※ ※ ※ 月曜日の朝。 オフィスに足を踏み入れた瞬間から、どっと重い疲労感が全身を包み込む。(あ〜あ、月曜日はどうしてこんなにだるいのかしら) 橘はデスクの前でゆっくりと肩を回し、コリコリと固まった関節を解した。溜息をひとつ吐き出しながらパソコンの電源を入れ、日課のメールチェックを始める。 トントン、と遠慮がちなノックの音が聞こえたのは、ちょうど届いた未読メールを一通り流し読みし終えた時だった。「どーぞ」 橘が声をかけると、ドアがすっと開いて部下が深刻そうな顔を覗かせた。「相良さんって、引っ越しは土日ってお話でしたよね?」「渚ちゃん? ええ、そうよ。それがどうしたの?」「実は……相良さんが出勤してこないんです。今まで遅刻なんて一度もしたことなかったのに」「え?」 橘は眉を顰めた。 相良渚は真面目を絵に描いたような部下だ。事前連絡もなしに遅刻や欠勤をするような子ではなかったし、金曜日には「引っ越しを頑張ります」とはにかんでいた。恋人との新生活に緊張しているような、でも嬉しさの方が勝っているような雰囲気だった。「連絡は?」「私たち、相良さんと長いのに連絡先を知らなくて……」「私から電話してみる。あなた、仕事に戻っていいわよ」「お願いします」 深くお辞儀をして去っていく部下の背中を見送り、デスク上の携帯電話を手に取った。 画面をスワイプし、アドレス帳から「相良渚」の名前を探す。「いったいどうしたっていうのよ……」 呟きながら発信ボタンを押す。 耳に押し当てた端末から聞こえてきたのは、呼び出し音ではなく、無機質な音声ガイダンスだった。『おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため――』 もう一度通話ボタンを押してみたものの、やはり響くのは無機質なアナウンスだけだった。(事故にでも巻き込まれたかしら……?)
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