All Chapters of 義姉に溺れる夫へ。私はあなたの従兄と再婚するわ: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話

柚希の心臓が、どくんと跳ねた。頬が自分の意思とは関係なく熱くなり、ある夜の光景が、勝手に頭の中に押し寄せてきた。あの混乱した、それでいて濃密だった一夜のことを、彼女は確かに……ずっと覚えていた。彼女は大きく深呼吸をし、「くるべき時がきただけ」と自分に言い聞かせた。それに、炎真のテクは悪くなかったし、損をするわけではない。炎真は瞳の奥に深い色を宿し、バスルームへと向かった。少しして、中から声がした。「バスタオルを」柚希はソファーから勢いよく飛び起きると、バスタオルを持ってバスルームへ急いだ。深く息を吸って、絶対に見ないようにと視線を落とし、片手でバスルーム内へとバスタオルを差し出す。バスルームから湯気が流れてきた。彼の湿った熱い掌が指先に触れ、電流のような衝撃が走った。思わず手を引こうとして、バサッとバスタオルを落としてしまった。「ご、ごめんなさい!」彼女は慌てて腰をかがめて拾おうとした。すると、視線がふと上を向いてしまい――そこには鍛え抜かれた彼の体がさらされており、引き締まった腹筋から滴るしずくが伝っていくのが見えた。鼓動が激しくなる。そして、鼻の奥がツンと熱くなった。「大きい……」無意識に呟いた言葉にハッとし、顔が真っ赤になる。終わった!どうして今の本音を声に出してしまったの?柚希は頭から煙が出るような思いで、逃げるように寝室を飛び出した。炎真は彼女の慌てふためく背中を見つめ、バスタオルを撫でながら、微かな笑みを浮かべた。……柚希はキッチンで水を3杯立て続けに飲んだが、なかなか高鳴る心臓は落ち着かない。もう二度と彼に合わせる顔がない。でも、本当に大きかった……スマホが鳴り、彼女の頭の中に広がった妄想を中断させた。父・上野康弘(うえの やすひろ)からの着信だ。こんな夜遅くに、何だろう?電話に出ると、すぐ康弘の声が聞こえた。「柚希、今どこにいるんだ?」柚希はどきっとした。華やかな新居を見て、少し後ろめたくなる。両親を心配させたくなくて、再婚のことはまだ話していなかった。しばらくしてから、家に帰って直接打ち明けるつもりだったのだ。「お父さん、いきなりどうしたの?」康弘が溜息をつく。「お前、何も親に話さないんだから。柊馬さんが腕を怪我したというじゃないか。
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第32話

柚希は怒りを押し殺して尋ねた。「お父さん、お母さん、急にどうしたの?」百合子は責めるような口調で言った。「柊馬さんがインスタを更新したから、怪我して入院してることを知ったのよ。心配で、駆けつけたわ。あなたたちも、こんな大事なこと、私たちに一言くらい言ってちょうだいよ」インスタ?柚希は急いで柊馬のブロックを解除したが、その投稿はどこにも見当たらない。ふん、両親だけに見えるようにしてあるんだ。結婚式を挙げたあと、柊馬がおとなしくしていた理由はこれか。ここで自分を追い詰めるつもりだったのね。「お父さん、お母さん、ちょっと外に出てくれる?話したいことがあるの」両親がいるうちにすべてを打ち明けよう。これ以上、柊馬に利用されるのは御免だ。ところが、柊馬がタイミングよく、いかにも申し訳なさそうな口調で割り込んできた。「お義父さん、お義母さん……心配させたくなくて黙っていました。わざわざ夜中に呼び出してしまって、本当に申し訳ないです。不甲斐ないせいで、こんなふうに……」彼は一息つき、意味深に柚希を横目で見てから続けた。「……腕を無理やり折られてしまって」「なんだって?腕を無理やり折られたの?」百合子は驚愕し、激昂した。「誰よ!そんな酷いことをするのは!犯罪じゃないの!」柊馬は苦笑する。「誰かといったら、従兄の炎真さん以外いないですよ。彼は俺と家業の継承権を争うためなら、手段を選ばないんです」「前から残忍だとは聞いてたけど、まさか身内にまでこんな真似をするなんて。