All Chapters of 魔女の婚活 〜理想の夫を育成したら、世界を滅ぼす魔王になりました〜: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話:手作りクッキーと、不器用なレジスタンス

 王都へ帰還してからの生活は、まさに『完璧』の一言だった。 私たちにあてがわれた屋敷は、王城のすぐ隣という最高の一等地でありながら。 不気味なほどに静かで、外の喧騒など一切聞こえてこない。 毎日、美しいドレスと美味しい食事が用意され、街へ出れば人々が私を神のように崇めて道を譲る。「……平和ね」 私は、広々としたサンルームで、ふかふかのソファーに沈み込みながら呟いた。 あまりにも平和すぎて、少し暇を持て余してしまうほどだ。 三百年生きてきた魔女としては、何か研究や魔法の実験でもしたいところだけれど……。「ヴェラ様」 背後から、ふわりと温かい体温が私を包み込んだ。 アシュが、私の背もたれ越しに身を乗り出し、その長い腕で私の首元をそっと抱きしめてきたのだ。「どうかされましたか? 何か、ご不満でも?」「ううん。ただ、毎日あなたが至れり尽くせりでお世話をしてくれるから、私が何もすることがなくて。少し体が鈍ってしまいそうだなって」 私がクスクスと笑いながら彼の腕に触れると、アシュは私のうなじに顔を埋め、甘く低い声で囁いた。「ヴェラ様は、何もしなくていいのです。ただそこにいて、呼吸をして、俺に向かって微笑んでくだされば……それだけで、俺の宇宙は完璧に満たされるのですから」 彼の熱い唇が、私の耳たぶを甘く噛む。 背筋にゾクッと心地よい悪寒が走り、私は思わず身をよじった。「も、もう……アシュったら。朝から甘えん坊なんだから」「俺は、一秒でも長くヴェラ様に触れていたいのです。あなたの肌の温もりがないと、息が詰まって死んでしまいそうになる」 本当に、この子の愛情は果てしない。 三百歳の魔女である私を、まるでガラス細工かお姫様のように扱い、少しでも離れることを嫌がる。 重い。 間違いなく、普通じゃないくらいに愛が重い。 でも、その重さが、どうしようもなく私の孤独を埋めてくれるのだか
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第32話:お忍びデートと、見えない護衛

「ねえ、アシュ」 穏やかな朝の光が差し込むサンルームで。 私は彼が淹れてくれた『星屑の紅茶』を傾けながら、ふと思いついたように声をかけた。「どうされましたか、ヴェラ様」 私の足元で、新しいドレスのカタログを広げていたアシュが、世界で一番優しい笑顔で顔を上げる。「たまには、普通の恋人同士みたいに、街を歩きたいわ」「……恋人、ですか?」 アシュは、小首を傾げた。「俺たちはすでに、世界で一番愛し合っている完璧な夫婦ですが」「そうだけど、ほら。王都に帰ってきてから、出かけるときはいつも馬車でしょう? 周りの人たちも私を見ると平伏しちゃうし」 私は、窓の外に見える王都の街並みを指差した。「そうじゃなくて。お忍びで、誰にも気付かれずに、ただ手を繋いで街を歩いてみたいの。ウインドウショッピングをしたり、屋台の食べ物を分け合ったり……そういうの、少し憧れるのよね」 三百年生きてきて、デートらしいデートなどしたことがない。 せっかく理想の夫を育て上げたのだから、そういう『普通の幸せ』も味わってみたかったのだ。 私がそう言うと。 アシュの顔が、みるみるうちに歓喜に染まっていった。「お忍びで……二人きりの、デート……!」 彼は立ち上がり、私の手を取って熱烈な口づけを落とした。「素晴らしいご提案です、俺の神様! 誰の視線も気にすることなく、ただ俺とヴェラ様だけの世界を歩く……っ。最高です、今すぐ準備をいたしましょう!」「ふふっ、そんなに喜んでくれるなら嬉しいわ」「もちろんです! ヴェラ様のエスコートは、俺の人生のすべてですから!」 彼はすっかり舞い上がり、足早に衣装部屋へと向かっていった。 本当に、私のちょっとした思いつきでこんなに喜んでくれるなんて。 愛されているという実感が、私の胸を温かく満たしてくれた。 ◇ ◇ ◇ 
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第33話:偉そうな使者と、極上の膝枕

