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第3章:王命【011】

Penulis: 美木 猫助
last update Tanggal publikasi: 2026-07-10 06:09:52

 本気で生のミミズを食べようと考えている副団長の肩を、フィンが涙目で激しく揺さぶる。

 その騒ぎを他所に、ミラはレオンからもう一つの箱を受け取ると、そのままグレンの仮デスクへと歩み寄った。

「お、おお。どうした、ミラ」

「グレン団長にも用意してます。こちらは少し痩せたミミズですが、食料として十分に食せます」

「おい、俺は食べんぞ! いらん!」

 差し出された箱の中身を一瞥し、グレンは全力で両手を振って拒絶した。

 すると、ミラは目に見えてショックを受けたように、あからさまに傷ついた顔になる。

「そんな顔をしても無駄だ。俺は優秀だからな、戦地で飢餓に陥ることは絶対にない。だからいらん!」

 グレンが冷たく突き放すと、ミラは今にも泣き出しそうなほど悲しげに眉をひそめた。その様子を見た金髪の副団長が、デスクを叩いて勢いよく立ち上がる。

「俺がもらおう!」

 ヴィクトルの力強い声に、ミラはパッと一瞬で花が咲いたような笑顔になった。

「はい

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     ミラはそんな視線に気づかず、マイペースに話を進めた。「ハンカチを常に清潔に保つ魔法をかけることも可能ですし、これを床に応用すれば、土のついた靴で踏んでも汚れない空間を作れます。……これは、そうですね。そういうモップを開発したら非常に売れそうです」「ミラは相変わらず商売上手だな」「これはすぐに商品化できるよう、魔術塔の開発課に今すぐ相談を――」「ミラ様。まずは皆様へのご挨拶を済ませませんと」 脱線しかけたミラを、シャルロットが穏やかに制した。「……そうでした。つい、研究会にいるつもりになっていました」 コホンと小さく咳払いをしたミラが、最後にライラの前へとやってくる。「ミラ付きの侍女、ライラだ。彼女はレオンの妹だよ」 ヴィクトルの紹介に、ミラの黒い瞳が丸くなった。「レオンの、ですか。お兄様にはいつも大変お世話になっています。ヴィクトルとの散歩に出かけるため、お洋服をお借りしました。ありがとうございます」 丁寧かつ深々と頭を下げるミラ。ライラも「は、はいっ!」と慌てて頭を下げ返した。「ミラ。散歩じゃない。デートだ」 ヴィクトルがすかさずミラに訂正を入れるも、彼女はそれを聞かずにライラに質問を投げかける。 「ミラ付きというのは、普通の侍女とどう違うのでしょう?」「身の回りのお世話全般をさせていただきます」「なんと」 ミラの目が、一瞬でパッと輝いた。「では、着替えやお風呂のお手伝いも……?」「は、はい! 可能な限りは」「これは素晴らしいです」(えっ、なぜ急にこんなに喜ばれているんだろう……?) 理由が分からず困惑するライラに、ミラは一人で納得したように頷いた。「レオンに着替えとお風呂の補助を頼んだ際は、『さすがに無理だ』と即座に断られましたので。同性だからこそ可能な領域ということですね」

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  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第3章:王命【019】

     「グレン、お前が交際を認めようが認めまいが、私は結婚を命じているのだ」 アルノルトは事も無げに言ってのけ、片眉を上げて不敵に笑った。「段階が! 段階が狂ってるでしょうが! 恋人飛ばして夫婦ってどんな飛び級ですか! まして、この二人は友人という段階止まり! それに、ミラは俺の、妹みたいなもんで――」「グレンは、今回の王命の立会人として呼んだのだ。それに、反対の意見は聞いていない」「そもそも王命だから、覆せない」とアルノルトは楽しげに玉座で踏ん反り返った。 あまりの横暴さにグレンは唖然とした。そして、隣で未だに石化したままピクリとも動かないヴィクトルへ、恨めしげに視線を移す。(……待てよ。こいつ……) 段階を踏めと散々私室の前で喚いていた自分を置き去りにして、まさか王命で、一撃でゴールへ叩き込まれようとしている。「お前……勝ちやがったな」 という、なんとも言えない複雑な敗北感と悔しさをヴィクトルに吐き捨てた。 一方、ヴィクトルはゆっくりと意識を取り戻しつつあった。 顔はまだ羞恥で微かに赤みを帯びているものの、その青い瞳にはいつもの、いや、それ以上の鋭い光が宿っている。 確かに段階は狂っている。友人としての足場を固めようとしているところに、こんな王命が降ってくるなんて思ってもいなかった。不本意だ。手順がめちゃくちゃすぎる。(つまり、ミラと結婚しなければならない。……王命によって。強制的に。合法的に、俺の妻に……)  そこまで思考が至った瞬間、ヴィクトルの脳裏にある規則が思い出された。 騎士は結婚すると、あの騎士寮から出て生活していいことになっている。 ということは、ミラと一緒に過ごすための家が必要になる。朝起きたら、隣にミラ。寝るときも、隣にミラ。おはようではじまり、おやすみで終わる。毎日彼女の顔を見て、彼女の気配を感じて暮らすのだ。(最高では……?) 最初は困惑と羞恥しかなかったヴィクトルの脳内で、急速に都合の良い計算式が組み立てられていく。頬の赤みは引くどころか、別の熱を帯びてさらに増していくようだった。不本意だと思っていたはずの王命が、今や天啓のように思えてくる。(しかし――ミラは、ミラは何て言うんだ?) 我に返り、ヴィクトルはハッとした。 自分をまだ『友達』としか認定していない男と、急に結婚しろなどと言われたのだ。