本当に狂った変態なのよ!」百合子は震えながら、すぐさま柚希を叱った。「柚希、いい?炎真さんを見かけたら、絶対に関わらないこと。分かったね?」柚希は何も言わない。「そうそう、それで話っていうのは何なの?」柚希は言葉に詰まった。言いたかった言葉が、全部喉につかえてしまった。これでどうやって炎真のことを紹介できるの?まさか、「お母さん、あの狂った変態が今の私の夫なの」なんて言えるわけがない。彼女は言葉を飲み込み、無理やり笑った。「……いえ、遅い時間だし、二人とも移動で疲れているでしょ。まずホテルまで送るわ」百合子は手を振った。「いいのよ、柊馬さんがもう部屋を用意してくれてるの。病院のすぐそばだから、何かあってもすぐだしね。あなたは今夜、ここで柊馬さ
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第33話

両親を見送り、病室に戻った柚希は、柊馬を勢いよく突き飛ばした。「柊馬、最低ね!」抱きしめていた腕から柚希が離れると、柊馬は何か大事なものを失ったかのような空虚感に襲われた。「柚希、誤解だ。他にどうしようもなかったんだ……こうでもしないとお前に会えないし、話すら聞いてもらえないだろ。すまない。本当に俺が悪かった。どうか許してくれ、もう一度チャンスをくれないか?」柊馬が深くすがるような瞳で詰め寄る。「炎真さんはお前を愛していない。復讐の道具にされているだけだ。世界中でお前を一番愛しているのは俺だ。心からお前だけを思っている!莉奈の子供だって、跡取りのためというだけで、それ以外に何もない。3年前のこと、覚えてる?家族全員が俺たちの結婚に反対した時、俺は子供なんていなくてもお前と一緒にいることだけを望んだだろう。この3年、プレッシャーに耐えながらもお前といられただけで幸せだったんだ。俺は一度も、『子供が欲しい』なんて言ったことないよな?今この子を作ったのは、兄が死んだからだ。うちは分家で、男は俺一人になった。もともと桐生家の中でうちは分が悪い。子供もいなければ、いずれ家業は全て炎真さんに飲み込まれてしまう。本当にどうしようもなかったんだ。家を守るためにはそうするしかなかったんだ……わかってくれないか?もしその子供が嫌なら、二人で家を出て、二人きりで暮らそう。お披露目会ももうキャンセルした。これからは二度とあの二人には会わない。お前が戻ってきてくれるなら、何でもする。柚希、俺を捨てないでくれ……頼む!」彼の声は詰まり、目は赤く潤んでいた。まるで3年前、自分に夢中で、何もかもかなぐり捨てた頃の柊馬に戻ったようだった。昔なら、こんな彼を見て、自分もいい顔をしてしまったかもしれない。彼の兄の死後、追い詰められた末に打ち明けてくれていたのなら、今の事態には至らなかっただろう。でも、彼はそうしなかった。彼は勝手に決めて、後から報告した。莉奈とだらだら関係を続けて子供まで作り、家族ぐるみで自分を馬鹿みたいに騙した。そして自分に、まるでピエロのように「義理の姉」と「遺児」の世話をさせたのだ。隠し事がバレても謝罪一つせず、逆ギレしてクレジットカードを止め、莉奈を使い自分を追い込み、吹雪の夜に家から追い出したではないか!そ
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第34話

柊馬は慌てて彼女の腕をつかんだ。その声には、あきらめきれない必死さがにじんでいた。「お前の両親は今夜、お前がここで俺の看病をしてると思ってる。もし今帰ったら、きっと変に思って心配するよ」柚希は彼の手を強く振り払い、冷徹な視線を彼に向けた。「柊馬、私の両親を使えば私が折れるとでも思ってるの?そんなの、絶対にありえない!」彼女は一語一句、言い聞かせるように告げた。「しっかり覚えておいて。私は今、炎真の妻なの。夫を裏切るような真似は絶対にしない。お父さんとお母さんには改めて、私からちゃんと説明する。