24時間生配信の離島軟禁オーディションで、BL演出をやってみた結果 のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

100 チャプター

第71話 土曜日の来訪

 土曜日の午前。 レッスン室には課題曲のイントロが繰り返し流れていた。 ユニットごとの練習も終盤に入り、細かな振り付けや立ち位置の修正が中心になっている。 颯馬は鏡に映る自分たちを見ながら、隣の彼方とタイミングを合わせた。 何度も繰り返した振り付けは、ようやく身体に馴染み始めている。 曲が止まり、全員が息を整えた、その時だった。 レッスン室のドアが開く。 「お疲れ」  黒い半袖シャツ姿の炎が、いつものように自然な足取りで入ってくる。 だが、部屋の空気は以前とは違った。 挨拶を返す声はまばらで、誰もが一瞬だけ動きを止める。 炎はその空気を察したようだった。 レッスンを見学する位置に立つと、候補生全員を見渡して静かに口を開く。「今回の件で迷惑を掛けちゃったね」 レッスン室は静まり返る。「候補生のみんなには、世間から本来向けられる必要のない疑惑を向けさせてしまって、本当に申し訳ない」 炎は深く頭を下げた。 颯馬は思わず拳を握る。 今回の炎上で誰より責められているのは炎自身のはずなのに、その謝罪は候補生全員に向けられていた。 炎は顔を上げる。「でも、先日の動画配信で発表した通り、最終審査は不正が行えないようなシステムにする。今はそれぞれ、自分の実力が正当に評価されることを信じて頑張ってください」 それだけ言うと、壁際に移動し、それ以上は何も話さなかった。 再び課題曲が流れ始める。 颯馬は前を向いた。 鏡越しに、水琴と目が合う。 水琴はすぐ視線を外した。 その横顔は硬い。 昨日、風呂掃除をしながら交わした約束が頭をよぎる。 レッスン中にもかかわらず、水琴の意識は何度か炎に向いていた。      ◇ 
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第72話 兄を捨てた理由

 二階の廊下を奥まで進み、炎が自分の部屋のドアを開けた。「入って」 颯馬は水琴と一緒に室内に入る。 以前、一人で呼ばれた時と何も変わっていなかった。合宿中だけ使う部屋だから私物は少なく、ベッドと小さなテーブル、ソファが置かれている程度だ。 あの流出騒動以来、この部屋に入ること自体に抵抗があった。 廊下の定点カメラには、また颯馬が炎の私室に入るところが映っているはずだ。 だが、今回は一人ではない。 隣には水琴がいる。「座れば?」「俺はいいです」 炎に勧められたが、颯馬は断った。 水琴も座ろうとはしなかった。 炎は二人の顔を交互に見てから、自分も立ったまま壁に背を預ける。「それで、話って?」「最初に俺からいいですか」 颯馬が言うと、炎はわずかに眉を上げた。「いいよ」 何をどう言うかは、ここに来るまでに決めていた。 炎との関係は、恋人としてはとっくに終わっている。 それなのに、はっきり拒絶しきれないまま、この部屋で二度、炎を抱いた。 その中途半端で不毛な関係を、今日でキッパリと終わらせたかった。「炎さん」 颯馬は炎の目を見る。「俺たち、もう完全に終わりにしたいです」 それを聞いても、炎の表情は変わらなかった。「俺たち、とっくの昔に別れてるけど……ここに来て、また、その……」「……うん」「炎さんに誘われても、本当は断るべきだった。だけど、俺……ちゃんと拒めなかった」 流出した映像を思い出す。 二度、このドアを開けた。 それが今では、関係が続いている証拠のように扱われている。 けれど、世間にどう見られるかだけが理由ではなかった。 隣にいる水琴の手を、昨日の夕暮れ時に握った感触がまだ残っている。 これから先、その手を取る時のために、他の人との曖昧な関係を残しておきたくなかった。「俺、今は大事にしたい人がいるんです」 炎の視線が颯馬から水琴に移る。 水琴は何も言わなかった。 けれど、隣でわずかに頬が緩んだのが視界に入った。「だから、もう俺だけを個室に呼び出したり、誘惑するようなことを言うのはやめてください。もし今後そういうことがあっても、俺は応じませんから」 しばらく炎は何も答えなかった。 窓の外から、遠くで鳴く虫の声が聞こえる。 やがて炎は颯馬を見て、「分かった」 と答えた。 それだけだっ
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第73話 六年越しの真実

