Alle Kapitel von 24時間生配信の離島軟禁オーディションで、BL演出をやってみた結果: Kapitel 41 – Kapitel 50

64 Kapitel

第41話 停電の夜

 夜中、颯馬は耳を塞ぎたくなるような風の音で目を覚ました。 眠る前よりも嵐は明らかに勢いを増している。建物の外では何かが転がる鈍い音が断続的に響き、窓ガラスは風圧に押されるたび細かく震えていた。 薄暗い部屋の中で身じろぎすると、右腕に柔らかな重みを感じる。 そらだった。 眠っている間に無意識のうちに距離が縮まったらしく、颯馬の腕へ両手を回し、小さな子どものようにしがみついている。 昼間は明るく笑い、年上にも物怖じせず話しかける彼が、嵐の夜だけは幼い頃の記憶へ引き戻されてしまう。その事情を聞いているからこそ、無理に起こして手をほどく気にもなれなかった。 颯馬は天井を見上げ、小さく寝返りを打つ。 その直後だった。 窓の向こうが真昼のように白く光り、ほとんど間を置かず轟音が建物全体を揺らした。 雷が近くへ落ちたのだ。 腹の底まで響く衝撃に、そらは眠ったまま肩を震わせる。 それとほぼ同時に、隣のベッドから小さく息をのむような声が聞こえた。「ひゃ……っ」 水琴の声だった。 カーテン越しでは姿は見えないが、その短い声だけで普段とは違うことが分かる。「水琴、大丈夫か」 声を潜めて尋ねると、少し間があって返事が返ってきた。「……平気」 そう答えた声は普段よりずっと細く、言葉とは裏腹に震えを隠し切れていなかった。 颯馬は思わず身体を起こそうとした。 様子を見た方がいい。 そう考えた瞬間、腕へ絡みつくそらの手がわずかに力を強める。 眠ったまま離す気配がない。 無理に動けば起こしてしまうだろう。 颯馬はそのまま動けずにいた。 外では再び風が建物を揺らしている。 時間だけがゆっくり過ぎていった。 やがて隣のカーテンが擦れる音が聞こえ、水琴が静かにベッドを降りる気配がした。 床板が小さく軋み、足音が部屋の出口へ向かう。 ドアが開閉する音は風にかき消されるほど小さかった。 どこへ行くんだろう。 その疑問だけが残る。 それから十分ほど経った頃、そらの呼吸がさらに深くなった。 颯馬は慎重に腕を引き抜く。 今度は抵抗されなかった。 布団を掛け直し、起こさないよう静かに部屋を出る。 廊下は真っ暗だった。 壁のスイッチを押してみるが、何度押しても照明は点かない。 停電しているようだ。 さっきの雷のせいだろうか。 颯馬はポケ
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第42話 この気持ちの正体

 寝室に戻ると、そらは先ほどと変わらない寝息を立てていた。 台風の音などもう聞こえていないのか、小さく身体を丸め、布団を抱えるように眠っている。 起こさないよう静かにベッドへ腰を下ろし、颯馬は深く息を吸った。 外では相変わらず風が建物を揺らしている。 けれど耳に残って離れないのは、嵐の音ではなかった。 暗い脱衣所での、イッセイと水琴の会話。 イッセイの腕の中にいた水琴。 肩へ顔を預けていた姿。 イッセイの背中にきつくしがみつく両腕。 目を閉じても、その光景だけが何度も浮かび上がる。 あの二人の関係は、ただの友人ではない。 颯馬は布団へ横になり、腕で額を覆った。 見なければよかった。 そんなことを思ったところで意味はない。 探しに行くと決めたのは自分だった。 水琴が怖がっていたならそばにいてやりたかったし、具合でも悪かったのなら助けるつもりだった。それは間違っていなかったと思う。 それなのに、胸の奥へ引っ掛かったものだけが消えてくれない。 あの時、水琴はイッセイの前でだけ見せる表情をしていた。 安心しきったような、力を預けるような姿は、自分が知っている水琴とは少し違って見えた。 いや、違っていたのではない。 自分が知らなかっただけなのだ。 あの後、水琴の要求通り、イッセイは水琴を抱いたのだろうか。―――激しく、何もわからなくなるくらいに。 白い肌を晒し、イッセイの腕の中で喘ぐ水琴の姿が頭に浮かぶ。 想像しただけで、胸が鋭いナイフで突き刺されたように痛んだ。 颯馬は枕へ顔を埋める。 友達だから。 そう思っていた。 水琴が自分よりイッセイを頼ることに少し引っ掛かるのも、相談相手として負けたような気がしていただけだと、自分へ何度も言い聞かせてきた。 昨日は、もうBL営業の相手として必要なくなったのだと思い込み、そのことが少し寂しかった。 その時点で十分おかしかったはずなのに、自分はまだ別の理由を探していた。 仲間だから。 友達だから。 そうやって一つひとつ名前を付け替えながら、本当の答えだけは見ないようにしていた。 けれど、さっき脱衣所で見た光景と耳にした会話は、その言い訳を全部押し流してしまった。 もし本当に友達として見ているだけなら、これほどまで胸が苦しくなる理由がない。 イッセイの腕の中にいる水琴
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第43話 見られてしまった