  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第3章:王命【018】

      ミラの頭を、アルバが軽く小突いた。 「黒い子に予算の話をするはずなかろう」「緊急に招集されましたので、五倍の話を受けてくれるのだとばかり……」「予算の話に黒い子を呼ぶはずなかろ。しかももう予算三倍は使い切ったぞい」「ええっ、いつですか、いつですか!?」「魔術塔の雨漏りを直して一番古い研究室を最新のものに改装したろう」「私の研究室は!?」「黒い子の研究室が一番新しかろうて」「壁に穴が開いているのに!?」「あれは黒い子があけたんじゃろ。それより黙らんか」 アルバが長い髭を引っ張りながら「ふぉっふぉ」と窘めると、ミラは「解せません……」と言いたげに丸眼鏡の奥の瞳を不満げに細め、ようやく口を閉ざした。 「……コホン。話を戻してもよろしいでしょうか、陛下。我らを招集した理由とは?」 ヴィクトルがこれ以上ないほど真剣な、張り詰めた声を響かせる。 すると、玉座に腰掛けるアルノルトは、ミラの的外れな乱入によってすっかり和んでしまった空気を楽しむように、ふっと不敵な笑みを深めた。「まあ待て、ヴィクトル。実はな、我が弟が……あまりにも盛大に、木っ端微塵にフラれる姿を目撃してしまってな」「……は?」 ヴィクトルの思考が、一瞬で停止した。 隣のグレンが「ぶふっ!?」と吹き出し、必死に口元を押さえて小刻みに震え始める。「我が弟ながら、あそこまで一筋の慈悲もなく一刀両断される姿は実に見事だった」(何故、あの場に兄上が?) ヴィクトルが疑問に思っていると、アルバが教えてくれた。「陛下と王妃にの、魔術研究室の最新器具のお忍び視察に来ていただいた帰りじゃよ。ちょうど魔術塔の窓から、お前さんたちの声が実によく響いてのぅ。ふぉっふぉっふぉ」 長い髭をさすりながら、アルバが楽しそうにその時の状況を暴露した。 よりによって、ミラに惨敗したあの決定的な瞬間を、実の兄である国王と王妃、そして魔術師長という国の中枢に特等席で見物されていたとは。ヴィクトルは顔がカッと熱くなるのをどうすることもできなかった。「見てたぞ」  にー、と笑う兄を見ていられず、ヴィクトルは顔を伏せ、手で覆い隠した。 「しかしまあ、上手くやれているようで安心した」 兄は楽しげに喉を鳴らし、弟のそんな様子を心底面白そうに眺めている。「放っておいてくれ……!」 覆った手の隙間

  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第1章:前線の魔術師【009】

    「人の言葉を遮るのはいけないと、あれほど注意をしたというのに」レオンが言い終えないうちに、ミラはササっと消えるように――この場を去った。研究室に一直線に早歩きで向かっていた――早い。 ヴィクトルは何も言わなかった。 レオンも何も言わなかった。 石畳の小径の上に取り残された男二人。 レオンが俯いたまま身動ぎしないヴィクトルを、横目で見ながら小さく咳払いをした。「ミラさんの発言は気にしないで下さい」(気にするな、と言われても……俺はあの女が好きなんだ)今まで黙っていても向こうから女が寄って来た。それは意図せず、自分の意志とは関係なく、だ。 だが、ミラは違う。初めて親しくなりた

  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第1章:前線の魔術師【008】

    ※ ※ ※ 朝日が照らす石畳の小径の上を、今日もミラは迷いなく進む。彼女の視線は、研究室に注がれていた。 彼女の前に、太陽の光のような男――ヴィクトルが姿を現した。 ミラは珍しく、足を止めた。 ヴィクトルは今日もまた、女性達が見惚れる笑みをミラに送り、挨拶を告げようとする前に……先に口を開いたのはミラだった。 「おはようございます、ヴィクトル副団長殿」 ヴィクトルは口を押さえた。 (名前を、呼ばれた……?) 初めてでは? 「昨日、レオンからヴィクトル副団長殿のお名前を教えてもらいました」 「今まで知らずにいたことをお詫びします」とミラは頭を下げた。 その勢いで、頭を上

  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第1章:前線の魔術師【007】

    ※ 食事を終えた二人は、連れたって食堂を後にした。 「ミラさん、食事をしたばっかりなんですから速足で歩くのではなく、ゆっくり歩きましょう。消化に悪いです」 「研究の続きが」 「研究は逃げません」 ミラは渋々、歩く速度を緩めた――その時だった。 「ミラ!」 ミラは振り返らなかった。 足を止めず、研究室への道を、そのまま歩き続けようとした。 レオンがミラの肩を掴んだ。「……副団長殿が呼んでいます」 「あ」 ミラはようやく振り返った。 「こんにちは、副団長殿」 「やぁ、ミラ。昼間に会うのは初めてだね」 息を切らしながら前髪を掻き上げる姿は、やけに眩しいなとミラは目を

  • 好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~   第1章:前線の魔術師【006】

    ※ ※ ※ 魔術塔と騎士舎がある広い敷地内の丁度中央に食堂が存在する。そこは、騎士と魔術師が自由に食事をする場所であり、談笑もできる憩いの場であった。もっとも、騎士率の方が高いのは、魔術師達は研究室の近くでしか食事を摂らない。食堂に行く距離でさえ惜しいのだ。 長い机が並ぶ食堂は、今日も騎士達の声で満ちていた。 その中に、黒が二つ混じっていた。 ミラと彼女の同僚魔術師レオンが、長テーブルに並んで座っている。黒いローブに細身の長身、茶髪の青年だ。レオンはトレーに料理を並べているのに対し、ミラは右手に一口も齧られていないサンドイッチ、左手に書類。ミラの目線は書類に注がれていた。 「あれ

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