 新婚旅行の甘い余韻も冷めやらぬ、王都への帰還。 私たちが新しい屋敷でくつろごうとしていた矢先、アルフレッド王子が血相を変えて飛び込んできた。『隣国の巨大な帝国から、使者が到着しました。魔女殿の引き渡しを要求してきております……!』 その報告を聞いた瞬間。 私の隣に立つアシュの空気が、ピキリと凍てついたのがわかった。「……ヴェラ様の世界に泥を塗る愚か者が、また増えたようですね」 アシュは極上の微笑みを浮かべたまま、酷く静かな声で呟いた。 その声の奥底に、底知れぬ怒りが渦巻いているのを、私は夫婦の勘で察知した。「アシュ、落ち着いて。相手は帝国よ。強引に事を荒立てたら、戦争になりかねないわ」「ご安心ください、ヴェラ様。俺が、平和的にお帰りいただきますから」 アシュは私の手にそっと口づけを落とし、アルフレッド王子に向き直った。「殿下。その使者とやらを、応接室へ通しなさい。俺とヴェラ様で、直接お話を聞きましょう」 アルフレッド王子は、アシュの底冷えするような笑顔を見て、ガチガチと歯の根を鳴らして頷いた。 ◇ ◇ ◇ 屋敷の豪華な応接室。 そこにふんぞり返って座っていたのは、豪奢な絹の服を着込み、宝石をジャラジャラと身につけた、恰幅の良い中年の男だった。 その後ろには、帝国の精鋭と思われる重武装の騎士たちが数名控えている。「ふん。待たせおって。貴様が、噂の魔女ヴェラ・ノクスか」 使者の男は、部屋に入ってきた私を見るなり、下品な舐め回すような視線を送ってきた。「なるほど、絶世の美女という噂は本当だったようだな。どうだ魔女よ。こんな今にも崩壊しそうな小国など捨てて、我が帝国の庇護下に入らぬか?」 使者は、傲慢にふんぞり返りながら言い放った。「皇帝陛下は、貴様のその強大な魔力を高く評価しておられる。帝国の『兵器』として忠誠を誓うなら、後宮の末席に加えてやってもよいと仰っているのだ」
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第34話:遠くの雷鳴と、極甘なバックハグ

 ――大陸の覇者たる、巨大帝国の首都。 その中心にそびえ立つ白亜の宮殿、玉座の間にて。「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ! へ、陛下ぁぁぁっ!!」 昨日、ヴェラの元へ派遣されたはずの使者が、豪華な衣服を泥と汚物でドロドロに汚しながら、床を這いつくばって転がり込んできた。「なんだ、その見苦しい姿は」 玉座に腰掛ける皇帝が、不快げに眉をひそめた。「魔女はどうした。まさか、たかが小国の女一人を連れ帰ることもできなかったというのか?」「む、無理でございます!! あ、あれは……っ、あの魔女の側にいる銀髪の男は、人間の姿をした悪魔です!!」 使者は、白目を剥きそうになりながら、ガタガタと激しく痙攣していた。「近づけば、国ごと灰にする、と……! へ、陛下! 絶対に、あの魔女に関わってはなりませぬ! 帝国が……我々が、滅ぼされてしまいますぅぅっ!!」「ええい、黙れ!!」 ドンッ! と。 皇帝が、怒りに任せて玉座の肘掛けを叩き割った。「帝国の使者たる者が、小国の威嚇ごときに怯えて尻尾を巻いて逃げ帰るとは! 帝国の顔に泥を塗る気か!」「ち、違います! 幻ではないのです! あいつは本当に、世界を――」「つまみ出せ!! この臆病者を地下牢へぶち込め!!」 皇帝の怒号と共に、近衛兵たちが使者を引きずり出していく。 遠ざかる使者の絶叫を聞きながら、皇帝は忌々しげに舌打ちをした。「たかが魔女一匹と、そのヒモ男ごときが。……帝国に逆らったことを、骨の髄まで後悔させてやる」 皇帝は、傍らに控える将軍に向かって冷酷に命じた。「直ちに、国境付近の『第一軍事砦』に集結している五万の兵を動かせ。小国ごと踏み潰し、あの生意気な魔女を私の足元に引きずり出せ!!」「ははっ!! 直ちに!!」 大帝国が、ついにその巨大な牙を剥こうとしていた。 だが。 皇帝はまだ
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第35話:帝国からの貢ぎ物と、空からの来訪者

