All Chapters of 魔女の婚活 〜理想の夫を育成したら、世界を滅ぼす魔王になりました〜: Chapter 1 - Chapter 2

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第1話:理想の夫がいないなら、ゼロから育てればいい

「愛」というものが、私にはよくわからない。三百年間生きてきても、その正体だけは一向に掴めなかった。ただ、目の前を歩く老夫婦を見ていると、胸の奥がわずかに疼くような気がする。シワだらけの手と手をしっかりと繋ぎ、同じ歩幅でゆっくりと石畳を歩いていく二人。合理的ではない。手を繋げば片手が塞がり、いざという時の防御行動が遅れる。歩幅を合わせるのも、身体能力の低い方に合わせるという非効率な行為だ。けれど。「……とても、暖かそうね」カフェのテラス席で紅茶を傾けながら、私はぽつりと呟いた。誰かと寄り添い、共に老い、最期まで隣にいる。そんな『普通の夫婦』というものに、私はずっと憧れていた。私には、それが致命的に欠けているからだ。「はぁ……また、失敗してしまったわ」冷めた紅茶を見つめながら、私は小さくため息をついた。つい一時間前の出来事を思い出す。今日で、記念すべき百回目の『お見合い』だった。相手は、王都でも有数の資産家である若き伯爵。顔立ちも整っており、魔力もそこそこ。条件としては悪くなかった。しかし、私が黒いヴェールを脱ぎ、名を名乗った瞬間――彼の態度は一変した。『ヴェ、ヴェラ・ノクスだと!?』椅子を蹴倒して後ずさり、まるで死神でも見たかのような顔で震え上がったのだ。『なぜ、二百年前の“魔女戦争”を生き抜いた化け物がここにいる!』『国を滅ぼす気か! 騎士団を! 誰か、早く騎士団を呼べ!!』……化け物とは、酷い言い草である。私はただ、結婚を前提としたお付き合いを提案しただけなのに。「確かに、過去に少しばかり山を吹き飛ばしたり、海を割ったりしたことはあるけれど……もう何十年も前のことじゃない」魔女。それが私の種族であり、人間たちから向けられる恐怖の代名詞だ。数百年の時を生き、国家すら単機で滅ぼせる強大な魔力を持つ長命種。人々は私を“災厄”として恐れ、遠ざける。近づいてくる者がいたとしても、私の魔力を軍事利用したい王族か、魔女を従えているという名声が欲しい愚か者だけ。純粋に私という個人を見て、「好きだから一緒にいたい」と言ってくれる男など、この三百年間ただの一人もいなかった。「理想の結婚相手を見つけるのが、魔法の深淵を覗くより難しいなんてね」カップを置き、私は席を立った。テーブルに銀貨を一枚置き、夕闇が迫る王都の
last updateLast Updated : 2026-05-29
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第2話:泥まみれの原石と、はじめての『甘やかし』

彼を拾ったのは、純粋な合理性からだった。完成された理想の男がいないなら、真っ白な子どもを一から育て上げればいい。三百年間生きてきて、なぜこんな簡単なことに気付かなかったのか不思議なくらいだ。「……っ、おい、どこに行くんだよ」路地裏から引きずり出された少年――アシュは、私の手を振り払おうと必死に抵抗していた。だが、ひ弱な少年の力で、魔力で身体強化をしている私から逃れられるはずもない。「どこって、私のお家よ」「はなせ! 俺をどうする気だ! 奴隷商人か!? それとも怪しげな儀式の生贄か!?」「嫌だわ。そんな野蛮なことしないわよ」私はふふっと笑いながら、彼の灰色の髪を撫でた。泥と血でカピカピに固まっているが、洗えばきっと綺麗な銀糸になるだろう。「あなたは今日から、私の『理想の夫候補』になるの。大切に、大切に育ててあげるわ」「は……? おっと、夫……?」アシュはぽかんと口を開け、赤い瞳を瞬かせた。無理もない。スラムでその日暮らしをしていた孤児にとって、「結婚」や「夫」などという概念は、宇宙の果ての話より縁遠いものだろう。「ええ、そうよ。だからまずは、綺麗にしないとね」私はアシュの手を引いたまま、人通りのない裏路地の奥で立ち止まった。そして、指先で空中に複雑な魔法陣を描く。「な、なんだこれ……光って……」「舌を噛まないようにね」パチン、と指を鳴らす。次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、凄まじい浮遊感が私たちを包み込んだ。空間転移魔法。魔力消費が激しく、正確な座標計算が必要な高等魔法だが、私にとっては息をするように簡単なものだ。一瞬の暗闇ののち、視界が開けた。「う、おえぇ……っ」「あらあら、初めての転移は少し酔うわよね。深呼吸して」アシュは石畳の床に膝をつき、必死に吐き気を堪えていた。私は彼の背中を優しくさすりながら、周囲を見渡す。王都から遠く離れた、深い森の奥。そこにあるのは、私が長年住み処としている巨大な洋館だった。黒大理石で作られた柱、磨き上げられた床、天井から吊るされた豪奢なシャンデリア。「ここは……王宮、か……?」顔を上げたアシュが、呆然と呟く。スラムの路地裏しか知らない彼にとって、この屋敷はあまりにも異世界すぎたのだろう。「私の家よ。広すぎるのが難点だけど、今日からあなたが一緒に住んでくれるから、少
last updateLast Updated : 2026-05-29
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