もしまた二人を困らせるようなことがあれば、許さないから」そう言い放つと、彼女は迷いなく背を向け、大股で歩き去った。柊馬はその後ろ姿を呆然と見送り、病室のベッドに力なく倒れ込んだ。後悔と激しい苦しみに、頭がおかしくなりそうだった。病室を出た柚希は、ふと、先ほどまで炎真がいた方角に目をやった。でも、そこはひっそりとして、誰の姿もなかった。彼女は視線を戻し、エレベーターへ向かった。ホテルに部屋を取って、こっそり両親の隣に泊まるつもりだった。明日、二人が起きた時に落ち着いて話そうと思った。歩きながらスマホを取り出し、炎真にメッセージを送ろうとした。せめて今夜のことは伝えたかったのだ。しかしチャット画面を開いて、炎真からブロックされていることを思い出した。仕方ない。彼女は健一に電話をかけた。「健一さん、こんな夜中にすみません。炎真さんに、今夜は急用でスカイ・ペニンシュラには戻らないと伝えていただけますか」電話越しに健一が数秒黙ったあと、落ち着いた声が返ってきた。「承知いたしました。炎真様に伝えておきます」電話を切った健一は、すぐそばで凍りつくような冷気を放つ炎真を見て、おずおずと車のドアの側へと身を引いた。「炎真様、直接お出になるのが難しいなら、私が厚かましく出ましょうか。なんなら……奥様を連れ戻してまいりましょうか?」炎真は冷たい目で、窓の外の深い闇を見つめた。握った指の関節が、白くなっていた。炎真は感情を殺した声で告げた。「必要ない。彼女の意思を邪魔するつもりはない」「しかし……」健一はなおも言いかけたが、炎真は静かに目を閉じ、氷のような声で命じた。「北区のプロジェクトを中止しろ」北区のプロジ
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第35話

「なんだって?」柊馬は顔色を変えた。柚希の両親が離婚を知れば、二人を通じて柚希と復縁しようという計画がすべて水の泡になるからだ。「どうしてそんなこと言えるんだ?お前は一番の親孝行だろう。お義母さんが傷ついて、眠れなくなるのが怖くないのか?」これが、かつて私が愛した男。私の親孝行につけこんで、思い通りにあやつろうとする。「離婚の話だけじゃないわ。今夜、霞ヶ渓・温泉リゾートで、炎真を両親に正式に紹介することにしたの」柚希は、皮肉たっぷりに柊馬を見た。一切、逃げ道を与えない。「今夜が終われば、うちの両親は炎真を新しい娘婿として受け入れる。これからあなたは、うちの両親にとって、もう他人同然なんだから」「そんなの、ありえない。柚希、また俺を騙してるんだろう。炎真が温泉リゾートなんかに行くなんて、あり得ない話なんだよ!」「だから、何?」柚希はニヤリとわざとらしく笑い、挑発してみせた。「私のためなら特例で足を運んでくれるわ。これで満足?信じられないなら、今夜霞ヶ渓に来て確かめてみたら?私たちがどんな風に過ごすのか、自分の目でしっかり見てきなさい」彼女は柊馬を突き放し、両親の部屋のドアを開けて、きっちりと閉めた。これだけしつこい柊馬を諦めさせるには、荒療治をするしかなかった。炎真が霞ヶ渓に行くというのは、今朝たまたま健一から耳にしたことだが……夜、もし柊馬が本当に来たら、炎真と「偶然会って」新婚の夫と仲のいいところを見せつけるのも、悪くない。「柚希、柊馬と喧嘩したの?彼は怪我をして体調が悪いんでしょ。こんな時なんだから、そんなにわがままを言っちゃだめ。もっと落ち着いて接してあげなきゃ」百合子は、困った顔で柚希をたしなめた。康弘が横から口を挟む。「全てが柚希のわがままというわけじゃないかもしれないぞ。もしかしたら柊馬さんにも非があるのかもな」百合子は不満そうに言った。「あなたがそうやって甘やかすから、この子の気が強くなったのよ。こんな遠いところへ嫁いだのに、角を立てると肩身が狭くなるのよ……」両親の言葉を聞き、柚希は胸が締め付けられるように痛んだ。先ほど柊馬に告げたことはすべて嘘だが。でも今は……「お父さん、お母さん。私と柊馬は、実はもう離婚したの」柚希は雪の降る夜に追い出されたことや、炎真と再婚
