※ 美容院を出る頃には、空は薄暗くなっていた。 鏡の中の自分が、まだ少し他人のように見えた。 美容院に来たのは、小学二年生以来だった。それからずっと、自分のはさみで切っていた。長くなったら切る。それで充分だと思っていた。 橘のパートナーはよく笑う人だった。渚が何も言わなくても察したのか、ずっと話しかけてくれた。怖くない、と気付いたのは、帰り際に扉を開けてもらった時だ。 橘を含めて、三人目だった。 なんとなく、それが嬉しかった。 渚は携帯を取り出す。『髪を切ったよ』 と打ち込んで、玲に送ろうとしたが指が止まった。 再会してから今日まで、玲には揃っていない髪しか見せていない。写真で美容院でセットした自分を見せるのは、なんとなく照れ臭かった。(玲には、出張から帰ってきてから見せよう) 代わりに、 『明日から出張頑張ってくるね』 とだけ送った。 すぐに既読が付く。『頑張って。気を付けて行ってきてね』 優しい返信。 それだけなのに、少し安心する。『お土産、買ってくるね』 すぐに既読が付いて、すぐに返信があった。『渚が無事に帰ってきてくれるだけで、俺は嬉しいよ』 キザっぽい言い方に、渚は思わず吹き出してしまった。 ※ ※ ※ 新幹線の窓から見える景色は、どこまでも澄み渡っていた。 玲と一緒に彼の実家に行くときは飛行機で、新幹線に乗ったのはもう随分前だ。 携帯を掲げ、流れる青空を切り取る。送信先は玲だ。 渚は窓の景色と一緒に、自分も写真を撮って玲に送った。セットした髪を玲に直接見せようとしていることをすっかり忘れてしまうくらい、子供のようにはしゃいでいた。 そんな渚を、隣に座る橘は、まるで幼い娘を見るかのように優しい目をしていた。 「彼氏さんによね」 隣から聞こえてきた橘の野太い声に、渚は少し照れたよう
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