 台風が過ぎ去った翌朝、沖縄の空は昨日とは別の場所のように晴れ渡っていた。 強い日差しを受けて海は再び青さを取り戻し、風だけが昨夜の名残を思わせるように木々を揺らしている。 その景色を見ても、水琴の気持ちは少しも晴れなかった。 朝食の席では、昨夜の台風が自然と話題になっていた。「僕、全然寝れなくてさ」 そらが照れ笑いを浮かべながら言う。「一人じゃ怖くて、もう無理だったんだよね」 葉月が興味津々で身を乗り出す。「それで颯馬のベッド行ったの?」「うん……迷惑かなと思ったけど」「全然」 颯馬は味噌汁を口へ運びながら、いつもと変わらない口調で答えた。「朝までぐっすりだったし」 そのやり取りを聞いていた水琴は、茶碗を持つ手へ無意識に力が入った。 昨夜、自分は雷の音で目を覚ました。 隣の颯馬のベッドからは、颯馬とそらの話し声が聞こえた。 ―――一緒に寝ているんだ。 そう気付いた瞬間、胸の奥がざわついた。 部屋を出て、イッセイに連絡した。 ただ、頭の中をぐちゃぐちゃにしていたものを、その場だけ忘れたかった。 だから、イッセイを呼んだ。 そこまで思い返したところで、水琴は首を小さく振った。 考えても仕方がない。 今日は今日でやるべきことがある。 兄の復讐ために炎の情報を集める。 その目的は何も変わっていない。 朝食を終え、颯馬と二人で風呂掃除に向かった。 カメラがなく、人目を気にせず話せる場所だから、炎についても自然に聞き出せる。 そう考えていた。 けれど浴場へ入った瞬間、水琴は今日の空気がいつもと違うことを肌で感じた。 颯馬がほとんど喋らない。 黙々と浴槽を洗い続け、こちらを見ようともしない。 機嫌が悪い。 そう感じるには十分だった。 昨日のレッスンで何かあったのだろうか。 それとも、まだ寝不足なのか。 水琴は理由を探そうとしたが、思い当たることはなかった。 しばらく水の音だけが続く。 その沈黙に耐えきれなくなり、水琴はスポンジを動かしたまま声を掛けた。「颯馬くん」「何?」 短い返事だった。 振り向きもしない。 そのよそよそしさに、水琴は胸の奥が少し痛んだ。 自分は何かしたのだろうか。もしそうなら謝りたい。 けれど理由が分からなければ謝ることもできない。 迷った末、水琴は本来の目的を思い
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第44話 隠れ蓑

