奥の庭と西翼の廊下を隔てる重厚な扉が、背後で重く、密閉された音を立てて閉まった瞬間。 私の肺から、限界まで堪えていた空気がヒュッと情けない音を立てて漏れ出した。 廊下の壁に手をつき、フラフラとした足取りで自室へと向かう。 深紅の絨毯が、足の裏でぐにゃりと波打っているように感じられた。 視界の端が白く明滅している。 鼻の奥には、美津子がまとっていたあの濃厚なジャスミンとアンバーの香りが、粘り着くようにこびりついて離れない。 ――あなたは、自分からここを去ることになるのよ。 その甘く冷酷な宣告が、呪いのように耳の奥で反響し続けている。 私は自分が実家に帰ることも、逃げ出すこともできないように外堀を埋められた上で、逃げ場のない「自滅」へのカウントダウンを押されたのだ。 自室の扉の前に辿り着く。 真鍮のドアノブを回す指先が痙攣したように小刻みに震えていた。 カチャリと扉を開け、部屋の中に滑り込む。 内側から鍵をかけ、その重いマホガニーの扉に背中を預けた途端、両脚の筋肉から急に力が抜け落ちた。 私は絨毯の上に膝から崩れ落ちた。「はっ……ぁっ、ふぅ……っ」 浅く、早い呼吸が連続して漏れる。 胃の底が激しく痙攣し、酸っぱい胃液が喉元までせり上がってきた。私は口元を両手で覆い、必死に吐き気を飲み込んだ。 怖い。 前世の会議室で言葉を切り取られた時の恐怖とは、根本的に違う。 今回は、私の言葉や理屈が通じないどころか、私が「正常であること」そのものを否定し、物理的な環境と化学的な手口(おそらくは薬物)を使って、強制的に私を狂人の枠組みに押し込もうとする、圧倒的な権力による暴力だ。 冷や汗が額から滲み出し、カーディガンの背中を冷たく濡らしている。「……凛花、お嬢様?」 不意に、部屋の奥からほのかな声がした。 弾かれたように顔を上げる。 窓際のテーブルのそばに、銀色のワゴンを押した千尋が立っていた。私が奥の庭へ行って
Read more