蒼士はそこでいったん言葉を切ると、相手を惑わせるような甘い響きを帯びた低い声で続けた。「俺が必ず取ってきてやる」紗寧の心臓が一度大きく跳ねた。あまりにも心を揺さぶる言葉だった。思わず本気にしてしまいそうになるほどに。紗寧はまつ毛を伏せ、胸の中で渦巻く複雑な感情を必死に押し込めた。――余計なことを考えてはいけない。二人は互いの都合のために結んだ、契約上の夫婦にすぎない。一年が過ぎれば、それぞれ別々の道を歩むことになる。蒼士も、ただ彼女をからかっているだけだ。本気にしてはいけない。いつまでも黙っている紗寧を見て、蒼士がかすれた声で尋ねた。「何を考えてる?」紗寧は我に返り、首を横に振った。「......いえ、何でも」蒼士は数秒ほど彼女を見つめたあと、不意に腰をかがめた。片腕を膝の裏へ差し入れ、もう一方の腕を腰へ回すと、そのまま横抱きにして持ち上げる。紗寧は驚き、反射的に蒼士の首へ腕を回した。「何を」「二階へ行って寝る」蒼士は彼女を抱いたまま、寝室へ向かった。「お、下ろしてください。自分で歩けますから」蒼士は彼女へ目を落とした。口元には笑みを浮かべ、瞳にもほのかな笑いがにじんでいる。「それは駄目だ。音楽ディレクターになりたいんだろ?それならあとで、ベッドの中でしっかりお願いしてもらわないとな」紗寧の顔が再び熱くなった。「からかわないでください......今日はダメです」「また妙なことを考えてるな?」蒼士は紗寧をベッドへ下ろすと、両腕をついて彼女の上から覆いかぶさった。鼻先が触れ合い、互いの吐息が交じり合う。「何もしない」その声はひどく低くかすれていた。一言一言を喉の奥から絞り出すようで、限界まで欲望を抑え込んでいるのが伝わってくる。「キスして抱きしめるくらいなら、いいだろ?」紗寧が答えるより先に、蒼士の唇が触れた。これまでのような奪うようなキスではない。羽が水面を撫でるように、あるいは春風が花びらをかすめるように、ごく優しく触れるだけの口づけだった。唇の端から頬へ、鼻先から額へ。そして最後には、再び唇の端へ戻ってくる。何度も優しく口づけられ、紗寧の意識は次第にぼんやりとしていった。まるでぬるま湯の中へ沈んでいるように全身
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