 風呂掃除を終えた水琴と颯馬は、レッスン室に向かった。     レッスン室では、今日も当然固定カメラが回り続けている。 候補生たちは準備運動を始め、それぞれ思い思いに身体をほぐしていた。 水琴もストレッチを始めようとすると、不意に肩へ腕が回された。「みー」 耳慣れない呼び方だった。 水琴は反射的に振り返る。 颯馬が、ごく自然な顔で隣に立っている。「……え?」「肩、硬いな。」 そう言いながら、水琴の肩を軽く揉み始める。 昨日までなら、こんなことをするのは水琴の役目だった。 配信を意識して距離を詰め、颯馬を困らせる。 そのたびに颯馬は苦笑しながら受け流していた。 それが今日は逆になっている。「みー、今日も一緒に頑張ろうな。」 その一言だけでコメント欄が盛り上がる様子が、水琴には目に浮かぶ。 だが一番戸惑っているのは本人だった。 みー。 そんな呼び方をされたことは一度もない。 レッスンが始まっても、その調子は変わらなかった。 振り付けを確認する時には、「みー、こっち。」と手招きし、休憩になれば隣へ座る。 飲み物を取りに行けば、「俺の分もお願い」と笑い、受け取る時には「ありがとう、みー」と名前を呼ぶ。 わざとだ。 昨日までとは違う。違いすぎる。 昼食の時には、自分の分のデザートを水琴にくれるし、水琴が食べ終わった食器を片付けようとすると、颯馬がひょいと取り上げた。「俺がやるよ」「いや、自分の分ぐらい……」「いいって。ついでだし」 そのやり取りを見ていたそらが軽く笑う。「颯馬くん、今日すごい優しいね」「だって、好きな子には優しくしたいじゃん?」 ―――好きな子。確かにそう言った。 いや、これはただのBL営業だ。水琴は慌てて自分に言い聞かせる。 さらりと言った颯馬に、龍也が口笛を吹いた。「何だよ、その彼氏みたいな発言」「そう?」 颯馬は平然としている。「彼氏になれたらいいんだけどね」 水琴は思わず咳き込んだ。「ちょ、何言うてんねん!」 顔が熱くなる。 冗談だ。 そう分かっている。 分かっているのに、昨日までの颯馬からは想像もできない言葉ばかりが飛んでくる。 そして、午後の休憩時間。 水琴は一人でトイレへ向かった。 鏡の前で冷たい水を手へ当てていると、背後でドアが開く。 鏡越しに颯馬
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第45話 営業のはずなのに

 颯馬は「BL営業だから」と言った。 その一言で納得しようとしたのに、翌日のレッスンが始まって三十分もしないうちに、水琴はその言葉を何度も、何度も思い返すことになる。 アップを終え、課題曲の通し練習が始まる。  激しく身体を動かし、一曲を踊り終えた頃には全員が汗だくだった。 水琴は息を整えながら前髪をかき上げようとした。  その手が、途中で止まる。「じっとして」 正面に立った颯馬が、ごく自然な動作で水琴の前髪に手を伸ばした。  指先が髪を梳き、乱れた前髪を丁寧に整えていく。  耳にかかった髪まで優しく払うと、少し離れて全体を見渡した。「……よし」 満足そうに頷く颯馬の視線が、水琴の唇に一瞬留まる。  水琴は固まっていた。「……颯馬くん」「何?」「いや、何って……」 言葉が出ない。  颯馬の指が触れた感触が、まだ熱く残っている。  営業のはずなのに、胸の奥がざわつく。  この距離、この視線、この指先―――全部、計算されたもののはずなのに、なぜか体が熱くなる。 (……こんなん、営業ちゃうやろ……) それを見ていた瞬多が茶化してくる。 「まーたソウミコがイチャイチャしとる」 「ていうか美容師かよ!」 龍也まで笑っている。  颯馬だけが不思議そうな顔をした。 「いや、髪乱れてたから」 それだけ言うと、何事もなかったように元の位置へ戻っていく。  水琴はまだ動けなかった。  心臓の音が、耳の奥で大きく響いている。 休憩時間になると、水琴は床へ腰を下ろした。  スポーツドリンクを飲もうとした瞬間、隣に人影が座る。  颯馬だった。 肩が触れるほど近い。  いや、触れている。  それどころか、颯馬は自然に水琴の腰に腕を回し、そのまま飲み物を飲み始めた。  大きな手が腰のくぼみにぴったりと収まり、軽く引き寄せるように抱き寄せてくる。 「いや、狭……」 水琴が身体をずらそうとすると、 「狭くないだろ」 そう言って頬と頬がくっつきそうなくらい距離を詰めてくる。  腰に回された腕が離れない。  水琴は思わず颯馬を見る。 本人は至って普通の顔でスポーツドリンクを飲んでいた。「颯馬くん……」「ん?」「近い」 水琴が言うと、颯馬は水琴の耳に口元を近付けて小声で囁く。「営業」「ひゃっ」 くす
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第46話 そばにいる理由

