魔女の婚活 〜理想の夫を育成したら、世界を滅ぼす魔王になりました〜

魔女の婚活 〜理想の夫を育成したら、世界を滅ぼす魔王になりました〜

last updateDernière mise à jour : 2026-05-29
Par:  ぱすた屋さんMis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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「理想の結婚相手がいないなら、私が一から育てればいいわ」 三百年の時を生きる最強の『黒夜の魔女』ヴェラ。 彼女の夢は、愛する人と寄り添い合う「普通の夫婦」になることだった。 しかし、強大すぎる力と恐ろしい悪名のせいで、婚活はお見合い百連敗中。 人間の男たちは皆、彼女をバケモノと恐れて逃げ出してしまう。 そんなある日、ヴェラは路地裏で息絶えかけていた戦災孤児の少年・アシュを拾う。 誰も恐れず、私だけを愛し、絶対にそばから離れない男がいないなら。 純白のキャンバスのようなこの子に、食事を与え、魔法を教え、愛情を注ぎ、「最高の夫」へと作り変えればいい。 魔女の狂った合理性から始まった、異常な『婚活(いくせい)』

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Chapitre 1

第1話:理想の夫がいないなら、ゼロから育てればいい

「愛」というものが、私にはよくわからない。

三百年間生きてきても、その正体だけは一向に掴めなかった。

ただ、目の前を歩く老夫婦を見ていると、胸の奥がわずかに疼くような気がする。

シワだらけの手と手をしっかりと繋ぎ、同じ歩幅でゆっくりと石畳を歩いていく二人。

合理的ではない。

手を繋げば片手が塞がり、いざという時の防御行動が遅れる。

歩幅を合わせるのも、身体能力の低い方に合わせるという非効率な行為だ。

けれど。

「……とても、暖かそうね」

カフェのテラス席で紅茶を傾けながら、私はぽつりと呟いた。

誰かと寄り添い、共に老い、最期まで隣にいる。

そんな『普通の夫婦』というものに、私はずっと憧れていた。

私には、それが致命的に欠けているからだ。

「はぁ……また、失敗してしまったわ」

冷めた紅茶を見つめながら、私は小さくため息をついた。

つい一時間前の出来事を思い出す。

今日で、記念すべき百回目の『お見合い』だった。

相手は、王都でも有数の資産家である若き伯爵。

顔立ちも整っており、魔力もそこそこ。

条件としては悪くなかった。

しかし、私が黒いヴェールを脱ぎ、名を名乗った瞬間――彼の態度は一変した。

『ヴェ、ヴェラ・ノクスだと!?』

椅子を蹴倒して後ずさり、まるで死神でも見たかのような顔で震え上がったのだ。

『なぜ、二百年前の“魔女戦争”を生き抜いた化け物がここにいる!』

『国を滅ぼす気か! 騎士団を! 誰か、早く騎士団を呼べ!!』

……化け物とは、酷い言い草である。

私はただ、結婚を前提としたお付き合いを提案しただけなのに。

「確かに、過去に少しばかり山を吹き飛ばしたり、海を割ったりしたことはあるけれど……もう何十年も前のことじゃない」

魔女。

それが私の種族であり、人間たちから向けられる恐怖の代名詞だ。

数百年の時を生き、国家すら単機で滅ぼせる強大な魔力を持つ長命種。

人々は私を“災厄”として恐れ、遠ざける。

近づいてくる者がいたとしても、私の魔力を軍事利用したい王族か、魔女を従えているという名声が欲しい愚か者だけ。

