※ 重く湿った消毒液の匂いで目が覚めた。 白い天井を見上げながら、玲はぼんやりと自分の手元を見る。 (俺なんて……そのまま死ねばよかったのに……) 自嘲混じりの思いが脳裏をよぎり、深い息を吐き出した。その時、すぐ隣で衣擦れの音が聞こえた。 ゆっくりと視線を動かす。 パイプ椅子に腰掛け、自分を見つめていたのは――渚だった。 「渚……」 玲の胸に、パッと光が差し込むような歓喜が広がった。自分の元を去っていったはずの渚が、ここにいる。まだ自分を見捨てていないのかもしれないという淡い期待が浮かんだ。 渚は、玲を見ると肩を落とし安堵したように息を吐いた。そして、静かに微笑んだ。 「よかった……目を覚ましたんだね」 久し振りに聞く渚の声は、凪のように穏やかだった。 街で見かけた時よりも、髪が少し伸びているような気がした。 手が届く距離に、渚がいる――彼女の瞳が、自分を映してくれている。 「渚……俺……」 渚に手を伸ばすも、彼女はそれを、首を左右に振って拒絶した。優しい、拒絶だった。 「頭を打ったけど、具合は?」 渚に拒絶された手を、玲はそのまま自分の後頭部に持って行く。小さなたん瘤ができていた。 「検査では異常はないって。でも、頭を打ってるから一日入院してってお医者さんが言っていたよ」 渚が静かに立ち上がろうとした。 「待ってくれ」 玲は声を振り絞る。渚は足を止め、悲しそうな瞳で玲を見つめ返した。 「話を……したい」 「今は安静にしなきゃ」 「頼む……お願いだから」 この機会を逃したら、渚と次に話す機会があるとは限らない――玲は上半身を起こし、渚に頭を下げた。 「玲、寝てないと……」 「頼む」 静寂が二人を包み、渚からは何も発せられなかった。 静かに時が経ち、やがてカタっ、という小さな音が玲の耳に入った。ゆっくりと顔を上げると、席を立ったはずの渚はパイプ椅子に腰を下ろしていた。 玲は、小さく息を吐いた。
Read more