 水琴の問いに、炎はすぐには答えなかった。 やがて炎はゆっくりとソファに腰を下ろし、両手を組んだ。「……実嗣は、きみにそう話してた?」「兄ちゃんから詳しく聞いたわけやありません。でも、炎さんに他に好きな人ができて別れたって。それぐらいは知ってます」「そっか」 炎はそれ以上、水琴の認識を否定しなかった。 けれど、次に炎が口にした言葉は、水琴が予想していたものとはまるで違った。「他に好きな人なんていなかったよ」「……え?」「浮気もしてない」 水琴の眉が寄る。「何言うてはるんですか?」「実嗣に嘘をついたんだ」 炎は水琴から目を逸らさなかった。「俺はあの時、実嗣のことを本気で愛してた」 水琴の表情が固まる。「だったら、なんで嘘ついたんですか?」「別れなきゃいけなかったから」「なんで?」「君たちの両親に、俺と実嗣の関係が知られたからだよ」 水琴の顔から、怒りとは違う色が浮かんだ。「……父さんと母さんに?」「ああ」「なんで……」 炎はわずかに言葉を選んでから答えた。「きっかけは、君だった」「俺?」「六年前、君が両親の前で俺のことを話したらしい。実嗣から聞いた」 水琴は何も言えなくなった。 炎は責める調子を一切見せずに続ける。「君はまだ子供だったし、俺たちの関係を隠さなきゃいけないなんて知らなかった。だから君には何の責任もない」 けれど水琴は、その言葉を聞いても動かなかった。 自分が忘れていた六年前の何気ない一言が、ずっと探していた答えの入口にあった。 炎は責めるような口調ではなかった。「君の両親は、実嗣が男と付き合ってることを知って激怒した。俺のところにも連絡が来たよ」「別れろって?」「ああ」「それだけで別れたんですか?」 水琴の声が強くなる。「兄ちゃんのこと本気で好きやったんやったら、なんで――」「実嗣が壊れ始めたからだよ」 水琴が言葉を失った。 炎は膝の上で両手を組む。「家に帰るたびに両親から責められてたらしい。あの男と別れろ、男と付き合うなんておかしい、家族に恥をかかせるなって」「……」「俺と一緒にいる限り、実嗣は家に帰るたびに傷つけられる。それでも最初は、二人で何とかしようと思ってた」 炎の声には、普段の軽さがなかった。「でも、あいつは家族も捨てられなかった」 水琴は動かな
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第74話 それぞれの過去

 実嗣との通話を終えても、水琴はしばらくスマートフォンを耳に当てたままだった。 やがて通話が切れていることを確かめると、両手で大切なものを扱うように端末を炎に返す。「……ありがとうございます」「うん」 炎は受け取ったスマートフォンをテーブルに置いた。 水琴は赤くなった目元を指で拭い、炎を見た。先ほどまでそこにあった敵意は、もう消えている。「炎さん」「何?」「俺、謝らなあかんことがあります」 炎は黙って続きを待った。「ずっと炎さんのこと憎んでました」 水琴の声がわずかに掠れる。「兄ちゃんを裏切って捨てて、苦しませて、自分だけ何事もなかったみたいに芸能界で成功してる人やと思ってた」 今になって思えば、その怒りを確かめるためにここまで来たようなものだった。「このオーディション受けたんも、炎さんに近づきたかったからです。近づいて、復習してやりたいって……そう、考えてました」 水琴は両手を身体の前で強く握った。 炎は遮らない。「兄ちゃんを傷つけた人やって、最初から決めつけてました。何も知らんかったくせに」 水琴は炎に向かって頭を下げた。「ごめんなさい」「水琴」「ほんまに、すみませんでした」「謝らなくていいよ」 炎の声に、水琴が顔を上げる。「君が知っていた事実だけを並べたら、そう思って当然だから」「でも……」「実嗣に嘘をついたのは俺だよ。誰も君に本当のことを話してなかったんだから、誤解されても仕方ない」 炎はそこで少しだけ表情を和らげた。「ただ、一つ聞いていい?」「はい」「オーディションに応募した理由は、それだけなの?」 水琴は少し驚いたように炎を見た。 颯馬も隣から水琴を見る。「……最初は、そうでした」 水琴は正直に答えた。「炎さんがプロデューサーやなかったら、このオーディションには応募してへんかったと思います」「そっか」「でも、今は違います」 その声には迷いがなかった。「俺、本気でデビューしたいです」 炎が水琴を見る。「ここに来て、みんなと一緒に歌って踊って、課題曲の練習して……最初は勝つことばっかり考えてたけど、今は、このメンバーともっと先に行きたい」 水琴は一度、颯馬を見た。 目が合うと、その表情が柔らかくほどける。「ここで終わりたないんです。絶対合格して、デビューしたい」 颯馬
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第75話 誰にも見えない場所で