純粋に私という個人を見て、「好きだから一緒にいたい」と言ってくれる男など、この三百年間ただの一人もいなかった。

「理想の結婚相手を見つけるのが、魔法の深淵を覗くより難しいなんてね」

カップを置き、私は席を立った。

テーブルに銀貨を一枚置き、夕闇が迫る王都の街を歩き出す。

空は血のように赤い夕焼けに染まっていた。

婚活市場において、私の価値はゼロに等しいらしい。

どれだけ容姿を美しく保とうと、豊富な知識を持っていようと、『強すぎる』というだけで男たちは逃げていく。

彼らが求めているのは、自分より弱く、庇護欲をそそる可愛らしい妻なのだ。

私のように、指先一つで男の首を吹き飛ばせるような女ではない。

「……私の条件は、決して高くないはずなのに」

私が夫に求める条件。

一、私を恐れないこと。

二、私だけを見て、私だけを愛すること。

三、絶対に私のそばから離れないこと。

それだけだ。

ただ、私を愛し、私に管理されてくれればいい。

外は危険だから、ずっと私の目の届く安全な場所で笑っていてほしい。

それが私の考える『愛』であり『夫婦』の形だった。

しかし、人間の男たちはなぜか「自由を奪うな」と怒り出すのだ。

本当に理解できない。

「完成された理想の男なんて、この世には存在しないのかしら……」

ふと、足を止めた。

路地裏から、鈍い音が聞こえてきたからだ。

ドゴッ! バキッ!

「このクソガキ! 誰の財布に手を出したか分かってんのか!」

「死ね、路地裏のドブネズミが!」

王都の華やかな大通りのすぐ裏側。

そこは、光の届かないスラムの入り口だった。

薄暗い路地裏で、三人の柄の悪い男たちが、うずくまる『小さな塊』を蹴り上げている。

どうやら、孤児がスリを働いて捕まったらしい。

治安の悪いこの一帯では、珍しくもない光景だ。

普段なら、わざわざ首を突っ込んだりはしない。

けれど、私の目はその『塊』――灰色の髪をした少年に釘付けになった。

「…………」

少年は、声を上げて泣くことも、命乞いをすることもなかった。

ただ身を丸め、急所を守りながら、嵐のような暴力をじっと耐え忍んでいる。

泥と血にまみれた頬。

痩せこけた体。

年齢は十二、三歳といったところか。

だが、何よりも私の目を引いたのは、その『瞳』だった。

隙間から覗く、血のように赤い双眸。

それは、絶望などしていなかった。

恐怖に屈してもいなかった。

ただ静かに、冷たく、男たちの隙を窺っている。

『どうすればこいつらの喉笛を噛み千切れるか』。

そんな、純粋で獰猛な生存本能だけが、赤い瞳の奥でギラギラと燃えていたのだ。

美しい、と思った。

これほどまでに研ぎ澄まされた、飢えた獣のような目を見るのは久しぶりだった。

「おい、こいつの腕切り落として裏の店に売り飛ばそうぜ」

「だな。目玉も高く売れそうだ」

男たちが下卑た笑いを浮かべ、剣を抜いた。

少年の赤い瞳が、わずかに見開かれる。

――その瞬間、私は無意識のうちに歩み寄っていた。

「そこまでにしたらどうかしら」

私の声が路地裏に響く。

男たちが一斉に振り返った。

「あぁ? なんだお前、引っ込んで――」

男の一人が私を怒鳴りつけようとし、そして絶句した。

私の漆黒のドレスと、人間離れした金色の瞳を見たからだ。

「お、おい……嘘だろ……?」

「黒い服に、金の目……『黒夜の魔女』……ッ!?」

男たちの顔から、一瞬にして血の気が引く。

「あら、ご名答」

私が軽く指を鳴らすと。

ドズンッ!!!