 王都へ帰還してからの生活は、まさに平和そのものだった。 数日前、隣国の巨大帝国から『魔女を引き渡せ』という傲慢な要求と共に使者がやってきた時は、どうなることかと思ったけれど。 アシュが「平和的な対話」で説得してくれたおかげで、あっさりと解決してしまったのだ。 その証拠に。「ま、魔女殿……! い、いや、ヴェラ・ノクス様ぁぁっ!!」 今日の午後。 王都の我が家に、再び帝国の使者が訪れた。 だが、その態度は前回とは打って変わっていた。 豪奢な服を着た使者は、私の顔を見るなり、まるで神にすがるような勢いで床に平伏し、額を擦り付けたのだ。「皇帝陛下より、ヴェラ様への『永遠の服従と忠誠』を誓う親書をお持ちいたしました! ど、どうか……どうか我が帝国をお見捨てなきよう……っ!」 使者は、ガタガタと激しく震えながら、涙と鼻水にまみれた顔で一枚の羊皮紙を差し出した。 その後ろには、帝国の宝物庫から運び出されたであろう、山のような貢ぎ物が積まれている。 最高級の宝石、金塊、見たこともないような美しい絹のドレスや美術品の数々。「これ、全部私に?」「は、はいぃぃっ! 帝国の誠意でございます! ヴェラ様が望まれるなら、帝国の国土の半分を割譲しても構わないと、皇帝陛下は申しておりますぅぅっ!!」 私は、そのあまりの変わりように目を丸くした。 国土の半分を差し出す? 永遠の服従?「随分と……極端なのね」 私が戸惑って隣を見ると、完璧な身支度を整えたアシュが、極上の微笑みを浮かべて立っていた。「当然のことです、ヴェラ様」 アシュは、這いつくばる使者を見下ろすこともなく、ただ私にだけ甘い視線を向けた。「前回、俺が彼らに『ヴェラ様がいかに尊く、素晴らしいお方であるか』を、少しばかり熱を込めてご説明いたしましたからね。……皇帝陛下も、ヴェラ様の美しさに心から感銘を受けられたのでしょう」
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第36話:150年ぶりの悪友と、狙われた夫

「ねえ、ヴェラ!! この極上のイケメン、私にちょうだいよ!!」 秋の穏やかな風が吹き抜ける、王都の屋敷の中庭。 空から巨大な飛竜に乗って現れた、百五十年ぶりの悪友・エヴリンは。 開口一番、私の大切な『理想の夫』を指差して、とんでもない要求を突きつけてきた。「…………え?」 私は、自分の耳を疑い、思わず間抜けな声を出してしまった。 ちょうだい? この、私のアシュを?「ちょっと、聞いてるのヴェラ!? どこで見つけてきたのよ、こんな国宝級の男!」 エヴリンは、鼻息を荒くしてアシュに詰め寄り、その顔を至近距離でジロジロと舐め回すように見つめている。「信じられない……! 顔面偏差値が高すぎるわ! 魔力も底知れないし、なによりこの気品! あたしのコレクションにぴったりじゃない!」 コレクション。 その言葉を聞いた瞬間。 ――ギリッ。 私の胸の奥で、今まで感じたことのない『ドロリ』とした黒い感情が、嫌な音を立てて渦巻いた。(……私のアシュを、物みたいに言わないでよ) 胸の奥が、チクチクと痛む。 いや、痛いというよりも、焦燥感と不快感が入り混じったような、酷く落ち着かない気分だ。(それに……私から奪うですって?) アシュは、私が拾い、育て、教育し、愛情を注ぎ込んできた、私だけの完璧な旦那様だ。 彼が他の誰かに微笑みかけたり、他の誰かのものになったりするなんて、想像しただけでも吐き気がする。 ――これが『嫉妬』という感情なのだと。 恋愛経験が皆無のポンコツな私は、まだ完全には認めることができずにいた。「はじめまして、エヴリン殿」 私のモヤモヤをよそに。 当のアシュ本人は、極上の、絵画のように美しい微笑みを浮かべて、エヴリンに優雅なお辞儀をした。「俺は、ヴェラ様の『夫』である、アシュと申します」「キ
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第37話:魔女の誇りと、見えない絶対防壁