 炎の部屋を出たあとも、水琴はそのまま自分たちの寝室に戻ろうとはしなかった。 二階の廊下を歩きながら、何度か颯馬の横顔を見ては、何か言いたそうに口を開きかけている。炎の部屋ではあまりにも多くのことが一度に分かりすぎて、まだ自分の中でも整理できていないのだろう。 「颯馬くん、屋上行かへん?」「いいよ」  二人で階段を上がり、屋上に出る。 夜の海から吹いてくる風には昼間の熱がほとんど残っておらず、汗の引いた首筋を撫でられると心地よい。空には星が広がり、沖の暗闇と夜空との境目は見分けがつかない。 屋上にも配信用の定点カメラが設置されている。 颯馬はそれを確認してから、水琴とは少し距離を取って手すりの前に立った。 隣に立った水琴が、海を眺めたまま声を落とす。 「なんか俺、今になって一気に力抜けてきた」「大丈夫?」「うん。しんどいとかやなくて……ずっと体に重りつけて歩いとったのに、急になくなったみたいな感じ」  水琴は両腕を手すりに預け、遠くの暗い水平線を眺めた。 「兄ちゃん、生きてて、元気で、恋人までおって」  最後のところだけ、わずかに笑いが混じる。 「俺が勝手に想像しとったのと、全然違った」「幸せに暮らしてるみたいでよかったな」「ほんまにな」  風に流された水琴の前髪が額にかかる。いつもならすぐ直すのに、今夜はそのままにしていた。 「……もっと早く炎さんと話せばよかった」  その言葉には、後悔だけではなく、長い間握り締めていたものをようやく手放せた安堵が混じっているように聞こえた。 「ずっと話も聞か
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第76話 最後の休日

 日曜日の朝。 もともと土日はレッスンの予定が入っていない。それでも最終審査が近づいた今、休日だからと本当に休む候補生はほとんどいなかった。 朝食を終える頃には、今日どこを重点的に練習するかという話があちこちから聞こえてくる。 龍也はラップパートをもう一度詰めたいと言い、彼方と瞬多は昨日撮影したダンス動画を貸与スマートフォンで確認していた。 颯馬も午前中はユニット練習に参加し、午後から個人で苦手な高音部分をさらうつもりでいた。 だから、炎から告げられた言葉に、十四人の反応は揃って鈍かった。「今日は自主練禁止ね」「……え?」 彼方がスマートフォンから顔を上げる。「練習しちゃダメなんですか?」「そう。レッスン室もスタジオも今日は使用禁止」 炎はコーヒーを飲みながら、当たり前のことを言うような調子で答えた。 龍也が真っ先に眉を寄せる。「いや、でも最終審査まで時間ないですよね。俺、今日やりたいところあるんですけど」「俺も振り付けの細かいところ確認したい」 カゲトラまで口を挟む。「昨日の動画見たら、まだ揃ってないところがあったし」「僕も歌割りで修正したいところがあります」 日和が続き、響も考え込むように腕を組んだ。「丸一日練習しないのは、今の時期だと少し不安ですね」 颯馬にも同じ焦りがあった。 昨日より今日、今日より明日と仕上げていかなければならない時期だ。一日あれば、苦手な箇所を何十回と繰り返せる。それを丸ごと失うと思えば、休養より先に惜しさを感じてしまう。「だから禁止なんだよ」 炎がカップを置いた。「今のみんな、休みの日まで練習してるでしょ」 誰も否定しなかった。「焦る気持ちは分かる。でも、休むのも本番に向けた準備のうちだから。疲れたまま練習を続けても効率が落ちるし、怪我でもしたらそっちの方が困るんだよ」 龍也はまだ納得しきれないらしく、唇を尖らせている。「それに」 炎は十四人を見渡した。「この島で全員一緒に過ごせる休日は、今日が最後だよ」 その言葉で、誰も何も言わなくなった。 最終審査が終われば、この中からデビューする七人が選ばれる。 残りの七人とは別々の道を歩くことになる。 今はまだ十四人で同じ食卓を囲み、同じ部屋で練習し、くだらないことで笑っていられる。それが当たり前ではなくなる日は、もうすぐそこ
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第78話 画面の向こう側