「「「ぎゃあぁぁぁッ!?」」」

見えない巨大な圧力が上から押し潰すように、三人の男たちは地面に這いつくばった。

重力魔法の応用。ただ魔力を少し放出しただけだ。

「私の前でみだりに刃を抜かないでくれる? 少し、目障りよ」

「ひ、ひぃぃぃッ! お許しをぉぉッ!!」

這いつくばったまま、男たちは泡を吹いて気絶した。

本当に人間というのは脆くて弱い。

「さて」

私は男たちには見向きもせず、倒れている少年の前にしゃがみ込んだ。

「……ッ」

少年はビクッと体を震わせ、後ずさろうとした。

その手には、どこで拾ったのか、鋭く尖ったガラスの破片が握られている。

私に向かって、それを必死に構えていた。

まるで、傷ついた野良猫のようだ。

「威勢がいいわね。でも、そんなもので私は殺せないわよ」

私は微笑みながら、彼の手からガラスの破片をそっと取り上げた。

少年は抵抗しようとしたが、あまりの力の差に身動き一つ取れない。

「痛かったでしょう」

私が少年の血まみれの頬に手を触れた瞬間。

淡い光が彼を包み込んだ。

高度な治癒魔法。

折れていた肋骨が繋がり、打撲の痕が消え、切れた唇が元通りになっていく。

「……え?」

少年が、初めて戸惑いの声を漏らした。

痛みが完全に消え去った自身の体を、信じられないというように見つめている。

今まで、彼に優しさを向ける者など誰一人いなかったのだろう。

ただ殴られ、奪われ、生きるために這いずり回ってきた。

そんな真っ白な世界に、私が初めて『絶対的な庇護』を与えたのだ。

少年の赤い瞳が、揺れ動く。

警戒と、混乱と、そして……ほんのわずかな『縋るような光』。

その顔を間近で見つめながら、私の頭の中に、ある合理的で完璧な閃きが舞い降りていた。

そうか。

この世界に『理想の夫』が存在しないのなら。

私を恐れず、私だけを愛し、私にすべてを委ねる男がいないのなら。

――私が、一から創り上げればいいのだ。

この少年は、まだ何も知らない。

愛も、常識も、魔女への偏見すらも。

ただ生きることに必死なだけの、純白のキャンバス。

私が食事を与え、知識を与え、魔法を与え、そして『愛』を教え込めば。

彼は間違いなく、私だけの完璧な夫になる。

なんという合理的な解決策だろう。

なぜ、こんな簡単なことに三百年間も気付かなかったのか。

「ねえ、あなた。名前は?」

私が優しく問いかけると、少年はかすれた声で答えた。

「……アシュ」

「そう、アシュ。いい名前ね」

私はアシュの体を抱き寄せた。

泥と血の匂いがしたが、不思議と不快ではなかった。

むしろ、これから私が自分の色に染め上げていくのだと思うと、胸が高鳴った。

「アシュ。今日から、あなたは私のものよ」

私がそう告げると、アシュは息を呑んだ。

「私があなたにご飯を食べさせてあげる。ふかふかのベッドも、暖かいお風呂も、生きるための力も、全部私が与えてあげる。誰もあなたを傷つけられないように、私が一生守ってあげるわ」

「……どう、して……?」

震える声で尋ねるアシュに、私は心底愛おしそうに微笑みかけた。

「だって、あなたは将来――私の『理想の夫』になるのだから」

アシュの赤い瞳が、大きく見開かれた。

その奥に、決して消えることのない、昏く重い執着の火種が宿ったのを、私はまだ知らなかった。

ただ、見つけた。

私だけの、可愛いお人形。

これから極上の夫へと育て上げる、最高の原石。

こうして、私とアシュの、甘くて異常な『婚活(いくせい)』が幕を開けたのだった。

――これが後に、世界を焼き尽くす最悪の魔王を誕生させることになるとは、この時の私は夢にも思っていなかった。

 