「言葉で落ちないなら、実力行使ね! 魔女のルールは弱肉強食! 欲しいものは力ずくで奪うのが私たちのやり方でしょ!」 エヴリンの周囲で、凄まじい熱量を持った炎の魔力が渦を巻き始めた。 紅蓮の炎が、彼女の深紅のドレスを煽り、中庭の芝生がチリチリと焦げる音を立てる。 空気が乾燥し、呼吸をするだけで肺が焼けるような熱気が周囲を包み込んだ。「やめなさい、エヴリン! 王都で暴れる気!?」 私は慌てて立ち上がり、彼女を止めようとした。 エヴリンは『炎の魔女』と呼ばれるほど、攻撃魔法に特化した魔女だ。 彼女が本気で魔法を放てば、この屋敷どころか、王都の半分が火の海になってしまう。「安心なさい! アシュ君には怪我一つさせないわ! 周りのガレキごと、あなたを吹き飛ばして、彼だけを綺麗に掻っ攫ってあげる!」 エヴリンは狂気的な笑みを浮かべ、両手に巨大な火球を作り出した。「燃えなさい! 『業火の嵐(インフェルノ・ストーム)』!!」 彼女が両手を振り下ろした瞬間。 空を焦がすような巨大な炎の竜巻が、私とアシュを飲み込もうと襲いかかってきた。「……ッ! アシュ、下がって!!」 私は、反射的にアシュを庇おうと両手を広げ、防御魔法を展開しようとした。 私の大切な旦那様に、火の粉一つだって浴びせるわけにはいかない。 私が守らなければ。 ――だが。「ご心配には及びませんよ、ヴェラ様」 私の背後から、ふわりと。 長い腕が伸びてきて、私の体を優しく、けれど力強く抱き寄せた。「え……?」「俺の神様に、あのような下品な炎を近づけるわけにはいきません。……ヴェラ様は、ただ俺の腕の中で、目を閉じていてください」 アシュの甘い香りが、炎の焦げ臭さを一瞬で塗り潰した。 次の瞬間。 パァンッ!!!! 乾いた、小さな破裂音が響いた。
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第38話:泣きつく魔女と、限界突破の夜

「ひっ……! やめてっ! 燃やさないでぇぇぇっ!!」 客室のベッドで。 エヴリンは、鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げて飛び起きた。「エヴリン! 大丈夫!?」 私が慌てて彼女の肩を抱き寄せると、エヴリンは白目を剥きそうな顔で周囲を見回し、私にすがりついてきた。「ヴェ、ヴェラぁぁっ! 私、生きてる!? 焼かれてない!? あの赤い目が、私を業火で……っ!」 彼女はガタガタと激しく震え、顔面は蒼白、全身が冷や汗でびっしょりと濡れていた。 あの中庭での一件から、数時間。 突然、魔力切れ(?)で気絶してしまった彼女を、アシュと一緒に客室まで運び、介抱していたのだ。 アシュは「俺は夕食の準備をしてまいります」と気を利かせてキッチンへ向かってくれたので、今は私とエヴリンの二人きりだった。「落ち着いて、エヴリン。ここは客室よ。あなたは魔法の反動で気を失っていただけ」「ち、違うわよ! 反動なんかじゃない!!」 エヴリンは、私の肩をガシッと掴み、涙目になりながら訴えかけてきた。「ヴェラ、聞いて! 逃げるのよ、今すぐ! あの男……あなたのアシュって男は、人間の皮を被った悪魔よ!!」「え?」「私、見たのよ! 私の『業火の嵐』を、指先一つで消し去ったのよ!? あんなの、神様か魔王にしかできないわ!」 エヴリンの声は、恐怖でひっくり返っていた。「それに、イグニス! あの子が、たった一言『お座り』って言われただけで、完全に心折られてたじゃない! 私だって……あの男に睨まれた瞬間、何百年も地獄の炎で焼かれ続ける幻術を見せられたのよ!!」 彼女はボロボロと涙をこぼし、ガチガチと歯の根を鳴らしている。 本気で怯えているのはわかる。 ……けれど。「エヴリン」 私の声は、自分でも驚くほど冷たく、低くなっていた。「あなた、まだそんなことを言っているの?」
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第39話:永遠の誓いと、怯えるご近所さん