俺はずるい男だ、と颯馬は思う。 水琴がイッセイと付き合っていると知っても、諦められない。 だから、“隠れ蓑”になるなんて自分に都合のいい理由を作って、水琴に触れている。 その理由を口にした時、水琴は戸惑った顔をしていた。 それでも、そう言うしかなかった。 「好きだから」と言えば拒否されるに決まっているのだから。 だからBL営業という言葉を盾にする。 そうしている限り、自分は水琴の隣にいても許されると思いたかった。 午後のレッスンを終えた頃には、全身が汗で重くなっていた。 講師が解散を告げると、候補生たちは思い思いにタオルや飲み物を手に取り、レッスン室を出て行こうとする。 水琴も床に置いていたペットボトルを探そうとしていた。 颯馬はそれより早く動いていた。 足元へ転がっていたスポーツドリンクを拾い、タオルも一緒に腕に掛ける。 さらに壁際に置かれていた水琴のスマートフォンまで手に取った。 気付いた水琴が慌てて駆け寄る。 「颯馬くん、それ俺の」 「知ってる」 「いや、自分で持つから」 「いい」 短いやり取りだけで歩き出す。 水琴は隣に並び、困ったように笑った。 「荷物ぐらい自分で持てるって」 「重くないから平気」 「重いとかやなくて」 颯馬は振り返らなかった。 廊下で瞬多とすれ違う。 颯馬の両手いっぱいの荷物を見るなり、瞬多は吹き出した。 「お前、それ全部水琴のやろ」 「そうだけど」 「マネージャー始めたんか?」 周囲から笑いが起きる。 颯馬は笑って誤魔化す。 水琴は隣で苦笑していた。 夕食まで少し時間があり、候補生たちはリビングで思い思いにくつろいでいた。 大型テレビでは音楽番組が流れ、ソファでは龍也と凱がゲームを始めている。 水琴は窓際のソファに腰を下ろした。 颯馬も迷わず隣に座る。 少し雑談をしているうちに、冷房の風が思ったより強く感じられた。 水琴は腕をさすり、小さく肩を縮める。 その様子を見た颯馬は、自分が羽織っていた薄手のパーカーを脱いだ。 「着ろよ」 水琴は目を丸くする。 「え、ええよ」 「寒いんだろ」 「颯馬くんのやん」 「俺は平気」 そう言って、水琴の返事を待たず肩に掛ける。 少し大きめのパー
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第47話 形勢逆転

 夕食後、候補生たちは思い思いにリビングでくつろいでいた。 大型テレビでは音楽番組が流れ、海外アーティストのライブ映像が映し出されている。ソファでは瞬多と龍也、それに凱がゲームの続きを始め、そらと葉月は冷蔵庫からアイスを取り出しながら何やら盛り上がっていた。 水琴は冷たいお茶をコップに注ぎ、空いているソファを探しながらリビングを見渡す。「みー」 聞き慣れた声がして視線を向けると、颯馬がソファに深く腰掛けたまま手招きしている。 水琴は隣へ座ればいいのだろうと思って近付く。 ところが颯馬は、自分の両膝を軽く開き、その間をぽんと叩いた。「ここ」 水琴は意味を理解するまで数秒かかった。「……ここって?」 問い返すと、颯馬は当然のように頷く。「ここ座って」「いや、隣やあかんの?」「いいから」 何が「いいから」なのか分からない。 ソファには十分なスペースがあるというのに。 断ろうと思ったものの、颯馬は冗談を言っている様子ではなく、本当にそこへ座ってほしいと思っているようだった。 その表情を見ていると、こちらが照れていることの方がなんだか不自然なように思えてしまう。 水琴は周囲を見回した。 誰も特別こちらを気にしていない。 ゲーム組は画面に夢中で、葉月たちはアイスの味について話している。 意を決して腰を下ろすと、背中が颯馬の胸に触れた。 その瞬間、後ろから腕が回ってくる。 抱き締めるほど強くはない。 逃げないよう囲むというより、そこへに置くのが自然だと言わんばかりの力加減だった。「ちょっと……」「一緒にテレビ見よう」 颯馬はそれだけ言って画面に視線を向ける。 本当にテレビを見るための体勢だとでも思っているのだろうか。(いやいやいや。こんなん、まるで付き合いたてのカップルやんか) 水琴は身体を少しだけ前へ動かした。 すると腰に添えられた腕に軽く引き寄せられ、背中はまた颯馬の胸へ戻る。 水琴は諦めたように肩の力を抜いた。 背中越しに伝わる体温が照れくさい。 以前なら、自分の方から肩を組んだり腕を絡めたりしていた。 配信を盛り上げるためで、それ以上でもそれ以下でもないと思っていた。 それなのに立場が逆になると、落ち着いてテレビを見ることさえ難しくなる。 自分が仕掛けていた頃の颯馬も、こんな気持ちだったのだろうか
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第48話 信じるということ

