。「ん?」 颯馬は隣に並ぶと、そのまま肩へ腕を回した。「カゲトラも、一緒に頑張ろうな」 カゲトラは目を丸くしたまま固まる。「……何だよ、急に」「いや」 颯馬は笑った。「さっき、お前が円陣入ってくれたの見てさ」 カゲトラは照れくさそうに視線を逸らした。「別に……」「嬉しかった」 その一言に、カゲトラは足を止める。 少し前を歩いていた水琴も振り返った。「どうしたん?」「カゲトラが円陣入ってくれて嬉しかったって話」 颯馬がそう答えると、水琴も笑顔になる。「俺も嬉しかったで」 二人に見られ、カゲトラは困ったように頭をかいた。「そんな大したことじゃねぇよ」「俺には大したことだった」 颯馬は肩へ回した腕を軽く叩く。「だって、お前ずっと一歩引いてただろ」 カゲトラは少し黙り込んだ。 波の音だけが聞こえる。 やがて、小さく口を開いた。「……俺さ」 言葉を探すように少し間を置く。「人と話すの、苦手なんだ」 颯馬は黙って続きを待った。「話しかけようと思っても、何て言えばいいか分かんなくなる。そのせいで、暗いやつだって言われてイジメられてたこともあって……」 照れ隠しのように笑う。「だからさ、近寄りにくい奴だって思われた方が気が楽だった」 水琴が驚いたように目を瞬かせた。「それで一匹狼みたいにしとったん?」「……まあ」 カゲトラは苦笑する。「でも本当は、みんなと仲良くなりたかった」 その言葉に、颯馬は思わず笑ってしまう。「何だ、それ」「笑うなよ」「だって、お前そんなふうに見えなかったから」「俺もや」 水琴も頷く。「もっと早よ言ってくれたらよかったのに」 カゲトラは耳ま
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