 重く、熱く、息もできないほどの愛。 三百年の孤独を溶かし尽くすような、甘く危険な夜だった。 ――ガチャン。 主寝室の重厚な扉が閉められ、鍵がかけられた瞬間から。 私は、自分が想像していた以上の『アシュの執着』を、身をもって知ることになったのだ。「ヴェラ様……俺の、ヴェラ様……っ」 ふかふかのベッドに押し倒された私の耳元で。 アシュの掠れた、熱を帯びた声が何度も何度も囁かれる。 彼の宝石のように冷たく美しい赤い瞳は、今や飢えた獣のように、そして神に祈りを捧げる狂信者のように、私だけを映して爛々と輝いていた。「アシュ……顔が、近、いわよ……」「離れません。もう一ミリたりとも、あなたから離れたくない」 彼の大きな手が、私の髪を梳き、頬を撫で、首筋に熱い唇を落とす。「んっ……」 触れられるたびに、火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。 乱暴なところは一切ない。 まるで壊れやすいガラス細工を扱うように、優しく、丁寧に。 けれど、その腕の力は、絶対に私を逃がさないという『絶対的な拘束』だった。「俺は、あなたに触れたくて、あなたをこの手の中に閉じ込めたくて、ずっと狂いそうでした」 アシュの指先が、私のドレスのボタンを一つずつ外していく。「あなたが、俺を選んでくださった。……俺に嫉妬し、他の女から引き離してくださった。 あぁ……っ、この幸福を、どうすれば俺の魂に刻み込めるでしょうか」「アシュ……そんなに、嬉しかったの……?」「嬉しいなどという生易しい言葉では足りません。俺の宇宙が、ついに完成したのです」 彼の素肌が、私の素肌に触れる。「俺のすべてを、あなたに捧げます。……一滴残らず、俺をあなたの血肉に溶かしてください」 その重すぎる愛の告白。 普通なら、あまりの執着に恐怖を感じて逃げ出してしまうかもしれない。
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第40話:女子旅の提案と、断れないお誘い

 あの甘く、熱く、息もできないほどの夜から数日。 私たちの王都での生活は、さらに『極甘』なものへと変貌を遂げていた。「ヴェラ様。本日の紅茶は、南方の幻の茶葉に、少しだけ蜂蜜を加えてみました。お口に合いますか?」「ええ、とっても美味しいわ。……でもアシュ、そろそろ私を降ろしてくれないかしら」 穏やかな朝の日差しが差し込むサンルーム。 私は、自分が座るはずのソファーではなく。 アシュの長い脚の上――つまり、彼の膝の上にちょこんと乗せられた状態で、紅茶を飲まされていた。「いけません、ヴェラ様。朝の冷たい空気が、ヴェラ様の尊いお体を冷やしてしまいますから」 アシュは、私の腰にしっかりと腕を回し、まるで大切なテディベアでも抱きしめるかのように、私を背後からホールドしている。「俺の体温で、あなたを温めさせてください。……あぁ、今日もヴェラ様の髪から、たまらなく甘い香りがします」 スリスリと、私の首筋に彼の高い鼻梁が擦り寄せられる。 チュッ、と小さな音を立てて、うなじに熱いキスが落とされた。「ひゃっ……もう、くすぐったいわ」「俺は、一秒たりともあなたから離れたくないのです。……こうしてあなたを抱きしめていると、俺の魂が満たされていくのがわかる」 本当に、この子は。 夫婦の契りを交わしてからというもの、彼の独占欲と甘えん坊っぷりは、留まるところを知らなかった。 歩く時は常に抱っこかエスコート。 食事は「あーん」が基本。 私が少しでも他のものに目を向けると、あからさまに拗ねて私をベッドに連れ込もうとする。(少し愛が重すぎる気もするけれど……でも、私をこんなに求めてくれるのが、すごく嬉しいのよね) 三百年の孤独を経験した私にとって、彼のこの『異常なほどの執着』は、心地よい羽毛布団のように温かかった。 だが。 いくら幸せでも、毎日ずっと屋敷に引きこもっていると、少しだけ外の空気が吸いたくなってくる。「ねえ、アシュ。私、少しお出かけがしたいわ」「お出かけ、ですか?」 アシュは、私の腰に回していた腕の力を、少しだけ強めた。「王都の街を歩きたいのでしたら、すぐに馬車を手配いたします。……もちろん、虫けらどもの視線がヴェラ様に届かないよう、俺が完璧に排除いたしますが」「ううん、王都じゃなくて。……ほら、先日、帝国から親書が届いたじゃない?」
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