「みー」 遠くで誰かに呼ばれている気がした。 眠気の残る意識の中で寝返りを打つ。 もう一度、同じ声が聞こえた。「みー、起きて」 カーテン越しに肩を軽く揺すられる。 水琴はゆっくり目を開けた。 ベッドの横には颯馬がしゃがみ込み、少し困ったような顔でこちらを見ていた。「朝だぞ」 その一言を聞いても頭が回らない。 ぼんやりと天井を見つめていると、颯馬が苦笑する。「珍しいな。寝坊」 寝坊。 その言葉でようやく意識がはっきりした。 水琴は勢いよく身体を起こし、枕元のスマートフォンへ手を伸ばす。 表示された時刻を見た瞬間、血の気が引いた。「うそやろ!?」 朝食はもう始まっている時間だった。 アラームを止めた記憶すらない。 慌ててベッドから飛び降りる水琴を見て、颯馬は少し笑う。「みんなもう先に行ってるよ」「何でもっと早う起こしてくれへんかったん!?」「何度も声かけたんだけど、後ちょっと〜って言ってたぞ」 言われてみれば、夢の中で誰かに呼ばれていた気がする。 あれは夢ではなく、本当に颯馬だったらしい。 でも、返事をした記憶はない。 水琴は慌てて洗面所へ向かった。 颯馬は急かすこともなく、その後ろをゆっくり歩いてくる。 身支度を終えると、二人は並んで食堂へ向かった。 途中、颯馬は「腹減ったな」といつも通りの調子で話しかけてくる。 その変わらない声を聞いていると、寝坊した焦りも少しだけ薄れていく。 ところが、食堂の扉を開けた瞬間、その空気は一変した。 スマートフォンを見ながら何か話していた候補生たちが、一斉にこちらへ視線を向ける。 そして申し合わせたように会話が止まった。 それまで響いていた笑い声が、不自然なくらいきれいに消えていた。 水琴は思わず足を止める。 その静けさには、ただ寝坊した人間をからかうような軽さはなかった。 スマートフォンの画面を伏せる者もいた。 その違和感が、胸の奥へ小さな棘のように刺さった。「……何や?」 思わず小さく呟く。 颯馬も周囲を見回していたが、理由までは分からないらしい。 二人で朝食を受け取り、空いている席へ座る。 しばらくすると、向かい側の席にイッセイが腰を下ろした。 表情はいつも通り穏やかだった。 けれど、その視線には迷いがあった。「みーくん」「ん?」「
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第49話 信じるという選択

