翌朝、会社に着くと、いつもより少し早かった。 自席にバッグを置き、パソコンの電源を入れる。 画面が立ち上がるまでの間、私は何となく窓の外を見た。 薄い雲。 向かいのビル。 通勤途中の人たち。 昨日までと変わらない景色だった。 でも、私の中では何かが変わっている。 悠斗とは別れた。 まだ同じ家に住んでいる。 部屋をどうするかも決まっていない。 荷物もそのまま。 歯ブラシも並んでいる。 なのに、もう恋人ではない。 その事実が、時々遅れて胸に落ちてくる。「藤崎」 突然名前を呼ばれて、私は振り返った。「おはよ」 紙コップのコーヒーを片手に、中村千尋が立っていた。「おはよう」「早いね」「千尋も」「私は今日、朝イチで面倒なメール返さなきゃいけないから」 千尋はそう言って、自分の席の方を顎で示した。「昨日の夕方に送ってくるなって話なんだけど」「それは嫌だね」「でしょ? しかも件名に『至急』って入ってる」「昨日の夕方なのに?」「そう。至急の定義について一時間くらい話し合いたい」 思わず笑った。 千尋も笑う。 同期で入社して、もう十年以上になる。 部署は違うけれど、研修時代からの付き合いだった。 入社した頃はよく一緒に昼を食べた。 千尋が結婚してからは少し減ったけれど、それでも廊下で会えば話すし、たまにメッセージもする。「じゃ、戦ってくる」「頑張って」「勝ったら報告する」 千尋はそう言って歩き出した。 けれど数歩進んだところで止まり、振り返った。「藤崎」「うん?」 千尋は何か言いかけて、やめた。「……
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