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第36話

霞ヶ渓・温泉リゾート。VIP専用の豪華な個室は、賑やかな空気に包まれていた。身なりの整った男女がバスローブ姿でくつろぎ、ワインを片手に談笑している。京香もその一人だった。大胆な水着の上からシルクのバスローブをさらりと羽織り、明るく振る舞っている。「今夜は本当に炎真様が来るのか?今日は京香さんの帰国パーティーだよ!」「今日は炎真様の新婚二日目だろ?新婚さんに水を差すのも悪いし、来なくても不思議じゃない」「何を言ってるんだ。京香さんが炎真様にとってどんな存在か、忘れたのか?」「昔、炎真様は京香さんのためなら命だってかけるような人だった。今の奥さんなんて、結婚を嫌う京香さんの身代わりにすぎないよ。どんなに新婚が大事でも、今夜は絶対に顔を出すはずさ。2億円賭けてもいい。炎真様は必ず来るってな……」男たちが賭けをして盛り上がっていると、そのとき、個室のドアが外から押し開けられた。炎真が入ってきた。黒いバスローブの襟元をわずかに開け、気だるげに現れた彼は、いつにも増して冷たい空気を纏い、その瞳には隠し切れない疲れと焦燥が宿っていた。「おっ!うわさをすれば、だな!」「言ったろ、絶対に来るって!俺の勝ちだな!」みんなが一斉にはやし立てた。京香は彼を見つけると、明るい笑みを浮かべ、歩み寄って彼の肩を叩いた。「炎真!さすが、付き合いがいいね!」炎真は何も言わず、ただ上品なプレゼントの箱を彼女に差し出した。京香がそれを開けると、中にはまばゆい輝きを放つダイヤのネックレスが入っていた。「うわ、星空の涙だ!この前オークションで落としたやつって、やっぱり京香さんのためだったんだね」「さすが幼馴染、情が深いね!」「熱いねぇ!」京香は嬉しそうに笑い、さっそくそのネックレスを自分の首に飾った。そして炎真が座る一人がけのソファのそばへ行き、ひじ掛けに腰を下ろした。彼が酒を飲む姿を見て、からかうように言った。「どうしたの?機嫌悪い顔して。もしかして奥さんと喧嘩でもした?それでここに逃げてきたの?」喧嘩?フン。喧嘩をするほどの絆さえ、二人の間にはない。炎真は答えず、ワインを一気に飲み干すと、空になったグラスを京香の方へ差し出した。「酒をつげ」京香は眉を上げたが、それ以上は聞かず、彼と自分
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第37話

「実は……どうしても話しておきたいことがあって……」柚希はゆっくりと話しながら、少しずつ炎真のそばへ歩み寄った。そして、指先をさりげなく、水面から出た彼の逞しい腕にそっとかけた。その温かく引き締まった感触に、指先から熱が伝わり、胸が高鳴るのを感じた。無意識に手を引っ込めそうになった。でも、掃き出し窓の外に人影が見えて、なんとかこらえた。炎真の体が、かすかにこわばったのがわかった。彼は柚希を突き放すことなく、鋭い瞳で彼女をじっと見つめていた。その呼吸は心なしか荒く、声はかすれていた。「……何だ?」彼が拒まないので、柚希はもっと大胆になれた。柚希の指先は彼の腕を伝い、背中へと上っていく。体ごと彼の方へ引き寄せられた。「つまり……その……」彼女はわざと顔を傾けて話した。唇が、あと少しで彼の唇に触れそうだった。掃き出し窓の外からは、まるで彼女の唇が彼と重なっているように見えるはずだ。窓の外から柚希の姿を目撃した柊馬は、瞳が激しく揺れた。心臓を氷の錐で刺されたような、冷たい感覚が全身を駆け巡った。彼女は、本当に炎真とキスしたんだ!自分との話が嘘じゃなかったんだ。彼女と炎真は、本当に……凄まじい衝撃に柊馬は我を忘れそうになった。彼は拳を固く握りしめ、指の骨が砕けそうなほど力を込めた。そしてついに、勢いよく背を向けて、よろめきながらその場から逃げ出した。柊馬が去ったのを目の端に捉え、目的を果たした柚希は、すぐに後ろへ下がった。湯から上がり、バスローブを羽織る。