 レッスン室は、しんと静まり返っていた。 さっきまで聞こえていた話し声は消え、誰も次の言葉を見つけられずにいる。 颯馬はカメラの前から動かない。  その背中を見つめながら、水琴は胸の奥が熱くなるのをじていた。 颯馬はどうしてそこまで言えるのだろう。 あの記事が事実だという証拠はないが、逆に嘘だという証拠もない。  彼は子役時代の自分を知っているわけでもない。  それでも颯馬は、一緒に過ごしてきた時間だけを信じると言った。  そんなふうに誰かから、疑いもなく信じてもらった記憶が、水琴にはほとんどなかった。 胸が熱い。  熱くて、苦しくて、言葉にならない何かが込み上げてくる。  今までずっと、自分は一人で戦っていると思っていた。  兄の失踪、炎への復讐心、誰にも見せられない本当の自分―――すべてを自分だけの胸に秘め、笑顔の仮面を被って生きてきた。  信じてもらうことなど、期待したこともなかった。  信じてもらったとしても、最後には裏切ることになるのだから。 なのに、颯馬はただ「信じる」と、簡単に言ってのけた。  その純粋さが、痛いほど胸に刺さる。  嬉しさと、戸惑いと、罪悪感と、胸の奥に溜まっていた孤独が一気に溢れ出しそうになる。 重たい沈黙を破ったのは、部屋の隅で腕を組んでいたカゲトラだった。「俺も颯馬と同じ考えだ」 低く落ち着いた声が、レッスン室に響く。  普段なら誰かに意見することもなく、一人でいることの多いカゲトラが、自分から口を開いたことに驚いた全員が視線を向けた。「ネットなんて、誰でも好き勝手書ける」 カゲトラは周囲をゆっくり見回す。  その言葉には、誰かを責める強さよりも、自分自身に言い聞かせるような響きがあった。「証拠もない話を見ただけで、事実も確かめずに距離を置くのは違うだろ。 俺たち、この一か月近く一緒に生活してきたじゃねぇか」 誰も返事をしない。  返せない。  朝、食堂で水琴を見た時、自分たちがどんな顔をしていたのかを思い出していた。  避けた視線、ぎこちない笑顔、沈黙―――それが水琴にどれだけの痛みを与えていたか、今になってようやく気づく者もいた。 最初に口を開いたのは葉月だった。「……ごめん」 小さな声だった。  それでも、その一言は静かな部
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第50話 言葉に宿るもの

 午前中のレッスン室。 いつものボーカル講師に加え、今日は英語の発音指導を担当する講師も来ている。  候補生全員が姿勢を正して並ぶと、ボーカル講師が「では始めます」と声を張る。「今日は英語の歌詞を歌う前に、まず言葉の意味や正しい発音を理解するレッスンを行います。ただ英語らしく発音できればいいという話ではありません。何を伝えたい歌なのか、それを自分の中へ落とし込んでください」 スクリーンには課題曲の歌詞と日本語訳が映し出される。  失ったものへの後悔。  それでも前へ進もうとする決意。  恋愛だけに限らず、大切な存在を想う人間の心が描かれた楽曲だった。 英語講師が前へ出る。「日本語は母音が強い言語ですが、英語は子音で意味が伝わることが多いです。特に語尾を曖昧にすると、感情までぼやけて聞こえてしまいます」 講師はスクリーンに表示された歌詞の一節を指した。「例えばこの部分。 『Even if the world forgets me, I'll remember you』 ここで大事なのは『forgets』と『remember』の子音のつながりです。『ts』と『mb』をはっきり発音しないと、言葉が溶けてしまいます。 皆さん、まずはゆっくり、子音を意識して繰り返してみてください」 候補生たちが講師の後に続いて発音する。「Even if the world for-gets me...」 「I'll re-mem-ber you...」 講師は手を上げて止める。「『forgets』の『ts』が弱いですね。舌を上の歯の裏に軽く当てて、息を止めるイメージで。 もう一度。『forgets me』」 何度も繰り返すうちに、少しずつ音が変わっていく。「次に『remember you』の部分。 『remember』の『r』は巻き舌ではなく、舌を少し後ろに引いて柔らかく。 『you』は『y』から始まるので、唇を丸めて息を長く流す。 感情を乗せるときは、語尾を少し長く伸ばすと、切なさが伝わりやすくなります」 講師は実演しながら続ける。「『I'll remember you』 ここは『you』で声を少し震わせるイメージ。失った人を想う切なさを、声の響きで表現してください」 水琴は繰り返し練習しながら、胸の奥でその言葉を
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