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第1話:理想の夫がいないなら、ゼロから育てればいい
「愛」というものが、私にはよくわからない。三百年間生きてきても、その正体だけは一向に掴めなかった。ただ、目の前を歩く老夫婦を見ていると、胸の奥がわずかに疼くような気がする。シワだらけの手と手をしっかりと繋ぎ、同じ歩幅でゆっくりと石畳を歩いていく二人。合理的ではない。手を繋げば片手が塞がり、いざという時の防御行動が遅れる。歩幅を合わせるのも、身体能力の低い方に合わせるという非効率な行為だ。けれど。「……とても、暖かそうね」カフェのテラス席で紅茶を傾けながら、私はぽつりと呟いた。誰かと寄り添い、共に老い、最期まで隣にいる。そんな『普通の夫婦』というものに、私はずっと憧れていた。私には、それが致命的に欠けているからだ。「はぁ……また、失敗してしまったわ」冷めた紅茶を見つめながら、私は小さくため息をついた。つい一時間前の出来事を思い出す。今日で、記念すべき百回目の『お見合い』だった。相手は、王都でも有数の資産家である若き伯爵。顔立ちも整っており、魔力もそこそこ。条件としては悪くなかった。しかし、私が黒いヴェールを脱ぎ、名を名乗った瞬間――彼の態度は一変した。『ヴェ、ヴェラ・ノクスだと!?』椅子を蹴倒して後ずさり、まるで死神でも見たかのような顔で震え上がったのだ。『なぜ、二百年前の“魔女戦争”を生き抜いた化け物がここにいる!』『国を滅ぼす気か! 騎士団を! 誰か、早く騎士団を呼べ!!』……化け物とは、酷い言い草である。私はただ、結婚を前提としたお付き合いを提案しただけなのに。「確かに、過去に少しばかり山を吹き飛ばしたり、海を割ったりしたことはあるけれど……もう何十年も前のことじゃない」魔女。それが私の種族であり、人間たちから向けられる恐怖の代名詞だ。数百年の時を生き、国家すら単機で滅ぼせる強大な魔力を持つ長命種。人々は私を“災厄”として恐れ、遠ざける。近づいてくる者がいたとしても、私の魔力を軍事利用したい王族か、魔女を従えているという名声が欲しい愚か者だけ。純粋に私という個人を見て、「好きだから一緒にいたい」と言ってくれる男など、この三百年間ただの一人もいなかった。「理想の結婚相手を見つけるのが、魔法の深淵を覗くより難しいなんてね」カップを置き、私は席を立った。テーブルに銀貨を一枚置き、夕闇が迫る王都の
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第2話:泥まみれの原石と、はじめての『甘やかし』
彼を拾ったのは、純粋な合理性からだった。完成された理想の男がいないなら、真っ白な子どもを一から育て上げればいい。三百年間生きてきて、なぜこんな簡単なことに気付かなかったのか不思議なくらいだ。「……っ、おい、どこに行くんだよ」路地裏から引きずり出された少年――アシュは、私の手を振り払おうと必死に抵抗していた。だが、ひ弱な少年の力で、魔力で身体強化をしている私から逃れられるはずもない。「どこって、私のお家よ」「はなせ! 俺をどうする気だ! 奴隷商人か!? それとも怪しげな儀式の生贄か!?」「嫌だわ。そんな野蛮なことしないわよ」私はふふっと笑いながら、彼の灰色の髪を撫でた。泥と血でカピカピに固まっているが、洗えばきっと綺麗な銀糸になるだろう。「あなたは今日から、私の『理想の夫候補』になるの。大切に、大切に育ててあげるわ」「は……? おっと、夫……?」アシュはぽかんと口を開け、赤い瞳を瞬かせた。無理もない。スラムでその日暮らしをしていた孤児にとって、「結婚」や「夫」などという概念は、宇宙の果ての話より縁遠いものだろう。「ええ、そうよ。だからまずは、綺麗にしないとね」私はアシュの手を引いたまま、人通りのない裏路地の奥で立ち止まった。そして、指先で空中に複雑な魔法陣を描く。「な、なんだこれ……光って……」「舌を噛まないようにね」パチン、と指を鳴らす。次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、凄まじい浮遊感が私たちを包み込んだ。空間転移魔法。魔力消費が激しく、正確な座標計算が必要な高等魔法だが、私にとっては息をするように簡単なものだ。一瞬の暗闇ののち、視界が開けた。「う、おえぇ……っ」「あらあら、初めての転移は少し酔うわよね。深呼吸して」アシュは石畳の床に膝をつき、必死に吐き気を堪えていた。私は彼の背中を優しくさすりながら、周囲を見渡す。王都から遠く離れた、深い森の奥。そこにあるのは、私が長年住み処としている巨大な洋館だった。黒大理石で作られた柱、磨き上げられた床、天井から吊るされた豪奢なシャンデリア。「ここは……王宮、か……?」顔を上げたアシュが、呆然と呟く。スラムの路地裏しか知らない彼にとって、この屋敷はあまりにも異世界すぎたのだろう。「私の家よ。広すぎるのが難点だけど、今日からあなたが一緒に住んでくれるから、少
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