その動きは、無駄がなく、きびきびとしていた。まるで先ほどの情熱的な仕草など、最初からなかったかのように。炎真は目を細めた。さっき彼女に触れられた腕のあたりが、まるで火照るかのように、今もまだ熱を帯びてヒリヒリと疼いていた。炎真に見つめられ、柚希も自分の変わり身の早さに気づいた。確かに、二重人格みたいに見えるだろう。落ち着かない様子で髪を整える。「うちの親が海鳴市に来てるの。ちょっとお願いしたいことがあって……」話の途中で、京香が、風呂へと近づいてくるのが見えた。柚希の心臓がどきりと跳ねた。京香が戻ってきたなんて。道理で、普段は温泉嫌いの炎真がわざわざ霞ヶ渓に来るわけだ。すべては京香のためだったのか。何年か前に聞いたことがあった。炎
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第38話

康弘と百合子は、柚希が一人で帰ってきたのを見て、不思議そうに聞いた。「柚希、私たちに紹介してくれるって言っていた男の人は?」柚希の顔に、ほんの一瞬、気まずさがよぎった。「舞台」はすっかり整えたのに、京香が戻ってきたせいで全部台無しになるとは思ってもいなかった。「お母さん、彼はね……急に用事ができて、会社に呼び戻されちゃったの。仕方ないよ、仕事が大事だもん」そう言って、柚希はスマホを取り出した。前もって用意していた一枚の写真を、両親に見せた。「ほら、この人だよ」これは帰り道に、柚希がトムに頼んで空港で撮ってもらった写真だ。「E国の人なの?」百合子は驚いて、眉をひそめた。「本当なの?柚希、私たちを安心させるために、ネットの写真を適当に拾ってきたんじゃないでしょうね?」「お母さん、どうして信じてくれないの?」柚希は内心びくびくしていた。でも口では怒ったふりをした。「向こうに着いたら、ビデオ通話させるから。それでいいでしょ?E国語で挨拶させるから」「……まあ、いいわ」百合子はしぶしぶ承知した。うまくごまかせて、柚希はほっとした。それから続けた。「お父さん、お母さん、私も会社に行かなきゃ。明日にはE国へ飛ぶの。次に帰ってきたとき、ゆっくり一緒に過ごすね」彼女は一刻も早く離れなければならなかった。炎真と京香がよりを戻した。離婚は時間の問題だ。もしかしたら明日にでも切り出されるかもしれない。でも今は、まだ離婚できない。せっかく柊馬に、自分の心が完全に離れたと信じ込ませたのだ。おまけに彼は炎真に対しても打つ手がない。あと少しだけ持ちこたえれば、彼との関係もそろそろ終わりにすることができるはずだった。でも、もし今、自分と炎真がもうすぐ離婚すると柊馬に知られたら、絶対にとことん付きまとってくるだろう……そのとき、もう炎真の妻ではなくなっている。柊馬は何の遠慮もなく、手を出してくるはずだ。あの人が暴れ出せば、どんな手でも使うだろう。何が起きるか……考えるだけで恐ろしかった。だから、炎真が離婚を切り出す前に、先に姿を消さなければならなかった。……翌日。炎真は二日酔いで目を覚ました。彼はずきずきと痛むこめかみを揉みながら、そばに控えていた健一に言いつけた。「柚希はここ数日、両親と海鳴市を回るはずだ
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第39話

桐生家。かつて柚希が使っていた寝室は、鼻を突くような強い酒の匂いが漂い、あちこちに空き瓶が散乱していた。柊馬はソファに深く沈み込み、荒れるように酒を流し込んでいた。「うっ!」込み上げる吐き気を感じ、彼はふらつきながら洗面所に駆け込んだ。「柚希……水を……」癖でそう呟き、手を伸ばす。しかし、差し出されるはずの温かい水も、背中を撫でてくれる柔らかな手もない。柊馬は我に返り、耐え難い孤独と喪失感に全身を覆われた。顔を上げると、隣のドレッサーが目に入った。彼女の化粧品でいっぱいだった場所は、半分以上が空っぽ。彼女のものはすべて、きれいに片づけられていた。