 その頃、生配信動画の視聴者コメント欄では、様々な感想や憶測が飛び交っていた。【コメント欄】MofuCat_22:颯馬と水琴また二人でフロート乗ってるwwwBL_is_life:距離近すぎ!!!!!!fujoshi_mikan:これまだBL営業ってことになってるの?ordinary_man:なってるも何もBL営業だろAoi_0715:いやもう普通に付き合ってると思うKazu1984:番組終わるまで営業する契約なんじゃね腐女子Lv999:あの二人見てまだ営業だと思えるの逆にすごいrealist_404:お前らが付き合っててほしいからそう見えてるだけだろwMofuCat_22:脱衣所から出てきて手繋いでた件を忘れるなhiro_777:カメラない場所から出てきた直後だったなBL_is_life:しかも颯馬から手繋いでたordinary_man:カメラの前でやってる時点で営業の可能性あるだろfujoshi_mikan:昨日も二人だけでビーチ行ってたじゃんrealist_404:それも出掛けるところと帰ってきたところは配信されてるからわざとAoi_0715:でもカメラない場所で何してたか分からないんだよ???Kazu1984:だから妄想が加速するんだろwBL_is_life:私はもう付き合ってるに全財産賭けるordinary_man:賭けるなlove_soma_xx:ごめん、私は付き合っててほしくないMofuCat_22:ガチ恋勢きたlove_soma_xx:腐女子には楽しいかもしれないけど、颯馬推してる側からすると普通に複雑mkt_rose88:分かるYumeGirl_17:水琴も颯馬も好きだけど、本当に同性愛者だったらちょっとがっかりするBL_is_life:なんで?YumeGirl_17:アイドルって夢を見せる仕事でもあるじゃんordinary_man:おまえらがメンバーと付き合えるわけじゃないだろlove_soma_xx:付き合いたいって本気で思ってるわけじゃないrealist_404:じゃあ何が嫌なんだよlove_soma_xx:夢を見せてほしいだけYumeGirl_17:そう。彼女いるならまだ自分にも可能性あるかもって夢見られるけど、ゲイだったら最初から可能性ゼロじゃんordinary_man:どっ
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第79話 最後のレッスン

