「私はこの屋敷で起きるすべての事象を管理する立場にございます。必要とあれば、当主様や奥様にご報告を上げるのも、その一環でございます」 完璧な模範解答。 つまり、そういうことだ。彼が、美津子の情報ネットワークの最大のハブだ。 私が誰と話し、どの部屋の前で立ち止まり、どのくらい食事を残したか。そのすべての生データが黒瀬に集まり、美津子の元へと届けられる。 「なら、先ほど私が玄関ホールの柱の陰で、メイド長と透様のお話を立ち聞きしていたことも、ご存知ね」 あえて、隠さずにぶつけてみた。 黒瀬の顔色に変化はない。けれど、常に脇に抱えている薄い革の手帳を握る指先が、ほんの数ミリだけ動いたように見えた。 「……お耳汚しな立ち話を聞かせてしまい、申し訳ございませんでした。メイド長には、後ほど私から厳重に注意をしておきます」 「注意? 何のために?」 私はわざと小首を傾げてみせた。 「あの人は、奥様が決めた通りに私を語っただけでしょう。毎晩泣いている、可哀想な娘だと」 黒瀬の眉間が、ほんのわずか、本当に針の先ほどのかすかな面積だけ、ピクリと動いた。 「お嬢様」 「あなたの手元のその手帳には、どう書かれているのかしら」 私は彼に向かって、一歩だけ距離を詰めた。 「それで、あなたは何と書くんですか。『悪口を聞いて、柱の陰で泣いていた』とでも?」 沈黙が、二人の間に落ちた。 廊下の空調の音が、やけに耳障りに大きく聞こえる。 黒瀬は私の目をじっと見据えたまま、数秒間動きを止めていた。 彼は私を「感情的になって喚いている娘」として処理しようとしているのか、それとも、私の言葉の裏にある「情報操作への理解」を推し量っているのか。 やがて、黒瀬はゆっくり口を開いた。 「……私の記録には、そのような主観は混じりません」 低く、先ほどよりも一段階深く沈んだ声だった。 「凛花お嬢様は、十六時二十分から数分間、ホールにて会話を聞いていた。その後、涙を見せることなく、自室とは逆の東翼へと歩き出した。……私が記録し、報告するのは、物理的な事実のみでございます」 「事実」 私はその言葉を舌の上で転がした。 「本当に? あなたが記録した『事実』が、奥様の元に届いた後も、そのままの形で残ると信じているの?」 「……」 「メイド長の言
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