前にこれを見たときは、ただ機嫌を損ねて、わざと見せつけているだけだと思っていて、気にも留めなかった。しかし今、空っぽのスペースを見ると、心がえぐり取られたような痛みと、冷たい隙間風が胸を通り抜ける感覚に襲われた。彼女は本当に、二度と戻ってこないのだ。「誰か!」柊馬はかすれた声で叫んだ。「お前たち、給料を無駄にもらってるのか?柚希の物がなくなっていることに気づかなかったのか?今すぐ元通りにしろ!この部屋を以前の状態に戻せ!」物を揃えれば、彼女がまだそこにいるかのように思いたかったのかもしれない。慌てふためいた使用人たちが入り、代わりとなる備品を探し回った。一人の使用人が箱を抱えておずおずと進み出た。「このアクセサリーは……奥様がゴミ箱に捨てていかれたものです。処分できず、保管しておりましたが……これも戻しますか?」その中には、柊馬が柚希に贈った思い出の品々が詰まっていた。柚希が何よりも大切にし、目立つ場所に置いていたものだ。それが今は、ゴミのように捨てられている。柊馬の胸に刃が突き刺さるような痛みが走り、たまらず身を屈めた。そうか。彼女の行動はただのわがままじゃなかった。とっくに、本当に自分を捨てていたのだ。それなのに自分は?まだ思い上がって、彼女の愛に甘えていた。何度も何度も彼女を傷つけ、追いつめてきた……「柚希……悪かった……ごめん……」柊馬はその場に崩れ落ち、頭を抱えて泣き崩れた。後悔の念が毒の蔦のように心に巻きつき、呼吸すらままならない。……E国。飛行機を降り、柚希は重いスーツケースを引いて新しい街へと足を踏
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第40話

桐生家の本邸。柊馬は酔いから目を覚ました。ずきずきする、こめかみを思わず押さえた。でも腕を上げると、腕の中に誰かを抱いているのに気づいた。隣で眠る莉奈の顔を見た瞬間、柊馬は跳ね起きる。「お前、なぜここにいるんだ?今すぐ出ていけ!」柊馬の顔には、隠しようのない嫌悪と拒絶が浮かんでいた。莉奈は驚いて目を覚まし、おずおずと彼を見つめる。「柊馬、私が一晩中あなたの世話をしていたのよ……」「くそっ!」柊馬は冷たく言い放つ。「お前に世話をしてくれなんて頼んでいない。もし柚希に見られたら、誤解を招く。これからは俺に近づくな!」「どうして私にそんなことができるの?」莉奈は悲しげに瞳を揺らした。「私たちは、ただの義理の弟と姉なの?今まで二人が一緒にいた時は、『兄みたいに、お前のことは俺が一生守る』って言ってくれたじゃない」かつての柊馬は、確かにそう本気で考えていた。莉奈と子供を大切にしながら、柚希と家庭を持つこと。それが可能だと信じていたのだ。だが、今は違う。あの頃の自分の浅はかさが、耐えがたく惨めだった。そんな思い上がった考えのせいで、柚希を失ったのだ。自分が間違っていた!何もかも、大間違いだった!「莉奈」柊馬の口調は重く、でもきっぱりしていた。「この件については、すまないと思っている。ちゃんと埋め合わせはする。お前と子供の今後の暮らしは俺が一生保証する。子供はこれからも桐生家の唯一の跡取りだ。渡すべき株も、一つも減らさない……もし受け入れられないなら、実家に戻って、他の人と再婚してもいい。子供はきちんと育てる。いつでも会いに来ていい」「柊馬、どうして……なんて無責任なこと言えるの!」莉奈は絶望的な面持ちで、震えながら柊馬を見つめる。柊馬の目の奥に、ほんの一瞬だけ罪悪感がよぎった。「昔のことは、もう忘れてくれ」柊馬は背を向け、そのまま部屋を出た。「どこに行くつもりなの?」「これから、俺は外で暮らす」柊馬は振り返りもしなかった。莉奈は床に崩れ落ち、声を上げて泣き崩れた。内側に募る歪んだ恨みが、炎となって彼女を飲み込んでいった。あんなに尽くし、子供まで産んだのに、なぜ柊馬の心を取り戻せないの?柚希のどこがいいの?柊馬を捨てて、炎真と再婚した。柊馬の宿敵に嫁いだのよ!そ
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