 月曜日の朝、鏡張りのレッスン室には、ユニットAのメンバーたちが集まっていた。 明日にはこの島を出る。 予定では那覇に移動して一泊し、そのまま東京に帰ることになっている。 つまり、今日がこの合宿所で受ける最後のレッスンだった。「今日は二曲とも、本番を想定して仕上げます」 コーチの言葉を聞きながら、颯馬は同じユニットの六人を見渡した。 披露する課題曲は二曲。 一曲目は爽やかで明るいメロディアスなポップス、二曲目はハードロック調のギターサウンドを使ったクールなヒップホップ。同じ七人でも、まったく異なる顔を見せなければならない。「午前中は一曲目、午後は二曲目。最後に二曲続けて通します。じゃあさっそく一曲目、行きますよ」「はい!」 颯馬は自分の立ち位置を確認する。 一曲目のイントロが流れ始めた。 軽快なギターにピアノが重なった、夏の青空を思わせるポップスだ。 振り付けにも大きく腕を広げる動きや、メンバー同士で視線を交わす箇所が多い。技術だけなら二曲目ほど難しくないが、七人がそれぞれ勝手に笑っているだけでは曲の魅力が伝わらない。 颯馬は隣から前に出てきたメンバーを見る。 目が合う。 自然と口元が緩んだ。 数日前に受けた演技レッスンで言われたことを思い出す。 相手を見て、受け取って、それから返す。 歌も同じだった。 一人でカメラに笑いかけるのではなく、七人で一緒にステージを楽しんでいることが、そのまま客席まで届けばいい。 最後のサビを終え、音楽が止まる。「かなり良くなりました。ただ、Bメロのフォーメーション移動がまだ少し遅いですね」 コーチがタブレットで撮影した映像を再生する。 七人が集まり、画面を覗き込んだ。「ここです」「あ、本当だ」 颯馬にも分かった。 歌っている最中には揃っているように感じたが、映像で見ると一人ずつ移動するタイミングにわずかな差がある。「もう一回やろう」 誰からともなく声が上がる。 七人が位置に戻った。 イントロが再び流れる。 何度も繰り返し、フォーメーションを直していく。 自分だけが正しい場所に移動しても意味がない。隣がどのタイミングで動くのかを感じながら、七人全員で一つの形を作らなければならなかった。------------ 午後からは二曲目の仕上げに入った。 重いギターリフが
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第80話 最後の夜

 最後の夕食を食べ終える頃、西向きの窓から差し込む光がリビングの床を橙色に染めていた。 明日の朝には荷物をまとめて、この合宿所を出る。 那覇で一泊したあとは、そのまま東京に戻る予定になっているため、ここで十四人揃って夕食を囲むのは今夜が最後だった。「夕日、みんなで見に行かない?」 食後、窓の外を眺めていたそらが言い出した。「昨日も見たやろ」 瞬多が笑いながら返すと、そらはすぐに振り向く。「昨日と今日は違うじゃん。最後なんだからみんなで見たい」「それは確かに」 彼方が立ち上がると、凱や葉月も続いた。 気づけば十四人がぞろぞろとテラスから庭を抜け、ビーチに向かっていた。 颯馬もその列に混じりながら、少し前を歩く水琴の背中を見る。 裸足になって砂浜に出ると、昼間に熱を溜め込んでいた砂はもう温度を失い始めていた。 潮風が汗の残る肌を撫で、波打ち際では穏やかな水面が鏡のように夕空を映している。「うわ、今日めっちゃきれいやん」 瞬多の声に、何人かが海の向こうを見る。 水平線に近づいた太陽は赤みを増し、その周囲から橙、桃色、薄紫へと色が重なっていた。 海面にも長い光の帯が伸びている。 そらと葉月はさっそく貸与スマートフォンを取り出し、海を撮影していた。「集合写真も撮ろうよ」「誰が撮るんだ?」「スタッフさんに頼もう!」 彼方が近くにいたスタッフを捕まえ、十四人が波打ち際に並ぶ。「カゲトラ、もっとこっち!」「狭い」「詰めないと全員入らないんだから詰めろって」 彼方に腕を引かれたカゲトラが、以前なら嫌がって離れていたであろう距離まで素直に寄ってくる。 凱が後列に立つと、葉月から「でかすぎて一人だけ卒業アルバムの先生みたい」と文句を言われ、今度は腰を落とした。 龍也はそらに肩を組まれて「近い!」と騒ぎ、まひろは撮影直前まで手鏡を覗き込み前髪を直している。「撮りますよー」 スタッフが声を掛ける。 颯馬の隣には水琴がいた。 カメラの前だから触れられないと思っていたところへ、水琴の肩が軽く当たる。 写真を撮るために詰めただけなのかもしれない。 それでも離れる理由もなく、颯馬もそのまま肩を寄せた。「はい、チーズ!」 十四人の笑顔と、その背後に広がる夕焼けが一枚の写真に収まった。「もう一枚!」「まだ撮るの?」「変顔バー
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